マデュー

なんだいムシュー。
さっきから黙り込んじゃって。
もしかして死んじゃった?
ボンソワール?
起きてるかいムシュー?



 天野は舌打ちしながらマデューを睨んだ。



マデュー

ああ、良かった。
まだ生きていたみたいだね。
キミは臆病者だからさ、恐怖のあまりショック死を起こしたのかと思ったよ。
生きていてくれて何よりだ。
まぁ、この場で、ボクという強者にやられて死ぬんだけどね。

フフッ。
何が天才だよ。
チンケな人間のくせに思い上がっちゃってさぁ。


 マデューがまた挑発を飛ばす。


 天野は大きく深呼吸した。


 怒りを飲み込んで冷静さを取り戻す。



 マデューは天野が襲いかかってくるのを待っている。


 この状況でマデューを襲っても、手負いの天野では確実に倒せるか怪しい。


 何より人目が多すぎる。


 遠くから消防車やパトカーのサイレンも響いている。


 倒した直後、目撃者などに取り押さえられるだろう。



天野勇二

(落ち着け。ここは落ち着くところだ。ここでの選択ミスは命取りになる。俺が警察に勾留こうりゅうされたら、誰が前島を守るというんだ)



 天野は涼太の車を見つめた。


 後部座席には前島がいて、涙目で天野たちの状況を見守っている。


 それを見て天野は気づいた。



天野勇二

(そうか……! 今の前島は俺が保護している。この後はマデューの手が届かないところへ移送するだけだ。つまり、主導権イニシアチブを握っているのは俺なんだ)



 天野は右手をマデューに突きつけると、心底楽しそうに高笑いをあげた。



天野勇二

アーーーーーーーッハッハッハッハ!

マデューよ!
挑発が安いんだよ!
そんなもので俺様が動くと思うのか?



 マデューが驚いて目を見開く。


 天野はその顔に叩きつけるように言葉を吐いた。



天野勇二

チンケな臆病者チキンは俺様じゃない。
お前だよマデュー。
俺様はもうお前のトラップを4つも壊してやった。

交通事故もダメ。
爆破事故もダメ。
自殺もダメ。
事故死もダメ。

お前のアルカナは何も導いていない。
何もかもが失敗している。
お前のタロットは何ひとつマトモなことを占ってはいない。
つまり、ケツを拭く便所紙ほどの価値もない、というワケだ。

もうお前は『アルカナの支配者』じゃない。
『アルカナの下僕げぼくだよ。


 マデューは表情を一変させた。


マデュー

……キミは本当にイライラする男だね。
ボクが見た中で、キミは最悪にイラつく男だよ。

天野勇二

奇遇だなぁ。
俺様も同じ気持ちだ。
初めて意見が一致したな。


 どうやらマデューはタロットに関係すること』に感情を乱されるようだ。


 天野はそう判断し、偉そうに言葉を続けた。


天野勇二

お前のアルカナは本当に役に立たねぇな。
そんなクソみたいな汚いカード、産業廃棄物として捨てればいいんだ。

次のアルカナはなんだ?
言ってみろよ。
どうせ何もないんだろう?

いやせっかくだ。
俺様が指名してやろうじゃないか。


 マデューは心底不快そうに顔を歪めた。


マデュー

やめてくれるかな。
キミみたいな無知な男にアルカナを語られると虫唾が走る。


 天野は無視して吐き捨てた。


天野勇二

俺様は無知じゃねぇんだよ。
タロットもよく知っている。

そうだなぁ……。
『ハングドマン』なんてどうだ?
刑死者である『吊るされた男』
お前の最後に相応しいじゃないか!

俺様はもうわかってるんだ。
なぜお前が俺様の前に現れたか。
お前は焦ってるんだろう?
全てのトラップが失敗に終わり、前島は行方の知らないところに隔離される。
もうお前には探す術がない!



 右手を翻し、天野は楽しそうに叫んだ。



天野勇二

だからお前は焦って俺様の前に現れた!
俺様を逮捕させるために喧嘩を挑み、その隙に前島を狙う!
お前にはもう前島の行く手を追う術がないからなぁ!


つまりマデューよ。
もうアルカナはないんだろう?
お前のタロットなんて所詮は 『まがい物』なんだよ!



 マデューは薄い笑みを浮かべ、天野の瞳を見つめた。


 その灰色の瞳は燃えるような怒りに満ちている。



マデュー

……なるほどね。
ようやくキミの『あだ名』の意味を理解したよ。
天才クソ野郎……。
確かに、ムシューにこそ相応しい名だ。

天野勇二

褒めていただき光栄だ。
さて、俺様はお前のターゲットを隔離させてもらう。
もうお前は手出しできないぜ。


 マデューは冷笑すると、懐から一枚の写真を取り出した。


マデュー

残念だよムシュー。
『アルカナの導き』は絶対なんだ。
キミがどれだけ彼女を守りたくとも、最後はボクのアルカナに導かれる。
これをプレゼントしよう。


 マデューは写真を差し出したが、天野は受け取る気もなかった。


天野勇二

いらねぇよ。
お前からのプレゼントなんか不要だ。

……いや待て。
やはり頂こう。
そしてこうしよう。


 天野は写真を受け取ると、映っているものを確かめず、即座にビリビリと破り捨てた。


天野勇二

プレゼントを頂いたぜ。
じゃあな。


 天野があっさり背中を向けると、マデューが苦笑いを浮かべた。


マデュー

ムシューは疑い深いんだね。
じゃあ仕方ない。
メールで送るよ。

天野勇二

なに?
メールだと?


