天才クソ野郎の事件簿 -特別編-

『彼女を上手に誘拐する方法』

第7話 「天野くんの後日談」


 日付が変わった深夜1時過ぎ。


 天野はメイの自宅に上がり、のんびりとコーヒーを飲んでいた。


内田尚美

寝ちゃった……。


 寝室からメイの母親こと、内田尚美がやって来た。

 すっかり疲れきった顔をしている。


内田尚美

泣き疲れちゃったみたい……。
さっきまでの騒ぎがウソみたいに、すやすや眠ってるわ……。

天野勇二

元々疲れていたんだろう。
かなり遊びまわったからな。

内田尚美

そうみたいね……。


 尚美はリビングに置かれた大量のグッズを見つめた。

 天野が買い与えたものが山のように積まれている。


内田尚美

こんなに買っちゃって……。
勇二くん、あの子を気晴らしさせてくれたのね。
いつもごめんなさい。

天野勇二

気にすることはない。
少々早いクリスマスプレゼントさ。

内田尚美

私ってばダメね……。
メイの考えていることに何も気づかなかった……。
あの娘は私が考えている以上に、今の暮らしに幸せを感じてくれてるのね。

朝になったらメイともう一度話してみる。
伝え方にも気をつけるわ。

天野勇二

そうしてくれ。
まだまだメイは尚美さんに甘えたいのさ。
可愛いワガママだよ。


 天野は軽く笑うと静かに立ち上がった。


天野勇二

そろそろ、おいとまさせてもらうよ。

内田尚美

大丈夫?
終電はある?

天野勇二

車で来ている。
心配しないでくれ。


 玄関に向かう天野の手を、尚美がそっと掴んだ。


内田尚美

待って。
少し話さない?
メイのことも聞きたいし……。


 天野は無言のまま振り返った。

 冷たい目で尚美を見つめる。


内田尚美

……似てきたわね。
勇一さんに。


 天野はじっと警戒するように尚美を見つめている。

 いや、睨んでいる、といったほうが正しいかもしれない。

 尚美は苦笑した。


内田尚美

なによその顔。
私とは話もしたくないの?

天野勇二

…………。

内田尚美

ふふっ……。
昔からそうよね。
勇二くんはメイと遊んでも、私とは話したがらない。

どうして私のことを嫌っているの?


 天野は僅かに顔を歪めた。

 尚美はまた苦笑して言った。


内田尚美

それとも、怒ってるの?
メイが再婚するって言ったから。
あんなこと本当に考えてないの。
私は勇二くんのお兄さんを……勇一さんを、今でも愛しているんだから。



 天野は軽く口唇を噛んだ。


 何度か迷ったように口が開き、また閉じる。


 一度大きく深呼吸し、天野は言った。




天野勇二

……愛してる、ねぇ……。




 ニタリと悪い笑みを浮かべる。


天野勇二

別に、俺は尚美さんが再婚しても構わないと思うぜ。
そもそも兄と籍を入れたワケじゃない。
兄はまだ帰って来ない。
見切りをつけても、誰も文句は言わないさ。

内田尚美

えっ……?
なに言ってるの?
そんなこと言わないでよ……。

天野勇二

それに、いつかメイにも告げる必要があるだろう。
本当のパパでさえ、本当のパパではない、ってことをな。

内田尚美

ゆ、勇二くんってば……!


 尚美が慌てて寝室を見た。

 寝室へ続く襖は閉まっている。

 メイの微かな寝息が聴こえる。

 

内田尚美

メイに聴こえる。
やめて。

天野勇二

別に聴こえたっていいじゃないか。

内田尚美

ダメに決まってるでしょ。
何でそんなおかしなこと言うのよ?

天野勇二

おかしなこと?
そうかな。
俺が推測するに、メイはもう感づいてるぜ。
あいつは尚美さんや俺が思うより、頭の良い娘だ。

内田尚美

感づいてるって……。
な、何のこと……?
勇二くん、さっきから、何を言っているの……?


