2002年 2月 ―
BETA大戦、欧州戦線。
リヨンハイヴ攻略後、主防衛線をその東方およそ100kmで南北に設定して以降、約3ヶ月。
欧州連合軍は損耗した戦力の補充に努める傍ら、国連・各国軍と共同でその防衛線の維持と解放域の残存BETA掃討とを進めていた。
防衛線は南北600kmにも及ぶ長大なものだが、各種センサーの設置と戦術機部隊での哨戒を以て現在のところ無事確保されている。
その一方 ― BETA群の進出が「想定通り」であることや警戒されている母艦級の出現が見られないことなどから、現在の沈静を嵐の前の静けさと危ぶむ者もいた――
イギリス。国連大西洋方面第1軍ドーバー基地群。「地獄門」。
寒い。基地内要所は暖房が効いているといっても。
ドイツ本国はイギリスより寒かったと言われても、物心ついてすぐの頃にはグレートブリテン島に避難していた身としては居心地の悪さを覚えるほかない。前線に立ちその本土の奪還を担う身としては尚更。
西独軍制服に身を包むイルフリーデ・フォイルナー少尉は士官待機室にて、備え付けのTVの画面を見ていた。
「ヤーパンライヒって…政情不安な国だったの?」
「いや、聞いたことはないな」
そのニュースの内容に、同席する日本通たるヘルガローゼ・ファルケンマイヤー少尉に尋ねる。その隣のルナテレジア・ヴィッツレーベン少尉はその話題には興味がないとばかりに開いた雑誌 ― 戦術機関連のフォトグラフ誌か ― を眺めていた。
「リヨンで見た限りじゃ、リッター以外もとても規律正しくて物資コンテナひとつとってもミリ単位でズレなく積んであったり、ちょっと行き過ぎかと思ったくらいだったけれど」
「あれでライヒでは荒くれ集団の括りなんだそうだ。言葉は悪いが、それではアフリカ連合の軍など野盗の群れだな」
「それが今どきクーデターなんて」
「どこの国にも極右なり極左なりはいるだろう。王政復古を掲げた連中というのが――」
「まあ!!」
「わあ!」
がたん、と音を立てて。楚々たる挙措を常とするはずのルナが突然立ち上がる。
小さなデスクの上に置かれていたコーヒーマグがひっくり返りそうになり、イルフリーデは慌ててそれを押さえた。
「まあ! まあまあ、まあ凄いですわ、ゼロがあんなに! ああもうちょっと下からこう、跳躍ユニットの取付部などを…ああ!」
ぶつぶつと何かを言いながら待機室壁面上部のTVへと近づいたかと思うと、やおら憤慨したように手にしていた雑誌を手近なデスクに叩きつけた。
「94はいいんですの、いや94も良いのですけれどもゼロを映してくださらないゼロを!」
「落ち着けルナ、新任達もいるんだぞ」
切り替わった画面に地団駄を踏まんばかりのルナを堪らずヘルガが押さえにかかる。
大体定数を満たすには未だ、とはいえ昨冬から補充が始まりつつある西ドイツ陸軍第44戦術機甲大隊「ツェルベルス」。
昨年のリヨンハイヴ攻略戦においての勇戦から、それまで以上に武名を高めた同部隊の「メグスラシルの娘たち」。その彼女らに憧れての入隊者もいるというに。
「まったくわかっておりませんわこれだから軟弱な英仏の報道局はダメなんですわ国内専用とか仰って滅多に見ることができない機体なんですのよ報道の自由で機密をなんとか潜るのがジャーナリズムなのではなくて大体海外特派の方々に戦術機の知識が欠けていらっしゃるのは時局を考慮した場合いかがなものかと思いませんヘルガというのもゼロの脇腹からの装甲の取り回し特に腰部がわたくしたちのEF-2000よりもずいぶん大型にも関わらず高機動下での近接戦の脚部可動域の広さに貢献している以上跳躍ユニットとの関係性も鑑みるにその観察のためには背面下75°程度のアングルでの撮影が不可欠なはずですからもっと接近して撮っていただきませんとああとはいえカメラはニ○ンやキ○ノンでなくてラ○カやツァ○スをおすすめしたいですわねそれに動いている画がないというのもどういうことなんですの噂に聞くタクティシェ・モビール・シュヴェルトクンストでの脚部から主腕への連動性などの一端でも垣間見えればそれだけでわたくしブロート3つは」
「わかった、わかったよ」
どうどう、とばかりに。
ぷんすことよくわからない沸点で怒るルナをヘルガが宥め、古参連中の「またか」という視線と一部新任達の唖然とした空気をイルフリーデは見ない振り。
「ショーグン・ジェネラルを巡っての権力闘争ということなの?」
「ん、まあ…そうなんじゃないか、私もあちらの国内事情までには明るくなくてな」
「なんにせよ愚かな行為ですわ」
やれやれと座るヘルガに対し、ルナは数秒前の痴態はそれ自体なかったかのように淑やかに席に着き、カップを取り上げた。
「少しばかり聞き及んだ限りですけれど。ライヒが何やらアメリカを引き込んで、2カ国中心でのハイヴ攻略を計画しているそうですわ」
「本当か? 同盟は破棄されたのではなかったのか」
「破棄は事実のはずよ。それであの、忌まわしきG弾が使われたんだもの」
品を失しないように、と気をつけながらも。イルフリーデの口調も険しくなる。
かつての本国には、先の大戦で核を使われ。
当時の同盟国だったライヒへは、時を経てまた新型爆弾が落とされた。
戦争の常とはいえ。アメリカの横暴はやはり行き過ぎではないか。
「ああ、それで、内輪もめと」
「そうなるのではないかしら。ハイマートにしても、ソ連の存在と東西分割がなければNATO加盟などあり得なかったでしょうし」
元々は大戦後の戦勝国による、ソ連への牽制だけでなくドイツ封じ込めでもあった組織。
現在ではパレオロゴス作戦の失敗と欧州連合軍の設立によって事実上消滅してしまった。
「それでよく共同作戦なんて言い出したわね。攻めるのは朝鮮半島?」
「だろうな。そこにアジア連合を戻せばライヒは自国の防壁にできる。アメリカにとって旨味はあまりないが……対価はなんだ……まさか、G元素か?」
「そのまさか、という噂ですわ」
ため息を吐くルナに、苦虫を噛みつぶすヘルガ。
イルフリーデは怒りに眉をつり上げた。
「ライヒはG弾戦略を容認するの!? 大体バンクーバー協定違反じゃ…」
「それを改訂しようという話ですの。ライヒとアメリカがフランスはともかく、イギリスを引き込めればオーストラリアも追随する可能性が高いですもの。他は拒否権の行使だけを避ければ」
米英仏ソ中に、日豪の常任理事国。
日豪の新常任理事国は、拒否権がないものの議決権は有している。
ハイヴは今や、ある意味戦略物資たり得る希少元素の鉱山に等しい。その採掘に至るまでに多大な対価が必要とはいえ。
そしてソ中は旧自国領土内にその希少鉱山たるハイヴに事欠かない。影響力を行使できるエリアにまで拡大すれば、残るハイヴの大半が旧東側に属している。
協定の改訂は、ハイヴ鹵獲物の自国有化を可能にするかもしれない。ゆえに先々を考えれば決して悪い話ではない。
「でもフランスが頷くかしら」
「そこは問題ですわ。リヨン攻略の後にこれですものね、でも現状で拒否権行使にまで走ると…さすがに袋叩きにあうことくらいは考えるのではなくて?」
「確かにフランス軍は例の竜騎兵連隊の義勇兵以外見ないもの、防衛線の外じゃ」
「欧州連合は、今や同床異夢もいいところだからな…」
図らずも吐き捨てるようになってしまったイルフリーデに、ヘルガの嘆息。
リヨンハイヴ攻略以降、西ドイツは国土奪還の意欲に燃えているものの、明らかにフランスは内向きになっている。イタリアスペインも同じく。イギリスは本土防衛戦の借りがあるとはいえ「間借り」連中が出て行ってくれることには文句はないが、その為の出費が大きくなりすぎるのも避けたい。
他方アフリカなりオーストラリアなりに脱出した人口のうち、荒廃した祖国の現状を知るにつけ、難民化した者達の中でさえ早期帰還派と様子見派に分かれ。避難先である程度の生活基盤を保持している者達に至っては、その殆どが早期帰還には否定的だった。
「一部では、難民化した市民を先遣隊として戻そうという話もあるようだが…」
「実際にもう都市再建のための労働者集めをアフリカ連合で行っていますわ」
「本気なの? そんなことをしたら…」
勃興著しいアフリカ連合諸国とはいえ、まだ1人当たりGDPが欧州連合主要国を下回る国も多い。
イルフリーデ達は新任連中の錬成も兼ねて、すでに何度か大陸へ残存BETAの掃討任務にも出ている。
戦術機にとっては空振りで終わることも多いが、廃墟と化した市街地にて半休眠状態の様になった兵士級や闘士級といった小型種を死骸と間違えた歩兵が襲われるといった事例も起きている。
「戦線は押し上げたいが、戦力が足りない。そもそもどこまで押し上げるかで意見がまとまらない。旧東側連中はお冠で、次がロヴァニエミなら参戦しないとまで言ってるらしいな」
「なのでなおさら、アメリカと…できればライヒからも支援が欲しいところ、なのですけれど」
「……それは、現場の意見というわけ?」
そのイルフリーデの言に、その通りとばかりにルナは片目を閉じてカップを口に運んだ。
「…ライヒは戦後を見て動き出したというわけだ」
「そうなりますわね、あちらはもう半分後方国ですし」
「外交音痴で知られていると思っていたが…」
「ええ、音痴でしょうとも。……素直すぎますわ」
ルナはこう見えて 、失礼ですわ、娘たちの中では最も社交界やらのくだらない手練手管の世界に通じている。
「理と利と誠意とを以て当たれば、通るだろう――そういう考えは、ピラニア・クラブには時として通用しませんもの」
国土を失陥し、人口が激減してなお常任理事国に2カ国残しているのだ、欧州は。
「先の大戦でさんざんに叩かれても、国民性というのは変わりませんのね。まあそれは、わたくし達も同じですけれど」
