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竹田葎
竹田葎

秘密の花園

秘密の花園 - 竹田葎の小説 - pixiv
秘密の花園 - 竹田葎の小説 - pixiv
13,898文字
宇善小咄
秘密の花園
現パロ、高校三年生宇髄さん×高校一年生善逸くんです。
高校生ですがキメツ学園ではありません。
Twitterで呟いたお話をまとめて、少し加筆したりしました。
いつもの竹田の小説より三倍は甘いと言われたくらい甘い甘い二人です。
ひたすら甘くいちゃついてるので特に宇髄さんとかもはや偽物レベルなんですけど、それでもよろしければどうぞ……!
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2020年12月7日 11:54

「ん……ふ……」

鼻から抜けるような、甘い吐息が漏れる。 そのなんとも言えないいやらしい響きをもった音が、自分が奏でたものだなんて信じられない。 耳に触れてくる指がくすぐったくて、軽く耳たぶを引っ張られるとじんと痺れて、善逸はまた小さく声をあげた。 そして開いた口に、ここぞとばかりに熱い舌がぬるりと入り込んできて息が止まる。 善逸の口の中で二人分の舌がこれでもから絡み合い、擦り合い、うごめくたびに水音を立てて。

(気持ち良すぎて……)

気が遠くなりそう。 うっすらと目を開ければ、潤んだ視界の向こうに柘榴の瞳が見える。 善逸の唇をこれでもかと食んでいる相手の名は宇髄天元、善逸の二つ上の先輩だ。 なぜ自分たちは男同士で人目を避けつつ、こんなことをしているのだろう。 善逸はことの経緯をぼんやりとした頭で思い出そうとした。

我妻善逸は某高校の一年生である。 学期の途中で転校してきたせいか、まだクラスに馴染めていない。 転校理由はよくある親の転勤などではなく、あまり公言したくはないが、虐めにあったからだ。 以前の学校では地毛の金髪をからかわれ、それに歯止めをかけるはずの教師の理解が得られず、行為がエスカレートする一方だった。 善逸がぽつりと呟いた言葉を聞き届けた祖父は、あっさりと転校を許してくれた。 潰れてしまう前に生きる道を探して逃げることは悪いことじゃない、それを決断するのもまた勇気だと言ってくれたのだ。 そして学校は変わったが、髪は黒く染めた。一応、学校に地毛の届けは出してあるので地毛で登校してよいと許可は得ていたが、前の学校の二の舞は避けたかった。

新しい高校は部活動が必須とされている。 廊下に張り出された様々な部員募集のチラシのうち、善逸が目に留めたのは鳥類愛好会であった。 掲示板の下の方、他のチラシのようにカラフルでなく、イラストもなく、むしろ隠すように貼られていたそのチラシに興味を惹かれた。 部でなく、同好会ですらない。名称から察するにバードウォッチングでもするのだろうか。 クラスメイトにどういうところか聞いてみたけれど、「そんなのあるの?」という返事だったので超マイナーな部であるところは間違いない。

(人が少なそうだな)

鳥も嫌いではないし、積極的に何か活動をしているわけでもなさそうだというひどく消極的な理由で、善逸はそこを選んだ。 なにしろ転校の理由が理由だったので、正直言って多数の誰かと関わることに不安があった。 だがこの何気ない選択がその後の高校生活を大きく変えることになるのだから、人生何が起きるか分からないものだ。

鳥類愛好会の部室は新校舎四階とチラシに書いてあった。 三階建ての四階ということはつまり、立ち入り禁止の屋上へ向かう階段を昇りきったところにある。 屋上へ出るための扉横にあるそこは、恐らく部屋として使うというよりは物置用スペースだったのだろう。 本当にそんなところに人がいるのかと半信半疑のまま、善逸は入部希望の書類を持って恐る恐る訪れた。 そこで出会ったのが宇髄天元という男である。

宇髄天元は狭いスペースに机と椅子を二つずつ持ち込み、そこで椅子を二つとも使ってくつろいでいた。 まず一目で派手な銀髪に目を奪われる。長い前髪で顔を隠しているけれど、頭にはなぜか派手な額当て?をしていた。 服装も校則違反のパーカーに、長髪からちらちらと覗く耳にはいくつものごついピアス、指にも当然指輪だ。身長165cm程度の善逸より遙かに大きいことは座っていても分かる。 ヤバイ、不良だ、間違いなく不良だ、輩というやつだ。 善逸は自分が部活選びを間違えたと一瞬で悟り、失礼しましたとくるりと反転する。 が、その前にひょいと入部希望の用紙を取り上げられてしまった。

