天野たちは中央通りに出ると、すぐさまタクシーを捕まえて秋葉原の街から逃げ去った。


 寺嶋の『シマ』がどこまでか不明なので、とりあえず六本木までタクシーを走らせた。



天野勇二

お前ら。
まずは説教だ。



 六本木の喫茶店に入りコーヒーを頼むと、天野はしょぼくれた涼太と富樫に説教を始めた。



天野勇二

なぜ、俺様が変装しているのに本名で呼ぶんだ!

俺様は好き好んであんな仮面を被ったワケじゃねぇんだぞ!
視界は狭いし、呼吸は苦しいし、相手はヤクザでクソ強いじゃねぇか!
くそっ……。
仮面さえなければ、指をポキッと折って全身の骨をバラバラにしてやったのによ!



 どうやら天野にも事情があって仮面をかぶっていたようだ。


 マデューに関係する者であれば、素顔をさらけ出すことは避けたい。


 相手が極道であれば尚更のことだ。


佐伯涼太

ごめんよ勇二……。
マジで助かった……。
勇二がいなかったら殺されてたよ……。

天野勇二

ああ、念の為に張っておいて正解だった。
あいつらは誰だ?

佐伯涼太

たぶん、ケツ持ちのヤクザだと思う。
寺嶋って名前の極道だったけど、ピンクちゃんは知らないって言ってた。
でも弟分が2人いたから、ケツ持ちでもかなり上の人間だと思う。

天野勇二

やはりケツ持ちのヤクザか。
上の人間ならメイドが知らないのも当然だ。

チッ……。
あれほどの武闘派とはな……。
やはり日本は広いな。


 天野は顔を歪めて首元をさすった。


 まだフェンスに叩きつけられた痛みが残っている。


 相手はかなりの怪力の持ち主。


 しかもレスリング技術に長けている。


 組み技だけならば、天野より数段上のレベルにいるだろう。


佐伯涼太

勇二ですら手こずったもんね。
相当強いね。

天野勇二

所詮は俺様もただの大学生さ。
本職の武闘派には敵いやしない。


 天野は悔しそうに呟いた。


 寺嶋の低空タックルに膝蹴りを合わせられたのは、かなりの幸運といえた。


 寺嶋も敵が『おかしな仮面をつけた若い男』ということで、若干の油断があったのだろう。


天野勇二

なんでケツ持ちのヤクザと揉めたんだ。
あんな極道はカタギに手を出さないはずだぞ。
店の中で何をしやがった。


 涼太は苦笑しながら舌をぺろりと出した。


佐伯涼太

マデューと接触中に現れてさぁ。
うっかり僕たち、ヤクザって名乗っちゃったんだ。

天野勇二

なぜヤクザのフリなんかした。
そりゃ揉めるに決まってる。

佐伯涼太

しかもタイミングが最悪でさぁ。
こっちから喧嘩売るしかなかったんだよ。

天野勇二

まったく……。
お前は何をしているんだ。


 天野は失望したように言った。


天野勇二

涼太には言ったはずだが、一番の目的はマデューのアジトを探ることだ。
お前、情報を多めに手に入れようとして、自分を誇張したな。

佐伯涼太

えへへ。
勇二はさすがだね。
その通りでございます。

天野勇二

まぁ、気持ちはわからなくもない。
とにかくタイミングが悪かったのだろう。


 涼太と富樫は涙目で頷いた。


 まさに最悪のタイミングだった。


 しかし、涼太たちはひとつ、確かな収穫を手にしていた。


佐伯涼太

でも勇二、おかげでわかったことがある。
マデューは間違いなく本物の『殺し屋』だと確信したよ。

天野勇二

ほう、なぜだ?

佐伯涼太

マデューちゃんに『僕たちヤクザ』って話したらさ、結構向こうからペラペラ喋ってくれたのよ。
自分が『フリーランスの殺し屋』だってことも、タロットで殺すこともゲロってくれた。


 天野は「クックックッ」と笑いながら尋ねる。


天野勇二

あのタロット野郎、イライラするヤツだったろう?
今でもアイツの不快感が全身に残っているような気がするぜ。


 涼太も富樫も不思議そうに首を捻った。


佐伯涼太

いや、勇二が怒り狂ってたほど、マデューは不快じゃなかったよ。
意外にも気さくで礼儀正しかったよね。


 富樫も同調して頷いた。


富樫和親

はい。
僕の時もフレンドリーな方でした。
個性的で変わった人でしたけど、イライラすることはなかったです。


 天野は半眼で2人を見つめた。


天野勇二

おいおい?
本当にマデューと接触コンタクトしたのか?
爪に赤いマニキュアを入れたナヨナヨした男だぞ?
銀髪のメッシュを入れたクソムカつく野郎だぞ?

