さて、目的のレジェンダリアンを【監獄】送りにしたが【人化薬】のアドバイザーはどうしようか。
レジェンダリアンの人外娘スキーどもは基本的に人間社会で生息していない。
それは人型のモンスターの生息地に定住していたり、人化出来る高位モンスターに求愛する為に秘境に篭っていて社会基盤が皆無なので情報屋の助力を当てにできないのだ。
なんせ人外娘に合わせる為に自ら野生化したマスター共だからな。
人外・人外娘スキーは最低限のジョブに就いてからデンドロのモンスターがいる魔境で過酷なサバイバルを嗜む変態として一部の界隈では有名だ。
ティアンの【記者】が取材に挑戦した事があるが、第一言語が【従魔師】系統の《魔物言語》に置き換わっている変態とのコミュニケーションが困難な為、取材はインタビューでは無く、映像撮影のみとなった逸話が残っている。
以降、変態共に取材を試みる場合は〈アクシデントサークル〉とモンスター対策、《魔物言語》の必修が条件となった。
レジェンダリアンの異常なバイタリティの強さを代表する一例だな。
なので手当たり次第に人型モンスターの発見例がある場所を巡っていくことになる。
無論《魔物言語》を相互翻訳するマジックアイテムを購入してから。
かなりの出費になるがティアンの標準語と《魔物言語》を翻訳するマジックアイテムがないと《魔物言語》が第一言語と化した変態共と交渉できないからな。
人外・娘スキーは殆ど野生のモンスターと変わらない活動をしているから精神も向こう側に引っ張られている。デンドロのマスターの特典である翻訳が無意味になった稀有な例とも言えるが。
俺からしたらどんだけ野生に近づく為に人間性を捨てているんだと思うが。
余りにも野生化し過ぎて【人化薬】のアドバイザーが務まるのかどうかすら定かでは無い。俺も今からライトな変態にしておくべきかと悩んだが、レジェンダリアの魔境に適応した変態共の能力は買っている。
外来種のように在来種の生態ピラミッドに参入して組み込まれた変態の野性は使えるからだ。
奴らは野生の獣じみた運動能力と生存力に環境適応力を標準装備にしている上に対モンスターのスペシャリスト。
たとえ【人化薬】のアドバイザーじゃなくても現場工作員としてのヘッドハンティングには良いかもしれない。どちらにせよ俺に損は無い。
スカウトしたレジェンダリアンが人間としての運用は不可能という最悪の状況を想定した理論武装を完了した俺はレジェンダリアの秘境に旅立った。
が。
俺は餌を吊るしただけの簡単な落とし穴に嵌った野生のレジェンダリアンを前に困惑を隠せなかった。
コイツら・・・!知能まで野生化してやがる・・・!
「もるぁ!もるるるっ!もるっ、もるるる・・・」
落とし穴に嵌った野生のレジェンダリアンが警戒の鳴き声をあげた。罠に仕掛けた餌にかぶりつきながら。
・・・・・
もうコイツら駄目なんじゃね?と諦めかけたが目の前のアホの能力は確かなものだ。
その証明として目の前のアホはUBMを討伐した証である特典武具を装備している。
狂人【暗黒騎士】と同じく《看破》出来ない歪な竜の頭蓋骨を蛮族のように被っていたのだ。
カーソンが言うには同じように《看破》出来ないエンブリオでは無いようなので《看破》のレベル不足で見る事が出来ない特典武具であることが確定している。
特典武具を獲得出来ている事実が意味するのは討伐MVPに選ばれた強者であるという事。
竜の頭蓋骨という事はドラゴンのUBMを討伐したのだろう。
伝説級下位の【グデアメール】が何回も【竜王】に殺されているようにドラゴンというのはデンドロのモンスターの中でも上位の種族だ。
ドラゴンの下位種族である亜竜ですらティアンにとっての脅威であり、亜竜の上位種である純竜は上位職のパーティ相当なのだから。
という訳で《魔物言語》で交渉を試みる。狂人はデンドロの翻訳でも理解不能だったが、このアホは動物と一緒だ。意思疎通が出来るのであれば言いくるめることは不可能では無い。
『もっと旨い餌をやるから俺に従え。なんなら実力行使もいるか?』
目の前のアホがピクッと反応した。脈ありか?