 尚美は天野の手を離し、微かに後退した。


 天野の表情に怯えている。


 別に天野は殺気などを放っている訳ではない。

 ただ冷静に尚美を見ている。

 その冷静な、全てを見通してしまうような瞳が、尚美は恐ろしかった。



天野勇二

ふぅ……。



 天野はもう一度深呼吸した。


 拳を胸にあてて、心の中でひとつの言葉を呟く。



天野勇二

……兄は尚美さんと、研修医と看護師という立場で出会った。
あなたは『兄の恋人』だった。
そして、籍を入れる前に子供を授かった……。


 天野の言葉に力がこもってくる。


天野勇二

その後、兄は心を失った。

俺はずっと疑問だった。
兄はあなたを心から愛していた。
それは幼い俺から見ても明らかだった。

愛していた……。
愛していたはずなのに、兄は心を失ってしまった……。


 尚美はただ青ざめ、天野の顔を見つめている。


天野勇二

心の病とはそんなものだと理解している。
恋人や妻がいても発症する時はするものさ。

だが、俺はずっと違和感を覚えていた。

何度か、 DNA検査をしてみようと、試みたこともあったよ。


 尚美の瞳が大きく見開いた。


内田尚美

勇二くん……。
あなたまさか……!


 その後は言葉にならない。


 天野は軽く首を横に振った。


天野勇二

さすがの俺様でも実行できなかった。

だが、メイは明らかに兄と似ている。
俺とも同じ血が流れているように感じる。
だから俺は昔、こっそり調べたのさ。

あなたが、 『あいつ』と関係を持っていなかったか……。

確証は得られなかった。
それでも怪しい『うわさ』程度は手に入った。
それだけで十分だった。


 尚美がぺたんと、膝から床に崩れ落ちた。


内田尚美

そんな……。
どこで知ったの……?

天野勇二

それは言えんな。
言う必要もないだろう。


 天野は尚美を見下ろし、冷たく言い放った。





天野勇二

メイは 『親父』の子供なんだろう?

『姪』なんかじゃない。

俺と兄の 『腹違いの妹』だ。





 尚美は何も答えない。

 ただ、黙って俯いている。

 天野は「ふぅ」と息を吐き、尚美に背を向けた。


天野勇二

……だからこそ、俺はあいつに『パパ』と呼ばれたくないんだ。
兄の代わりならまだいいさ。

だが、そうでないのであれば……。


 嫌そうに首を横に振る。


 靴を履きながら言葉を続けた。


天野勇二

……でも、あなたは立派だ。

メイはあなたと2人で暮らす日常を、幸せだと感じている。
メイには父親が誰かなんて、そんなもの関係ないんだ。
あなたとの『当たり前』の日常に幸せを見出し、あなたの関心だけを求めている。


そして、あなたも同じようにメイを愛している……。
兄のことも、本当に待ってくれている……。


だからこそ、俺は無理に暴くつもりはないんだ。


 ドアノブに手を伸ばす。

 うずくまっている尚美に、最後の言葉をかけた。


天野勇二

だからこそ、いつかメイが真実に辿り着いた時は、しっかりメイと向きあってほしい。
それだけを切に願うよ。



 そのまま天野はメイの自宅を後にした。


 12月の寒風が天野を包む。


天野勇二

(チッ、余計なことを言ってしまった……。真実を明らかにしたいと願うのは、俺様のエゴでしかねぇってのによ……)


 コートの襟を立てる。


 凍えそうなほど寒い夜だ。


天野勇二

(俺はメイの叔父にも、兄にもなれやしない……。メイと向き合うことが出来ないのは俺のほうだ……。メイの未来に口を挟む資格はない……)


 天野は車のキーをポケットにねじ込むと、代わりにスマホを取り出した。


天野勇二

(……ちょっと、飲みたい気分だな)


 ひとつの番号に電話をかける。

 相手はすぐ出た。


佐伯涼太

……はいはぁーい!
涼太ちゃんでぇーす!

勇二ってばこんな遅くにどうしたの?


 涼太の背後からやかましい音楽が聴こえる。

 どうやらクラブにいるようだ。


天野勇二

おい涼太。
ちょっと付き合え。
久々に2人で飲まないか?

佐伯涼太

えっ!?
ど、どったの?
勇二から誘ってくるなんて珍しいじゃん!

天野勇二

いいじゃないか。
たまには思い出話がしたくなったんだ。

佐伯涼太

うっわぁ。
ジジ臭いこと言うねぇ。
僕らみたいな ピチピチのナウいヤングがそんなこと言い出したら終わりよ?

困るなぁ。
今かなり上玉のパツキンちゃんをベッドに誘ってる最中なんだよねぇ。
師走の僕ちゃんは忙しいってのにさぁ。
あっ、安心してください!
まだパンツは履いてますよ!


 やかましい音楽が遠ざかっていく。

 涼太は軽口を叩きながらも、どこか静かな場所へ移動しているようだ。

 全ての雑音が消えた後、涼太は嬉しそうに尋ねた。


佐伯涼太

それで……。
どこで飲もうか?
メイちