2021年12月6日掲載
ワンポイント:ベッテルはルクセンブルクの現・首相。2021年10月27日(48歳)、ルクセンブルクの地元紙「Reporter.lu」が、22年前の1999年にフランスのナンシー第二大学(Nancy Ⅱ University)に提出したベッテルの修士論文は盗用だと指摘した。2021年12月5日(48歳)現在、修士号ははく奪されていない。首相を辞任していない。盗用ページ率は96%で、盗用文字率は約70%(推定)である。国民の損害額(推定)は100億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
グザヴィエ・ベッテル(Xavier Bettel、ORCID iD:?、写真出典)は、1999年(26歳)にフランスのナンシー第二大学(Nancy Ⅱ University)で政治学・公法の修士号(DEA)を取得した。その後、政治家になり、2013年12月4日(40歳)、ルクセンブルクの首相に就任し、2021年12月5日(48歳)現在もその職にある。
2021年10月27日(48歳)、ルクセンブルクの地元紙「Reporter.lu」が、22年前の1999年にベッテル首相が当時院生だったフランスのナンシー第二大学(Nancy Ⅱ University)に提出した修士論文は盗用だったと指摘した。
56ページの修士論文の54ページに盗用があった。盗用ページ率は96%、盗用文字率は約70%(推定)である。
2021年12月5日(48歳)現在、盗修が暴露されてから1か月半が経過したが、ベッテルは首相を続けている。ナンシー第二大学が修士号を取消したという発表はない。
フランスのナンシー第二大学・大学ホール(University Hall, Nancy II University)。写真By Marc Baronnet – Own work, CC BY-SA 3.0, 出典
- 国:ルクセンブルク
- 成長国:フランス
- 修士号(DEA)取得:フランスのナンシー第二大学
- 研究博士号(PhD)取得:ギリシャのテッサロニキ・アリストテレス大学
- 男女:男性
- 生年月日:1973年3月3日
- 現在の年齢:48 歳
- 分野:政治学
- 不正論文発表:1999年(26歳)
- 発覚年:2010年(36歳)
- 発覚時地位:ルクセンブルクの首相
- ステップ1(発覚):第一次追及者はルクセンブルク大学(University of Luxembourg)のアンナ=レナ・ヘゲナウアー政治学・助教授(Anna-Lena Högenauer)で、他の専門家と相談し、結局、地元新聞社「Reporter.lu」に公益通報
- ステップ2(メディア):「Reporter.lu」、多数のメディアが追従
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①「Reporter.lu」紙に協力した専門家たちの調査。②ナンシー第二大学・調査委員会が調査中(推定)
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中(推定)
- 大学の透明性:調査中(推定)(ー)
- 不正:盗用
- 不正論文数:1報。修士論文
- 盗用ページ率:96%
- 盗用文字率:約70%(見た目の判断)
- 時期:キャリアの初期
- 職:事件後に発覚時の地位を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明)
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は100億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 1973年3月3日:ルクセンブルクのルクセンブルク市で生まれる
- 19xx年(xx歳):フランスのナンシー第二大学(Nancy Ⅱ University)で学士号取得(推定)
- 1999年(26歳):フランスのナンシー第二大学(Nancy Ⅱ University)で公法・欧州法の修士号と政治学・公法のDEA (Diplôme d’études approfondies 、修士号相当、現在は廃止)を取得
- 1999年(26歳):ルクセンブルク市議会議員に当選
- 2001年7月12日(28歳):弁護士資格を取得
- xxxx年(xx歳):ギリシャのテッサロニキ・アリストテレス大学(Aristotle University of Thessaloniki)で研究博士号(PhD)を取得:海事法と教会法
- 2013年12月4日(40歳):ルクセンブルクの首相
- 2021年(48歳):盗修が発覚
- 2021年12月5日(48歳):ルクセンブルクの首相を続けている
●4.【日本語の解説】
★2021年10月28日:時事ドットコム:著者不記載:「ルクセンブルク首相に盗用疑惑 大学論文めぐり」
【ルクセンブルクAFP時事】ルクセンブルクのベッテル首相(48)が20年以上前に執筆した大学論文に盗用疑惑が浮上している。首相は27日、声明を出し、「心にやましいところなく執筆した」と主張する一方、「今日では、違うやり方で取り組むべきだったと認識している」と釈明した。
地元メディアは、ベッテル氏がフランスのナンシー大学在籍時に欧州議会選挙改革に関して書いた1999年の論文について、「4分の3」が2冊の文献やウェブサイト、報道記事からの盗用だったと報道。大学側は調査を行う方針を示し、ベッテル氏は盗用に当たるかどうか「(大学側の)判断を受け入れる」と表明した。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★ユニークな首相