「そうは言っても、欧州連合に止める手立てがあるのか?」
「止める必要はありませんわ。ただ何かしらの、妨害程度はしますでしょう」
「何それ…嫌がらせってこと?」
呆れてイルフリーデが問えば、ですわね、と。
米国の政財界でのロビー活動。
極東などより「祖を同じくする」欧州に注力すべき、という。
口実などは容易に思いつく、「彼の国はまだクーデターが起きる様な未成熟な国家だ」と。
「それで風向きが悪いとなれば、ライヒがさらになにかを差し出してくると?」
「ええ。紳士面なさったジョンブルにも美食家気取りのマリアンヌにも、もちろん支配者気分のアンクルサムにも」
あらごめんあそばせ、とルナテレジアは口元を隠した。
「ひどい話…」
「…まったくだな」
イルフリーデとヘルガは重くなった気を呼気と共に吐き出した。
リヨンの時には、文字通り背中を預け合って戦ったというのに。
衛士同士の信義などは、国家の利害の前にはかくも容易く吹き散らされてしまうのか。
「もっとも、何事も程度問題ですから。その辺りの線引きをライヒがどう設定して、それをどう読むかですわね」
「決裂までには至らないと思うの?」
「そこまで行ったらそれこそ70年前の悪夢の再現だぞ」
「それに癇癪を起こしたサムライが斬りかかるのが必ずしもカウボーイ・ガンマンとは限りませんのよ。太平洋の二大国が揃ってユーラシアを無視すると決めたら……ともすれば再来年の今頃にはG弾が降ってくるかもしれませんわ」
ルナテレジアの未来予想図に、残る二人は今度こそ絶句した。
2002年 3月 ―
重い曇天。三寒四温とは言うが、まだ前者が強く。
日本。帝都郊外。帝国陸軍技術廠・開発第壱局。
確保された敷地面積の内、半分以上が閉鎖型の実験施設。その中に複数存在する戦術機用格納庫、その一つ。
機器の作業音や整備兵達の声が響き、相応にやかましい。
全長18mを超える鉄の巨人を納めるべく巨大な戦術機構台が建ち並び、同じく巨大な昇降する作業用戴台。
それらに睥睨されつつ格納庫の床上を歩けば、行ったことはないけれど遠く埃及の方尖柱が並んでいればこんな感じなのかなと、千堂柚香少尉は思った。
「MOTTAINAI精神とはいえ、まったく日本人は変わらないね。こんなものを造って」
「そうは言うが、どこも米国のように新鋭機ばかりで揃えられるわけじゃないぞ。大体お前さんの設計する機体は高価すぎる」
「要求仕様を万全に満たそうとすればそうなるんだよ。言っておくが米国だってF-4が完全退役したのはついこの前だよ」
柚香の探し人は、懇談、いや歓談と言ってすら。
日本人としては長身でぴしりと背筋の伸びた巌谷榮二中佐は、口調の割にその向こう疵のついた強面にしかし明らかに和らいだ雰囲気を乗せて。
その話し相手といえば、痩身でやや猫背気味、四角い眼鏡に高そうな背広姿の金髪の白人男性。年の頃は壮年も過ぎ、巌谷より同じか少し上程度だろうか。
「とは言うもののこのシステムは本当に興味深い…」
「XFJ交渉の時の屈辱は忘れんぞ、フランク」
「だからあれはエイジ、君からデータを貰っているから、というつもりで言ったんだ。日本語は難しいね」
カスミガセキとカスミガウラを間違えることだってあるんだよ、と。
揶揄う口調の巌谷に、フランクと呼ばれた男性は肩を竦めた。どちらも本気ではないだろう。
男二人が見上げる機体は、老兵・77式撃震。なのだが。
この機体こそは近代化改修を施した上で件の新装置を搭載したブロック215、それにさらに電子機器類を第3世代相当に刷新し光導線制御を導入した概念実証機。
技術者連中が曰く「魔改造」機、その名もF-4JXXX 超撃震 ― というのはさすがに巌谷が止めさせ、単にF-4JX 撃震 と呼ばれているらしい。マーベラスファントムとも呼ばれないらしい。
巌谷は近づいてきた柚香には当然気づいていたようで。柚香を軽く手で制した後男性との会話を続けながら、受け取った書類に目を通して決裁した。
「よろしい。ああ、紹介しよう、こちらはフランク・ハイネマン氏。ボーニング社より今日付で出向してきた」
巌谷の言葉を受け、敬礼して名乗る。
ハイネマン氏の名前くらいは柚香も知っていた。ハイネマン氏もよろしく頼むよと微笑んだが、何かに気づいた様子。
ああ、それで…?
邪推だろうか。
宙ぶらりんだったドレイク分隊が、先日唐突にもこの新設された帝国軍実験小隊へと配属されたのは。
「言っておくが貴様の出自は関係が無い」
「は! 失礼しました!」
「龍浪少尉と共に、俺の目が間違いでなかったと証明して見せろ」
「は! 微力を尽くします!」
「よろしい。本日付で残る一人が着任する、出迎えを任す」
「は! 了解致しました!」
浅はかな考えなどは容易く見透かされて、軍隊式に答礼。
それを見ていたハイネマン氏が穏やかに切り出す、やっぱり日本語も解ってるんだ。
昨年末欧州からの帰国後には実家に顔を出し。その父にも一応会ってはいる。
相変わらず忙しそうではあり、会社には何やら大きな仕事も入っているようだった。
「君のデータも少しだけれど見せて貰ったよ。日本軍にはいい衛士が揃っているね」
「は、恐縮です」
「エイジ、ロイヤルガードもここにいるんだろう? タカムラ中尉にも挨拶しておきたいね」
「…いいだろう。俺は今ここを外せん、千堂少尉出迎えの前に案内を頼む」
「了解です、中佐殿」
例の装置を、発案した部署の方。
そしてリヨンで一緒だった、雨宮中尉が言っていた「隊長さん」。
数日前に挨拶させてもらった時には、その事にも少しだけだが触れられた。
開発衛士隊配属以来の同僚だったこと、そしてすでに九段へ参拝されたことなど。
ともあれその新装置には柚香も既に新たな乗機となる94式不知火の改修型で慣熟に入っている。
日本帝国軍94式戦術歩行戦闘機 不知火 ― その改修機、試製02式 通称 弐型。
先年成功裏に終わった日米合同新型戦術機開発計画・通称XFJ計画の産物。再来年にも見込まれる制式化に先立ち、ハイネマン氏の「手土産」として、氏の来日に先立ちボーニング社よりもたらされた先行試作量産の強化改修部品が組み込まれたもの。
旧来の94式より脚部が僅かに大型化し、曲線的だった全体像は鋭角な印象へと様変わりしたが、より練り込まれた空力特性と増大した主機出力、またそれを補う燃費性能と推進剤搭載量とがあらゆる性能の向上を実現させている。
この機体に新装置を介入最大で使用すると、恐ろしく反応が敏感な上に急機動時のGでは失神しそうになる程に強烈ながら、乗りこなせれば能力向上は間違いが無く。柚香が秘かに想いを寄せる、また無事同部隊に配属となった龍浪響少尉なども躍起になって習熟に勤しんでいる。
そして長刀も実戦で不足ない程度には扱えるつもりだが、どちらかと言えば砲撃戦派の柚香は近・中距離での砲撃戦に向くとされる別の挙動規範を重視している。とはいえそちらもやはり基礎機動の提供者が相当な凄腕らしく、奇抜ではないがG負荷の強さは相当なもの。
移動中そうした雑感などをハイネマン氏に聞かれつつも、どの部分が機密なのか自分程度には判らないので大したことは答えられなかった。
そうして戦術機の鬼なる人物を隣の格納庫へと案内する。
そこも同じく、巨人の檻。
異なるのは立ち並ぶ戦術機が本来斯衛専用機たる00式武御雷で、しかしその塗装は水色に近い青 ― 国連軍仕様 ― に改められていた。
ここへの配属前にちらりと噂に聞いていた、現在模索されているという00式の輸出仕様。その試作機なのだろうか。
「ったくよ、アテにならねぇ箇所がざっと50はあるぞ」
「まあまあおやっさん、仕方ないっすよ」
「大体諸元よりなんで8kgも軽くなってやがる」
「強度は上がってるって話ですよ」
「たりめえだ、下がられて堪るか」
その足下、腕組みしてその国連軍色に染められた鬼を見上げるは、如何にも昔気質の老整備兵。それを宥めるのは弟子とも言うべきまだ若い男。その手には塗装用噴射機と塗料缶。
「それにまだ試験ってことっすから…こいつで肩くらい、どうです?」
「貴様、塗りたいのか?」
「…止めはせんが、塗るなら右肩にしてくれ」
じゃれ合うような師弟に、居合わせる山吹の女性斯衛が呆れたような声を出した。
ただ中尉の黒はもっと暗い、闇夜のような色だなどと注釈を付けた為に若い整備兵連中に生暖かい視線を向けられている。
やあタカムラ中尉、とハイネマン氏が声を掛けると。
振り向いた山吹の篁中尉は顔には出さないようにしているがかなり驚いたようだった。
「ご無沙汰しております。いつ日本へ」
「今日だよ。元気そうだね」
「お陰様で」
「いや例のシステム、大変に興味深いね。私の考えとは全く違ったアプローチだ」
「恐れ入ります」
「しかし、マーキン・ベルカーへはどうするのかね」
聞いているよ、いらぬお世話かな、とハイネマン氏は眼鏡の山を押し上げた。
「ロイヤルガードにはその種の法曹部門はないのだろうから、帝国軍が対応するのかな。だが手強いよ、彼らは」
「…係争以前の案件についてはお答え致しかねます」
「力になれると思うよ。…なにせ、『覚えのある』衛士のマニューバに、そっくりじゃないか」
ちらり、とハイネマン氏の視線がこちらに。そういえばデータを見たとは言っていた。
でも対する篁中尉の雰囲気は、硬くなった。
「…」
「ふふ、警戒しなくてもいい。もしかしたらとは思っていたからね、僕にとっても友人と元部下の……。だから君たちが殺しあったなんて話よりはよっぽどいい。悪いようにはしないよ」
「…は…」
半年近くの調査の結果、テロリストの死亡は確認された。
それとは全く別に、日系人が我が社に入ることもあるんじゃないかな?