「あがつま……ぜんいつ、でいいの?」 「ひゃ、ひゃい」 「鳥、何が好き?」 「え、あ、あの、スズメ……。あの、俺なんか雀に好かれやすくて! うちの庭によく雀がきて、そんでチュン太郎って名前つけて……! あ、いや、その」

口に出してから、適当な返事を言ったと思われたくなくて言い訳をしたけど、わざとらしいかなと思って尻すぼみになる。鳥が好きでも、もっと他に色々とあるだろう、鷲とか、鷹とか、ペンギンとか。なんだよスズメって恥ずかしい。

「ちゅんたろう」 「…はい……」

ふふ、と先輩は小さく笑ったようだった。

「俺、宇髄天元。よろしくな」

そう言うと先輩は脚を乗せていた椅子を一つ、善逸に譲ってくれた。それが二人の出会いだ。

宇髄の綺麗な銀髪は地毛らしい。体も大きいから最初こそ怖かったけれど、慣れれば優しい人だとすぐ分かった。 勉強もできるらしいし、いじめられっ子の俺とは本当は違う世界の人なんじゃないかと善逸は思ったけれど、彼は彼なりに大変な思いをしてきたようだ。

「つきまとわれんの」 「はぁ……」 「家の前で知らない奴がずーっと待ってたり」 「怖いですね」 「今は体がでかくなったからそうでもないけど、ガキん頃だとおっさんに追いかけられたりな」 「ひぇっ……」

だからもう極力目立ちたくないのだと宇髄は言う。 目立ちたくないという気持ちは分かる。決していいことばかりじゃないと、善逸は身をもって知っているのでただ頷いて聞いていた。 二人の部活動は大抵そんな感じで、放課後にただおしゃべりをしたり、黙って本を読んだり、宿題をしたりといった感じだ。 不思議と沈黙が嫌ではなくて、善逸が放課後を毎日その小さなスペースで過ごすようになるのに時間はかからなかった。 部活動は一応月水金だけれど、宇髄も毎日そこにいて善逸を迎えてくれた。 小部屋に鳥類に関係するものとしては、宇髄が自腹で購入したという数冊の図鑑というか写真集がある。 ぺらり、ぺらり、鳥の本をめくる。 いかにもそれらしい、色鮮やかな羽をした綺麗な南国の鳥の写真だ。

「……見に行く?」 「はい?」 「その鳥」

開いていたページを、とん、と宇髄さんの長い指が示す。マニキュアが塗ってある。

「どういう活動をしてるか、学校に報告しなきゃいけないんだよ。こうやって一応学校内の施設使ってるわけだし。あと幽霊部員の対策?」

施設っていうか物置ですけどねという言葉は言わないでおいた。 愛好会だから微々たるものだけど、活動費も一応出ているらしい。

「うちならバードウォッチングだろ」 「でもこんな鳥、日本にいます? あ、動物園とか?」 「ううん。……植物園」

そんなこんなで初めて外で会う約束をした二人は植物園の前で待ち合わせをした。 善逸が約束の時間より少し早くつくバスに乗って行くと、植物園最寄りのバス亭で宇髄がもう待っていた。

「おはようございます」 「はよ。……いいな、その服」 「え、そ、そうですか? ありがと、ございます?」

悩みに悩んで決めた服は、正直、今の髪色には似合ってないと思っている。 それでもお気に入りの服だったから、褒められれば素直に嬉しかった。

「似合ってる、可愛いな」 「……ソレハチョトチガウトオモウ」

男子高校生にカワイイはないだろうと主張してみる。 それでも宇髄は気にすることなく、善逸の手を握って歩き出した。 一瞬善逸が疑問を抱かないほど自然なリードだった。いかにも当然といった態度に振りほどけなかったけれど、普通はこんなことをするだろうか。 この年頃の男同士って手を繋ぐものなの? え、大丈夫なの、誰かに叱られない?? まあ何故か善逸も男に手を握られているのにまったく嫌ではなかったので、戸惑いつつもそのまま手を引かれて歩いていく。 五分も歩かないうちに、植物園に到着。 善逸がわたわたと財布を出そうとするのに、そこでも宇髄がさらっと二人分を払ってしまう。

