ご愛読いただきありがとうございました。
何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。
これにて『天才クソ野郎とアルカナの支配者』は完結となります。
文庫本2冊分ほどの長編となりましたが、無事に最後までお届けできてホッとしております。
個人的には結構長編好きなので、またお届けできたら嬉しいな!
『天才クソ野郎の事件簿』はまだ続きますので、天野くんと前島ちゃんの行方が気になる方はそちらにてよろしくお願いします!
つばこでしたヽ(*´∀`*)ノ.+゚
その日、天野はいつものテラスにいた。
長い入院生活から解放された久々の大学。
のんびりタバコを吸いながら、テラスに落ちる
天野勇二
うむ……。
美味いな。
やはりここでの
天野が
富樫和親
天野さん。
お久しぶりです。
天野勇二
富樫じゃないか。
久しぶりだな。
富樫はぺこりと頭を下げ、天野が好きな
富樫和親
この間は色々とすみませんでした。
退院おめでとうございます。
天野勇二
わざわざ悪いな。
遠慮なくいただこう。
富樫和親
あの、天野さん……。
退院したばかりで申し訳ないんですが、お尋ねしたいことがあるんです。
天野勇二
なんだ?
「ミルクと仲良くしたい」とか言い出したらぶっ飛ばすぞ。
富樫は慌てて首を横に振った。
その首筋にはエグい傷跡が残っている。
自らの甘さが生んだ傷だ。
さすがに富樫の恋心も冷めていた。
富樫和親
ち、違います。
色々と天野さんのおかげで解決しましたよね。
天野勇二
そうだな。
全てこの天才、天野様のおかげだ。
富樫和親
その通りです。
全て天才クソ野郎のおかげです。
富樫は天野を持ち上げ、おずおずと尋ねた。
富樫和親
でも、ちょっとだけわからないことがあるんです。
ハニーちゃんの言ってた『アレ』です。
あれはいったい、なんだったんでしょうか……?
天野勇二
『アレ』か。
大したことじゃない。
お前も当てたじゃないか。
煙を吐き出しながら言った。
天野勇二
『ルパン』だ。
お前も言ってたぞ、変装の名人だって。
フランスの怪盗であり名探偵でもあった『アルセーヌ・ルパン』だよ。
富樫は両手を「ぽん」と叩いた。
富樫和親
そうだ、ルパンですよ!
ルパンだ!
ああ、すっきりしました!
天野勇二
本当に大したことじゃない。
ハニーが妙な『言い方』をするからだ。
恐らくミルクも『ルパン』ぐらいは気づいただろう。
だが、アイツはルパンに、何かの『裏』があると思い込んだ。
天野は少し悔しげに空を眺めた。
天野勇二
アイツは『裏』の『裏』を読み取ろうとしすぎたんだよ。
ルパンは理解できる。
その『裏の意味』はなんだ?
それが理解できない。
理解できない以上、生かしておくのは危険かもしれない。
だからハニーを殺した。
俺様がもっと早くミルクを追い詰めていれば、ハニーが死ぬことはなかったかもしれない。
可哀想なことをしたよ。
タバコの煙を見ながら呟く。
天野勇二
そしてピンクのほうは恐らく、フランスで多発している『テロ』のことだと勘違いしていたな。
ピンクも妙な『言い方』をしていれば、ハニー同様に消されたかもしれん。
富樫和親
確かにピンクちゃんも様子がおかしかったですね。
天野勇二
ああ、この物騒なご時世にテロの話なんかしたくないさ。
そんなコンパ帰るよ。
富樫はもうひとつの疑問を尋ねた。
富樫和親
天野さんは僕が見た、ホームでの飛び降りのことも調べてましたよね。
あれは謎が解けたんですか?
天野勇二
ああ、あれか。
天野は興味もないように言った。
天野勇二
もうマデューは死んだし、ミルクは捕まったし、証拠も残ってないし、どうでもいいんだけどな。
あれは『共犯』がいないかどうか確かめたかったんだ。
あくまで推測だが、アイツらが『糸』を多用する『コンビ』なら、こんな殺し方がある。
天野はメモを取り出し、図を描き始めた。
天野勇二
ホームで『糸』を使うんだ。
実行犯はミルクだろう。
マデューと店を出る際に、ミルクと接触しなかったか?
富樫和親
そういえば……。
マデューはミルクちゃんに伝票を渡してました。
ミルクちゃんは僕たちのことを追いかけて来たんですか?