「あれこれと片付いたらステイツに戻してくれれば良いということにしよう。銀色の妖精さんも一緒なら、文句を言う者も黙らせられる」
「…人体実験をなさる御心算か」
「よしてくれ、アメリカは自由と人権の国だよ。サンダーク氏あたりと同じに思われては困るね」
嘆息し、肩を竦めて。
「地下に閉じ込めて生涯出さないつもりかな? それでは幾ら気を配っても遠からず限界は来てしまうよ。私は優秀な開発衛士が欲しいだけさ」
「…私の一存では、何とも」
「無論エイジには言っておくよ。ただ私程度がここまで知っている段階で、隠しておく意味は無い。今後の日米交渉の駒にされないためにも早く出してしまった方がいいと思うがね」
言っておくが、これは善意での提案だよ、と。
上位者であることの余裕が板についていた。
おもむろに始まったなにやら政治的な匂いのする込み入った話に、顔をしかめる老整備兵と英語があまりできないのか不得要領顔の若い整備兵。
柚香も興味本位で危なそうな話に首を突っ込みたい性格ではなくて。
速やかに敬礼して回れ右をした。
雨が降り出した。
門柱に陸軍技術廠開発局と銘打たれた巨大な鉄扉の前、乗せてきて貰った高機動車から将校行李ひとつと共に降りる。
門衛に所属に姓名・階級を告げて鉄扉が開かれると、そこには長い髪をじわりと湿らせた少女 ― まだ少女と言っていい年頃の、将校が立っていた。
「駒木中尉殿でいらっしゃいますでしょうか」
「ああ」
「お迎えに上がりました。自分は帝国陸軍技術開発第壱局・第104実験小隊の千堂柚香少尉であります」
「駒木だ。よろしく頼む」
答礼。千堂少尉の案内に従う。
行李は門衛の下士官が先に宿舎へと運んでくれた。
先月末のクーデター未遂事件。
帝都防衛師団の一部が将軍尊崇を掲げながら大逆未遂をはたらくという前代未聞の一連の事変は、直接的な鎮圧は一日で済んだものの、その後の始末は当然大規模な物になった。
総理を含む重要閣僚の暗殺により、与党内では組閣が急がれ。
また叛乱加担者の処断を急ぐため、緊急勅令による軍法会議が特設された。
叛乱を主導した沙霧尚哉大尉をはじめとする将道派将校連は、鎮圧の際誅殺された同大尉に加えて自決が数名出た他は捕縛。また彼らの思想的背景を担った民間の思想家2名も逮捕。
これらには共に極刑が言い渡される見込み。
叛乱に加担せずとも同情的と見做された帝都防衛師団の幹部将校たちは更迭されるか、予備役編入。
そして蜂起した帝都防衛師団戦術機連隊に帯同した歩兵大隊の下士官たちはその多くが原隊へと戻されたが、今夏予定されている帝国軍欧州派遣部隊へ「志願者を募ることになっている」。
身に覚えのある者は、禊、もしくは…白木の箱で帰還せよということなのだろうな…
千堂少尉の案内に続きながら。
施設の廊下を進む駒木の心が晴れることはない。
決起の2週間前、傷病を理由に療養を命じられ。独り帝都外の小さな病院で悶々として過ごした。軍医は事実を探ろうと思えば当然探れただろうが何も言ってこなかった。
密告するとは考えなかったのだろうか。
いや、自分もそれを思いついたのは事が終わった後だった。
沙霧大尉を裏切ることなんて、考えもしなかったのだ。
無論取り調べを受けた。
一切知らぬ存ぜぬで通した。
自白剤を使われればどうしようも無かったが、そうなる前に声がかかった。
大体武装蜂起は何者かに踊らされた結果ですが、それを知りつつ丁度良かったので一国の宰相を暗殺しましたと言ったところでなんになる?
副部長室、と書かれた部屋の前で止まり。ノックに続いて入室する。
室内、執務机の向こうには、帝国軍衛士にとって知らぬ者とてない巌谷中佐殿。
お会いしたのは2度目、あの夜以来。妙な因縁と言えば因縁。
名乗り敬礼すると、千堂少尉は下げられた。
「手短にいこう」
「は」
「貴様を拾ったのは政治的な理由だ、だが当然能力にも期待している。同時に身辺には注意しろ」
「は」
明け透けなあまりの言葉に、内心では面食らう。
蜂起した青年将校達と同部隊で、唯一の生き残り。
寝返った謀反の加担者として白い目で見られ、残存する将道派にとっては裏切り者。
夜道で襲われたり、戦場で後ろから撃たれたりしても何ら不思議はない。
そういう、特に残党を釣り上げるエサとして。
それでも、大尉が、生きろと言ったから。
「この基地は斯衛部隊も使用している。貴様、存念はあるか」
「はい、いいえ。ございません」
「任務によっては共同作戦となる。存念はあるか」
「いいえ、ございません」
「沙霧を殺した男も此処にいる。存念はあるか」
「一切ございません!」
「よろしい、今後の働きで証明せよ。貴様には実質、俺の小隊を預ける」
「は! 了解しました!」
わたしは――共に死んでくれと、言って欲しかったのに。
同年 4月 ―
国連軍。横浜基地。
鎧衣美琴は国連軍仕様の黒と薄紫の99式強化装備に身を包み、97式戦術歩行高等練習機・吹雪の管制ユニットの中にいた。
統合仮想情報演習システム・JIVESにより再現された空間。
広がるは荒涼たる地形、波打ち際、生物の存在は感じられない。
洋上5km先の戦術機母艦から発進、匍匐飛行にて編隊を組み上陸後には即座に新型砲・01型大型電磁投射砲の発射陣形を整える。
砲手1、給弾手1、砲身交換手1-2名。補給コンテナでの運用が可能な弾頭はともかく、戦術機の全長をも上回る長さの砲身も含めてまだその運用には課題が多い。
朝から続く訓練は、昼に15分休憩を挟んだのみで夕刻までも続いていた。
「遅い! もう一度!」
編隊飛行から着地し、急ぎ砲を構える段階で砲手の珠瀬機がもたついた。
即座に神宮司まりも大尉の怒声が飛ぶ。
「もう一度はじめから!」
着地後、規定の手順を飛ばした彩峰機が見とがめられ、その工程が無効にされた。
ぶつりとJIVESの画面が暗転して初期フェイズに戻される。
「はじめから!」
陣形編成発射準備、焦ったのか榊機が弾頭を取り落とす。
また神宮司大尉の罵声が飛んだ。
「もう一度! この程度でへばる奴は訓練兵に戻す!」
着地時に長い砲身を取り回し損ね、珠瀬機が隣の鎧衣機をそれでぶん殴る。
鎧衣機小破、珠瀬機転倒。
「なにやってる! もう一度!」
洋上展開中、焦れたのか彩峰機が速度を上げて編隊を崩す。
即座に画面が暗転し、はじめからやりなおし。
「もう一度!」
失敗。
「もう一度!」
失敗。
「もう一度だ!」
また失敗。
「もう一度!」
さらに失敗。
「もう一度!」
もう一度はじめから!