『餌はもっとくれもる。それはそれとして部外者であっても森の掟を守ってもらうもる。もるるっ。』
森の掟?つか森の掟に則っていれば従うってことか?俺は追加分の餌を使って続きを促した。
『長老に判断を仰ぐもる。案内するから穴から出して欲しいもる。』
長老だと?レジェンダリアの森って意外と組織的になってんだな。
穴から出てきたアホはゴソゴソと懐に餌を仕舞い込んでから息を大きく吸った。
もるぁぁあああああ!!と【獣戦士】のジョブスキルを使った遠吠えで遠くの同胞に合図を出す。
遠吠えがレジェンダリアの森に木霊した後に異変が起きた。
遠吠えに反応するように自然魔力が集まってきて空間が歪んでいく。起きている現象は〈アクシデントサークル〉に似ているが集まった自然魔力は空間と空間を繋げるゲートを開いた。
空間干渉系能力の仲間がいるのか・・・こりゃあ思わぬ掘り出しものかもナ?
俺は目の前のアホの逞しい背中を見ながら舌舐めずりをした。アホを捕まえて大物が釣れたようだ。
真っ黒なゲートを抜けた先は神秘的な大樹の根元だった。大樹が茂らせている青青しい葉の隙間を縫って木漏れ日が差し込む、妖精の森の広場といった情景に感嘆のため息を漏らす。
なんというか・・・デンドロで初めて正統派のハイファンタジーを見た気分だ。
大樹にアホの案内で近づいていく。この樹は樹齢何千年なのだろうか。
もるぁ!とアホが鳴いた。すわ目の前の大樹がファンタジーの定番のように話すかと思いきや、大樹の穴から栗鼠っぽい獣人が降りてきた。
これ御神木とかじゃなくて家だったのか。
紋章も無いティアンの老いた獣人が《魔物言語》で話しだしたのでお前もかと思いながら聞いていく。
すなわち森の住人と認める試練を受けてもらい、認められてから森の神獣の神前決闘において要求の可否を決めるとのことだ。
要は長老が指定したモンスターを倒してから決闘せよってことだな。
久しぶりにクエストらしいクエストを請けた気がするぜ。
で。指定したモンスターなのだが・・・長老は俺を掃除屋として使いたかっただけなのでは?と疑わざるを得ない。
だって長老はゴミだの汚染物質だの排泄物を喰らいまくって巨大化した【デッドリー・トキシック・ラージスライム】を指定したのだから。
これをヤるの・・・?見届け人としてついてきたアホに視線で訴えかけるが無常にも頷かれた。
あと当然のように一人だけ鼻栓をしているんじゃねぇ!糞くさいんじゃあ!さっさと予備を寄越せや!
俺は一人だけ鼻栓していたアホをどつき回して予備の鼻栓を奪い取った。一度突っ込んだ鼻栓を再使用するのは流石にばっちい。
俺は汚物の塊である心なしか茶色くて黄ばんだ黒いスライムを観察して結論を出した。
スライムを丸呑みするのは良い、ゴミも、汚染物質もまだ大丈夫だ。だが排泄物、てめーだけは駄目だ!