グザヴィエ・ベッテル(Xavier Bettel)はルクセンブルク生まれ育ちなのに、フランスのティオンヴィル(Thionville)の高校を卒業し、フランスの大学・大学院に進学した。
そして、1999年(26歳)、ベッテルは、フランスのナンシー第二大学(Nancy Ⅱ University)で公法・欧州法の修士号、そして政治学・公法のDEA(Diplôme d’études approfondies 、修士号相当、現在は廃止)を取得した。
なお、ナンシー第二大学(Nancy Ⅱ University)は2009~2012 年に他大学と統合され、現在はロレーヌ大学(University of Lorraine)になっている。
1999年(26歳)、修士号を取得した年、ベッテルはルクセンブルク市議会議員に当選した。その後、政治家として、順調な人生を歩んだ。
途中の経過を省くが、2013年12月4日(40歳)、ベッテルは、ルクセンブルクの首相に就任した。 2015年7月、来日し、安部首相と会っている(写真出典)。
2021年12月5日(48歳)現在、ルクセンブルクの首相に在任している。在任期間は8年を越えた。
盗修とは別の話題だが、ベッテル首相は2011年(38歳)にゲイであることを公表し、その4年後の2015年5月15日(42歳)、男性と結婚した。
ベッテル首相は同性婚をした首相として有名である。写真は、ベッテル首相(右)が男性(夫)のゴーティエ・デストネ(Gauthier Destenay)と結婚した時の写真で、とても嬉しそうだ(出典)。保存版
2017年5月、ベルギーで開催の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、各国首脳の夫人・パートナーの記念撮影が撮影された。
その記念写真に、夫のゴーティエ・デストネが並んだ(下の写真左から3番目。出典 By The White House official Facebook (Official White House Photo by Andrea Hanks) – Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=59424905)。
★発覚
2021年10月27日(48歳)、ルクセンブルクの地元紙「Reporter.lu」が、ベッテル首相の盗修を最初に暴露した。
22年前の1999年、ベッテル首相が当時院生だった時、フランスのナンシー第二大学(Nancy Ⅱ University)に提出した修士論文が盗用だった、と指摘した。 → 2021年10月27日のポル・ロイター(Pol Reuter)記者の「Reporter.lu」記事:Plagiatsaffäre: Der Copy-and-Paste-Premier – Reporter.lu
以下の盗用全ページ図(赤字は逐語盗用、出典上記)で示すように、56ページの修士論文「欧州議会選挙における投票方法の可能な改革?(Vers une réforme possible des modes de scrutin aux élections du Parlement Européen ?)」の、54ページが盗用だった。
盗用ページ率は96%で、盗用文字率は約70%(推定)である。
被盗用文章は、2冊の本、4つのウェブサイトと報道記事だった。
★反応
ベッテル首相は、他の方法で修士論文をまとめるべきだったと、盗修を認めている。
盗修を見つけたルクセンブルク大学(University of Luxembourg)のアンナ=レナ・ヘゲナウアー政治学・助教授(Anna-Lena Högenauer、写真出典)は、「私が見つけた盗用箇所は、引用文献の記載がなく、長い文章がほぼ一語一語流用されていました。これは、とても問題がある流用です。この場合、誤って複数のページを流用してしまったということはあり得ません」と指摘している。
ベッテルの院生時代の指導教授であるナンシー第二大学のエティエンヌ・クリキ指導教授(Etienne Criqui、写真出典)は、「インターネットサイトから、文章を流用したと思われます」と、彼の元学生であるベッテルの盗修を否定しなかった。
クリキ教授は、20年前に盗用を検出するソフトウェアがなかったことに言及し、「今日では、このような盗用論文は即刻発見されるでしょう」と指摘した。
ルクセンブルク大学のデイヴィッド・ハワース政治学・教授(David Howarth、写真出典)は、次のように述べた。 → 2021年11月2日記事:Plagiarism is unforgivable, says professor | Delano News
「学部生・院生のエッセイや論文で同様の盗用の事例をいくつか思い出しました。そのほとんどは、中ほどの文章は完成度が高いのだが、序論と考察のセクションはヒドイ文章で、異常に短い。しかも、論理の流れがギクシャクしています。それで、盗用だとすぐわかります。盗用を見つけるのに盗用検出ソフトウェアは必要ありませんよ」。
★事後
2021年12月5日(48歳)現在、盗修が暴露されてから1か月半が経過したが、ベッテルは首相を続けている。
ナンシー第二大学が修士号を取消したという発表もない。
ベッテルは修士号が取り消されても、その決定を「素直に受け入れる」と述べている。
なお、ルクセンブルクの前回の総選挙は2018年10月に行なわれた。総選挙は5年毎なので、次期総選挙は2023年10月である。それまで1年10か月ある。
盗修が暴露されてから1か月が経過した2021年11月30日、理由は不明だが、ピエール・グラメーニャ財務相(Pierre Gramegna – Wikipedia)が閣僚を辞任した。
しかし、ルクセンブルク国民はベッテルの盗修に大きな非難の声をあげていない。
ベッテルは辞職する様子はないが、はてさて、どうなる?