「勘弁して…」
肩を竦めて両手を開いて、神宮司大尉の声真似をした慧に美琴が嘆いた。
ようやくの解放。
強化装備姿、散々な訓練の後の散々なデブリーフィングを終えて。
ぐったりと通路を歩く元・207Bは4人。
先月頭 ― 突然任官を言い渡された207B分隊は、しかし当初の5人から1人減り。
その御剣冥夜という名の同期は、もう戻ることはないだろうと皆が思っていた。
そして鬼教官だった軍曹殿は、任官した自分達に慇懃な激励と敬礼とを送って寄越した30分後、今度は鬼先任になって現れた。大尉の階級章を付けて。
以降ひと月、しごかれ通し。
そして一昨日から行っているこの大型電磁投射砲の展開訓練は実地を兼ねた、特定動作の自動化を可能にした新型装置へ記憶させる模範動作の模索・構築作業の一環。
帝国・斯衛軍では精鋭部隊が同様の任務に従事しているというが、実際の配備を受けるという自分たちの部隊で訓練未修というわけにもいかない。
4人揃って更衣室へ入り、強化装備用トルソーに脱いだそれをかけてハンガーを収納。
そして皆が無言のまま、シャワーブースに入った。
自分たちではどうしようもない力が、いつも他所ではたらいている。
一足飛びに任官して戦術機に乗れるようになった時は、思った以上にうまく出来ていると思ったのに。
美琴は上を向き、顔から熱い温水を浴びた。
そしてシャワーを終え、身体を拭いて髪を乾かし。
少し放心したようにベンチに並んで、壬姫と背を預け合うように座る。
「疲れたね…」
「はい…ごめんなさい、ホントに…」
「いいって。一生懸命やってるのは、みんなわかってるよ」
皆それぞれヘマをしたが、一番多かったのはやはり壬姫だった。
とは言うものの昨年末のテロ事件以来、立ち直ってやる気を見せだしたのは紛れもなく壬姫本人の意思だった。
ぜったい、斯衛に入ります――!
ここは国連軍なんだけど、と美琴も水は差さない。
それに彼女は中長距離の狙撃に関しては明らかに天性のものがあって。電磁投射砲戦術により遠距離戦の需要が高まってきた昨今、こと戦術機での戦闘技術では器用貧乏を絵に描いたような美琴にすれば、壬姫の一芸に秀でた部分は羨ましくもあった。あと胸とかも。他の二人に比べてなまじ近しい分余計に。
その一方。
ほぼ同時にシャワーを終えた千鶴と慧は一瞬視線が合ってしまったようだがお互いすぐにそらし合い。無言のままに慧は更衣室を出て行った。
むき出しの敵意があるというわけではなく。
単に互いに隔意を抱いて避けあっている。そんな風。
「お先に」
その後それだけを言って、千鶴もまた、ひとり更衣室を出て行った。
「立ち直れって言う方が…無理ですよね…」
「うん…」
閉じたドアを横目で見つつ、壬姫が言う。
総理大臣だった父親を喪い。
自分たちの前では涙ひとつ見せはしないが、千鶴は明らかに以前までとは様子が違って。
慧と表だっての衝突が少なくなったのも、言ってしまえば任官以後、千鶴が小隊長の任を解かれたから。
そして慧の方にしても。
蜂起した青年将校連の中心が故彩峰元中将の下にいた者達だというのはすぐに広まっていた。そして彼女本人も何か関連があったらしく、事件直後から帝国軍の取り調べを受けていたことも事実で。
つまるところ、同小隊員の親族・知人関係で殺人の加害者と被害者の間柄になってしまったということ。
こんなんで、大丈夫かな…でも。
現状続く一通りの錬成が終われば、先任達と併せての編成となる予定らしい。
だからもしかすると現小隊を巡るあれこれは、少なくとも千鶴と慧のふたりの所属が分かれればとりあえずは沈静化するともいえた。
「でも精鋭部隊だって。正直、ちょっと怖いね」
「はい…でも、やります!」
休んで少し元気が出たのか、小柄な身体を起こした壬姫が拳を握る。
だが途端、くぅ~と音を立てたそのお腹。
「あぅ」
「あ、はは。食欲があるうちは、大丈夫って言うしね」
京塚軍曹に大盛りにしてもらおうか。
笑いあってふたりは、疲れた身体をもう一度引き起こした。
同年 同月 ―
訓練された身体は、24時間常に大凡の体内時計で動いている。
朝5時。
クィーンサイズのベッドからむくりと身を起こした神宮司まりもは、暗がりで付けたままだった無骨な軍用腕時計を見ようとした。静かに伸びをして背筋を伸ばす。
身に付けるはBDUのタンクトップと無地の白いショーツのみ。
横浜基地、地下施設。
高級士官用宿舎の一室、しかしこの階で使われているのはここと隣り合う一室だけ。
外光は一切入ってこない。手探りでベッドサイドランプを点けてしまえば、未だ眠りの園にいる同衾相手を起こしてしまうだろう。
背を向けて眠る、シーツの海に広がる派手な色の長髪。白く細いうなじから背中、腰から臀部までが暗闇にほんの微かに浮かぶ。
ベッドから降り、ひたひたと素足で床を歩く。そっとドアを開き、隣のダイニングへ。
照明を点け、眩しさに目を細めつつ時間を確認。流していた栗色の髪を結わえる。室内にはテーブルに椅子、簡易キッチン。机上には昨晩飲み食いした皿やらグラスがそのままになっているも、生活感はあまりない。
洗い物は流しへ放り込んで湯を沸かし、即席の合成コーヒーを入れていると寝ていたこの部屋の主が起きてきた。
「ったく…ホントに早いわね」
「寝てて良いのに。飲む?」
「不味いからいらない」
扇情的なレースの黒い下着にまりものBDUの上着だけを羽織って。
大きな乳房が布地を押し上げ、すらりと伸びる脚。香月夕呼は不機嫌そうに椅子にかけた。
低血圧気味で夜型の彼女にはまだ耐えがたい時間のはず。しばらくぼうっとしてから、夕呼は朝食を3人分、それとピアティフにコーヒーを煎れさせて、と内線をかけた。
素っぴんの顔を見せるようになっただけ、まだマシになったのかも。
ちらりと夕呼の様子を伺いつつまりもは床に座り、適当に確保したスペースで身体をほぐす。
昨年の年末辺り――
それを見せるほど甘くない筈の親友に、どんどんと余裕がなくなっているのが判った。
鋭い目つきは険しいだけのものになり、厚くした化粧の下には隈が透け。
今まで一度も、そんな夕呼を見たことがなかった。
あの頃の自分と、同じだと判った。
実現できない未来への理想、あまりにも気づくのが遅すぎた淡い恋。
取り返しのつかない後悔とそれを埋め合わせるために取り憑かれたように戦いへ走った。
いつも必死だったことには違いがないが、過酷な戦場に次々と仲間を喪った。
再度の教導隊への誘いがなければ、恐らくあのまま死んでいただろう。
夕呼は、そうなってはいけない。そうはならせない。
なぜなら彼女は、自分などより遙かに高い段階から、より多くの人を救える人間だから。
例えほんの僅かでも、なにかの足し程度にでも。
二度三度とカマを掛け、怒らせるようなことも言ってみた。
それに乗ってきたことこそが、余裕がなくなっていた証。
渋る夕呼に半ば力ずく、ふたりで浴びるように飲んで――
各種の柔軟、軽いストレッチ。
「身体柔らかいわねえ」
「毎日やればこうなるわよ」
程なく食事とコーヒーが届き、室外に置かれていたそれをまりもが運ぶ。
テーブルに並べて朝食を摂り始める、夕呼はその向かいでピアティフのコーヒーを啜りながら端末で情報を確認する。
そこで寝室へ続くドアが開き、寝ぼけ眼のイーニァが現れた。
寝室から続く隣室が、彼女らの居室。
寝癖のついた銀の長髪、だぼだぼの上着が短躯の割に妙に発育の良い肢体を隠し。片手に抱くは大きな熊のぬいぐるみ。
ミーシャがいなくなった、と悲しんでいた彼女に最近まりもが買い与えたもの。カーシャと命名したと聞いたときには何やら散弾だか破片だかを受けて戦死しそう、みんな星になってしまえと謎の啓示がまりもに降りたが、とにかくイーニァは喜んでいた。
「おはよう」
「…おはよぅ…」
「眠そうね、眠れなかった?」
「…ハカセとマリモがうるさかったから」
いろんな光がすごくて、と。
「ごめんねえ、まりもがなかなか許してくれなくってさぁ」
「やめてよ、ちょっと」
わざと語弊のある言い方をしてニヤニヤと笑う夕呼に、苦笑を通り越す。
酔いの勢いで、スキンシップが行き過ぎることもあるにせよ。
言ってしまえば要するに、ただの慰め合い、傷のなめ合い。
あの夜もふたりで同じシーツをかぶって。
横向きに肩を抱き合った。
「あんたに心配されるんじゃ、あたしもよっぽどね」
「私じゃ力になれないことなんて、知ってるわよ」
「そうね、当たり前よ………でも、助かる」
互いに強い酒精の匂い。
こつんと額を合わせてから、夕呼は寝息を立てだして――
――親友の抱えるものを軽く出来たなんて思えないし、もしかしたらあんな夕呼を見ているのが辛かっただけの自己満足。
それでもわずか触れあう肌のぬくもりが、その時だけは互いを暖めあうようで――
「――イーニァ、そういうことを言ってはいけません…おはようございます」
続いて同じドアから、こちらはきっちりと制服を身につけた霞が姿を見せる。
とはいえ長いツインテールはまだ結い上げておらず、所々には寝癖が。
まりもは手招きして自分の前に座らせた。
この、社霞とイーニァ・シェスチナ。
揃って白皙の肌に銀の髪、浮世離れした不思議な言動。
霞はその卓越した頭脳と知識、イーニァは衛士としての優れた能力。
イーニァは後入りとはいえ、とかく秘密だらけの親友の庇護下で行動を共にしている辺りから、まともではないことくらいはまりもにも容易に想像がついた。
「どうなの、部隊は」