カーソンの《星の救世》で喰らうには余りにも惨い。蜂蜜塗れで魔蟲の群れに放り投げた俺に良心があったことを再確認した後に、カーソンの様子を伺う。
魔蟲の群れに放り投げた時に劣らぬ真っ青な顔だった。流石のカーソンでもあれだけは口にしたく無いようだ。
俺も融合して食ったものの味覚がないとはいえ、あれを口の中に入れただけで吐き戻す自信がある。きっと夢にも出る。あと触りたくない。
つまり接近無しで物理無効の汚物を《デッドリー・エクスプロード》などの爆破で爆散させずに殺す必要がある。
俺は排泄物を食いたくなかったし、排泄物を食った女を隣に置きたくなかった。なんか体内に入り込まれるような感じだから紋章にも入れたくないし。
んー。久しぶりに《同病哀葬》使うかぁ・・・【石化】させてから穴の中で焼却処分すれば殺せるだろうし。
俺は《窮鼠精命》を発動させた状態で、カルディナの開発室が精製したタブレットの【石化錠】を飲み込んだ。
これは遠距離狙撃で対象に撃ち込むことを前提にしたアイテムで、火薬の炸裂の高温ではなく生物の体温に反応して体内で融解するようになっている。狙撃に耐用出来るようにタブレットの硬度も高い。
今回は体温が低いスライムだから自分に服用することになったので、体温が低い対象用に改良か新しい方式を考える必要があるか。
いっそ生命力に反応して融解させて・・・いや取り扱いが特殊になってしまうな。生物が触れただけで融解してしまいそうだ。
ていうか俺は今アンデットで生物の発熱機能も無いから融解しないのでは・・・・・
と思ったがカーソンが融合している時は半死半生のキメラになっているから大丈夫だった。
一応開発室のメンバーにアンデット用の【石化錠】も開発させておこう。
【デッドリー・トキシック・ラージスライム】が大きな石像に変化した。這った痕跡も石化していて揮発した悪臭も消えたのは良い誤算だ。
そのまま【ぷれいどっぐ】で掘っておいた大穴に落とし込み、【紅蓮術師】の奥義が封じられた《クリムゾン・スフィア》のジェムを放り投げた。
いやぁ、【設計王】の汚部屋のゴミを焼却処分した時の在庫が残っていて良かった。まぁ、燃やす手伝いぐらいは長老も許可してくれただろうが。
石像が《クリムゾン・スフィア》の熱量によって熱されて光の塵に変化した。スライムの天敵は熱だから火属性魔法である《クリムゾン・スフィア》は最適だ。
ただし、石化していない状態であの汚物に使用した場合、熱で揮発した悪臭が暴発する。排泄物の内容によってはガスも溜めているだろうから、汚物が確実に爆散するので相性最悪とも言えるが。
ドロップしたのは【トキシックジェル・タンク】。ビックサイズの容器に封印されている穢れたゼリーだ。衛生的に考えて食べるのはお勧めしない。
【研究者】、【病術師】、【毒術師】に高く売れるかもしれない。悪戯に開発室に送ってやろうかと思ったが、間違いなくパワーハラスメントなのでやめた。訴えられたら勝てないし。
大人しく売却するか。用途が限定され過ぎているから絶対悪用されるけど。
こんな汚染されたゴミ、以前焼却処分した【ロトン・コックローチの体液】同様に悪質な嫌がらせか殺傷道具にしか使えんわ。
来た時同様にゲートで大樹の根元に帰ってきた。
広場は複数の野生のレジェンダリアンが集まって結界を張っていた。・・・魔法スキルの詠唱でさえ、もるもる言っている《魔物言語》だったが。
神前決闘の決闘場を準備しているのだろう、海属性魔法の一つ、障壁の特化上級職である【結界術師】が複数人で張る結界は十分な防御力を誇る。
此処でなら充分に火力を発揮できるだろう。
栗鼠の長老が結界の中央で神前決闘の宣誓をする。
『両者、森の神の前に契約を結べ。もる。契約の不履行を犯した者は例外なく追放に処す。もる。』
俺の対戦相手は落とし穴に嵌っていたアホだ。討伐MVPに選ばれるだけあって森の代表者に選ばれたらしい。
