ハニーちゃん

えぇー!
手相ですか!?
見てください!
お願いしまーす!


 ハニーちゃんが嬉しそうに両手を宮内に差し出す。


宮内圭吾

よしよし……。
うわぁ!
こ、これは!

ハニーちゃん

えぇ!?
ど、どうしたんですか?


 宮内は惚れ惚れしながら、ハニーちゃんの手を見つめた。


宮内圭吾

なんて美しい手なんだ……。
俺、こんな美しい手、初めて見たよ。
指のラインも肌も芸術的じゃないか。

ハニーちゃん

いやだぁ。
宮内さん褒めすぎー。

宮内圭吾

いや、俺は内科医だからね。
体の調子や内面の心は手に出るんだよ。
君は顔だけじゃなくて、心まで美しい持ち主だね。
診断書を書いてもいいよ。

ハニーちゃん

やだぁー!
内科医って口も上手なんですかー?


 酔っ払ったハニーちゃんがケラケラ笑っている。


 アルコールと宮内の積極的なアタックで心を許してきたようだ。


 クリスちゃんは頬を膨らませながら宮内にアピールした。


クリスちゃん

宮内さーん
私も見てよぉ。

宮内圭吾

ああ、もちろんだ!
俺は天才内科医のドクター!
何人でも診察しちゃうよ!

……うん。
クリスちゃんはとっても知性的だね。君の知性と気品が美しい手に表れてるよ。
肌もシルクのようになめらかで美しい……。


 宮内はわざとらしくハニーちゃんと、クリスちゃんの手を並べてみせる。


宮内圭吾

ああ!
なんてどちらも美しいんだ!
俺は芸術に目がくらみそうだ!


 宮内は無愛想で若干空気の読めないハニーちゃんを中心にしつつ、クリスちゃんを同時に口説く、という高等テクニックで場を回している。


 この派手な前線が活躍している間に、涼太と富樫は目当ての子とペアになる、という布陣だ。


 富樫がさり気なく口を開いた。



富樫和親

占いといえば、お客さんでタロットをやってる人がいましたね。



 富樫の『口火』を切るタイミングが重要だった。


 涼太と宮内は「マデューのことを知らない」という設定になっている。


 マデューのことは富樫に喋り始めてもらうしかないのだ。


佐伯涼太

え?
なになに?
富樫くんタロットやんの?


 涼太が無邪気に尋ねる。


富樫和親

いや、この間メイド喫茶のお客さんで、タロット占いをしている人がいたんですよ。
占ってもらったらすごい当たってたんです。
ねぇミルクちゃん?


 ミルクちゃんも興奮しながら頷いた。


ミルクちゃん

あの人すごいですよねー!
私も占ってもらったことあります!
すんごく当たってました!


 ピンクちゃんが思い出したように言った。


ピンクちゃん

あっ!
それってもしかしてマデューさん?

ミルクちゃん

そうそう!
ピンクさんも占ってもらいましたかぁ?

ピンクちゃん

うん!
すっごい当たってた!
ビックリしちゃった!


 涼太がさり気なく尋ねる。


佐伯涼太

へぇ?
そのマデューさんて占い師なの?

ピンクちゃん

ううん。
そうじゃないみたい。
あの人、なんの仕事してるんだろ?
ミルクちゃん知ってる?


 ミルクちゃんも首を傾げた。


ミルクちゃん

あの人教えてくれないんですよぉ。
何してる人なんでしょう?

……あっ、そういえば、富樫様は一緒にお出かけしてましたね?
どこかに行ったんですか?



 富樫の心臓はもう緊張のあまりバクバクと鳴っていた。


 涼太と宮内は見事なもので、ポーカーフェイスを演じきっている。


 「そんなよく知らない人の話はやめようよ!」と水を差すこともない。


 例え何があっても富樫の話を聞きたい、という表情を浮かべている。



富樫和親

いやぁ……。
ここだけの話なんですけど……。
あの人、怖いこと言ってたんですよ……。



 富樫は声を潜めて「怖い話を始めるよ」的なオーラを出し始めた。


 即座に涼太と宮内が乗っかる。


佐伯涼太

なになに?
気になるじゃん!

宮内圭吾

富樫、教えてくれよ!
なんなの?