「あの、俺の分! 払います!」 「いいの。活動費出てるって言ったでしょ」

宇髄はさらっと流し、また善逸の手を握って歩き出す。 ひえ、この人、絶対イケメンでしょ顔隠してるけど行動のイケメンっぷりが隠せてないよ! たぶん、無理にお金を渡そうとしても宇髄は受け取ってくれないだろう。片手はしっかりと握られたままだし。

「う、うず、宇髄さん!」 「なに?」 「宇髄さんも、あの、今日の服格好いいです!」

すごく似合ってます、という善逸の顔は真っ赤だ。 別にお金を出してもらったからお世辞を言うわけでなく、本当にお洒落だし似合っていると思うのだけど、分かってもらえただろうか。 宇髄さんはきょとんとしたあと、フハ、と笑い、あんがとと言った。

「善逸に褒めてもらえるなんて、頑張って服選んだ甲斐があった」

宇髄はとてもご機嫌な様子で、普段は物静かな彼から零れる音が嬉しそうに跳ねている。ポンポンとまるで毬が跳ねているよう。 植物園は大きな庭園になっているからそこを巡るのかと思っていたが、宇髄が連れていってくれたのは温室だった。 地方都市の公立施設としてはかなり立派な温室だと聞いたことはあったが、実際に善逸が訪れるのは初めてである。 温室の中では熱帯地方の生態が再現されており、熱帯植物の他にも善逸が本で見ていた鳥などがその温室内で放し飼いにされているらしい。 時間が早いせいと温室自体が広いのもあって、他に人の姿は見えない。

「こっち」

宇髄に手を引かれて、どんどん進む。生い茂った葉のアーチをくぐり抜けていくのは、まるで秘密基地にもぐっているようでドキドキした。 いつの間にか手が指を絡ませる恋人繋ぎになっているし。

「あの、う、うずしゃん……!」

うわ、噛んだ。 宇髄がちらっと振り返って、シーと唇に指を当てる。

「静かに……。鳥が逃げちゃう」

そう言われると善逸も黙るしかない。この手のつなぎ方ってどういことですかなんて聞きづらくもあるし。 やがて歩くスピードがゆっくりになって、足音をしのばせるようにゆっくり進んむようになる。 大きな葉がわしゃわしゃと生い茂ったいかにも熱帯らしい樹木の横で、宇髄が立ち止まった。

「……あそこ、見える?」 「え、どこ?」

宇髄の指す先を見るけれどよく分からない。 色鮮やかな鳥のはずだが、この熱帯ジャングルの中ではその鮮やかさですらカモフラージュになるのだ。

「見えづらいかな、ちょっと待って」

宇髄さんはようやく手を離したかと思うと、善逸を子供のように縦抱きに抱っこする。 急に50cm近くも視点が高くなった善逸は思わず悲鳴をあげた。

「うひえっ!?」 「善逸、しー」

慌てて自分の口を手で塞ぐ。 善逸が静かになったのを見て、宇髄も声を潜めてまた鳥のいる方向を指さす。

「……ほら、あそこ」

宇髄さんの視点と近くなったおかげで、指の示す行く先も分かりやすい。 ああ、いた、鮮やかな赤い羽をもった小鳥が枝から枝へと飛び移っている。 どうやら善逸の悲鳴は小鳥を脅かさずにすんだようで、首を傾げたり、軽く羽ばたいたりしつつ蜜を吸う長閑な様子は愛らしい。

「……綺麗な色……かわいい」 「見えた?」 「うん、ありがとうございます」

ふと視線を宇髄さんに戻せば、いつもよりずっと近くに宇髄さんの顔がある。子供のように抱きかかえられているから当然だ。 こんなに近くで他人の顔を見るなんて、滅多にないことだろう。 宇髄の肌理の整った白い肌、通った鼻筋、薄い唇、そしていつもは髪で隠されてる目が今は少しだけ覗いて見えた。