竜の頭蓋骨を被ったアホが叫んだ。
『旨い飯を満足するまで寄越すもるぁ!』
もしコイツが目的のレジェンダリアンだったとしても連れて行って大丈夫か不安が残る。
俺も倣って叫んだ。もるはつけないが。
『俺の求める人材を交渉の結果次第で森の外に連れて行く!』
招き猫みたいな神獣が欠伸をして座布団の上で寝転んでいた。三叉の尻尾がいい加減な調子で振られる。
その様子を見て頷いた長老が結界の外に出て、柏手を打った。野生のレジェンダリアンと森の住人の野次馬が一斉に静まり返る。
『契約の締結が承認された。もる。この決闘の勝敗は共に【救命のブローチ】の破壊で決するものとする。もる。』
長老は神前決闘の開始を宣言する。
宣言が終了すると同時に両者とも初手からブッ放すことを選択。
ルンバは人の形を保ったままカーソンと特典を融合した半死半生のキメラに変貌し、アホが頭蓋骨の装備スキルを宣言する。
『《遺竜装》ォォォオオオ!!』
頭蓋骨が全身を覆って竜の頭部の意匠を模した鎧に変化し、結界内を乱反射する骨弾が射出された。
骨弾は亜音速を当然のように突破し、所有者以外の全てに弾の全長以上の傷跡を刻み込む。
ルンバの身体を骨弾が抉り取っていくが、その損傷はカーソンによって加算されたENDによって抑えられたので結界ほどでは無い。
さらに融合した【故旧賦活】がレジェンダリアの豊富な自然魔力を吸い上げて抉られた肉を再生させ、負傷を恐れぬ決闘者が骨弾の嵐を強引に割り裂いて殴り掛かる。
その硬く握られた拳は【誇獣闘輪】が変形した籠手で覆われ、ルンバ以外に襲い掛かる異常質量の牙を剥いた。
竜の遺骨で形成された骨鎧を纏う蛮族は手に持った槍をルンバの伸びた腕に添えて、勢いを後方にいなす事で隕石の衝突にも似た拳撃を受け流す。
添えた槍が後ろに流れる勢いを利用した槍捌きで槍の石突をカウンターにルンバの腹に突き込むが、ルンバの腹に形成された牙が槍の石突を噛み砕かんと人外のSTRを発揮し、結界内を甲高い金属音が響いた。
両者は共に驚愕で目を見開く。人の形をした異形 / カーソンの全力で砕けぬ桁外れの槍 を。
ルンバに融合したカーソンが囁く。あの槍はエンブリオだ、と。
驚いたまま二人の決闘者は次の動作に移っていた。戦闘において予想外は当然の事。いちいち止まっていたら命が幾つあっても足りないことを両者とも知っていたから。
拘束された槍を手放した流れのままに裏拳をルンバの顔面に叩き込み、拳撃をいなされて前方に傾いた勢いのまま肩を異形の顎に変貌させて蛮族を噛み殺す直前、野生の勘を発揮させた蛮族が攻撃に拘泥せずにその場に屈んで槍を掴んでルンバを投げ飛ばす。
空中で猫のように体勢を整えてルンバは着地し、噛んだままだった蛮族の槍を手に持った。
自分のエンブリオでは無い為装備スキルを使うことは出来ない。しかし特典武具である骨鎧を貫通させるには充分。
今も跳ね回る骨弾の破壊の嵐を回復力任せに突っ切ったルンバが奪った槍を構えて突貫し、蛮族が無手で迎撃の構えを取る。
槍で特典である竜の頭蓋に向けて突き込み、蛮族が屈んで避けると同時にルンバの体内に仕込まれた【石化錠】がルンバの足に形成された肉の口腔から勢いよく吹き出され、屈んだばっかりのタイミングで回避することが出来ない蛮族に向かって飛翔する。
蛮族は飛翔する錠剤を警戒して骨鎧の籠手で弾き飛ばし、ルンバの【誇獣闘輪】が変化したブーツが錠剤を弾いて伸び切った腕を蹴り飛ばした。
結果として千切れ飛んだ腕と血が撒き散らされる。
乱雑に千切れた断面から勢いよく血が噴出し決闘場を汚していく。
蹴り飛ばす筈のルンバの右腕が膨大な質量で蹴られたように千切れ飛んでいた。
同時にルンバの奪った槍が功績を誇るが如くスキル発動の光で緋色に輝いている。
槍が発動させたスキルの名前は《逆転の呪理》。【因転緋槍 ゲイ・ボルグ】の固有スキルであり、敵対者から受けた負傷を返す因果応報の呪い。
