久々の更新は犯罪とは全然関係ない話題です。でも、制度やルールの話と考えればあながち無関係でもないかも。
 石原伸晃・内閣官房参与(64)が代表を務める政党支部が昨年、新型コロナウイルスの影響を受けた事業者を対象とする国の緊急雇用安定助成金を受給していたことがわかった。東京都選挙管理委員会が公表した昨年分の政治資金収支報告書に記載があった。
(中略)
 受給していたのは自民党の東京都第8選挙区支部。同支部の政治資金収支報告書によると、「その他の収入」の項目に、2020年4月分と5月分で計60万8159円を雇用安定助成金として受給していた。
 石原氏の事務所は取材に、「所管官庁に確認した上で、必要な書類を添付し、適正に申請し、審査いただいたものと承知しております」と回答した。
 石原伸晃氏の政治団体、コロナ対策の助成金受給 「適正に申請した」-朝日新聞
 12月9日時点の報道で、小選挙区で無事に落選した石原伸晃内閣官房参与(当時)が代表を務める政党支部が「緊急雇用安定助成金(いわゆる雇用調整助成金)」を受給していたことが報じられました。石原氏は参与を辞任していますが、同様の問題はすでに自民党議員の多くに広がっているようで……
 自民党の大岡敏孝環境副大臣は10日、国会内で会見を開き、自身が代表を務める政党支部「自民党滋賀1区支部」が昨年9月、新型コロナウイルス対策の雇用調整助成金(雇調金)として約30万円を受給していたことを明らかにした。大岡氏は「(政治家ではなく)雇用主として受給を判断した。手続きは適正で、不適切なことはない」と違法性は否定した。
 自民・大岡副大臣の党支部、雇用調整助成金を受給 「適正だった」-朝日新聞
 元参院議員の岩城光英氏(72)が代表の「自民党福島県ふるさと振興支部」が昨年、新型コロナウイルス対策の雇用調整助成金(雇調金)を約147万円受給していたことが分かった。岩城氏は「支部職員の雇用確保のためで、受給に問題はない」としている。
(中略)
 同支部の20年の収入は、前年より1割弱減って約1324万円。その半分を占める約685万円が企業献金で、同じく1割強減っていた。岩城氏は「企業からの寄付が予定よりも入らず職員の雇用が難しかった」と説明。政党交付金は受けていないことも理由にあげ「関係機関に『もらって差し支えない』と確認して申請した」とした。
 岩城元参院議員の自民党支部、雇調金147万円を受給 「問題ない」-朝日新聞
 ざっと調べただけであと2人も出てきます。多分もっといるでしょうね。

 ところで、続々と出てくる疑惑の中で以下のような指摘がありました。

 指摘されている山本左近衆議院議員の記事は以下です。
 元F1ドライバーで、自民党の山本左近衆議院議員が代表を務める政治団体が、新型コロナに関連する助成金およそ80万円を受給していたことが分かりました。
 政治資金収支報告書によりますと、山本議員が代表を務める「山本左近政策研究会」は去年10月、小学校休業等対応助成金82万円あまりを受給していました。
 山本左近議員の政治団体 コロナ助成金受給-日テレNEWS24
 そして、山本議員と同様の助成金を受け取っている議員が立憲民主党にもいました。
 立憲民主党は14日、阿部知子、岡本章子両衆院議員がそれぞれ代表を務める政党支部が、新型コロナウイルス感染拡大に伴う臨時休校に対応する「両立支援等助成金」を受給していたと発表した。金額は、阿部氏側が24万4920円、岡本氏側が2万9520円。両氏とも返金手続きを進めている。
 阿部、岡本氏団体が助成金受給 立民-時事通信
 不正が日常となっている自民党が受け取っていればそこに不正を疑うのは自然でしょうが、そうではない政党の議員も受け取っているなら実は不正ではないのではと考え直すのもまた自然というものです。というわけで、今回はそもそも問題となっている助成金はどういうもので、どういう背景によって不適切だと言えたり言えなかったりするのかを整理しようと思います。

 なお、助成金の受給条件は色々細かいものがあるかと思いますが、それぞれの事業者がその条件を満たしているかどうかなんて調べようがないので、ここではあくまで助成金の意義や目的から議論を進めていきます。

助成金の目的

 ここで問題となっている助成金は3つあります。1つ目は石原氏が不当に受給していた雇用調整助成金です。雇用調整助成金は厚生労働省のサイトで以下のように説明されています。
 雇用調整助成金とは、「新型コロナウイルス感染症の影響」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合に、従業員の雇用維持を図るために、「労使間の協定」に基づき、「雇用調整(休業)」を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成するものです。
 雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)-厚生労働省
 つまり、新型コロナによって事業規模の縮小を余儀なくされた場合に受け取れる助成金だということですね。

