「これが、あなたが奪った命」 交際の女性に中絶薬投与の男、有罪判決

 「これは、あなたが奪った小さな命です」。交際相手に中絶薬を無断で投与し、流産させたとして、不同意堕胎罪に問われた福岡県の男(35)に、弁護人が突き付けたのは流産した胎児の写真だった。「中絶して」と頼んでも受け入れてくれないと思い、インターネットで薬を購入。妊娠を喜ぶそぶりを見せて女性を欺いた被告に対し、公判では検察官も弁護人も猛省を促した。福岡地裁は10日、懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役4年6月)の判決を言い渡した。

 「2センチくらいの小さな赤ちゃんですけど、しっかり手や足や目が確認できますよね」

 11月10日に開かれた初公判で、被告の弁護人は、交際女性が流産した際に撮影された胎児の写真を示した。写真をじっと見つめ、声を詰まらせた被告は「先ほど見せていただいた命を一生忘れることはありません」と力なく語った。弁護人は取材に「いま一度、被告がやってしまったことの重大さを自覚してもらいたかった」と、写真を見せた意図を説明した。

 判決などによると、被告は6月、交際していた当時20代の女性宅で、承諾を得ないままひそかに中絶薬を投与した。女性は数時間後に腹痛を訴えて、産婦人科を受診したが流産した。妊娠約9週で胎児は順調に成長していたという。

 自動車部品工場の派遣社員だったという被告は昨夏ごろ、「マッチングアプリ」で女性と知り合って交際を始め、福岡県内の女性宅で一緒に暮らし始めた。

 被告人質問で、被告は女性に「別れたい」と切り出そうとしていた5月に妊娠を告げられ、「正直驚いた」と振り返った。女性は経口避妊薬を服用しており、妊娠するとは思っていなかったという。

 被告は中絶薬がウェブサイトで購入できることを知り、国内では中絶目的での使用は未承認の薬100錠を購入した。その一方、妊娠を喜ぶふりをして婚姻届を出す日まで決めていた。

 「ただただ身勝手な考えと行動で女性を傷つけてしまった」と謝罪した被告を、検察官は「女性の体への危険性をどう考えていたのか」と問いただした。被告は「どういった副反応があるかを(ネットで)調べていたが、最終的に分からず不安だった」と、小声で話しただけだった。

 公判に被害女性は出廷せず、検察官が供述調書を読み上げた。その中で女性は「子どもがほしくなかったのであれば、私が嫌で別れたかったのであれば、正直に話してほしかった。私に無断で赤ちゃんを殺さなくても、話し合えば解決できたはず」と、無念の思いを吐露した。

 「女性の身体へ与える影響を無視した身勝手な犯行。女性や胎児と向き合う努力もせず、胎児の命を奪った。誠に浅はかだ」。判決の言い渡しで、厳しく指弾する神原浩裁判長の言葉を、被告は表情を変えずに聞いていた。

 (吉田真紀)

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