「……あ、宇髄さん、目が赤い……?」

まるであの鳥みたいに鮮やかな色。 思わず前髪をかきわけて、すっきりと顔を露わにすればやっぱり想像通りの、いや想像を超える整った顔立ちが露わになった。

「うわ、やっぱり宇髄さんイケメンだった……!」 「ハハ、どう、俺は善逸好み?」

謙遜しないのがまた憎たらしい。 まるで少女漫画みたいにキラキラオーラが出てるのが見える。

「こ、好みかどうかは知りませんけどっ! ……綺麗な目は……好き、デスヨ」 「ん、俺も善逸の目、好き。蜂蜜みてえな色してんのな」

善逸を抱っこしたまま、宇髄はそっと茂みの中に入る。 そこはきっと入ってはいけない場所だろうに、熱帯特有の大きな葉が二人を覆い隠してくれて、まるで秘密の花園だ。 なんだか暑い気がするのは温室だからか、それとも二人が抱き合うほどに密着しているからか。 それでも善逸は降ろしてとは言い出せなかった。

「善は舐めたら甘そう……。ね、もうちょい顔をよせてくれる?」

甘いのは宇髄さんだ。 声も手も、善逸に見せてくれる表情もみんな甘くて、甘い物好きな善逸にはたまらない。 宇髄に言われるままに顔を寄せつつ、善逸は体から力が抜けていくのが分かった。 ふわりと柔らかなものが唇に触れる。 ファーストキスだ、そう思った次の瞬間には二度目、そして三度目と何度も触れあう唇。 そのうち数えるのもバカらしくなるくらい唇を吸われ、重なって、善逸の体がどんどんふわふわしてきて、そして冒頭にいたるわけだ。

「う、うじゅしゃん……」 「ん、善、いいこ……」

宇髄さんが褒めてくれて、また唇を吸われて音を立てる。 褒めてくれるならいいかな、そんなことを考えつつ善逸は宇髄に体を預けた。



◇△◇△◇△

  【宇髄視点】

善逸がそっと顔を寄せてくるのにあわせて、自分も迎えるように顎を上げる。 あっさりと唇があわさって、軽く吸い付くと善逸の体が腕の中でぴくりと跳ねた。 それでも嫌がって逃げるようなことはなくて、宇髄は調子に乗って何度も吸い付く。 ちゅ、ちゅ、とリップ音が繰り返し生まれて二人で同時に甘い吐息を漏らす。ただそれだけに胸がときめいた。 抱き上げてるからいつもと違って少し上にある善逸の瞳。 蜂蜜色の目がさらに甘そうに蕩けて、好きな子を食べちゃいたいという欲求が本能に基づくものだと実感する。

善逸と初めて会った時、どこか怯えたような瞳が印象的だった。 髪は真っ黒なのに目の色は琥珀色で、それが不思議だったのかもしれない。 彼も人間嫌いなのか、狭い部室で二人きりになってもさほど会話は弾まなかった。 それでも沈黙は嫌じゃなく、善逸が与えられた図鑑を眺めるのを横目で見ていた。 まだ幼さの残る細い顎、丸い額と頬のラインが好ましく思えた。 なんとなしに飴を与えてみたら、善逸は目を大きく見開いた後、ぽわわっと音を立てるように笑った。 たぶん、恋に落ちたのはその時だ。

ふと、誰かが近づいてくる音が聞こえて、善逸の体が緊張した。客は少ないけど、いないわけじゃない。

「う、うずいさん、人が来る……」

降ろしてと訴える善逸の言葉に笑むだけにして、宇髄は善を抱えたままさらに茂みに分け入った。 ここは昔から何度も通ったから知っている。植物を植え直したり通路を直す改築が何度かあって、植物に囲まれて座るためのベンチが取り残されているのだ。

「ここなら見つからない」

そこは宇髄のとっておきの隠れ場所。他の誰も知らない場所だ。 ベンチに座っても善逸の背中と腰に回した手はそのまま。

「善、もっとしよう?」

善逸に呼びかける自分の声の甘さに、我ながら恥ずかしくなる。自分がこんなにも甘ったるい声を出すなんて思いもしなかった。 それでも善逸は、きゅっと唇を閉じてちゃんと頷いてくれる。 ああ、なんて可愛い。 宇髄は舌舐めずりを隠そうともせず、今度は舌が絡み合う深く激しい口づけを仕掛けた──。

 



秘密の花園
現パロ、高校三年生宇髄さん×高校一年生善逸くんです。
高校生ですがキメツ学園ではありません。
Twitterで呟いたお話をまとめて、少し加筆したりしました。
いつもの竹田の小説より三倍は甘いと言われたくらい甘い甘い二人です。
ひたすら甘くいちゃついてるので特に宇髄さんとかもはや偽物レベルなんですけど、それでもよろしければどうぞ……!
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2020年12月7日 11:54
竹田葎

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