天野たちは神崎記念総合病院のVIP室にいた。



 先ほどからテレビのニュースを観ている。



 ニュースは何度も『国民的アイドル前島悠子の交通事故』と、『前島悠子が入院していた病室が爆発』したこと、そして『前島悠子の失踪』を報じていた。



リポーター

前島悠子さんが病院を抜け出した、という目撃情報もあり、警察は行方を追うとともに、何らかの事件に巻き込まれた可能性もあるとみて、捜査を続けています。



 リポーターが青白い顔で喋っている。


 国民的アイドルが事故に遭っただけでも大騒ぎなのに、病室が爆破され行方不明だ。


 どのテレビ局もこの事件を報じている。


 天野はテレビを睨みながら言った。



天野勇二

クソが……。
いったい、何を使いやがった……。
まさか爆破とはな……。


 隣では涼太が青い顔でニュースを観ている。


佐伯涼太

まずいね……。
これはマジで、マデューの仕業かもしれないね。


 そう呟くことしかできない。


 前島はソファの上で震えている。


前島悠子

爆発したの……。
間違いなく、私がいた部屋です。
ただの、病室だったのに……。



 報道では爆発の原因は不明。


 現在総動員で調査中と報じている。



天野勇二

ちくしょう。
病室ごと爆破ときたか。
あの野郎、無関係な人間を巻き込んでも構わないと考えてやがる。
病院を爆破なんて、テロリストでもそうそうやらねぇぞ……。



 天野は愚痴りながら思考を巡らせた。


 病院には爆弾になるものが無数に存在する。


 例えば高気圧酸素治療器を稼働させて、中にマッチかカイロを放り込んでおけば、病室ぐらいは吹き飛ばせる。


 もしその方法で殺害したとしても、マッチやカイロを仕掛けた証拠が見つからない限り、事故死として扱われてしまうだろう。



天野勇二

前島、部屋に何かあったか?


 前島はブンブンと首を横に振った。


前島悠子

ただの個室の、病室だったと思います……。
ベッドとテレビがあるくらいで……。

天野勇二

不審者が出入りしなかったか?

前島悠子

部屋に入った人たちなんて、看護師さんと、お医者さんと、警察と……。
後は事務所の人たちだけです。
知らない人なんていませんでしたよ。


 涼太が静かに口を開いた。


佐伯涼太

これは間違いなく、前島さんの居場所を知っている人間の犯行になるよね。
もちろん、前島さんとは関係なく、ただなんとなく病室を爆破させたかった……。
もしくはただの事故って可能性もあるけど……。


 涼太は首を横に振った。


佐伯涼太

ありえないね。
前島さんを狙った。
そうとしか思えないよ。


 天野も頷いた。


天野勇二

必然的に犯人は病院関係者、警察、アイケープロのどれか。
もしくはどこかに情報を漏らしたバカがいるか、内通者スパイが潜んでいるのか……。
どの可能性もありえそうで決定打に欠ける。
誰が犯行に及んだのか断定できないな。


 天野は悔しそうに顔を歪めた。


天野勇二

それにもしかすると、これは『警告』かもしれない。
無人の病室を見て犯人は失望した。
俺たちに出し抜かれたことに気づいた。
だからあえて威嚇いかくのために爆破した。

佐伯涼太

犯人は本当にマデューなのかな。
こんな手際良く、爆破できるものかな?


 天野は冷静に言った。


天野勇二

事故は不審車によるもの。
前島のいた病室が爆破。
マデューが殺すと宣言している。

これだけ揃ってマデューの犯行と断定は…………できないな。

くそっ。
本当に嫌なやり方だぜ。
あのタロット野郎め。



 天野はテレビを消してベッドに寝転んだ。


 今は神崎記念総合病院のVIP屋に3人は揃っている。


 この病院のセキュリティはかなり強く、夜間になれば病院の出入口はもちろん、エレベーターや階段にもロックがかかる。


 それぞれ特別なカードキーがないと出入りすることができない。


 そして、そのカードキーは全て天野が持っている。


 当直の医師と看護師にも夜間の移動を控えるよう伝えているのだ。


 この部屋にいる限りは安心といえる。



佐伯涼太

まいったね。
これ富樫くんにも伝えたほうがいいかな。


 天野は首を横に振った。


天野勇二

それはダメだ。
富樫を巻き込むことになる。

佐伯涼太

でも富樫くんから、前島さんの失踪についてメールがきてるんだ。
めっちゃ心配してるよ。
なんて返信しよう?

天野勇二

保護してるから安心しろ、でいいだろう。
この場所は伝えるな。


 天野はそう言うと虚空をじっと睨みつけた。


 前島が不安げに天野の腕にすがりつく。


前島悠子

師匠、これからどうしましょう。
さすがにずっと雲隠れはできません。

天野勇二

ああ、お前には仕事があるからな。
さて、どうしたものか……。

今日はこれで乗り切れても、明日以降が問題だ。
事務所に内通者がいれば、居場所はすぐに特定される。
しかも俺様は手負いだ。


 そこまで言って思い出した。


天野勇二

そうだ涼太よ。
メイドのオフは押さえられたのか?


 涼太は親指を上げて答えた。


佐伯涼太

そこはバッチリ。
でもどうしよう。
一応こっちは勇二と富樫くんを含めて3人って伝えてある。
向こうはミルクちゃんともう1人だから、僕と富樫くんだけでも回せると思うけど。


 天野は当たり前のように言った。


天野勇二

もちろん俺様も行く。
いつだ?

