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その6:食料安全保障

1. はじめに

皆さんは「食料安全保障」という言葉をご存知ですか?今回は、少し切り口を変えて、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が私たちの食生活へ与えた影響を振り返りながら、不測の事態における食料の安定供給の確保に向けた取組についてお話しをさせていただきます。

2. 我が国の食料安全保障について

平素はもちろんのこと、凶作や輸入の途絶等の不測の事態が生じた場合であっても、人が生きる上で最低限必要とする食料の供給は確保されなくてはいけません。この「食料安全保障」は国家の最も基本的な責務の一つです。

一方、これまでの連載でお話ししてきたとおり、日本の食料自給率は38%(カロリーベース)で、食料の多くを海外から輸入しています。例えば、輸入の割合が高い小麦やとうもろこし、大豆などは、我が国が輸入している量を生産するために日本国内の農地面積(約450万ha)の2倍以上の海外の農地を使用していることになります(※)

このように、現在の食生活に必要な食料の全てを国内生産で賄うのは困難である一方、輸入についても海外の生産地における不作や世界規模の物流障害といった不安定な要素が存在しています。

このため我が国では、(ア)国内の農業生産の増大を図る(=食料自給率を向上させる)ことを基本としつつ、(イ)安定的な輸入と、(ウいざというときのための備蓄とを適切に組み合わせることにより、食料安全保障を確保することとしています(食料・農業・農村基本法第二条)。

3. 新型コロナウイルスと食生活

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、外出自粛やテレワーク、新しい生活様式など、私たちの日々の生活は様々な変化を求められていますが、食生活も例外ではありません。外出・外食が制限され、家で調理したり、テイクアウトやデリバリーを利用したりすることが増えたのではないでしょうか。このような消費行動の急激な変化は、食料品の供給にも少なからず影響を与えます。

ここからは、コロナ禍において、我が国、そして世界の食料需給に何が起きていたのかを振り返ってみます。

(1) 店頭から消えた食品

小・中学校の一斉休校(令和2年3月2日~)や1回目の緊急事態宣言(同4月7日~)があった昨年の感染拡大初期には、外出の自粛等に伴い、食料品について、外食等の業務用需要が激減し、家庭用需要が急増しました。

そのため、長期保存が可能なお米やパスタ、家庭でのお菓子作りのための小麦粉やホットケーキミックスといった商品が買われ(図1)、一時的に店頭で品薄又は欠品となりました。ニュース等でそれを知り、慌てて買いに走った方もいたのではないでしょうか。

このうち、お米の品薄については、ほぼ1週間と比較的短期間のうちに解消されました。これは、お米の自給率はほぼ100%で、十分な在庫もあったため、供給を強化することで即座に対応できたからです。

一方で、小麦粉製品の品薄・欠品の解消にはお米よりも時間を要しました。原料となる小麦は、9割近くを輸入していますが、何が起こっていたのでしょうか。

(図1)パスタの販売金額の推移

(図1)パスタの販売金額の推移

(2) 海外での動き

海外では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴いロックダウン(都市封鎖)による人の移動制限等が行われました。その一方で、農産物の輸出入にはほとんど影響がありませんでした。なぜならば、小麦やとうもろこし、大豆といった主要な農作物は、近年、世界的な豊作にも恵まれ、輸出国としては潤沢にある農作物をきちんと輸出していかないと次の収穫分を保管する場所が足りなくなります。このため、多くの国では生産者だけではなく港湾労働者等の物流に携わる労働者をエッセンシャルワーカー(社会基盤を支えるために必要不可欠な仕事に従事する労働者)として位置づけ、労働を継続できるようにして、物流への影響回避に努めました。また、一部の国で実施された輸出規制も、通常年の輸出水準は維持されていたため、影響は限定的でした。

こういったことから、食料輸入国である我が国においても、新型コロナの影響で輸入が滞り食料供給に支障を来すような事態には陥らず、大きな問題は生じませんでした。

(3) 国内での動き

このように、原料である小麦そのものが不足することもなく、小麦の国内備蓄(2.3ヶ月分)を取り崩す必要もありませんでした。ではなぜ店頭での品薄・欠品が発生したのでしょうか。

小麦粉の一人当たりの年間消費量は約30kgです。でも実際にご家庭で購入されている小麦粉の量はずっと少ないと思います。それは、小麦粉のほとんどがパンやうどん、パスタ、インスタント麺、乾麺などの食品メーカーに業務用として流通し、様々な形で消費されているからです。

今回の新型コロナでは外出自粛によって外食産業が大きな影響を受ける一方、家庭内での調理機会が増え、家庭用の需要が急増しました。このような業務用から家庭用への急激な需要の変化に、家庭用商品の製造・供給が追い付かなかったことがその原因の一つです。

業務用の需要が減ったのだから、それを家庭用に回せばよいのではないか?と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、両者では、一包装当たりの量(一般的な業務用小麦粉は25kg/袋)や食品表示など様々な点が異なっています。このため、業務用をそのまま家庭用として販売するという訳にはいかず、工場で家庭用商品の製造ラインをフル稼働して増産しましたが、どうしても品薄・欠品が生じてしまったのです。原料の小麦が不足していた訳ではなかったので、食品メーカー各社の対応により家庭向け商品の製造・供給が増加するにつれ、品薄・欠品は徐々に解消されていきました。皆さんのご家庭には、昨年買い溜めした小麦粉や小麦粉製品が残っていたりしませんか?