「概ねは任せてあるけど作戦時には01型は私が担ぐし、99型は伊隅が。ハシムラ少尉とイーニァのコンビについていけるのは速瀬しかいない、そこに涼宮と彩峰で突撃小隊にするわ」
「砲戦が機能すればヒマ人小隊ね」
「直掩でもあるわよ。近接戦に限って言えば、みんな素質は私以上だし…01型は小隊じゃ運用で精一杯、その補助も必要だから。それに榊と彩峰は離しておいた方がいいわ」
自分も髪が長いから、整えるのは慣れたもの。
とはいえ霞の髪は、本当にさらさらとして触り心地が良い。
元207Bの連中は、「戦術機乗り」としての資質は皆相当なものがある。
ただ軍人として、衛士としての評価はまた別で。
「やっぱあんたが指揮した方がいいんじゃない? 伊隅だってやりにくいでしょ」
「自分の名前がついた部隊よ、それくらいは、主力の古参は子飼いなんだし。それに01型小隊は相当後方になって、実際は別働隊といってもいいくらいよ」
霞の髪を整え終え、小さく礼を言った彼女を離して朝食を再開する。
ちなみにその量は小食な霞の3倍近い。
回ってきた94式の改修部品の数に余裕はなく。同じく試験的に回されてきた77式には、近代化改修済みとはいえ自分が一番乗り慣れている。
その77式は ― 整備兵の一部がなにやら歓喜して騒いでいたが ― 既存の機体とは段違いの応答性と運動性だったとはいえ、それでもなお94式改修型の方が優れている。そういう機体は、教え子たちの役に立てて欲しい。
「ン…マリモ、そこにまーくついてる」
「え? 本当?」
「うん。あかいよ」
イーニァは機嫌良さそうに食事を勧めているが、行儀はあまり良くない。
ぽろぽろとこぼすので口元も拭ってやると、首元を指された。
「え…っ、夕呼っ」
「あはは、いいじゃない。あたしのものだって、し・る・しw」
「wを付けないで! もう、隊の連中ともシャワー使うのに」
社会的にも男性人口の相対減が言われてはいるが、圧倒的女性多数の部隊。
イーニァの存在から犯罪者予備軍扱いされているハシムラ少尉の意見はまず通らない。
ともあれ女子的会話に事欠かないのが、軍務から少しでも外れた瞬間。
ケラケラと笑ってコーヒーを口にする親友が、しかし自分に総てを見せているなんて思ってない。
夕呼の誘いに乗って教導隊から国連軍に移籍して、教官となって任官させた教え子たち。
でも先日久しぶりに顔を見ることができたのは――その、何分の一以下しかいなかった。
どこでどう、戦って散っていったのか。
極秘任務に就かせている、それは聞いていた。詮索は無用とも言われていた。
207Bを最後に新規の訓練兵が止まった理由もよく判らない。
だから。
― あたしの地球で勝手してくれるヤツらにデカい顔させておけない ―
その目的を果たすためなら、きっと、彼女は。
必要なら、私も捨て駒にするだろう。
10年来の友で、肌を合わせた仲であっても。涙も見せずに。
だから。
「ごめんごめん、悪かったわよ」
「もう、しかたないわね」
たとえ私の生命を使ってでも。
だから貴女は、必ず。地球を、人類を救って。
同年 5月 ―
春の陽光が眩しかった。
アラスカのような雄大さはなくも、日本の新緑は美しい。
話に聞くサクラ、というのは見ることができなかったけれど。
ユウヤ・ブリッジスはサングラスを外した。
伴うはイーニァ・シェスチナ。つばの広い白い帽子に同色のワンピース。
立ち並ぶ奇妙な形の石碑群、これが日本の墓らしい。
先導する黄色いロイヤルガードの制服姿のユイが、ここだと立ち止まった。
篁家先祖代々。周囲の墓石より少し大きい。
そのユイが持っていた手提げから取り出したキャンドルとなにか ― 香木だろうか、に火を点けると、その煙にイーニァがむせた。
「ユイ、なにこれ」
「すまないな、シェスチナ少尉。ブリ…いや」
「ブリッジスでいい、俺もタカムラ中尉の方が呼びやすい」
そうか、と答えるユイから香木を受け取り、作法が解らないので適当に置いてみた。即座にユイが場所を直す。
「特に月命日というわけでもないんだがな」
「?」
ツキメイニチ、だとかボシとかいう石版に掘ってあるカンジのカイミョーだとかはよく解らなかったが、あの時と同じく手を合わせたユイを真似てみる。
タカムラマサタダ。そういう、名前だそうだ。
しかしここには遺骨はなく。ただ、名前とその魂が眠るのみという。
「そういや、おふくろの墓参りもしてないな」
「親不孝者め」
「言い返せねえよ、…でも」
「…決めたのか」
「ああ。俺は、アメリカに帰る」
合わせていた手を解いて、前を見たまま答える。
ハイネマンの話は聞いた。わざわざ横浜基地までやって来たから会いもした。
ボスとも何やら話したようだがあのおっさんのことだ、裏でも色々考えちゃいるんだろう。
でもダンバー准将もまた懲りずに色々と手を貸してくれているらしい。
大嫌いだった、憎んですらいた祖父さんの…遺徳ってやつになるのか。
今の俺の最優先は、まずイーニァの安全だ。
それについては、非道な真似はしないとの約束はしてもらった。
それが…守られるかどうかは判らない。
だがイーニァは、俺についてくると言ってくれた。
なら、ずっと、このままふたりで日陰の身でいるよりは。
「クリスカの墓も建ててやらないとな」
「うん」
帽子の上からイーニァの頭を撫でて。
生まれ故郷には、日本の方が近いけれど。
ヨコハマに来た後、荼毘に付した遺骨は大切に保管している。
「実際のところ、米国に遺恨はないだろう」
出し抜いたとかいう情報機関は知らないし、実験機を持ち逃げされた帝国と、貴重な衛士を二人も拐かされたソ連はその限りじゃないぞ、と。意地悪げに笑むユイには勘弁してくれと両手を挙げる。
「とはいえ欧州西部戦線が膠着している以上、ソ連も先々甲05なり26なりの攻略に米国の手は借りたいはず。当面余計な騒ぎを起こすような真似はすまい。それに米国の戦術機に精通する上例の新装置の開発にも携わった貴さ…まは、ことボーニング社にとっては喉から手が出るほど欲しかろう」
「帝国軍とロイヤルガードはブラックボックス化での提供に応じるのか?」
「すぐとは言わんが、そうなる見込みだ」
「…それでいいのか?」
「発想と着眼点が露見した以上、実現までの差を技術が埋めていくのは時間の問題だ。元々電算機や戦術機関連の技術は総体で見れば米国の方が進んでいるからな」
それは日米共に理解していることだ、と。
「軍事面での共同歩調は既定路線だ、欧州連合にも先々は協議を進めていくことになる」
「…お人好しな話だとは思わないのか」
「思うさ。だがこれも、政というやつだ。……では父様、また来ます」
最後にまた手を合わせて小さく頭を下げたユイに従い、墓地外の駐車場へ向かう。
「才能があれば愚行すら許容されるというのは…不公平な話だ」
「…いちおう兄貴だって判ってんのに辛辣だな」
「なればこそだぞ。香月博士は、なんと?」
「あんたらは期待外れだったから別にいい、だそうだ。あの冷血女め」
「期待外れ…?」
立ち止まり形の良い顎に手を当ててユイが考え込む。
「ユウヤ…」
「なんだよイーニァ」
「ハカセは、みえないからわからないけど、やさしいところもあるよ」
「ん、そうか。まあイーニァが言うんなら、そうか」
「なんだその会話は…」
責めるように見てきたイーニァの頭を、ぽんぽんと撫でるように叩くと、ユイが呆れたような目を向けてきた。A-01の連中が向けてくるのとよく似ている。
「なんにしろ、当面のケリをつけてからだ。イッシュクイッパンの恩義もあるからな」
「その程度の恩のわけがなかろう。まあ意気は良いが、つまらぬ処で死んでくれるなよ」
「言ってろ。俺はタカムラの家なんて継ぐつもりはないからな…あんたこそ、死ぬなよ」
「ああ。最早私は安くは死ねん。でなければ逝った友と斬った敵に申し訳が立たん」
他人の命を背負いすぎたからな、と。
事もなげに壮絶な言葉を吐く、腹違いの妹をユウヤは見た。
「今度の間引きにはロイヤルガードも出るのか?」
「ああ、そちらと同じく中隊程度だがな。横浜基地の手並み、見せてもらうぞ」
同年 同月 ―
垂れ込める雲の下、しかし春の日本海の波は低い。
スーパータンカー流用の日本帝国海軍戦術機揚陸艦・大隅級は、全長340m全幅66m、戴貨重量は30万トンを超える巨体。そこに戦術機16機を満載するとなれば、正面からの波に角度を付けての航行でもあって揺れはかなり抑えられる。
そもそも輸送艦の揺れ程度でどうかしていたら戦術機などには乗れない。
だが艦自体は大型ながら、設備までがそうとは限らない。
国連軍横浜基地所属のA-01部隊・通称伊隅戦乙女隊の衛士達13人が詰め込まれたブリーフィングルームは狭苦しかった。
「以上が本作戦の概要となる」
「また実験兼ねての間引きですよねー」
今行われたのは最終確認に過ぎないが、伊隅隊長の説明に速瀬中尉が退屈そうな声を上げた。
横浜から琵琶湖運河は経由せず。空路での敦賀港発高城沖行。
20時間を少し超える船旅は、間もなく終わろうとしていた。
「なんだ、不満か?」
「いえ別に。でもヒヨッコ連れの新編成ですからね」
「それはすまんな、足を引っ張らないよう気をつける」
「じ、神宮司教か…いえ、大尉殿、滅相もございません」
「実戦から離れていたのは事実だ。お手柔らかに頼む」
作戦の確認に余念の無い榊千鶴は、そういう会話を自席にて聞き流していた。
国連軍仕様の黒と薄紫の99式強化装備にウォーニングジャケット姿。
たっぷりと訓練は積んだはずだし、戦力にも余裕がある。