佐伯涼太

明後日。
でも勇二はその怪我で大丈夫?

天野勇二

所詮は2週間の入院だ。
熱傷が少々気になるが、まぁ問題ないさ。



 天野は軽く笑ってみせたが、それが自殺行為であることは、医学生である天野自身がよく理解していた。



 背中に広がる熱傷はかなり酷い。


 少なくとも48時間以内はショック死の危険が伴い、本来であれば外出なんて絶対に許されない。


 この時点でも高熱があり、軽い脱水症状を起こしている。


 天野は自らが死の淵に立っていることを強く感じていた。



天野勇二

ギプスを巻いてまで、メイドと遊びたい男か……。



 おどけたように笑ってみせる。


天野勇二

天才クソ野郎としては最高に無様な姿だ。
我ながら吐き気がしてくるぜ。
しかし、そこしかマデューへの突破点はないからな。


 前島がちょっと頬を膨らませて抗議した。


前島悠子

師匠、メイドと遊ぶって、どういうことですか。

天野勇二

どうもこうもないさ。
コンパをするんだよ。
特上の部屋を使おう。

前島悠子

むー。
私も行っていいですか。

天野勇二

ダメに決まってるだろう。
お前は仕事だ。

前島悠子

じゃあ仕事の間は、誰が守ってくれるんですか。



 天野はそれを聞いてため息を吐いた。


 唯一信頼できるマネージャーの川口は重症だ。


 しばらく退院もできない。



天野勇二

涼太、お前に任せる。
確実に落としてくれ。

佐伯涼太

オッケー。
まかせてよ。
僕ちゃん極道や殺し屋には弱いけど、女の子にはめっちゃ強いからね。
勇二の分までパコってくるよ。



 涼太は軽口を叩いたが、その目は全く笑っていなかった。


 これがもし、本当にマデューの仕業ならば、天野と前島を殺害しようとした史上最悪の敵だ。


 涼太は一切容赦する気がなかった。



 天野は少し思案すると前島に告げた。


天野勇二

お前は明日から仕事に復帰しろ。
交通事故に爆破事故、この上で失踪だなんてお前のキャリアに傷がつく。
何事もなかったかのように復帰するぞ。

前島悠子

は、はい。
わかりました。

天野勇二

仕事には俺様が付き添う。
誰が何を言っても、傍に俺様を置け。
お前のマネージャー代理だと説得するんだ。


 前島は一瞬嬉しそうな笑顔を浮かべたが、すぐにしょんぼりと肩を落とした。


前島悠子

師匠、本当にすみません。
本来なら、入院していただかなくてはいけないのに……。
私のせいで、ご迷惑をおかけして……。



 天野は「クックックッ」と気障キザったらしい笑みを浮かべた。



天野勇二

かなり手酷くやられたが、俺たちは負けたワケじゃない。
川口は無事だった。
俺様もお前も生きている。
結果オーライさ。



 指先をパチリと鳴らし、偉そうな指揮者のように振り回す。


 右腕だけの、少しだけ弱々しい、いつもの気障キザったらしいジェスチャー。


 指先を何度かひるがえすと、天野は前島の胸元を指さした。



天野勇二

お前は俺様にとって、たった1人の弟子だ。
必ず守ってやる。
それが師匠の務めというものさ。
それに、いつも言っているだろう?



 自らの左胸を親指でさし、気障ったらしく言い放った。



天野勇二

天才クソ野郎にかかれば全てうまくいく。
たった1人の弟子を守ることなんて、赤子の手を捻るより容易いことさ。



 ヘラヘラと笑みを浮かべる。


 前島は涙を拭いながら頭を下げた。



前島悠子

すみません……。
いつも私、師匠に助けられてばかりで……。

天野勇二

そんなことはないさ。


 天野はシャツを脱ぐと、うつ伏せになってベットに寝転んだ。


天野勇二

背中に薬を塗ってくれ。
お前にしかできない仕事だ。

前島悠子

師匠……。
本当に、ありがとうございます……。

天野勇二

気にするな。
俺たちはチームだろう?



 天野は楽しげに笑ってみせた。



 背中には酷い火傷が広がっている。


 これは一生、残る傷になるだろう。


 まだ皮膚が安定しておらず、本来であれば動くことも厳禁なほどの怪我だ。



前島悠子

師匠……。



 前島は涙を流しながら、天野の背中を見つめた。


 この傷にどれだけの恩を返せばいいのか、前島にはわからなかった。




天野勇二

(さて……。問題は明日だ。マデューの尻尾を掴むには、どうすればいい……?)



 天野は険しい表情を浮かべ、マデューへ復讐する方法を考えていた。







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つばこ

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コメント 51件

  • Y

    コロナカカラナクナールほしいなあ、、

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  • rtkyusgt

    天野ほんと優しすぎる。
    こんな時でも弟子を思って・・・。

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  • アオカ

    本編シリアスなのに作者コメで笑ったwww
    ついでに一位コメにも笑ったわwwwwww

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  • 太宰雅

    天野が優しい・・・。

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  • sla

    「馬鹿は風邪をひかない」

    確かにこれは嘘

    本当は

    「馬鹿は風邪をひいたことに気がつかない」

    *自分のことです///

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