『女帝』
【正位置の意味】
繁栄、豊穣、母権、愛情、情熱、豊満、包容力、女性的魅力、家庭の形成など。
【逆位置の意味】
挫折、軽率、虚栄心、嫉妬、感情的、浪費、情緒不安定、怠惰など。
天野勇二
ど、どうなってやがる……。
天野は冷静になるため、まず頬を強く叩いた。
何度か深呼吸して心臓の鼓動をなだめる。
息を吸う度に『
マデューの足元に散らばっているものだ。
人間は死亡すると、筋肉が
『首吊り』の場合であればパンツの隙間などから落ちていくものだ。
その下には何枚もの『タロットカード』が、皮肉にも鮮やかな輝きを放っている。
天野勇二
マデューが死んだ……?
なぜ、コイツが……?
天野はゆっくりマデューの死体に近づいた。
首が「ぐにゃり」と長く伸びている。
首の骨が折れ、うなじの皮膚まで裂けている。
首に食い込んだロープは天井のはりに引っかけられ、その先は店内にある大きな柱に結ばれている。
かなり丈夫そうな
佐伯涼太
……そ、そうだ!
勇二!
け、警察を呼ばなきゃ!
天野はその声で我に返った。
スマホを取り出す涼太を制する。
天野勇二
待て。
まだ通報するな。
違和感がある。
この現場はおかしい。
灰色の脳細胞が回転し始めた。
この現場は違和感がある。
何かが不自然だ。
天才クソ野郎の頭脳がそう告げている。
佐伯涼太
お、おかしいって……!
これ誰かが、マデューを絞め殺して、吊り上げたってことでしょ!?
涼太が腰を抜かしたまま叫ぶ。
佐伯涼太
マデューが『自殺』するワケないじゃん!
誰かに殺されたんだ!
し、しかも、鍵がかかってたんだよ!?
『密室殺人』じゃんか!
天野はゆっくり首を横に振った。
天野勇二
そんなことはわかりきっている。
俺が気になるのはそこじゃない。
懐から手袋を取り出し装着する。
余計な指紋を残さないためだ。
天野は蛍光灯に照らされたマデューの死に顔を見上げながら言った。
天野勇二
『密室殺人』なんて簡単に作ることができる。
そんなものどうでもいい。
お前も手袋を装着しろ。
絶対に指紋を残すんじゃない。
これから現場を調べるぞ。
涼太は慌てて床から手を放し叫んだ。
佐伯涼太
し、調べるぅ!?
なにバカなこと言ってんのさ!
警察を呼んだほうがいいって!
天野勇二
ダメだ。
俺はもう警察をアテにするのはやめたんだ。
マデューを指さし、言葉を続ける。
天野勇二
いいか涼太よ。
首吊りによる『
首を絞めて殺す『
これは似たように見えるが、そもそもの『死因』が違うんだ。
この俺でも見ればすぐにわかる。
天野は床に散らばった『タロットカード』を飛び越え、マデューの死体に近づいた。
まず首元を確かめる。
『麻縄』が首に強く食い込んでおり、それ以外の
その他に目立つのはいくつかの引っかき傷。
恐らく爪などによるものだ。
マデューの爪を見ると、赤いマニキュアを塗られた爪がボロボロに折れていた。
天野勇二
間違いない。
『
『首吊り』によって死んでいる。
しかも意識がある状態で首を吊ったようだ。
もがいて首や縄を引っ掻いた痕もある。
佐伯涼太
マ、マジなの……!?
じゃあ自殺ってこと!?
なんで!?
なんでマデューが自殺したの!?
天野勇二
そんなの俺が聞きたいさ。
なぜ首を吊った?
しかも、この『タロットカード』はなんだ……?
天野はマデューの足元を見つめた。
排泄物の下に『タロットカード』が散らばっている。
かなりの枚数だ。
表にはカラフルな絵柄。
裏には黒い
天野が目にしたことのある、マデューの『タロットカード』と同じデザインだ。
カラフルな絵柄がマデューを
天野勇二
なぜ、死体の下に『タロットカード』がばら撒かれているんだ……?
……いや。
死体を調べるほうが先決だ。
こんなカードはどうでもいい。
天野は改めてマデューの死体を見上げた。
『首吊りによる殺害』というものは、想像以上に困難かつ現実的ではない殺害方法のひとつだ。
まず『輪っか』のついたロープに、人間の首を入れることが難しい。
重量のある人体を引き上げることも難しい。
被害者が抵抗し、『輪っか』から首を外されれば、その時点で殺害は失敗。
まず1人では実行できない。
どうしても1人で実行したいのであれば、薬を飲んで眠らせるか、なんらかの『トラップ』や『
どのようにしてマデューを『首吊り』まで追い込んだのか。
薬物でも飲ませたのか。
脅して行動を支配していたのか。
何らかの催眠状態に陥れたのか。
それとも、本当は『自殺』だったのか。
現時点では天野でも判断がつかない。
しかし、首には『その他の
天野はそのように判断して調べ始めた。
まず所持品だ。
マデューのポケットの中。
靴の中も調べる。
天野勇二
……何も持っていない。
紙切れひとつ持ってないぞ。
おかしい。
あるべきものがない。
マデューの所持品が消えている。
足首にあるというGPSがついたアンクレット。
タロットを触る際に使っていた『革手袋』もない。
右の足首を見ると、不自然に大きな傷が残っていた。
天野勇二
何かで切られたような傷痕だな……。
ごく最近の傷だ。
アンクレットがあったと思われる箇所には大きな傷痕。
そして所持品が消えている。
これは『ひとつの可能性』を示している。
『犯人』もしくは『第三者』が持ち去った、ということだ。
天野は首筋に食い込んだ麻縄を注意深く調べた。
慎重に麻縄をずらしてみる。
そこに1枚の『紙切れ』が挟まっていた。
天野勇二
うん……?
