( ゚д゚)
天野は秋葉原で夜までの時間を潰した。
日付が変わり深夜になると、涼太が
佐伯涼太
やっほー。
勇二、お待たせ。
天野勇二
ご苦労だったな。
茨城のキモオタはどうだった?
涼太は吐き捨てるように言った。
佐伯涼太
もう『真っ黒』。
完璧に『クロ』だったよ。
家にいるくせにチャイムを押しても出て来ないから、窓を蹴り破って侵入したんだ。
VRヘッドセットでアダルトな動画を見てたからさ、テレビに頭を挿入させてあげたよ。
天野勇二
おいおい……。
いきなりそれかよ。
ただの暴力犯じゃねぇか。
もっと周辺を洗えよ。
佐伯涼太
いや、僕の天才的なチャラ男のカンが「ここだ」って告げたね。
ピカーンってきたよ。
涼太はかなり興奮している。
懐からUSB端子のついた小さな機械を取り出した。
佐伯涼太
すぐに見つかったよ。
あの
この機械をマデューから貰ったんだって。
マデューの居場所が追える特殊な
通常時であればPCに接続することにより、マデューのアンクレットのGPSを探知することができる。
天野勇二
寺嶋が持っていたものと同じ箱だな。
コイツは使ってみたのか?
佐伯涼太
うん。
試しにキモオタのPCでネットにつなげてみたよ。
涼太は残念そうに首を横に振った。
佐伯涼太
でも使い物にならなかったよ。
ガチでマデューは『ウイルス』を用意してる。
このソフトはネットを通じてサーバーにアクセスするみたいなんだけど、ネットと繋がった瞬間にウイルスを送られたよ。
ソフトが起動した直後に変なファイルを隠れて受信して、PCごとダメにしちゃって、ソフトはアンイストールされる。
マデューを追う手がかりにはならないね。
天野は小さな機械を放り投げた。
マデューの行方は追えない。
それは最初から理解していることだ。
問題なのは、これを持っている人間が『マデューのクライアント』である可能性が高い、という点だ。
天野勇二
それで……。
そいつは、前島の抹殺を願った
涼太は悔しげに頷いた。
佐伯涼太
軽く痛めつけたら簡単に白状したよ。
茨城のキモオタがマデューに依頼した『クライアント』だった。
宝くじで大金を手にしたから、以前から嫌いだった前島さんを殺すように依頼したんだって。
マジでムカつくことにさ、あのキモオタ、殺しを依頼したことをすっかり忘れてたんだ。
涼太は拳を握りしめた。
佐伯涼太
しかも驚いたよ。
マデューに『5千万円』も払ったって言うんだ。
マデューの請求金額は前金5千万。
成功報酬でまた5千万。
つまり『1億円』なんだって。
天野勇二
なんだと?
その男は5千万も払ったくせに、依頼したことを忘れていたのか?
佐伯涼太
そういうこと。
キモオタは株やFXで資産をうまく増やした上に、結構な資産家の息子らしくてさ。
1億ぐらい出せないこともなかったんだって。
ただのアイドルファンが1億円出しても『握手』しかできない。
でも自分ならアイドルを『殺すこと』ができる。
それが面白いとか思ったんだってさ。
天野は呆れたように言った。
天野勇二
とんでもないクズだ。
ちゃんと制裁したのか?
佐伯涼太
もちろんだよ。
フルボッコにしてきたよ。
僕ちゃんのこれまでのフラストレーションを全てぶつけてやった。
警察に突き出しても
しっかり制裁して、いつものように『お仕置き動画』も撮影してきたよ。
『お仕置き動画』とは、天野たちがストーカーなどの犯罪者を処刑した後、自らの罪を自白させた動画のことだ。
完全なる
天野勇二
それでいい。
俺様としては残念だが、生かしてやったんだな。
佐伯涼太
さすがに『殺し』はできないよ。
でもきっと、勇二が一緒だったらキモオタを殺してたね。
僕だけを行かせて正解だったよ。
天野は疲れたように頷いた。
クライアントと直接対面した時、天野は自らの殺意を抑える自信がなかった。
だから涼太だけを行かせたのだ。
天野勇二
クライアントはこれで始末できたな。
佐伯涼太
うん。
もう前島さんに関わることはないと思う。
自分のリハビリで一生を過ごすはずだよ。
涼太はかなり物騒なことを言っている。
普段は軽薄なチャラ男だが、怒らせればそれなりに怖い。
親友は大怪我を負わされ、後輩は何度も殺されかけ、無関係な人間が何人も命を落とした。
それらの恨みを全てぶつけてきたのだ。
不幸なキモオタだったが自業自得だった。
天野勇二
涼太よ。
ひとつ残念な知らせがある。
ハニーが事件性のない『変死』と断定された。
天野が言うと、涼太も悔しげに頷いた。
佐伯涼太
それ帰りのラジオのニュースで聴いたよ。
ハニーちゃんの衣服からMDMAが見つかって、家でもクスリが発見されたんだってね。
マジで酷い話だよ。
あの子は絶対にジャンキーじゃなかった。
みんなの供述は全部無視されたんだね。
天野勇二
ああ、ここまで警察が無能だとは思わなかった。
ドラッグを飲まされた場面は誰も見ていない。
大量のドラッグを所持しており、薬物中毒者である可能性が高い。
だから『自殺の可能性が高い変死』だとよ。
ミルクが襲われた事件とは別に処理しやがった。
恐らく立件が困難だから早い段階で投げ出したのさ。
マジで警察は使えないぜ。
佐伯涼太
まったくだね。
これからどうするの?
