学校法人「森友学園」をめぐる公文書の改ざんを苦に自殺した近畿財務局の職員、赤木俊夫さん(当時54)の妻が、財務省などを相手どり起こしていた裁判が12月15日に突然、終結した。

 この裁判で妻の雅子さんは、国などに対し、あわせて1億1千万円の損害賠償を求めて提訴。だが、国が請求を全面的に受け入れる「認諾」で裁判を終結させると主張したため、裁判は森友問題の真相究明がされることなく、終わることになったのだ。佐川宣寿元理財局長の裁判は継続される。

 これまで「赤木ファイル」の有無など全面的に雅子さん側と争ってきた国。今後は財務省幹部や裁判所の対応次第では麻生太郎元財務相の証人尋問などが想定されていた。

 国の豹変ぶりに対し、雅子さんは「なぜ、夫が改ざんしなければならなかったのか、それを知ろうとした裁判。このような形で裁判が終わるのは、悔しい」と心境を語った。

 鈴木俊一財務相は「赤木俊夫さんに改めて哀悼の誠をささげる。ご遺族にも心よりおわび申し上げる」と謝罪。裁判の中で「国の責任は明らかとなった」と「認諾」について説明した。

  森友学園問題が注目された発端は、安倍晋三元首相と妻、昭恵夫人の関与だ。安倍氏にとって森友学園・加計学園問題と、公設秘書が有罪となった「桜を見る会」問題は今もアキレス腱だ。

 岸田文雄首相は前日の14日に「認諾」という報告を受けたという。自民党の閣僚経験者がこう話す。

「国が赤木さん側の請求を全て飲むことで、裁判が終わり騒がれなくなる。一番、ホッとするのは安倍氏夫妻です。しかし、これが岸田首相からの安倍氏へのクリスマスプレゼントかといえば、まったくの逆。岸田首相はメンツを立てながらも、揺さぶっているんじゃないですか」

 12月14日の衆院での国会論戦では立憲民主党の岡田克也議員が岸田首相に「桜を見る会」について問いただした。岸田首相は「長年の慣行の中で行われてきましたが、招待者が多数になり、招待の基準があいまい。それが、国民の皆さんからも大変、厳しい批判となった。2度と起こしてはならない。少なくとも、私の内閣において『桜を見る会』は開催しません」と表明。ただ、「廃止」までは踏み込まなかった。

 

 また、新型コロナウイルス感染拡大で安倍元首相が国民に配布したが、不評だった「アベノマスク」問題も国会でやり玉に上がった。今年3月末で8200万枚、金額にして115億円が倉庫で「不良在庫」となり、年間の保管代は6億円にも上ることがわかったのだ。

 立憲民主党の逢坂誠二代表代行が追及すると、「反省すべき点がある。しっかりと検証する」と岸田首相は述べた。

 安倍政権時代の「負の遺産」が表になるたびに「反省」を口にした岸田首相。今の地位に岸田首相が上りつめたのは、自民党最大派閥である安倍派(清和会)が支援したからだが、最近は両者の間で「すきま風が吹いている」という。安倍派に所属する国会議員がこう話す。

「安倍氏は冬季北京五輪で米国に続いて外交的ボイコットに同調することを躊躇している岸田首相にイライラしているようだ。もともと、安倍氏は外交などで岸田首相が思い通りに動いてくれると思って総裁選で支持した。それが北京五輪の外交的ボイコット、アベノマスクなど違う対応をするので余計にピリピリし、機嫌が悪いと聞いている」

 安倍氏自身も安倍派の会合で「中国の人権状況に鑑みて、日本は政治的な姿勢や、メッセージを出すべきではないか」と岸田首相に決断を促すような発言をしている。

 そして9月の総裁選で推した高市早苗政調会長を女性初の首相にしたいという野望をあきらめていないという。

「安倍さんは『最後まで高市さんを総裁選で推せばよかった』『党三役には皆、安倍派で取るべきだった』と愚痴っていると聞きます。岸田政権に対し、『経済成長戦略がない。分配するものがないのにどうするの』と不満を漏らしている。そのうち政局を仕掛けるかもしれない」(前出の安倍派議員)

 AERAdot.で報じているように、国勢調査の結果で次の衆院選で小選挙区の大きな区割り変更「10増10減」となる方向だ。安倍氏の地元、山口4区は林芳正外相の地盤、山口3区とほぼ一つになる「合区」のような形になる。

 すでに2度、首相の座についた安倍氏か、岸田派重鎮で首相候補の林氏か、どちらが小選挙区を取るのか、永田町最大の関心事だ。

「党内では安倍氏が後進に道を譲って比例に回るべきという意見が結構あります。次の首相を目指す、林氏は小選挙区から出馬するべきという声は強まっている。安倍氏は比例に祭り上げられると、政権への影響力がなくなってしまうとセンシティブになっている。それゆえ、岸田首相の動きを警戒している。また、最近、菅義偉前首相に『派閥を作れば』と呼びかけ、首相包囲網をより強化しようと動いているようです」(前出の閣僚経験者)

 20年以上、自民党政務調査会の調査役を務めた政治評論家の田村重信さんはこう話す。

「森友学園、桜を見る会は安倍氏にとっては、いつも喉元に引っかかる小骨のようになっている。岸田首相が2つの問題と認めるような答弁をしたことには安倍氏はカチンときていると聞きます。ただ岸田首相も安倍氏が官邸にまで面会に来るのは、さすがにうんざりのようだ。自民党の中では、定数の改正後、『山口3区は林氏だ、もう安倍氏の時代じゃない』という声が多い。安倍氏は流れが決まる前にと積極的に発言して、世論を背景に小選挙区は譲らないと早々に反撃体制を敷いている。しばらく岸田首相と安倍氏の神経戦は続くんじゃないか」

(AERAdot.編集部 今西憲之)