帯に「恋愛小説集」とあるが……これ、ある意味詐欺だよなあ。
この本のどこを探しても万人が声を揃えて「これは恋愛を描いた物語である」と認める様な一般的な意味でのラブストーリーは見付からん。そこだけは予め申し上げておく。あと、作品内には「男×男」のシチュも出てくるので苦手という方は回れ右して他の作品を漁るが宜しい。それでもオッケイという方のみ前へ進まれるべし。
……で、今回ご紹介させて頂く斜線堂有紀の新作単行本、元はと言えば「JUMP j BOOKS」の公式noteで公開されていた短編作品群に書下ろし作品を加えた5編で単行本に仕立てたものらしい。
基本的には女性主人公が「愛」を求めて奇行に走ってしまう姿を描いた作品集……うーん、冒頭にも書いた様にこれ、恋愛小説というカテゴリーに入れるのは無理がある……どうカテゴライズしたものか?個人的には読んでいる間コメディを読む感覚でいたのだが。ラブコメディというのともちょっと違う気がする。「ラブ」が軸になってはいるんだが「恋愛」自体は成立しとらんし。
取り敢えず言える事だけを搔い摘んで申し上げればシチュとキャラだけは抜群に個性的。帯にある「ファンをストーカーする地下アイドル」「舞踏会中毒の女」「男に合わせて山で死にかける女」「男×男×女」という各短編の主役の設定だけでも「これは何か凄そうだ」と思わされるし、実際に作中で描かれる彼女たちのキャラクターは(主に奇行の部分において)類を見ない。
売れないアイドルである自分に関心を示したSNSのアカウントを執念深く追い回して自宅を突き止めるどころか忍び込んでしまったり、勤め先に転職してきた後輩社員にお近づきになろうとしてインドア系の筈が登山道具を揃えたりと常人には俄に理解しがたい方向へと突っ走っていく彼女たちはまさに奇行種。恋愛は人を狂わせると昔から言われては来たが、愛を求めると人はこうもトチ狂った行動へと突っ走ってしまうのかとゲタゲタ笑い転げながら読ませて頂いた次第。
そして哀しいかな、彼女たちがいくら狂気じみたエネルギーを発して足掻こうと「恋愛」には辿り着けない所が本作のミソ。何しろ彼女たちが想いを向ける相手は誰一人「恋愛感情」を向けてくれている訳では無いので最初から噛み合わず・すれ違ってしまう事が読者には途中で理解できてしまうのである。
なので途中から主人公の取る行動は「愛してよ、私を愛してよ」と叫びながら繰り広げる独り相撲として描かれる。勘違いさせる男どもが悪いと言われてしまえばその通りではあるのだが、売れない地下アイドルや駆け出しの服飾デザイナーといったパッとしない境遇から自分を引き上げてくれる、お姫様気分を味わせてくれる相手に入れあげて暴走していく女性の姿はあまりに強烈過ぎる。
上手いなあと思わされたのは彼女たちの狂気が加速するトリガーとして「女の影」が用いられる事か。SNSに彼女かも知れない女について触れた書き込みがあった、長年付き合ってきたのに「結婚するんだ」と言われた途端「誰よその馬の骨!」と恋愛関係も成立していないのに敵愾心を噴き上がらせる姿に唖然と……女性にとっての恋愛が「私だけ特別扱いして」というモノだとは理解していたつもりだが、いっこ間違えるとここまで暴走させてしまうのかと震え上がった次第。
これだけ尽くしたのだから「愛」という形で応じてよ、報いてよと言葉に頼らず想い人に訴えかけようとする滑稽さこそがこの短編集の本質なんじゃなかろうかと……
各話冒頭からヒロインの個性あふれるキャラクター性と序盤から中盤にかけて拗らせ方がひどくなっていく愛の独り相撲劇場に「これどこまで行っちゃうの?」と大いに唸らされるのだが……残念な事にどの話もオチが弱い。
噛み合わない想いを前に一人でドタバタ騒ぎを繰り広げ、目を覆わしめるほどの「見てらんない姿」を晒し続けてくれた彼女たちの物語を最後まで見届けねばと読者としてはオチに胸を膨らませるのだけど、どの話もオチらしいオチが無いのである。実るにしても破局するにしてもクライマックスの名に相応しい着地があって然るべきだと思うのだがなんかサラッと流して「おしまい」になっちゃうのである……これは何とも肩透かし感・不完全燃焼がキツい。
何度も繰り返してしまって申し訳ないが、キャラ立ても話が展開されるシチュエーションも素晴らしい。なんなら群を抜いていると評しても宜しい。なのにオチだけがサラッと流して終わりというのでは読者として胸の中で昂らせ、滾らせたものをどこへ片付けたら良いのだと不平のひとつも申し上げたくなる。ピタッとキマるオチが無しでは困るではないか。
人物造形、序盤で読者の目をガッと引き寄せる「つかみ」の強さ、暴走していく主人公の姿でページを捲る手を止めさせないストーリーの盛り上げ方……全部「これはすごいぞ」と踊りたくなるのにオチの弱さで「これは勿体ないぞ」と歯軋りしてしまう、そんな一冊。
愛じゃないならこれは何 単行本 – 2021/12/3
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斜線堂有紀のはじめての恋愛小説集。