天野は自らのスマホを見つめた。
天野勇二
マデューの動きを待つしかない。
だがクライアントが潰された以上、前島を殺すなんて危険な橋を渡らず、5千万を持ち逃げしてもいいはずだ。
このままフェードアウトされるのが一番の心配だな。
涼太は悔しげに呟いた。
佐伯涼太
ここまでくると、それでもいいかなって思うよ。
もう十分に前島さんのキャリアは傷ついた。
これ以上何かしてほしくないね。
天野勇二
ああ、特に第三者を巻き込まれるのが厄介だ。
俺の読みであれば、そろそろ動くはずだと思う。
佐伯涼太
前島さんはフランスに行っちゃったから、勇二に復讐しようとしてくるかな?
天野勇二
そうであってほしいぜ。
マデューのヤツだけは、この手でぶち殺さないと気がすまない。
涼太は複雜な気分でその言葉を受け止めた。
天野は本当にマデューを殺してしまうかもしれない。
今の手負いの天野なら、涼太でも止めることは難しくない。
しかし、マデューなんて「死んだほうが世の中のためだ」と涼太も考えている。
まだ警察はマデューの存在を公開していない。
「捜査さえしていない」という、最悪の可能性も想定できる。
このままでは警察に突き出しても
マデューを逮捕しても事件は解決しないのだ。
天野勇二
……むっ、きた!
きたぞ!
天野のスマホがついにマデューからのメールを受信した。
佐伯涼太
きたの!
どんなメール!?
天野勇二
待て。
受信している。
かなり重いファイルだ。
動画か?
スマホが完全にメールを受信した。
相変わらず文章は何も書かれていない。
添付ファイルがひとつあるだけ。
天野の言った通り『動画』だ。
天野は涼太にも見えるように動画を再生した。
マデュー
…………
スマホの画面は1人の男を映している。
マデューの姿だ。
冷たい笑みを浮かべている。
背後に広がっているのはメイド喫茶の内装。
『メイドさんまでイッテQ』の店内だ。
店内の中央にはカウンター席のスツールが置かれており、マデューはその上に立っている。
天井からは『一本のロープ』がぶら下がり『輪』を作っている。
マデューはその中に首を入れ、喉元でロープを握りしめていた。
手袋などは装着していない。
マデューが自慢していた赤いマニキュアの塗られた爪が、不気味な色を放っている。
マデュー
……やぁ。
天才クソ野郎さん。
キミは本当にやってくれるね。
マデューは狂気に満ちた笑みを浮かべた。
マデュー
まさか、キミにここまでコケにされるとは思わなかったよ。
ターゲットを海外に飛ばすという強硬手段に出るとはね。
恐れ入ったよ。
ボクには手出しできず見つけられない。
でも、それが災いを招くと知らないなんて、哀れなことだよね。
狂気に満ちた笑みを浮かべながら叫ぶ。
マデュー
ムシュー!
またキミのせいで人が死ぬ!
お待ちかねの『アルカナの予告』だよ!
全ては『アルカナの導き』を妨げるキミのせいなんだ。
キミはそろそろ犠牲者を減らすために自殺するべきだね。
マデューはそう言うと、首元のロープを見つめた。
マデュー
次は『
誰が首を吊るのかな?
キミの大切なお友達なのか。
それともまったく関係のない誰かなのか。
それともムシュー。
キミなのか。
フフッ……。
アルカナが導く結末を楽しみにしているんだね。
動画はそこで途切れた。
天野はすぐさま叫んだ。
天野勇二
メイド喫茶だ!
涼太!
メイド喫茶まで飛ばせ!
佐伯涼太
わかった!
涼太は一方通行も信号も無視して、『メイドさんまでイッテQ』の前に車を横づけした。
車から飛び降り、涼太が叫ぶ。
佐伯涼太
ゆ、勇二!
店の明かりがついてるよ!
メイド喫茶は22時に閉店する。
今はもう深夜の3時。
この時間に明かりがついているなんて不自然だ。
天野は扉を開け放とうとしたが、鍵がかかっていて開かない。
天野勇二
くそっ!
涼太!
蹴破れ!
メイド喫茶の扉は木製だ。
鍵もそこまで頑丈ではない。
天野と涼太は前蹴りを何度も放ち、扉を蹴破った。
飛び込むように店内へ入る。
天野勇二
な、なんだと……。
天野は
涼太は驚きのあまり腰が抜け、その場に崩れ落ちた。
店内の中央。
1人の人間が『
紫色に腫れあがった顔。
真っ赤に盛り上がった目。
口からは舌が不自然に長く飛び出している。
佐伯涼太
ど、どういうことよ!
なにこれぇ!?
涼太が震えながら叫ぶ。
天野は呆然と店内を眺めた。
生きた人間の気配は自分たちしかいない。
床を見ればカウンターチェアのスツールが倒れている。
その側には『何枚ものカラフルなタロットカード』が散らばっている。
その死体は、タロットカードの上で、静かに佇んでいた。
アルカナの支配者。
マデューの最期だった。
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