 富樫は全員の注目を集めると、静かに口を開いた。



富樫和親

あの人……。
自分のこと、『殺し屋』って言ってたんですよ……。



 クリスちゃんが何かに気づき、怖そうに顔を歪めた。


クリスちゃん

うわぁ。
それ、本当にありそうで怖いなぁ。
ヤクザっぽい人とマデューさんが話してるところ見たことあるし……。


 ハニーちゃんも怖そうに震えた。


ハニーちゃん

私も見たことあります。
何も注文しないでマデューさんと話して帰る人ですよね?
あの人怖いですよねー。


 ミルクちゃんも震えながら富樫の腕をぎゅっと掴んだ。


ミルクちゃん

私、あの人に一回だけ、メニューを案内したことあるんですぅ……。
そうしたらサングラスを外してすごい目で睨まれて……。
ひっく……。
今でも怖くて思い出します……。


 富樫は「うんうん」と頷きながらも、自分の腕に当たるミルクちゃんの自己主張の激しすぎる胸を見つめた。


 どれだけ緊迫の状況でも、好きな女の子のおっぱいが当たると反応してしまう。


 悲しい男のサガだ。


富樫和親

あの人、店では『殺し屋』って言ってないんですか?


 富樫が尋ねると、メイドの4人は揃って首を横に振った。


富樫和親

じゃあ、どこから来てるんでしょう。
僕とは地下鉄の駅で別れてそれっきりなんです。
僕との会話を聞いた人もいませんか?

ミルクちゃん

ううん。
聞いたことないです。
たぶん皆さんもそうですよねぇ。


 ミルクちゃんの言葉にメイドたちは揃って頷いた。


クリスちゃん

マデューさん、他のご主人様のことは喋らないよね。


 クリスちゃんが言うと、ピンクちゃんが頷いた。


ピンクちゃん

なんでもメイドさんと話す時は、他の男の話をしたくないんだって。
ちょっとだけ天野様のことを愚痴ったけど、すぐにやめちゃった。

ミルクちゃん

えぇー?
そうなんですかぁ?
ミルクも聞きたかったですぅ。
どこの人なんでしょう?


 この店のメイドさんは注文しない限り、お客同士の会話に耳を貸さない。


 そんな会話を耳に挟んでもキックバックなんか入らないからだ。


ピンクちゃん

うーん。
私も聞いたけど教えてもらえなかったな。
フランスが故郷って言ってたけど。


 ピンクちゃんが言うと、ミルクちゃんが可笑しそうに笑った。


ミルクちゃん

あの人、フランス語の喋り方変ですよねぇ。
ボンジュールとか、ムシューとか、セボンとか、ちょこちょこフランス語を挟むんですよぉ。
なんだかお間抜けで笑っちゃいます。


 ハニーちゃんも手を叩いて笑った。


ハニーちゃん

それわかりますー!
コーヒーを飲んで『セボン、とても美味だね』とか言ってキザに笑うんですよ!
ちょうキモーイ!


 クリスちゃんも楽しそうにマデューを真似して、クネクネした動作を始めた。


クリスちゃん

私なんか

『そこのエクラトンなマドモワゼル、特製パフェ、シルブプレ?』

って注文されたのよ!
お前どこの人間だよ!
日本語喋れよ!
って感じよねー。


 宮内はすかさず質問を飛ばした。


宮内圭吾

変な男だねぇ。
殺し屋だっていうなら、なんで人なんて殺すんだろ?

ハニーちゃん

決まってますよ!
私にはわかりますね。


 ハニーちゃんが自信たっぷりに頷いた。


 涼太たちは思わず生唾を飲み込んだ。


ハニーちゃん

フランス出身の殺し屋ですよ。
『アレ』に決まってます。
フランスの犯罪者と言えば『アレ』ですよ。


 ハニーちゃんが自信たっぷりに言うと、ピンクちゃんが嫌そうに声をあげた。


ピンクちゃん

やめてよ。
今は物騒なのにそんな話聞きたくない。
ねぇ涼太さん、何か歌ってくださいよ。

佐伯涼太

う、うん。
もちろん歌っちゃうけど、ちょっと殺し屋の話、興味あるなぁ……。
ハニーちゃん、なんだと思うの?


 ハニーちゃんは嫌な笑みを浮かべた。


ハニーちゃん

さぁなんでしょう?
問題ですよー。
フランスと言えば『アレ』じゃないですか。

宮内圭吾

『アレ』
なんだ?
さっぱりわからないなぁ。

クリスちゃん、わかる?
君の赤いメガネはなんでも見抜きそうだ。
まるでバーローみたいだ。


 クリスちゃんは赤いメガネを直しながら苦笑した。


クリスちゃん

それじゃあ少年探偵じゃない。
真実はいつもひとつ!
とか言いたいけど、私にもわからないわね。

宮内圭吾

俺もそういう事はさっぱり興味ないんだよなぁ。


 理系畑の宮内には検討もつかなかったが、涼太は文学部、富樫もミステリー研究部に所属しており文系の人間だ。


 即座に推理小説や殺人事件などの記憶を漁り、フランスに関係あるものがないか探し始めた。



佐伯涼太

(フランスといえば『アレ』? フランスの『殺し屋』って何かあった?)