『きみの長靴でいいです』
天才ファッションデザイナー・灰羽妃楽姫は、二八歳の誕生日プレゼントに、ガラスの靴を受け取った。
送り主は、十年来の妃楽姫のビジネスパートナー、そして妃楽姫がいつか結婚すると信じている男、妻川。
人生の頂点に到達しようとしている妃楽姫だったが、しかし次の瞬間彼女が聞いたのは、妃楽姫以外の女との、妻川の結婚報告だった。
『愛について語るときに我々の騙ること』
「俺さ、ずっと前から新太のことが好きだったんだ。だから、付き合ってくれない?」
そういう男――園生が告白しているのは、私――鹿衣鳴花に対してだった。私たちの関係は、どこに向かおうとしているのか。
男と男と女のあいだに、友情と恋愛以外の感情が芽生えることはあるのだろうか。
『健康で文化的な最低限度の恋愛』
美空木絆菜は死にかけていた。会社の新入社員、アクティブな好青年、津籠の気を引きたかった絆菜は、彼の趣味――映画にもサッカーにも、
生活を犠牲にして一生懸命頑張って話を合わせた。そして今、絆菜は孤独に山の中で死ぬかもしれない。どうしてこんなことに。
『ミニカーだって一生推してろ』
二十八歳の地下アイドル、赤羽瑠璃は、その日、男の部屋のベランダから飛び降りた。男といっても瑠璃と別に付き合っているわけではない、
瑠璃のファンの一人で、彼女が熱心にストーカーしているのだ。侵入した男の部屋からどうして瑠璃が飛び降りたのか、話は四年前にさかのぼる――。
『ささやかだけど、役に立つけど』
初めて高校の放送部の部室で鳴花と出会った時に、自分はいつか彼女と付き合うんじゃないかと、園生は思った。
しかしそれから十年経って、彼女と自分の関係に、新太が加わった。二人よりも三人のほうが、ずっと安定している。
自分たちは、このまま死ぬまで三人なのだろう――でも、それでいいのだろうか。
『きみの長靴でいいです』
天才ファッションデザイナー・灰羽妃楽姫は、二八歳の誕生日プレゼントに、ガラスの靴を受け取った。
送り主は、十年来の妃楽姫のビジネスパートナー、そして妃楽姫がいつか結婚すると信じている男、妻川。
人生の頂点に到達しようとしている妃楽姫だったが、しかし次の瞬間彼女が聞いたのは、妃楽姫以外の女との、妻川の結婚報告だった。
『愛について語るときに我々の騙ること』
「俺さ、ずっと前から新太のことが好きだったんだ。だから、付き合ってくれない?」
そういう男――園生が告白しているのは、私――鹿衣鳴花に対してだった。私たちの関係は、どこに向かおうとしているのか。
男と男と女のあいだに、友情と恋愛以外の感情が芽生えることはあるのだろうか。
『健康で文化的な最低限度の恋愛』
美空木絆菜は死にかけていた。会社の新入社員、アクティブな好青年、津籠の気を引きたかった絆菜は、彼の趣味――映画にもサッカーにも、
生活を犠牲にして一生懸命頑張って話を合わせた。そして今、絆菜は孤独に山の中で死ぬかもしれない。どうしてこんなことに。
『ミニカーだって一生推してろ』
二十八歳の地下アイドル、赤羽瑠璃は、その日、男の部屋のベランダから飛び降りた。男といっても瑠璃と別に付き合っているわけではない、
瑠璃のファンの一人で、彼女が熱心にストーカーしているのだ。侵入した男の部屋からどうして瑠璃が飛び降りたのか、話は四年前にさかのぼる――。
『ささやかだけど、役に立つけど』
初めて高校の放送部の部室で鳴花と出会った時に、自分はいつか彼女と付き合うんじゃないかと、園生は思った。
しかしそれから十年経って、彼女と自分の関係に、新太が加わった。二人よりも三人のほうが、ずっと安定している。
自分たちは、このまま死ぬまで三人なのだろう――でも、それでいいのだろうか。
- 本の長さ256ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日2021/12/3
- 寸法13.4 x 2.2 x 19.4 cm
- ISBN-104087900681
- ISBN-13978-4087900682
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登録情報
- 出版社 : 集英社 (2021/12/3)
- 発売日 : 2021/12/3
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 256ページ
- ISBN-10 : 4087900681
- ISBN-13 : 978-4087900682
- 寸法 : 13.4 x 2.2 x 19.4 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 7,587位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 162位日本文学
- カスタマーレビュー:
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