作戦期間は間引きとしては長期といっていい1週間、現地で過ごすのは5日程となる予定。戦術機は国連軍と斯衛は共に1個中隊程度ながら新装備が配備され、主力となる帝国軍は精鋭1個連隊規模の参加。洋上砲撃能力も大和級を旗艦とする戦隊が後詰めとして控える。派遣を打診したアジア連合からも小規模ながら部隊が出ていた。
兎も角漸減と実験という目的の他に、自分たち実戦未修の新米に経験を積ませるのに絶好の機会であることも間違いが無い。
それでも、眼鏡の横からちらりと確認すれば。意気込みの割に顔色の悪い珠瀬壬姫、軽い笑顔の鎧衣美琴にも緊張の色。
故に自らも緊張と――また違う思いを自覚する千鶴は、ブリーフィングを終えて甲板に出た。
船団を組む帝国および斯衛の戦術機母艦群がそれぞれ5km程の間隔で航行していて、目をこらせば両舷にその姿が確認できた。
しかし雨が今にも降り出しそう。夜明けからもう数時間は経つのにどんよりと暗い。予報では晴れてくると言っていたはずなのに。
今の気分がさらにそう感じさせるのか、千鶴はひとつ、小さく頭を振った。
先々月の中頃、父の国葬が執り行われた。
葬儀委員長は不測の事態に急遽組閣された内閣の新総理。
無宗教での執行となった葬儀自体には、政威大将軍・光武院悠陽殿下御自ら臨席なされ、弔辞を頂いた。
代々政治家を輩出してきた榊家には当然菩提寺が存在したが、国葬となるに際し先んじて弔事を行うのは不敬に当たる為、単に喪に服すのみとなった榊家には勅使として有力武家・月詠真耶斯衛軍中尉が訪れて殿下ご本人の名前での香典を頂戴した。
昔は父の手伝いや代理として政治運動にも関わっていたという母は、しかし千鶴が物心ついた頃には半ば家に引きこもって怠惰に過ごす女性だった。醜聞になるからだろう離婚もせず、あるいは出来ず、時折父の秘書という若い男がやって来ては一緒の時間を過ごしていた。まだ学生だった頃の千鶴はその時に居合わせてしまうと、遣る瀬ない憤りの傍ら母の笑い声や嬌声が聞こえてこない屋敷の広さに安堵していた。
とにかく母親がそんな調子の為、国葬に先立ち千鶴は横浜基地から特別に暇を貰って喪中の実家に帰り、逃げたがる嫌いな母を支えて榊家名代のような立場になった。
途切れることなく訪れる弔問客、応接する千鶴の身を包むは急遽の任官で与えられた国連軍の制服。襟元には少尉の徽章。
鍛えられたがゆえに体力的には問題なくとも、精神的な疲労がひどかった。
本音建前はともかく、これだけ多くの人と関わりがあった父。
袈裟懸けの一太刀で斬り殺されたというその顔には傷も無く。防腐処理を施されて広い仏間に安置された棺に横たわるその死に顔は当然血の気無く青白かったが、相変わらずの厳めしさというか難しさ。断末魔、という割に恐怖も苦悶も驚愕も無い。
もしかして全部、納得ずくでのことだったんだろうか。
そう考えれば、あれこれと辻褄があうことが多すぎて。
「あの」米国との共同歩調が前提となる、本年よりの帝国の軍事行動指針。
最終的には一大軍事作戦へと収斂されていくそれらを纏めた法案は、当然の如く議会の紛糾と市井の反発を呼んだ。
総理であった父は、しかし議席上多数となる与党内の賛成は取りつけていて、要するに剛腕で以てそれを成立へと導こうとし――暗殺された。
しかし大逆未遂の数日後。急遽組閣された新内閣の元、法案は可決。
御自ら戦術機を駆って叛徒鎮圧に御出座になられた殿下は、父の国葬に臨席下さり。
その場でのおことばには、忠臣の死を悼むお気持ちが並んだ。
そのため世論にも志半ばで斃れた父に同情的な論調が出始め。
現実的に日本の安全保障を考え抜いた末の結論だったと新聞も書き。
法案内容がざっくりと報道されて以降下がり続けていた与党支持率は大きく回復。
逆に解散を求めていた野党の声は一気に小さくなった。
そして戦場に立たれた殿下の麗しくも勇ましい御姿は臣民の語り草になり。
その御許で異星種共を駆逐すべく、帝国軍の士気は尚高まった。
「…」
潮の匂いに混じって、ふと気配を感じた。
肩越しに振り向くと、そこには同じくウォーニングジャケット姿の無表情な彩峰慧。
訓練以外で最後に言葉を交わしたのはいつだったか、黙ったまま彼女も少し離れた場所で海を眺めた。
彩峰慧は、反乱の首謀者と知人だったらしい。
というのも首謀者は彼女の父親・故彩峰元中将の元部下で、反乱将校の多くもまた同様だったそうだ。彼女は事件発生後に自ら名乗り出、ちょうど千鶴が帰省している間、国連軍経由で帝国軍の取り調べを受けていたとか。
何故、もっと早く、そうしてくれていれば。
国葬前、一時帰隊した折に慧から呼び出され、見せられた反乱首謀者からの手紙というのは古風な文章に暗号めいた言い回しがあるだけで、あとになって考えてみれば程度とも言えた。
でも、それでも。
慧からは今まで一度も聞いたことがなかった謝罪の言葉が出たが、納得するにはほど遠かった。
ただ、その時。
たぶん二人で、はじめて共通した認識を持ったと思う。
「ねえ」
聞くなら今だろう。
黙ったままの慧に、千鶴は声を掛けた。
「どう思う?」
訳あり分隊だったのが、あの時機での急な任官。
「…用済み?」
感情を伺わせない瞳のままで、慧は言った。
「…あなたもそう思うわよね」
千鶴は少しだけ唇を歪めて、皮肉げに笑った。
生きた人質としての利用価値は、もう無くなった。
少なくとも、自分と彼女の二人は確実に。
鎧衣はよく判らないが、次の作戦に国連は難色を示すだろうとの見込みもあって、珠瀬の父親の立場も微妙化したのかもしれない。
そして何より、至尊の方に瓜二つの御剣が姿を消した。別任務に就くという話だったが、果たして国葬にも現れたあの御方はどなただったのだろう。
帝国軍への志願を父に取り消され、図らずも入った国連軍。
入隊の最大の理由は、今思えばもの凄くくだらない、父への反抗。
国のため、人類のため。それもたしかにあるけれど、一番強かったのは結局それ。
仕事にかまけて一切家庭を顧みない父を、見返してやりたい。あんな母を放置する父の鼻を、明かしてやりたい。自分は立派にできるんだというところを、見せつけてやりたい。
要するに自分は、反抗というより父に褒めて認めて欲しかったのか。
それが、その父に反抗して徴兵免除を蹴って軍に入り、だが父は殺され、そして粋がっていた自分はお望み通りの一兵卒になった。
早く死んでくれと思う者も、きっといるだろう。
概して衛士の寿命は長くない。だが必ずしも、話題が熱いうちに死ぬとは限らない。
非業の死を遂げた元総理の娘と、軍内には今なお信奉者の多い元将官の娘。
たまたま同じ部隊に所属した両者は、父親同士の確執を乗り越えて。
「手を携えて果敢に戦い、しかし武運つたなく共に九段の門を潜った」?
時間が来た。出撃となる。
「…死ぬつもりはない」
ぼそりと言われて千鶴は久しぶりに慧の眼を見た。
紫がかる瞳、ざっくりとした手入れの黒い髪。俊敏な猫科の肉食獣。
「私だって」
共に艦内への昇降口へ向かう。
そして目は合わせないままで、掲げられた慧の右手に左手の拳で合わせた。
闘志を以ても、駆逐しきれない緊張。しかし身体は叩き込まれた動作を反復できた。
所定の手順を終えて、母艦から発進。改修なった94式の挙動は恐ろしく軽く速く、とはいえそれにも馴染みだしている。
自分の任務は第3小隊長・神宮司大尉の撃震が構える01型大型電磁投射砲の補助。砲身交換並びに弾倉の交換を担う。
補給コンテナを抱えて現着、速やかに展開。上陸したのは江原道北部、荒涼とした平野。甲20号までおよそ100km。
光線種は確認されておらず今はBETA群の姿も見えないが、この先には確実に。
前方には同じA-01部隊の仲間と、帝国軍に斯衛軍の部隊も展開しているはず。
「こちらヴァルキリー03、位置に就いた。これより試射を兼ねて砲撃を開始する」
前方20m。動力用に換装した増槽を背負い、長大な01型砲を抱えながらも神宮司大尉の77式はふわりと着地を決めた。
「こちらCP、前方60km地点にBETA群。大隊から連隊規模と認む、砲撃を許可」
「了解。砲撃行程に入る。01型砲、超伝導機関起動、三式弾装填」
「了解…!」
神宮司機、無骨な造形の77式肩部装甲に腰だめに構えた01型砲後部から伸びた可動式懸架が固定される。千鶴はすかさず戦術機で一抱えになる大きさの弾倉を砲へ装填、砲口からはすでに仄かな発光。
「データリンク確認。諸元入力よし、目標固定。戦域に砲撃警報」
「CP了解。行程を進められたし」
「了解。反動制御、各員対閃光防御。各機は当機より後方へ下がれ」
77式の跳躍機が水平にごく僅か噴射を開始、指示に従い小隊機は設置された弾倉や砲身コンテナを引っかけないようにしつつ距離を取った。
「発射準備完了。…CP」
「こちらCP。砲撃開始許可」
「了解…――01型大型電磁投射砲、三式弾…発射ッ!」
閃光。発射音は甲高く。火薬式と違い轟音は響かない。
極超音速の砲弾は肉眼では追えず、弾体が大気を突き抜けた衝撃波も遅れてやって来た。
投射された収束弾は今回入力設定の発射後9秒で炸裂し、500個超の子爆弾をばら撒く。
遙か遠く、荒野の果てで爆炎が上がった。
「有効射と認む」
「了解、同一砲身での2射目試験を行う」
「了解っ」「了解」
手順通り、交換砲身を専用の補給コンテナから用意していた鎧衣機が返信し待機。
千鶴も当初予定通り、同一弾種ながらも訓練のために弾倉を交換した。
2射目も、問題なく。
「こちらCP、射程内に敵集団なし。前衛は不発弾に留意しつつ残敵を掃討せよ」
りょうかーい、と軽い調子の速瀬中尉の声が聞こえた。
終わった…の…?