本来蛮族の腕を千切り飛ばす筈の運動エネルギーが接触した地点からルンバに伝わり、ルンバの腕の中で炸裂して創造主の右腕を千切り飛ばした。
蛮族が走って駆け寄り、右手に握られていた槍を取り返す。
俺は【故旧賦活】で飛ばされた右腕をズルリと水っぽい音を立てて生やした。
槍を取り返され、俺は負傷は回復済み。
仕切り直しか。
だが槍を取り返そうとする動きがなかったことから、それほど奴のSTRが高く無い事がわかっている。
だったらーーー
俺は《不朽の黒森》を発動させて破壊不可能の黒い樹を生やし始めた。
STRが劣っている奴に《不朽の黒森》を対処する力は無い。あったとしても結界内を黒い樹で満たして、そのまま磨り潰す。
怪訝な顔をした蛮族が黒い樹を【剛槍士】の奥義を発動させて突くが、手応えがあっても少しも凹まない奇怪な現象に眉を顰める。
同時に爆発的に増える黒い樹を見て長時間の戦闘は勝ち目がないことを確信した。
最初の竜の頭蓋骨の装備スキルの宣言とは打って変わって、その変化は極めて静かなものだった。
全身に纏う骨鎧が《不朽の黒森》の樹の色のように黒く染まっていく。双方を比べて違う点を言えば黒く染まった鎧がボロボロと崩れていくことだ。
結界内の乱反射していた骨弾も靭性を失って鎧よりも早い速度で自壊している。
不壊の黒樹と崩壊の黒鎧は偶然にも不壊と自壊という相反した性質を以て、その元になった怪物達の力を励起する。
【遺竜頭鎧 ドルトムント】の装備スキル《必朽竜骸》は骨鎧の性能を任意で引き下げる分次の攻撃の全てを引き上げる。
蛮族は骨鎧の全ての性能・・・耐久力から防御力を自壊する下限まで引き下げて短期決戦に臨んだ。
生前の【遺骸竜】が損傷をそのまま返すカウンターを得手とする蛮族を、文字通り死力を尽くして相討ちに持ち込んだ再現のように。
一撃に全てを賭ける覚悟は黒い樹で覆われかけている結界の空気をビリビリと震わせ、ルンバの脳の中枢を過敏に刺激した。
共鳴するように四肢に分かれていた【誇獣闘輪】が一箇所に収束し、どんな障害も殴り壊す純粋な暴力がルンバの拳に宿る。
ルンバは不死身のシナジーで頭が消し飛ぼうが死ぬことはない。だが《ラスト・コマンド》が発動するような攻撃で【救命のブローチ】を破壊されることは此度の決闘において敗北を意味する。
このまま磨り潰す戦法でいけば確実に勝てる。それはルンバも当然、承知済み。
だが。
ルンバは目の前の蛮族を目にして【アガナースタ】を幻視した。
蛮族の獣の気配と漂う血の匂いが既視感となって、ルンバの記憶の中から近い【アガナースタ】との死闘を思い起こさせただけなのかもしれない。
しかし、【アガナースタ】の生前の姿と目の前の蛮族を重ねたのはルンバ自身。
そして【アガナースタ】を前に愚かに闘い渇望することを至上としたのもルンバだ。
だからルンバは短期決戦を認めた。《不朽の黒森》の維持を継続したまま停止させる。
これからの決闘に《破壊不能オブジェクト》の決着は無粋。
しかし自分の有利を捨てるのは持久戦の破棄だけで良い。既に形成された環境的有利は捨てない。
それは手加減と言う侮辱行為だ。
それではつまらない。【救命のブローチ】の破壊前提の仮初であれど、死闘は心の底から愉しむもの。
だからルンバは顔を獰猛に歪め、人の形を捨てた。
右腕に全てのリソースを注ぎ込み神獣の遺物は必殺の威を拳に宿す。
ただ一発走って殴る。シンプルな意図を反映したのは極まった異形の右腕。そして獣の足となった両足だ。
左右のバランスが歪な怪物の躯を駆使して黒い樹を足場に結界内で加速し最大速度に至った瞬間、仕掛けた。
質量×速度の計算式に異形のSTRを重ねたルンバの一撃は暴風を発生させ、《必朽竜骸》
の最大出力の後押しを受けた【ゲイ・ボルグ】が【剛槍士】の奥義を以って必滅の一刺に昇華する。
裂帛の踏み込みと同時に突き出された【ゲイ・ボルグ】は全力のルンバの一撃と正面から衝突。