天野勇二
そうだ。
飛び込み防止の『ホームドア』が設置されていない駅を選び、
そしてターゲットにあの場所に立つよう伝えるのさ。
ホームの図を描き、一番端を指さす。
天野勇二
ホーム端の先端部分を『支点A』としよう。
ターゲットの立っていた箇所を『支点B』とする。
互いの距離は約3メートルだ。
まず『支点A』から『支点B』まで真っ直ぐ糸を伸ばす。
『支点B』にて直角に折り曲げ、ホームの壁まで糸を伸ばす。
約5メートルだ。
そこを『支点C』として、小さい柱などの引っ掛けるものを用意する。
メモに直角三角形のような図が表れた。
天野勇二
あとは『支点C』から壁沿いに糸を長く伸ばす。
その先にはミルクが変装して立っている。
そしてミルクは電車が来たタイミングで糸を引っ張る。
するとどうなる?
富樫は図を見ながら頷いた。
富樫和親
ホームの端の『支点A』と、壁にある『支点C』が一直線の斜辺になりますね。
天野勇二
その通りだ。
それぞれの支点が描く『直角三角形』の中にターゲットがいた場合、足元を大きく引っかけられることになる。
『支点B』に近づいていれば尚更そのエネルギーは強い。
勢い良く足を引っかけられ、ターゲットは前方に傾いた。
お前の目からは飛んだように見えただろう。
富樫和親
酷い話ですね……。
電車にはターゲットの上半身が巻き込まれたんですね。
天野勇二
たぶんな。
マデューの動作は恐らく合図だ。
つまり、この時もアルカナを『ブラフ』として利用していたのさ。
天野は軽やかに笑った。
天野勇二
まぁ、これはいくつかある『殺し方』のひとつだ。
真相は聞いてみないとわからない。
だがこんなもの、もうどうでも良いことさ。
富樫は
その気になれば、天野は簡単に完全犯罪をやってしまいそうだ。
富樫和親
(お、恐ろしい……。本当にこの人を、敵に回さなくて良かった……)
心底そう思った。
マデューの取引で心が動いたのは事実だ。
だが相手が天野だったので断った。
それは正しい選択だった。
富樫和親
(ミルクちゃんを処刑した時もそうだ……。考えてみれば、天野さんは自分が本気で戦う前に、涼太さんと僕を先に行かせた……)
天野によるミルクちゃんへの処刑は『正当防衛』が認められた。
これは天野自身が重症だったこと。
そして、涼太と富樫が殺される寸前だったこと。
2つの理由があったからだ。
富樫和親
(まさかこの人……。そこまで計算してたのかな……?)
天野は平然とタバコを吸っている。
富樫は改めて『天才クソ野郎』の恐ろしさというものを実感していた。
佐伯涼太
やっほー!
おかえり勇二!
ついにテラスの
テラスに涼太が現れた。
背後には満面の笑みを浮かべる前島の姿がある。
前島悠子
師匠!
お帰りなさい!
やっと師匠に会えましたぁ!
前島は天野の腕の中に飛び込んだ。
膝の上に座り、じゃれつくように甘える。
天野勇二
なんだよ。
暑苦しいな。
膝に乗るなよ。
前島悠子
もう照れちゃってぇ。
いいじゃないですかぁ。
私は師匠の『
天野勇二
なぜお前が俺様の女なんだ。
頭大丈夫か?
前島は
前島悠子
いやいや……。
私、師匠にめっちゃ口説かれましたけど。
天野勇二
はぁ?
口説いたことなんかないぞ。
前島悠子
口説きましたよ!
「俺を信じろ」とか。
「お前だけが俺の弟子だ」とか!
「お前の輝きを失いたくない」とか言ったじゃないですか!
天野勇二
ああ、それは言ったな。
前島悠子
『天才クソ野郎の女』という決定的発言もいただきましたよ!
天野勇二
そんなこと言ったか?
じゃあ否定しておこう。
違う。
前島はがっくりと肩を落とし、涼太に愚痴った。
前島悠子
はぁ……。
がっかりですよ。
あんなに優しかった師匠が、いつものクソ野郎に戻ってます。
佐伯涼太
しょうがないって。
ミルクちゃんの正体を暴いた時には戻ってたもん。
前島悠子
もう!
あの男前な師匠を返してくださいよぉ!
天野勇二
俺様はいつだって男前だ。
なぁ富樫?
富樫和親
そ、そうですね。
天野さんは男前です。
天野勇二
良い返事だ。
お前の失態を許してやろう。
涼太が嬉しそうに頷いた。
佐伯涼太
ねぇ、これで富樫くんも『天才クソ野郎チーム』の一員でいいよね。
天野勇二
ああ、そうだな。
何かあった時は使わせてもらうぜ。
富樫が驚いて尋ねる。
富樫和親
えっ!?
い、いいんですか!?
