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あざとくって何が悪いの - cerの小説 - pixiv
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2,720文字
あざとくって何が悪いの
あざとい善逸くんと宇髄さんの話
キメ学
1101262433
2020年8月13日 18:33

 高校生になって、善逸は女の子達にウケが悪くなった。もう諦めてはいるけれど、やっぱりすれ違いざまに「うざ」と言われるのはこころが痛い。高校に上がるまでは結構うまくやっていたので尚更だ。

 善逸には類稀な聴力と、物心ついた頃には頭の中に人生一回分の記憶があったのだが、それを前世と理解するにはまだ小さすぎた善逸は記憶の中の名前と自分の名前が同じでも別人の物として認識していた。言うなれば頭の中に自分が主人公のおとぎ話があるような感覚だった。小学校の中学年くらいでこの不思議なおとぎ話の内容について理解が深まり、そしてこういう読み物――前世の記憶とやらを他の人間が持っていない事を察した善逸は、これを教科書にして今の人生をうまく歩もうと考えた。何せ前世の善逸の若い頃というのは、全然、まったくもう、びっくりするくらいモテなかったのだ。ああはなりたくない。当事者の感覚ではわからなかったのかもしれないが、読み物として善逸を側から見るとそりゃモテないだろと納得しきりだ。歳をとるに連れて落ち着いていったのは本当に良かったけれど、結婚してからモテ期が来たってどうしようもないでしょと善逸は思う。  そんなわけで、善逸は女の子を前にすると本能的にはやるこころをぐっと抑えて、穏やかに、紳士的に女の子に接する事をこころがけた。善逸にとってすべての女の子に優しくする事は全く苦ではないし、教科書と良すぎる耳を活かして女の子たちを的確に喜ばせてあげられた。なので女の子とデートだってできた。お付き合いもさせて頂いた。中学生なりに清らかだったりそうじゃなかったりしつつ、これはいけるぞとちょっと調子に乗った善逸は当然手痛い経験にもぶち当たった。教科書持ちの善逸をもってしても、それを手玉にとる剛の者がいたのだ。剛の者という称号からは想像もつかない、千年に一度のみんなのアナウンサーみたいな、めちゃくちゃ可愛い子だった。  二つ上の高校生だった彼女に当たり前のように一目惚れした善逸は、はりきってうまく立ち回るつもりがおもしろいようにブンブンと振り回された。手痛い経験とは言ったけれども、善逸は今思い返しても決して嫌ではなかったと思える。それくらい、本当に凄かったのだ。  その年上の彼女からはいろんな事を学んだ。おねだりに最適な角度、萌え袖の極意、いやらしくない的確な露出、男のシャツの裾を引っ張る絶妙のタイミング。スプーンやストロー、帽子など周りの小物の上手な使い方、頬のかわいい膨らませ方、男が喜ぶ手料理、さりげないボディタッチ……全部善逸がまんまと転がされた技だ。  善逸は自分がかっこいいよりかわいい系であると断腸の思いで飲み込んでからは、それを意識して行動してきた。かわいいと油断させておいてここぞというところでちょっとかっこよさを出してギャップで落とすのである。善逸の持つ例の教科書と耳、それらを駆使したリサーチと、そして生まれつきの運動神経の良さによってギャップで落とす作戦は元々成功率が高かったのだが、そこに更に剛の者から学んだ技が加わった事で、善逸の女子人気は中学校を卒業する頃には校内でトップクラスになっていた。

 そのまま行けば高校でだって失敗する目はなかったはずなのに、一体どうしてここまで女子に疎まれるようになってしまったのか。  それは目下善逸が好きになった相手を落とそうと猛アピールをしていて、その相手というのが学園の女子人気を欲しいままにしている美術教師の宇髄天元だからである。  入学式で登壇した宇髄の顔を見て、まず最初に善逸は「あっこの人知ってる!」と思った。ふんわりした反応になってしまったのは、成長するにつれて例の前世の記憶もふわふわとおぼろ気になっていたからだ。人間の記憶なんてあいまいだし、善逸が繰り返し思い出していたのが善逸がようやくモテ出して以降の記憶ばかりだったせいもあるかもしれない。  実際に見た宇髄天元の顔の良さに善逸は一度は腹を立てた。善逸は顔の良い男が大嫌いだった。善逸が努力して、労力をかけて――それが苦でなかったとしても――ようやく誘き寄せる女の子を、そいつらは笑顔だけで、表情筋ひとつで侍らせられるからだ。善逸の中学校にも顔が良い奴は居たけれど、ここまで顔もスタイルも完璧に整った人間に遭遇したのは初めてだった。芸能人でもこんなのはなかなか居ない。小さく舌打ちをしたら目が合った気がして、善逸は入学式からしばらく何か怒られるんじゃないかとビクビクして過ごしたものだ。  それだけで終わったなら良かったのだが、風紀委員になったせいで何かと宇髄と善逸の接点は増えてしまった。おかげで宇髄とそこそこ話すようになって、慣れてくると腹が立つのもだんだん収まってきて、そうすると宇髄はただの“気安く寄ってくる物凄く顔の良い人間”になった。それが調子良く雑用を押し付けてくるくせに、たまに優しくもしてくる。そんなの気分が悪いわけがない。顔が良いって凄い。善逸はこれまでの経験から自分が惚れっぽいのも、面食いなのも自覚していたけれど、男でも好きになる時はなるんだなあと他人事みたいに感心した。  とにかく、好きになったので、善逸が次にやる事は宇髄を振り向かせる事だった。宇髄に対してこれまでの女の子たちと同じギャップ作戦はおそらく通じないから、かわいい系の自分はかわいいに振り切ってアピールするのがいいだろう。そう考えた善逸は現在、かわいいを最大限、しかしなりふり構わずではなく、効果的に散りばめて宇髄と接している。あざといと言うしかない善逸のその行動は女の子たちにはもちろんバレバレで、それで善逸は疎まれているというわけだった。  でも、まあ、効果は抜群だ。

 宇髄は背が高いので上目遣いでおねだりする角度は浅めでいいし、萌え袖にプラスして『先生の白衣おっきい』もやったし、シャツから覗く肌は意識してほんの少しだけにとどめて、その代わり体育祭やスポーツ大会で足は惜しげなく見せた。白衣の裾は油断している時にちょっと引っかけるくらいにされるのが好みのようだし、額当てを借りて着けてみせたら大喜びでスマホのカメラを善逸に向けてきたし、善逸がぷっくり膨らませた頬を潰す顔はデレデレだし、茶色いおかずばかり詰めたでかいお弁当は大変ご好評を得ていて、さりげないボディタッチ……をするつもりで善逸は今、お痛をしようとした右手を捕まえられたところだ。放課後の美術準備室で。  薄暗くて宇髄の表情はよく見えないけれど、こういう時はちょっとだけ手を引いたら、その反動みたいに抱き寄せられるのを善逸はきちんと知っている。

あざとくって何が悪いの
あざとい善逸くんと宇髄さんの話
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2020年8月13日 18:33
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