ステータスでは格上であるルンバの一撃をアームズとしての性能が、高い【ゲイ・ボルグ】は衝突の影響で壊れる事がなく、衝突で受けたマスターの反動を《逆転の呪理》でルンバに押し付けることで拮抗を保っていた。
エネルギーのぶつかり合いによって結界内に局所的な真空が発生することで爆発に匹敵する衝突音が途切れ、両者の間を一瞬にして数分にも感じる静寂を生んだ。
蛮族の頭蓋骨に覆われた眼光とルンバの異形の瞳が交差し視線が結ばれる中間に架空の火花を散らせる。
技量も格差も気力で押し出す競り合いは時間の感覚を限りなく引き伸ばし。
しかし永遠に続くと思われた拮抗は【剛槍士】の奥義が拮抗の決着を待たずに終了することで終わりを迎える事が確定している。
だからこそ奥義が終わる前に切り札の【ゲイ・ボルグ】を手放し、勝った者が必殺の一撃を以って勝敗を決める競り合いを放棄。
【救命のブローチ】を直に壊す事で決着をつける蛮族の攻勢はルンバの【救命のブローチ】の寸前まで届いた。
胸に着けられた【救命のブローチ】を容易く砕き、ENDで高められた防御は貫くことは無くとも確実に心臓を揺らすであろう蛮族の拳撃は躊躇いも無く、瞳はただ透明に透き通る。
殺気も敵意も無い、ただ本能的に繰り出された無想の拳。
《殺気感知》を潜り抜け、危機を訴える現実と殺気すら感じられぬ認識の差異によって《危機察知》の意表を突く起死回生の一手。
ーーーそして伸ばされた起死回生の手はルンバが形成した口腔によって噛んで止められ、ルンバの腕が《逆転の呪理》のカウンターによって獣に噛まれたように傷を受ける。
所持者が手放した事で勢いを失った【ゲイ・ボルグ】を殴り飛ばし、強引に軌道を変えたルンバの右腕が【救命のブローチ】を捉えることで神前決闘の決着を迎えた。
・・・・・
結界と《不朽の黒森》が消えた跡地でORZといった様子で項垂れたアホはさっきの真に迫る戦士の風格という威厳が吹っ飛んでいた。
『もるっ、もるるる・・・』
と鳴く背中には哀愁すら漂っているようで、よく食い物だけでそれほど落ち込めるものだと逆に感心してしまった。
意地汚い食い意地も極まったら生き様と呼べるまで至るか。
長老が勝者となった俺に『俺の求める人材』の内容を問い質した。
まぁそれだけしか言っていないしな。
『人外娘スキー。これを該当する森のレジェンダリアン全員に告知して面接がしたい。』
長老の頭上に人外娘?と疑問符が浮かんでいる様が明らかだったが、取り敢えず疑問は飲み込んで頷いた。
そして告知が始まって一刻、広場には大量のレジェンダリアンがもるもると鳴きながらひしめき合っていた。
今も尚増え続ける魑魅魍魎の変態の群れに、事情を知らない長老は何事かと驚愕し。
あまりにも性癖に正直な野生のレジェンダリアンの総数の多さに俺とカーソンはドン引きした表情を隠す事ができなかった・・・
これはとある夢のVRMMOの物語。
レジェンダリアの秘境の奥地には一般には知られざる隠れ里が幾つも存在し、人外娘・人外スキーを性癖とする野生の人間が跋扈する幻のスポットとして知られている。
野生の人間とは、野生のモンスターと深い関係性の構築を目的に人間性を捨て、野生の摂理に身を委ねた修練者の成れの果てだ。
第一言語は当然のように《魔物言語》に侵食され、もるもると鳴く独自のモル語を日常的に使用するため常識外のマスターの中でも異端の存在である。
ルンバとカーソンの子供は何人欲しいかアンケート
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一人(抗菌と同じく特典化)
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双子
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五つ子(五等分の花嫁√(嘘))