4. 我が国の食料安全保障の確保のために

このように、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の中で、一部の食品で供給に影響がでましたが、その原因はサプライチェーン(消費者まで食料を届ける供給網)の一部であり、輸入を含む我が国の食料供給全体としては大きな問題は生じていません。

ただし、これは世界的な豊作基調等を背景に輸入が確保されたことに大きな要因があって、もし仮に新型コロナに世界的な不作が重なって輸入が滞っていれば、我が国の食料供給に大きな影響がでていたかもしれません。

多くの食料を輸入している我が国の食料の安定供給のためには、やはり、(ア)国内の農業生産の増大を図ること、即ち食料自給率を向上させることが重要となります。その上で、(イ)安定的な輸入と、(ウ)いざというときのための備蓄とを適切に組み合わせることにより、我が国の食料安全保障を確保していくことが基本となるのです。

5. 現在の食料安全保障をめぐる情勢

すでに述べましたとおり、主要な農作物は世界的に豊作基調で、今年の生産量は史上最大となる見込みです。それにも関わらず、小麦や大豆、とうもろこし等の国際価格は、過去の不作時に記録した最高水準に迫る高値で推移しています(図2)。

(図2)穀物等の国際価格の動向

(図2)穀物等の国際価格の動向

これは、新型コロナで停滞していた経済活動の再開や、主要輸入国における飼料用需要の急増だけでなく、世界的な投機資金のダブつきなどが背景にあると考えられています。また、海上輸送を始めとする世界規模の物流にも遅延や滞留、輸送コストの増大といった新型コロナに伴う様々な影響が生じており、現在も完全には解消していません。

これらは、直ちに我が国の食料安全保障を脅かすような事態となるわけではありませんが、農林水産省としても動向を注視しているところです。具体的には、安定的な食料の輸入に影響はないか、サプライチェーンに問題は発生していないか、といった国内外の食料需給に関する様々な情報の収集・分析を強化しており、それらの情報を取りまとめ、毎月ホームページ上で「食料安全保障月報」として公表していますので、ぜひ一度ご覧ください。

食料安全保障月報:https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_rep/monthly/r3index.html

6. おわりに

今回はこれまでとは少し視点を変えたお話でしたが、いかがだったでしょうか。我が国の食料安全保障について少しでも関心を持っていただけたなら幸いです。
次回は、最新(令和2年度)の食料自給率についてお話しする予定です。

出典

農林水産省「知ってる?日本の食料事情2020」

コラム
「食から日本を考える。ニッポンフードシフト」


外食や中食の需要が増え、食品の加工・流通が高度化し、私たちの食生活は益々便利になっていく一方で、日本の食と環境を支えてきた農業・農村では、農業者の高齢化と大幅な減少、農地面積の減少、地域コミュニティの衰退など様々な課題に直面しています。

私たちが毎日食べている農林水産物は、独りで育ち、自動的に食卓まで届けられるはずもなく、その背景には日本各地の農林漁業者、食品関連事業者等の取組があるということに、もう一度想いを巡らせてみてください。国産の農林水産物や有機農産物の積極的な選択など、一人一人のほんの少しのきっかけが、日本の農業・農村を維持し、将来の私たちの食を守ることにつながります。

農林水産省では「食から日本を考える。ニッポンフードシフト」をスローガンに、日本各地の農林漁業者等の創意工夫や、地域の食や農山漁村の魅力などを広く発信し、私たちの毎日の食を支える農業・農村への理解を深める取組を推進していきます。

公式ウェブサイトでは、日本全国ですでに「フードシフト」に取り組んでいる方々のご紹介とともに、食にまつわる「こんなアイディアはどうだろう」食をきっかけに「社会がこう変わってほしい」食に関して「私はこんなことを始めている」など、みなさまの「ニッポンフ―ドシフト」に関するアイディアを募集しています。どうぞ奮ってご応募ください。


公式ウェブサイト:https://nippon-food-shift.maff.go.jp/

お問合せ先

大臣官房政策課食料安全保障室

ダイヤルイン:03-6744-0487
FAX:03-6744-2396

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