だって僕は、天野さんに刃向かったのに……!
天野勇二
お前は『黒幕』ではないのだから、俺様にスタンガンを向けるのは当たり前の行為だ。
むしろ俺様は、その度胸が気に入っていた。
苦笑しながら言葉を続ける。
天野勇二
そもそも今回の事件は、お前が俺様に話を持って来なければ解決できなかった。
あの女、涼太には念入りに近づいたのに、俺様とは接触する気配もなかったからな。
涼太が「うんうん」と頷く。
佐伯涼太
そうだよねぇ。
まさかナンパしたミルクちゃんが前島さんの抹殺を企ててるなんて、これっぽっちも想像できなかった。
マジでうまく接触されたよ。
天野勇二
そういうことだ。
お前がマデューに気づいたおかげで、弟子の命を救うことができたんだ。
天野は優しげに言った。
天野勇二
助かったよ。
富樫よ、ありがとうな。
富樫はその言葉を聞き、思わず涙腺が緩んだ。
富樫和親
ありがとうございます!
天野さんにそう言っていただけるなんて、本当に光栄です!
前島がそれを見てボヤいた。
前島悠子
ねぇ、涼太さん。
あれズルいですよねぇ。
いつも凶暴な肉食獣のくせに、あんな優しい声出すんですよ。
あれ反則ですよねぇ。
佐伯涼太
本当だよねぇ。
あのギャップは出せないよ。
前島悠子
ねぇ師匠!
弟子にも優しくしてくださいよ!
天野勇二
どれだけ優しくしてやったと思ってるんだ。
もう十分だろ。
前島悠子
うむぅ……。
なんか納得いかないです。
天野勇二
そういえば川口の具合はどうだ?
元気なのか?
平然と尋ねる。
前島はまた涼太に愚痴った。
前島悠子
ほら、すぐあれですよ。
本当は何度もお見舞いに行って、川口さんに重症を負わせたことを謝ってるんですよ。
なのに天気でも尋ねるかのように訊いてきましたよ。
佐伯涼太
まぁ、しょうがないじゃん?
それが天才クソ野郎って生物だよ。
前島悠子
はぁ……。
師匠はいつもそうやって乙女心を
今回は『きた』と思ったのに!
屋上から落ちようとしても助けてくれたのにぃ!
天野はそれを聞くと富樫に言った。
天野勇二
そうだ、富樫よ。
アイツらは前島の偽装自殺にも『糸』を使ったんだ。
これも簡単なトリックでな。
屋上の四隅にあった避雷針の間に糸を張っておいて……。
前島悠子
ちょっと師匠!
何を楽しそうにトリックの話をしてるんですかぁ!
弟子の話を聞いてください!
富樫和親
なるほど。
それで前島さんは立ち上がった時に「押された」と勘違いしたんですね!
前島悠子
ヒアルロンさんも盛り上がらないでください!
……あっ! そうだ!
前島が『切り札』を思い出した。
前島悠子
そういえば師匠。
『約束』を守ってくれませんでしたね。
「誰も死なせない」と、あんなにカッコよく誓ってくれたのに。
天野は辛そうに顔を歪めた。
天野勇二
ああ……。
そのことか……。
確かにお前の言う通りだ。
俺は約束を守れなかった。
この『約束』は前島が思っている以上に、天野の心を苦しめていた。
「誰も死なせない」と誓ったのにマデューという犠牲者を出してしまった。
天野はこのことをかなり後悔している。
涼太がフォローするように言った。
佐伯涼太
別にいいんじゃない?
死んだのはマデューなんだしさ。
天野勇二
だが、約束は約束だ。
マデューも同じ人間だ。
アイツも警察にぶち込んで罪を償わせる必要があった。
深く後悔してうなだれている。
さすがに前島も申し訳なくなってきた。
前島悠子
まさかそこまで気にされているとは……。
すみません……。
その約束は
天野勇二
そんなワケにはいかん。
俺はお前に深く詫びなければならない。
随分と
涼太が小声で前島にささやいた。
佐伯涼太
これチャンスかもよ。
男だって傷ついている時が弱いからね。
うまく利用してアタックしたら?
前島悠子
でも、師匠に悪いです。
佐伯涼太
いいじゃん。
こんなチャンス滅多にないって。
前島悠子
そうですかねぇ。
前島は試しに言ってみた。
前島悠子
じゃあ、師匠。
お詫びとして、私と『交際』してください。
『男女のお付き合い』をしてください。
天野勇二
ああ、いいだろう。
天野はあっさり言った。
タバコを灰皿に投げ捨て、新しいタバコを口にくわえる。
前島悠子
……え?