佐伯涼太

うーん。
同じ人だと思うけど。
むしろ殺し屋じゃなければ話せそうな人だったね。
たぶん、勇二がイライラさせたんじゃない?


 天野は舌打ちしながらタバコを取り出した。


天野勇二

あの野郎……!
俺様の時とまるで対応が違うじゃねぇか!
本当に嫌な野郎だ。

それで『殺し屋』と確信した理由はなんだ?


 涼太は寺嶋の『怯えた表情』を思い出しながら口を開いた。


佐伯涼太

僕と寺嶋ってヤクザが揉めた時に、マデューが助け舟を出してくれたんだ。
この店で揉めるなら寺嶋さんをアルカナで導くよ、ってマデュー言った瞬間、寺嶋の顔が恐怖に染まったんだよ。


 涼太はぶるっと肩を震わせた。


佐伯涼太

あの強面コワモテの武闘派の極道が、そんなマデューの言葉に怯えたんだよ。
あれは演技じゃできない。
マジの顔だね。
マジでマデューは『殺し屋』だよ。


 富樫もそれに言葉を足した。


富樫和親

しかも状況は最悪です。
マデューはタロットカードを出して、殺す人間を予告してきました。
前島さんの名を出したんです。


 天野の顔が一層険しくなった。


天野勇二

また前島の名前を出したのか。

富樫和親

はい。
しかも狙ったターゲットは2週間以内に殺す、とも言ってました。


 天野は苦しげにため息を吐いた。


天野勇二

短すぎる。
いくらなんでも2週間で国民的アイドルを消せるのか?

佐伯涼太

マデューは相当自信があったよ。
前島さんを殺すことで、自分が『殺し屋』であることを証明したいって感じだった。


 天野はイライラしながらマデューのにやけた面を思い出した。


 ここに壊しても良いテーブルがあれば、粉々に破壊したい気分だ。


 極道3人を叩き潰したというのに、天野の苛立ちは晴れていないようだ。


天野勇二

まずいな……。
これはやはり本人に伝えなくてはならない。
クライアントの情報は聞いてないか?

佐伯涼太

そこまでは聞き出せなかった。
寺嶋ってヤクザがクライアントの1人みたいだけど、寺嶋が前島さんの抹殺を願っているのか、それはわからない。



 天野はタバコの煙を吐き出しながら虚空を見つめた。


 マデューは間違いなく、『天才クソ野郎チーム』の敵であることが明らかになった。


 何らかの手段で前島の抹殺を企んでいる。


 それを阻止し、依頼元を叩き潰す必要がある。


 しかしまだ、情報が足りなすぎる。



富樫和親

あ、あの……天野さん……。


 富樫がおずおずと口を開いた。


天野勇二

なんだ。
何かあるのか。

富樫和親

あ、あの、マデューは少なくとも、僕のことを『友人』と把握しているはずです。
それなりに親しい感情を抱いているのではないかと思います。

天野勇二

なるほど。
それは良い情報だ。
だがな……。


 天野は静かに首を横に振った。


天野勇二

もうマデューへの接触は避けろ。
ケツ持ちに顔が割れ、相手はプロの殺し屋だ。
お前はもうメイド喫茶に行くのを止めろ。

佐伯涼太

それがいいよ。
僕と富樫くんはもう秋葉原に行かないほうがいいと思う。


 涼太も同調した。


 しかし富樫は強い瞳で言った。


富樫和親

いえ、だからこそ、マデューに接触させてください。
涼太さんは変装を解けばヤクザに狙われないでしょうし、僕程度の小物なら、マデューが守ってくれると思います。


 天野はあっさり言い放った。


天野勇二

却下だ。
危険すぎる。
接触は禁止だ。

富樫和親

天野さん、お願いします。


 富樫はそれでも食い下がった。


富樫和親

僕は天野さんに一生の忠誠を誓いました。
ミス研の代表として、1人の探偵として、天野さんのお役に立ちたいんです。

それに、あの店には、ミルクちゃんがいます……。
もし、ミルクちゃんに何かあったらと思うと……。


 富樫はぐっと口唇を噛み締めた。


富樫和親

お願いします!
僕にやらせてください!
必ずマデューの情報を掴んでみせます!
そして、それがうまくいったら、僕を『天才クソ野郎チーム』に加えてください!