千鶴は自分でも不思議と、呆然としていた。
BETAの姿なんて一度も見ていない。
時計を見ると砲撃準備開始から6分しか経っていなかった。
死の8分までは、まだ。
あたりを見回した。
センサーを確認する。
データリンクも追ってみた。
敵影なし。
地下侵攻の兆候もなし。
「榊! 何してる!」
「!」
網膜投影内と通信、神宮司大尉の怒声に我知らず肩が震えた。
「呆けるな! 周囲の確認で注意が散漫になってどうする!」
「は、はッ! 申し訳ござません!」
「貴様等もだ! 戻ったら絞ってやる、撤収するぞ!」
「りょ、了解っ」
珠瀬機鎧衣機と共に唱和し。千鶴は低空での帰投路に入った。
生きた。生き残った。
というより、何もしていない。
「…」
強化装備にウォーニングジャケットのまま。
潮風に吹かれ、出撃前と同じく船首甲板上に佇む。
予報通りに雲が晴れた空、しかし茜色の残照もすでに少なく。
デブリーフィングでこってりと神宮司大尉殿に絞られ。
貴様のようなのは味方を殺す、と叱責された。
そうなる前に貴様は死んだ方が良い、それが貴様にできる最大の貢献だ!
「ま、それもそうよね…」
これまでにも何度も聞いた罵声。
でも今は、とりわけ。
頭上を飛行する戦術機の轟音、それすらも耳には入らず。
死ぬことこそが、最大の貢献。
厳しくもその裏に優しさを漂わせていたようなラダビノッド司令も、あの時弔問に訪れた与党の重鎮達も、財界の大物達も。
沈痛な表情、やさしい言葉、深く下げられる頭。その陰にみんながみんな、事情と欲望を隠して。
それにもしかしたら――殿下でさえも。
ふと、このままこの目の前の暗い海に身を投げてしまおうか、そんな馬鹿げた思いも過る。
戦術機輸送艦の乾舷高なら、海面に叩きつけられて死ねるだろう。
いやそんなことをすれば行方不明扱いで皆に余計迷惑がかかるし、遺書を残せば自殺になって「望む形」にならないだろう。
「そうじゃ…ないわよね…」
俯いて、自嘲に唇を歪めた。
結局自分はとんだ愚者で臆病者だ、あれこれと理由を付けては死ぬことを避けている。
周囲の希望に気づきながら、それに反してなお生きる価値など示せないまま。
父は、成し遂げて受け容れて。
誰にも何も言わずに、自らが犠牲になったのに。
どうやったら、強くなれる。
好敵手と認め合っていたつもりだった涼宮茜は、先任達に混じって前衛を担っていた。
あの彩峰慧が食らいついていくのに必死なほどの小隊で。
対して自分は、神宮司大尉の弾倉を一回交換しただけ。
それが任務と言えば任務だが、そんな任務で呆けて叱責される程度が自分。
「…」
風が吹いた。ようやくに音が耳に、いや意識に入る。
前方から残り少ない夕陽を背負い、逆光で接近する戦術機のシルエット。
見慣れない機体。
…00式…?
千鶴が佇む戦術機母艦直上。飛来した00式はまるで宙に突き刺さるかのようにびたりと停止しつつ180°ターンを決め、空いていたすぐ後ろの戦術機格納スペースに滑るように降下した。戦術機母艦は開放式、機体の頭部辺りまで格納スペースに沈み込む。
機体色は見慣れた、国連軍の水色に近い青。
だがその右肩だけが、残り僅かな茜色の空間に先んじて夜に溶け込む。
着艦の揺れがない? なんて操縦技術…
呆然と千鶴が見る鉄の巨人の胸部が開き、管制ユニットがせり出す。
開いたそこから、キャットウォークにひらりと飛び出したひと。
そしてそのまま下には降りず、甲板通路へと上がってきた。
漆黒の強化装備。無駄ひとつなく鍛え上げられた肉体を包んでいた。
沈みゆく陽の、最後の陰影がその顔を映す。
――!
新聞に出ていた。
反乱の首謀者、大逆の叛徒であり父を殺した男、沙霧尚哉。
それを誅殺したのは。
千鶴は彼を見た。
衛士の頂点。
帝国を護る最強の剣。
一歩、二歩。我知らず、次々に歩を進めた。
向こうもこちらに気づいたらしい。
「あの…」
「…」
黒い斯衛。その冷静とも冷徹とも見える瞳。
思わぬ邂逅に礼を失していたことを思い出し、慌てて敬礼。
「さ、榊千鶴少尉といいます。あの、ありがとう、ございました……」
「…」
「父の、仇を……私、榊の、娘です」
「…」
返答は無言。
「私も…衛士になりました」
それを言って、どうするつもりだったのか。
ただ――
「……落ちるなら俺の見てない所で頼む」
「え…?」
ぽつり、と。
そして踵を返しざま。黒い背中が、そう。
「……死ぬなよ………、 」
――お前は、笑って生きろ――
沈みきる太陽、訪れた闇の帳。
その中に溶けるよう、彼は消えていって。
そしてひとり千鶴は呆然として立ち尽くし。しばらくしてへたり込んだ。
「生きろ…?」
それに死ぬな。
「え…?」
どうして?
それに小さく最後に聞こえたのは。
聞き間違いではなかったと思う。
低く告げられた。その、声で。
私の、名前を?
あの英雄が? もしかして、父とは懇意だったのか。
でも、
「ちづる、だって」
口にしてしまえば、甘い痺れさえ、感じて。
千鶴はひとり、赤面した。
同年 同月 ―
戦うしかない。
「CPよりヴァルキリーズ、残存BETAの掃討へ移れ」
「ヴァルキリー02了解、ほら小隊全機、いくわよっ」
「了解」「りょうかいっ」「了解!」
三式収束弾の爆煙が晴れ、荒涼たる原野にはBETAの死骸の合間に蠢く残余のそれら。
砲撃警報が解除された戦域に、彩峰慧は突進する速瀬水月中尉機に続く。
晴天。朝鮮半島。鉄原ハイヴ東50km付近。
国連仕様の青に塗装された94式弐型4機小隊が空を駆ける。
「…ッ」
疾い。
前を行く速瀬機の跳躍ユニットの炎。その隣にはハシムラ改めブリッジス機の背中。
それらを見せつけられ、慧は加速Gと悔しさとに奥歯を噛む。
4機小隊、槌壱型。
伊隅ヴァルキリーズと異名を取る…自称?…、の同中隊において、第2小隊は近接戦を得意とする衛士で構成される便利屋兼突撃小隊。
敵は敗軍のBETA共とはいえ、ほとんど自由戦闘のありさま。なのにとりわけ前を行く2機は、主に単独、時に自在に互いやこちらまでをフォローしながら次々に異星の怪物達を駆逐していく。
「4つ目もらいっ」
「中尉、チェックシックス!」
「わかってる、でもありがとっ」
鋭角な機動から機体を振り回し、要撃級の背後を取った速瀬機のさらに背後。
側方30mあたりで要撃級に突撃砲を叩き込みながら地を這う戦車級を蹴り上げていたブリッジス機の注意喚起に、素早く獲物を仕留め終わった速瀬機は振り返りざまもう1匹の要撃級に追加装甲の下端をぶち込んだ。
…すごい。犯罪者と単細胞のわりに。
慧は内心に失礼なことを考えながら。
低空で要撃級に接近、躱す機動で背後を狙う。理想より半呼吸遅れて続いた涼宮機の36mmが入った。一瞬動きを止めたその要撃級の尾節を後ろから蜂の巣にする。
無能な指揮官の遅れた命令になんて従わなくてもいい。
臨機応変で結果さえ出せれば。
自分にはそれが出来ると思っていた。いや、出来るから許されるとさえも。
とんだ自惚れだった。
「彩峰っ、次フォローお願い!」
「了解」
「彩峰撃つ時動きを止めない!」
「、了解!」
代わって突進した涼宮機、フォローに回って新たな要撃級の足下を狙う。
射撃はそこまで得意でなく。まして誤射など許されない。狙おうとしての機動の僅かな鈍りを先んじている速瀬中尉から注意された。よく見ている。
だがおかげで一呼吸遅れてしまった援護の射撃にも、涼宮機は即興で合わせて要撃級を血祭りに上げた。
207Bでは近接戦闘の機動では頭一つ抜けているという自負があったのに。
現状自分と半期先輩になった涼宮茜は先任達のおこぼれに預かれるかどうかというところ。
そしてその涼宮茜にも、自分は実戦経験に基づく戦場勘で及んでいない。
この間引き作戦での戦場が、新兵の自分にとって幸運極まるものだとは理解している。
実験を兼ねた新兵器は順調に機能し、BETAの数も多すぎず。
光線級も今のところ確認されてないとくれば、死の8分を超えられず死界の門を潜った先達からすれば不公平だとすら。
それでも、私は、戦うしか――