なんだ、これは?
首と麻縄の間。
縦横1cmほどの大きさ。
何かのカードの
どんな絵柄が描かれているのか、この紙切れだけではわからない。
天野は足元のタロットカードを見つめた。
天野勇二
まさか……。
『タロットカード』か……?
なぜ『欠片』がここに挟まっている?
全て床に落ちているじゃねぇか……。
マデューの足元。
そして店内の床を調べる。
それなのになぜか、首筋には『欠片』が残っていた。
天野勇二
まるで『隠されていた』かのようだな……。
そう呟いた時。
ひとつの閃きが
天野勇二
まさか……。
いや、そうとしか考えられない。
天野はしゃがみこみ、床に散らばったタロットカードを集め始めた。
何の変哲もない紙で作られたカードだ。
涼太が嫌そうに声をあげた。
佐伯涼太
だ、大丈夫?
そんなに触っていいの?
しかもそれ、なんか汚れてない?
天野勇二
ああ、マデューの排泄物が付着している。
佐伯涼太
ひぇぇっ!?
そんなの触らないほうがいいよ!
悲鳴を無視して、全てのタロットカードを集める。
それを涼太に差し出した。
天野勇二
ほらよ。
佐伯涼太
うぇ?
な、なに!?
天野勇二
枚数を数えてくれ。
佐伯涼太
えぇっ!?
ぼ、僕がぁ!?
天野勇二
お前以外に誰がいるんだよ。
俺は死体を調べるから、その間に数えてくれ。
指紋を残すんじゃないぞ。
涼太は泣きそうになりながらカードの枚数を数え始めた。
天野は慎重に手を伸ばし、マデューの苦悶に満ちた死に顔、そして頭部の状態などを確かめる。
まだ
死亡したのは1~2時間以内のことだろう。
天野勇二
……
どこも綺麗なものだ。
慎重に衣服をはだけさせ、肌の具合を確かめる。
こちらも目立った外傷は見当たらない。
外傷と呼べるものは、足首に残っていた何かの切り傷のみ、ということになる。
天野勇二
つまり……。
マデューは誰かと争っていたワケじゃなかった。
ましてや拘束されてもいなかった。
それなのに首を吊ったのか……。
もう一度、マデューの顔を確かめる。
誰かが変装していることもなければ、特殊メイクを施されていることもない。
DNA鑑定をしなければ確かなことはいえないが、『マデュー本人である』とみて間違いないだろう。
天野勇二
おい涼太よ。
タロットカードは何枚あった?
涼太は震える声で答えた。
佐伯涼太
21枚あるよ。
天野勇二
なんだと?
本当にちゃんと数えたのか?
佐伯涼太
う、うん。
何度も数えた。
間違いなく21枚ある。
天野は
天野勇二
マデューは『大アルカナ』をメインに使っていた。
大アルカナは『22枚』あるんだ。
1枚足りないじゃねぇか。
佐伯涼太
そ、そうなの?
でも、21枚しかないよ。
天野勇二
どの『アルカナ』がないんだ?
涼太は困り顔を浮かべた。
涼太はタロットなんて詳しくない。
佐伯涼太
わ、わかんないよ。
なんか星とか……。
人っぽい絵が描かれてるけど。
天野勇二
しょうがねぇな。
そこに並べてみろ。
涼太は涙目で床にタロットカードを並べた。
正位置も逆位置も涼太は知らない。
ただ均等に並べた。
天野勇二
どれどれ……。
『
『
『
『
『
並べられたアルカナを見て、ひとつひとつ口に出して確かめる。
天野勇二
『
『
『
『
『
『
『
『
『
涼太は涙目でアルカナを口にする天野を見つめている。
天野勇二
『
『
『
『
『
『
『
なるほど……。
確かに21枚しかない。
アルカナが1枚、消えているな。
天野は首を傾げながら、マデューの首に挟まっていた『欠片』を見つめた。
佐伯涼太
ね、ねぇ勇二……。
なんのアルカナがないの?
天野は『欠片』を涼太に見せながら言った。
天野勇二
足りないのは『
なぜか『
22,012
『女帝』
【正位置の意味】
繁栄、豊穣、母権、愛情、情熱、豊満、包容力、女性的魅力、家庭の形成など。
【逆位置の意味】
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