●【盗修の具体例】
1999年の56ページの修士論文「欧州議会選挙における投票方法の可能な改革?(Vers une réforme possible des modes de scrutin aux élections du Parlement Européen ?)」の、54ページが盗用だった。
盗用がない2ページ(序論と結論のセクション)だけで、盗用ページ率は96%になる。見た目の判断だが、盗用文字率は約70%(推定)である。
盗用の具体例は上記したが、ツイッターの記事を以下に示す。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
研究者ではないので省略。
●7.【白楽の感想】
《1》政治家の盗修・盗博
政治家の盗修・盗博はその国の政治だけでなく、その国の道徳的規範・価値観・学術・権威にも損害を与える。国民が首相や政府を信頼できなくなる。
すべての国民は成功するために公正・公平に努力し、その努力の結果、修士号や博士号が取得できる。修士号や博士号にはそれなりの価値がある。盗修・盗博はその仕組みと価値を否定してしまう。
このようなジワッとくるマイナスの影響は甚大だと思う。
盗修・盗博は院生時代の悪事である。首相になるずっと前にしたことだ。政治家として偉くなる前に、盗修・盗博を調べ、過去に盗修・盗博をしていたら、政治家コースから排除するシステムを構築すべきだろう。
ドイツやロシアでは盗修・盗博を指摘する民間組織があるが、欧州の他国では組織的活動は見られない。
そもそも、民間組織ではなく、公的組織が果たすべき仕事だと思えるけど。
一般的に、政治家は敵対する政治グループなど敵が多い職業だ。敵対する政治家の過去の悪事の1つととして、盗修・盗博を根掘り葉掘り調べ、動かぬ証拠を突き付けるのはかなり有効な政治抗争だと思うのだが、そうしていないようですね。
で、カネとセックスは調べている? 調べてない?
《2》政治家の盗修・盗博
ネカトの法則:「強い衝撃がなければ、人は盗用を止めない」
盗用はその人の習性でもある。
今回、22年前の修士論文の盗用が発覚したが、グザヴィエ・ベッテル(Xavier Bettel)はギリシャのテッサロニキ・アリストテレス大学(Aristotle University of Thessaloniki)で研究博士号(PhD)を取得している。
この博士論文に盗用はないのだろうか?
さらに、政治家として執筆しているベッテルのたくさんの文章にも盗用はないのだろうか?
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① ウィキペディア日本語版:グザヴィエ・ベッテル – Wikipedia
② 2021年10月27日のポル・ロイター(Pol Reuter)記者の「Reporter.lu」記事:Plagiatsaffäre: Der Copy-and-Paste-Premier – Reporter.lu
③ 2021年10月27日のジョン・モナハン(John Monaghan)記者の「Luxembourg Times」記事:Bettel admits to thesis mistakes after plagiarism claims
④ 2021年10月27日のジョン・ヘンレイ(Jon Henley)記者の「Guardian」記事:‘Only two pages’ of Luxembourg PM’s university thesis were not plagiarised | Plagiarism | The Guardian
⑤ 2021年10月27日のルイス・ウェステンダープ(Louis Westendarp)記者の「POLITICO」記事:Luxembourg Prime Minister Bettel accused of massive plagiarism – POLITICO
⑥ 以下に示すように報道は多い。
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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