今は役立たずでも、たとえお荷物でも。
知将名将と呼ばれ英雄だったはずの父の名は、無能と不名誉の象徴になった。
兄と慕い、一時はいずれ将来は、との間柄だったひとは逆賊に成って――挙げ句、同僚の父を殺めた。
榊には、自分に解ることは全部伝えた。
ひっぱたかれるか、それ以上のことになるかとも思っていた。
ただ彼女は、辛そうな顔で「わかった、独りにして」と言っただけ。
何が真実で、事実で、正しいことなのか。
誰も教えてくれないし、自分でも解らない。
だから、戦うしか、ない。
容易な戦場にはしかし、危険性は常に存在する。
「こちらCP、戦域警報、震動感知!」
「っ、おいでなすった? パターン照合急いで!」
「こちらヴァルキリー03、砲撃小隊。砲撃態勢に入る」
「了解、近隣部隊へ通達」
速瀬機の指示で低空で編隊を組み直す、神宮司大尉の冷静な声。
噂の地中侵攻か、はたまた例の母艦級か。
大地の鳴動が空気を震わせ、その振動が音になる。戦術機のセンサーを通して聴覚に伝わる不気味な重低音。
時間を見る。操縦桿を握り直した。時間を見る。つばを飲み込んだ。時間を見る。
「…」
「あせっちゃ、だめ」
「…わかってる」
網膜投影、複座のブリッジス機前席からの幼い声。
いつもながら、不思議に心を読んだような。
もっとも先任古参連中からしてみれば、新米の焦りや恐怖なんかは通った道だろうし。
…わからないのは、あれで先任。
シェスチナ少尉は相当に謎な存在。いつも思わず敬語を忘れる。
でもそれを侍らすブリッジス少尉は犯罪者。
そして大気の響きが絶唱となり、大地が爆ぜた。
左前方 ――5㎞弱。
地下から巨大な異物が岩塊を巻き上げながら土煙と共に姿を見せる。
「出たわよ! 母艦級!」
「ざひょうかくにん、データてん送」
「さっすがイーニァ!」
視野と衛星データから戦術機が演算するより僅か早く。シェスチナ少尉のコールに速瀬中尉の感嘆。
「ヴァルキリー03、諸元受領」
「ホワイトファング13、射程内。諸元受領」
「よし、十字とはいかんが仕留めるぞ。四式弾装填」
「了解、四式弾装填!」
隣接部隊は斯衛の試験隊。
「こちらヴァルキリー02、でかいのが開きそう!」
「CP、砲撃警報。前衛は斜線を開けろ、後退2000」
「了解、前衛隊は後退せよ…発射よろし」
「斉射2連――――、発射ッ!」
「口」を開いていく母艦級を視界に入れながら散開しつつ後退、入れ替わるように――どころかそれを知覚した瞬間には着弾していた。
地下から斜めに突き出した赤黒い塔の如き母艦級、その横面を張り倒すように大穴が空く。そして間髪入れずもう一発、今度は左方から母艦級を斜め後ろから突き刺すように。
遅れてやって来た衝撃波すら凄まじく、前衛隊機には空中で自動の姿勢制御が入った。
間を置かず爆発音。四式徹甲榴弾が母艦級の体内で炸裂してその巨体が膨れ上がり、穿たれた巨大な弾痕から体液が噴き出すところにさらに初弾同様の斜線でもう1発ずつ突き刺さった。再度の爆発。
すっご…
「有効射と認むっ…うひゃ、ミンチよりひどいわ」
「こちらヴァルキリー03、三式弾で仕上げと行きたいが砲身が品切れだ」
「ホワイトファング13、同じく」
「了解、光線級の有無も不明、長物部隊は下がって! 小隊前進、高度を下げろ!」
「了解っ」
おどけて見せる速瀬中尉のギアが切り替わったのが判る。
力尽きたと思しき母艦級、しかし力なく半開きで止まった「口」と、投射砲で穿たれた大穴「傷口」から大量の死骸と共に残存BETAが小型中型とあふれ出てくる。
「突撃ッ」
単純に縦型、先頭は速瀬機にブリッジス機。追加装甲に突撃砲の速瀬機にブリッジス機は突撃砲2門。兵装担架はそれぞれ長刀2本と長刀1突撃砲1。
先陣を切るように「傷口」から出てくる戦車級の群れににブリッジス機が120mmを叩き込み、出足を挫くと続けて36mmの連射で溢れた小型種共を吹き飛ばす。母艦級から50m、着地。すかさず速瀬機も続き、キルゾーンを設定した。
「涼宮彩峰、続け!」
「了解!」
「ざんだん5ひゃく」
「フォロー入りますっ」
緩く扇状に散開、「傷口」をBETA共の死地にする。
互いに弾倉交換の間をカバーし合い、慧はふと2時方向に意識を割いた。
斯衛――
「口」の方へ向かう、UNブルーの00式部隊。
1機の右肩が黄色く、他は白。
いや、1機だけ。
漆黒の夜色の。2刀を提げた鬼。
「――!」
帝国の剣。斯衛の絶刀。
BETA共に死を告げる漆黒の双刃。
超低空での滑るような機動、「口」より突進した要撃級がすれ違いざまに寸断される。
地を這う戦車級闘士級の群れは装甲各所の超硬炭素刃が細切れにした。
「『ツイン・ブレード』か!?」
そしてそれに続く山吹と白の肩をした00式部隊も、手に手に刃を取って舞うようにBETAを屠っていく。
「うっわあの山吹、あの時のキチ○イ女かな」
先任ふたりの声も遠く。
眼も手も目の前のBETAに集中しながら、慧の思考だけは逸れていく。
あいつが――尚哉を――
憎いのか? いや、違う。たぶん最初から尚哉は死ぬつもりだった…と思う。
じゃあ感謝する? それも違う。尚哉は何かを成すつもりだったんだろう、それを踏み潰したのがあいつ。
なら、私は――
「彩峰ッ! 気を逸らすな!」
「!…、申し訳ありませんっ」
「余裕こいて死んだら笑い者よ! 貴重な機体を扱ってる自覚を持て!」
「はい!」
速瀬中尉の叱責に意識を切り替える。
流石は先任、手はきちんと動かしているつもりだったのに本当によく見ている。
「ケイ、えらそうだね」
「…心を読まないで」
本当に何者なんだろう、この銀の髪の少女は。
漸減と試験とは順調に進んでいた。
遭遇した母艦級の排除もほぼ理想的な展開となり、増援と光線級への警戒から半島東部海岸線まで後退した帝国・斯衛・国連軍連合部隊は哨戒を残して休息を取る。
雲はやや多いが青い空が覗く、砂浜の波打ち際。元々は大きな河口に面してもいたのだろう、だがそちらはハイヴの影響か干上がってしまっていた。
膝を突いた姿勢で駐機された戦術機群、それぞれ胸部の管制ユニットからはホイストケーブルが垂れる。
春とはいえ、緯度もそこそこ。それでも強化装備の耐環境性能により肌寒さはない。
デブリーフィング・ブリーフィングを終えたそれぞれの部隊の衛士達が思い思いの場所でしばしその羽を休める中、慧は目的の人物を見つけた。
波打ち際、その至近。立つ足下の白い砂は海水で黒く濡れて。
呼びかけて敬礼、名乗ると最初顔だけで振り向いたその中尉が答礼した。
「…ご休憩中申し訳ございません」
「……いや」
「…」
「…」
「…お会いできて光栄、です」
「…」
「…」
「…」
…どうしよう…
聞きたいことは色々あったが。
相手も無口なタイプだったらしい。
そして迷って。出た言葉は、良くはなかった。
「…尚哉…、沙霧大尉とは…知り合いでした。昔から」
「…、……そうか」
だがほんのわずか、驚いたのか。
無感情な瞳が揺れたように見えた。
そして幾ばくかの沈黙の後に。
「……それは、悪いことしたな」
「い、いえ…」
何の外連味もなく謝られた。
階級は向こうの方が上で、しかも護国の英雄に。
大逆犯の知り合いがとか、正義のためだったとか、そういうのでもなく。
まるで、取るに足らないものを壊してしまった事を詫びるような。
そしてまた訪れた数秒の沈黙、会話は終わったと感じたのか黒の中尉は歩を進め。
すれ違うように去ろうとする。
「あ、あの」
「……」
呼び止めようとした慧が伸ばした手は、しかし彼に触れることはなく。
そしてその、黒の衛士の最後の呟きもまた、届くことなく海風に乗って流れていった。
「次」は、気をつけよう、と――――
ご感想・評価頂ける方、ありがとうございます
とっても励みになります
冗長になりましたー すみません
正直207Bの面子はよく分かりません…
実は登場予定は殆どなかったんですが触れない訳にはいかんかなーと最初書いてみたら父親の死と周囲の策謀に疲弊した委員長が武ちゃんに逢ったら突然ヤンデレ化したのでボツにしましたw