 チラリと富樫を見つめる。


 富樫は小さく首を横に振るだけだ。



ピンクちゃん

ねぇ。
もうやめようよ。
そんな人殺しの話、怖いよ。



 ピンクちゃんは嫌そうに顔をしかめている。


 物騒な話は苦手の様子だ。


 ミルクちゃんも不思議そうに首を捻った。



ミルクちゃん

うぅーん?
なんでしょう?
富樫様は名探偵なんですよね?
何か思い当たりますかぁ?

富樫和親

うーん……。
フランスに関することなんですか?


 ハニーちゃんは自信満々に頷いた。



ハニーちゃん

だって爪をマニキュアで真っ赤に塗ってるじゃないですか。
絶対『アレ』ですよ。

富樫和親

爪が真っ赤……?

ハニーちゃん

そうそう。
まるで血の色みたいですよね。


 ピンクちゃんが嫌そうに声をあげた。


ピンクちゃん

もうハニーちゃん!
やめてよ!
その手の話、すごく嫌いなの!


 ハニーちゃんは全く聞いてない。


 宮内のシャンパンの効果もあったが、元々空気の読めない女の子だ。



ハニーちゃん

あんな真っ赤な爪をしてたら、女にもなれそうじゃないですか。



 富樫はその言葉で何かに気づき、思わず口を開いた。


富樫和親

それって……。
もしかして、変装の名人

ハニーちゃん

そうです!
それはつまり……?

富樫和親

それはつまり……。


 富樫が口を開きかけた瞬間、ピンクちゃんが「ドン」とカラオケの歌本を置いて叫んだ。



ピンクちゃん

もう本当にやめてよ!
私は理不尽に人がいっぱい死んだりする事件が嫌いなの!
そんな話するなら帰る!



 ピンクちゃんが本当に立ち上がったので、涼太が慌てて声をあげた。



佐伯涼太

ま、待ってよ!
もうやめるから!
もうやめるから帰らないで!
怖い思いさせてごめんね!


 涼太が低姿勢で謝る。


 富樫も慌てて頭を下げた。


富樫和親

ぼ、僕が話を始めたんです!
本当にすみませんでした!
帰らないでください!


 ピンクちゃんは男2人が頭を下げたので、迷ったようにその場を見つめた。


 年長者であるクリスちゃんが、代表するようにピンクちゃんを諭した。


クリスちゃん

ピンクちゃん。
せっかく場を設けて頂いたんだから、気分変えて飲みなおしましょう。

ピンクちゃん

はい……。
もう、ハニーちゃんってば。

クリスちゃん

ハニーちゃんはいつものことじゃない。
後で私が叱っておくから。

ピンクちゃん

はい……。
わかりました……。


 ピンクちゃんはしぶしぶ席に戻った。


 言い出しっぺのハニーちゃんはニタニタと笑みを浮かべ、宮内の耳元で答えをささやくフリをしている。


宮内圭吾

なんだよ。
教えてよハニーちゃん。
気になるじゃないか。

ハニーちゃん

ダメですよー。
当ててくださぁーい。


 ハニーちゃんは反省した様子もなくシャンパンを飲んでいる。


 ピンクちゃんは注意するのも嫌になり、またシャンパンを飲み始めた。


 ミルクちゃんが取りなすように声をあげた。


ミルクちゃん

りょ、涼太様ぁ!
ここらでひとつ、盛り上がるのをお願いしますぅ!

佐伯涼太

オッケー!
金爆いっちゃうよ!
さぁさぁ盛り上がって!


 涼太はマイクを持って歌い出した。


 もうマデューの話を場に出すことはできなかった。




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つばこ

☆注意☆
 
前話でも書きましたが、お酒を無理やり飲ませたりするのはダメです!
そして楽しいコンパの時間に「殺し屋がどうのこうの」とか言い出すのもダメです!!!!! 怖いです!!! ダメですよ!!!!!
 
【つばこへの質問コーナー】
『つばこ様の作業スペースが見てみたいです!』
 
ミスタードーナツ、ファミレス、カフェなどのお店に行きまして、喫煙席を見てください! それがつばこの作業スペースです! おウチではなく外で書くタイプなんです! もしもそこにタブレットをニヤニヤしながら叩く超絶ハイパースキンヘッドイケメンがいたら高確率でつばこです!!!ヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 69件

  • みぃ

    ピンクちゃんは手先?って思ったけど、そんな特定の事件を知ってるかのような事言っちゃうかな?
    マデューのこと知ってる(殺し屋として)けど、協力はしたくない的な感じじゃなくて?

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  • あろまる

    ジャックはフランスじゃないからね。

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  • るー

    人がいっぱい死ぬ事件が嫌いって、お姉さんが最近それで死にかけたからかな?

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  • ニル

    おもしろいね

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  • ひしろん半端ない

    なんでこの時点でピンクちゃんは「人が理不尽にいっぱい殺されること」知ってるんですか…?

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