 マデューは懐からスマホを取り出し、鼻歌を奏でながら操作を始めた。


マデュー

ムシューを調べるのは簡単だったよ。
何せキミに恨みを持っている人間は山ほどいたからね。


 天野のスマホが何かのメールを着信した。


天野勇二

おいおい……。
俺様がお前からのメールを見るとでも思うのか?
即座にプロックしてゴミ箱行きだ。

マデュー

見たほうがいいと思うよ。
キミは『アルカナの導き』を邪魔した。
その報いがキミにやってくる。

いわば、これは『アルカナの予告』かな。

キミが『アルカナの導き』を妨げると無関係な誰かが死ぬというワケさ。


 さすがにその言葉は無視できなかった。


 険しい顔で問い詰める。


天野勇二

どういうつもりだ?
また無関係の人間を巻き込むのか!?

マデュー

さぁ?
どうだろうね?

でもこれはムシュー。
キミのせいなんだ。
キミという悪が地球に存在するからいけないんだよ。

天野勇二

俺様のせいにするんじゃねぇ。
そんなに殺したいなら真正面から来いよ。

マデュー

ボクはそれでもいいんだけどね。
ボクの『アルカナ』は、そんな結末を望んでないんだ。


 天野がスマホを開くべきか迷っていると、マンションに大きなサイレンを鳴らしながら消防車が入ってきた。


 背後にはパトカーとマスコミの姿まである。


天野勇二

ちょうどいい。
警察だ。
お前をタレこんでやる。

マデュー

余計なことはやめたら?
証拠なんかないんだよ?
前島悠子の連れが余計なことをしたって、変なスキャンダルになるんじゃないの。


 マデューは困惑したような口調だ。


 警察に突き出されるのはマズイ、という印象を天野に与えている。


 それさえも『ブラフ』だろうと、天野は感じた。


天野勇二

チッ……。
俺様が警察に駆け込むことは想定済みか。
それに関する布石は打ってありそうだな。

マデュー

フフッ……。
さぁね。
詳しいことはアルカナに訊いておくれよ。



 天野は迷った。



 警察にマデューのことを告げるべきか。


 だが、こちらの武器は『偽造された遺書』『屋上に誘導した手紙』しかない。


 それらをマデューが作成した証拠はない。


 マデューが知らないと言い切れば、証拠不十分で不起訴になるだろう。


 その間、天野は前島を守ることができなくなる。




 天野は不敵な笑みを浮かべると、マデューに指を突きつけた。



天野勇二

マデューよ。
俺様はお前を絶対に許さない。
いつかそのニヤけたツラを粉々に破壊して、完全に息の根を止めてやるよ。



 マデューも挑発的に微笑んだ。



マデュー

ムシュー。
ボクも言わせてもらおう。
ボクもキミのような『アルカナの導き』を妨げるものは容赦しない。
天国まで前島悠子と付き合ってもらうよ。


 冷笑しながら言葉を付け加える。


マデュー

もっとも、キミが天国に行ければ、の話だけどね。
キミのような悪人は地獄がお似合いだ。
地獄で呻いているキミの姿が目に浮かぶようだよ。

天野勇二

上等だ。
それなら地獄まで付きあわせてやる。
覚悟しておけよ。



 天野はそう言うと、今度こそマデューに背を向け、涼太の車の後部座席に乗り込んだ。


 涼太と前島はずっと車内から天野たちを見守っていた。


 何を話しているのか聞こえなかったが、マデューの姿は2人とも認識していた。



佐伯涼太

ゆ、勇二……?
ど、どうなったの?
マデューはいいの?

天野勇二

ああ、ここじゃ人が多すぎる。
殺すのは次の機会に持ち越すことにした。

佐伯涼太

そ、そ、そうなんだ……。
僕はどこに行けばいい?

天野勇二

とりあえず車を出せ。
お前が愛用してるラブホのひとつまで走らせろ。
走りながら説明する。

佐伯涼太

わ、わかった。


 涼太は急いでアクセルを踏み込んだ。


 天野がもう一度窓の外を見た時、そこにマデューの姿はなかった。






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つばこ

マデューとしても、前島ちゃんをどこかに移送されるのは困るワケですね。確かに天野くんは尾行を警戒するでしょう。事務所の人間にも居場所を伝えません。そうなると、さすがに『アルカナの支配者』といえでも手出しはできない、ということなんですね。
 
【つばこへの質問コーナー】
『つば旅の担当さんと、天クソの担当さんは同一人物なのですか?宜しければ担当さんの説明も可能な範囲でぜひ!』
 
担当さん(♀)は同一人物です!
実は『天才クソ野郎の事件簿』の「彼が上手に名探偵になる方法・81話」にて4人の脇役のイラストが登場しておりますが、それぞれが当時のノベル担当をモデルに描かれてます。その中の1人です。
なので打ち合わせ時に「私を殺人犯にした上に涼クンにビシバシ蹴らせるなんて何か恨みでもあるんですか( ゚д゚)」と怒られることがあります(´∀`*)ウフフ

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コメント 37件

  • アオカ

    マデューが渡した写真ってなんだったんだろ…

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  • 太宰雅

    前回も言ったんですけど、マデューの方が好みなんです。
    どうしよう・・・。

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  • 佐倉真実

    マデューって結局何者なんだろう…?

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  • ひとよ

    た、担当さん……?!!

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  • 琥珀

    メアド調べられるならGPSで居場所わかっちゃいそうだけど…。
    さすがのマデューもそこまでは出来ないのかな。

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