 2つ目は山本議員の受給していた小学校休業等対応助成金です。これは以下のように説明されています。
 令和3年8月1日から同年12月31日までの間に、以下の子どもの世話を保護者として行うことが必要となった労働者に対し、有給(賃金全額支給)の休暇(労働基準法上の年次有給休暇を除く)を取得させた事業主を支援します。
 1.新型コロナウイルス感染症に関する対応として、ガイドラインなどに基づき、臨時休業などをした小学校など(保育所等を含みます)に通う子ども
 2.新型コロナウイルスに感染した子どもなど、小学校などを休む必要がある子ども
 新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金について-厚生労働省
 つまり、子供がコロナ関連で学校を休んだら事業主が受給できるというものです。このお金で従業員の休業を賄ってくれということでしょう。

 3つ目は立憲の2名が受け取っていた両立支援等助成金です。これに関しては少しややこしいのですが、以下のような説明がなされています。
 新型コロナウイルス感染症への対応として、臨時休業等をした小学校等に通う子どもの世話を行う労働者に対し、有給(賃金全額支給)の休暇(労働基準法上の年次有給休暇を除く)を取得させた事業主
 両立支援等助成金(育児休業等支援コース(新型コロナウイルス感染症対応特例))をご活用ください-厚生労働省
 2つ目の小学校休業等対応助成金との違いは、両立支援等助成金はもともと育児休暇などでコロナに関わらず育児をする労働者を支援するための制度だったところ、コロナに対応するかたちで特例を設けているという点でしょう。意義としては小学校休業等対応助成金と大差ないと考えて差し支えないと思います。こういうわけですから、2つ目の助成金と3つ目の助成金は同時に受け取れないことになっています。

石原氏は確実に黒

 さて、制度の目的や意義を確認しましたが、この点からは石原氏以下2名の受給が明らかに問題ある行為であったことがわかります。雇用調整助成金は新型コロナによって事業規模の縮小を余儀なくされた場合に受け取れるものですが、言うまでもなく、政党支部が「コロナによって」事業規模を縮小するとは到底思えません。報道では寄付金が集まらなかったためなどと説明されていますが、それが自分たちの政策の結果求心力が離れたためではなく、コロナのせいであるとどうして言えるのでしょうか。あまりも他責的です。

山本議員および立憲議員は不適切ではないのでは

 一方、山本議員および立憲の2議員の受給は不適切だと言えないと思われます。この3名が受け取っていた助成金はいずれも、労働者が養育する子供の休校や休学に伴って受給できるかどうかが決まるもので、労働者の雇用されている事業所の規模や事業形態にかかわらないもののはずだからです。

 この手の助成金は経営が厳しい会社が受け取るべきものであり、余力のある政治団体が受け取るべきではないという指摘もあるでしょう。道義的にはそうした主張にも一理あります。しかし、大企業が助成金を受け取るべきではないというのであれば、それは道義ではなく制度から解決すべき問題です。また、助成金に事業規模から制約をつけることは、大企業に勤めている(大企業勤めだからといって給料が高いとは限らない)労働者が助成金の恩恵を受けることを妨げる可能性もあります。こうした問題はきちんと大企業から税金を多く徴収していれば解決するものです。

 ついでに言えば、野党議員の政治団体や自民とはいえ1年生議員の政治団体が助成金を不要とするほど安定しているかと言えば微妙なところでしょう。まぁ、山本議員は先輩議員の身勝手な不正のとばっちりを受けたというところですが、自民党で議員をやるというのはそういうことなのである程度は覚悟してほしいところではあります。

適切な受給までも問題にする悪影響

 こうした適切な助成金の受給までも一括りにして問題であるかのように論じることには、様々な悪影響があります。第一に、適切な受給を不当なものかのように扱うことで、助成金の普及を妨げるという問題があります。

 生活保護の例が著名であるように、日本では正当な権利であるはずの保障を受け取ることが敵視され、その結果せっかくある制度が有効活用されていないという問題がたびたび起こります。そうした問題のレパートリーの中にコロナ関連の助成金も加えるわけにはいかないでしょう。

 特に立憲民主党は、野党第一党として制度の充実を訴えるとともにこうした制度の活用を市民に呼び掛ける役割を担っており、それが期待されてもいるはずです。自民党の不正の煽りを受けた感情的反発に怖気づいて、正当な利用までも不正であるかのような扱いをしてはいけません。むしろ、きちんと制度の趣旨を説明し、こうした使い方が正当なものであることを広く知らせるべきです。

 もう1つの問題は、元々自民党の不正だった問題が、野党に「飛び火」することで「どっちもどっち」であるかのような印象になってしまうというものです。もちろん、この「飛び火」は誤った制度理解によるものなので、どっちもどっちなわけではなく、一方的に自民党が悪いというだけの話です。しかし、制度の意義を細かく調べる人は稀で、多くは「コロナ関連の補助金」くらいにざっくりした理解で考えていると思います。私もそうでした。

 こうした問題を解決するためにも、野党は正当な助成金であれば堂々と受け取るべきですし、それが正当であることをきちんと説明したうえで、自民党の不正は不正として追及すべきです。「ぱっと見不正っぽいけど別にそうではない」ものを不正であるかのように対応したほうが世間受けがいいような気がするかもしれませんが、仮にそうだとしても、そんな表層的な理解に頼る有権者をあてにすべきではありません。むしろ、こちらから制度の正しい理解を周知して有権者を「育てる」気概で行くべきときもあるでしょう。