前島も、涼太も、富樫も。
いきなりの発言に呆然としてしまった。
前島悠子
……おっ?
えっ……?
う?
はえっ?
……んんっ?
前島の時が止まり。
静かに動き出す。
前島の脳細胞がフル回転していく。
天野の言葉を理解するために。
その言葉がもたらす意味を理解するために。
前島悠子
……えっ!?
まさか……。
まさか……?
まさか本当に……?
本当に……『きた』……?
全身が震えている。
驚きと感動で震えている。
佐伯涼太
……ゆ、勇二!
涼太が思わず叫んだ。
佐伯涼太
今、言ったね!
ガチで言ったんだよね!?
前島さんと『交際する』って言ったんだよね!?
天野勇二
ああ、言ったぞ。
佐伯涼太
ガチなんだ!!!
やったよ!
この日を待ってた!
ついに勇二の『心』が治ったんだ!
いやっほう!!!
前島も両手を突き上げて叫んだ。
前島悠子
長かったです!
長く険しい道でした!
どこまでも終わりが見えなくて、永遠に続く道かと思ってました!
でも、道の先では、師匠がちゃんと待っていてくれたんですね!
富樫は口をパクパクさせながら天野と前島を見つめた。
『天才クソ野郎』と『国民的アイドル』の交際。
歴史的瞬間に立ち会ってしまった。
前島悠子
やりましたよ!
涼太さん!
佐伯涼太
グッジョブ!
やったね前島さん!
涼太と前島が嬉しそうにハイタッチを交わす。
前島は感涙しながら叫んだ。
前島悠子
師匠!
もう籍を入れましょう!
お嫁に行きますよ!
私は長女ですけど問題ないです!
『天才クソ野郎のお嫁さん』になります!
瞳をキラキラさせながら叫ぶ。
前島悠子
すぐに結婚式場を予約しましょう!
子供も3人ぐらい欲しいんで名前を決めましょう!
そしてどこかに新居を建てましょう!
長生きしたいですから老後のために
孫までアイドルにしてやりましょう!
天野は呆れて言った。
天野勇二
お前……。
何を言っているんだ?
俺様は結婚なんてイヤだぞ。
もう前島はそんな言葉を受け付けない。
前島悠子
なに言ってるんですか!?
交際のゴールは結婚ですよ!
天野勇二
イヤだっての。
結婚なんかしたくない。
絶対に拒否だ。
前島悠子
えぇっ!?
そ、それじゃ、交際している意味がないんですけど!?
涼太はなんだかイヤな予感がしてきた。
天野はいつも通りだ。
普段と何ら変わりがない。
佐伯涼太
そ、そうだ!
ねぇ勇二!
交際記念にさ、前島さんとキスしようよ!
天野勇二
はぁ?
天野は嫌そうに吐き捨てた。
天野勇二
イヤだっての。
なぜ俺様がコイツとキスしなければならないんだ。
涼太と富樫はがっくりと肩を落とした。
クソ野郎はクソ野郎のままだった。
前島は諦めきれずに叫んだ。
前島悠子
師匠!
ダメですよ!
キスしなきゃダメです!
『交際する』ということは『キスをする』ということですよ!
天野勇二
却下だ。
拒否する。
前島悠子
じゃあデートしましょう!
公園を手をつないだりして歩いたり、ボートに乗ったりしましょうよ!
天野勇二
却下だ。
忙しい。
拒否する。
前島悠子
ならば私が師匠の家に行きます!
それならどうですか!?
天野勇二
却下だ。
それはお前の芸能生命を縮める。
拒否する。
前島悠子
それじゃ『交際』になってないじゃないですかぁ!?
前島はジタバタしながら叫んだ。
前島悠子
師匠!
私のことを好きなんですよね!?
その気持ちが少しでもあるんですよね!?
天野はあっさりと言った。
天野勇二
いや、別に。
前島はテーブルを「どん!」と叩いて立ち上がった。
前島悠子
うがぁぁぁぁっ!
ダメです!
この人、ぜーんぜん心が治ってません!
これじゃ何も変わってないじゃないですかぁ!
いつもそうです!
いつもそうやって乙女心を弄ぶんです!
師匠は本当にクソ野郎ですよ!
もういい加減、私に振り向いて下さいよぉぉぉーーーー!
前島の絶叫がテラスにこだまする。
天野は「交際を許可してやったのに、何をそんなに怒ってるんだ?」と不思議そうに眺め、のんびり煙を吐き出している。
こんなクソ野郎を追いかけ続けるのか、もう諦めるのか。
それは、たったひとりの弟子だけが、決めることだ。
(おしまい)
29,260
ご愛読いただきありがとうございました。
何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。
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