 涼太は慌てて富樫をたしなめた。


佐伯涼太

富樫くん、そんなこと言わないでよ。
それ『フラグ』じゃん。
その発言は『死亡フラグ』がビンビンに立つやつじゃん。

それにチームなんて誰が入っても構わないよ。
勇二がなんて言うか知らないけど、僕としては富樫くんもチームの一員のつもりだよ。

富樫和親

涼太さん!
ありがとうございます!


 天野は顔を歪めながら言った。


天野勇二

俺様としては認められない。
チームがどうこうの話ではない。
虎穴こけつに入らないと虎のガキを手に入れられないが、親虎は凶暴で武器も正体も不明だ。
そんな穴に入れとは言えないな。



 涼太は感心して天野を見つめた。


 天野は富樫の身を案じ、危険から避けるように忠告している。


 クソ野郎の性格が丸くなったか、富樫という男を認めているかのどちらかだ。


 どちらにしても涼太としては嬉しい発言だった。



佐伯涼太

勇二がそう言うなら僕も賛成かな。
マデューへの接触は避けよう。

富樫和親

でも、そうしないと前島さんが……。


 天野はその言葉を制して告げた。


天野勇二

俺様に策がある。
前島を24時間体制で見張る。
敵が何か仕掛けてくれば返り討ちにしてやるさ。

そして同時に寺嶋を調べる。
俺様ならば極道の情報を集められるからな。

そして涼太。
お前は確か、あの店のメイドと顔見知りだったな?

佐伯涼太

まぁね。
ただのフレンドだけど。

天野勇二

ならば、お得意の『チャラさ』でメイドを外に連れ出してくれ。


 涼太は納得したように頷いた。


佐伯涼太

それってつまりアフターだよね。
女の子をオフの日に連れ出せ、ってこと?

天野勇二

そうだ。
メイドを通じてマデューの情報を探るんだ。
お前なら楽勝だろう?

佐伯涼太

オッケー!
まかせて!
僕ちゃんヤクザには弱いけど、女の子には抜群に強いよ!


 天野は肩を落としている富樫に告げた。


天野勇二

富樫よ、これで行こう。
お前は涼太と一緒にメイドからマデューの情報を仕入れろ。
これならお前の大好きなミルクと遊べて一石二鳥だ。
まぁどうせ、ミルクとの仲が進展することはないだろうがな。


 富樫はしょんぼりしながら呟いた。


富樫和親

はぁ……。
天野さんもマデューと同じことを言うんですね……。

天野勇二

同じことだと?
チッ……。
マデューと同じ考えなんて虫唾が走るな。

佐伯涼太

あはは。
勇二は本当にマデューが嫌いなんだね。

天野勇二

ああ、いつかあのニヤけた面をぶん殴ってやる。


 天野は心底嫌そうにタバコを灰皿に押し込んだ。


 涼太はちょっと嬉しそうに、その横顔を見つめていた。





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つばこ

天野くんたちが集合し、敵の正体がおぼろげながら見えてきて、物語はここから大きく動き始めます。
次回はヒロインの前島悠子ちゃんが登場! お楽しみに!
 
【つばこへの質問コーナー】
『好きなミステリーはありますか??』
 
本や漫画で楽しむ場合であれば、叙述トリックなどを用いた最後にどんでん返しが待っているもの(『殺戮にいたる病』とか『葉桜の季節に君を想うということ』とか)が好きですねぇ(*´ω`*)
本格推理などのパズラー物であれば、ゲームなどで楽しみたいタイプです。『かまいたちの夜』『逆転裁判』みたいな。好みがあれば幸いでございます!

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コメント 37件

  • あろまる

    冨樫君好きだわ

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  • るー

    マデューがそんなに嫌いになれないんだよなぁ…

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  • バルサ

    冨樫がんばれ!目指せ、天クソチームだ❗️

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  • メル子

    富樫君には生きてほしい…

    つばこさん逆転裁判お好きなのですね~嬉しい
    めちゃめちゃ面白いからもっとたくさんの人にプレイしてほしいです

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  • アオカ

    つばこさん!葉桜の季節好きなんですか!?
    俺も好きですよ!面白いですよね!!

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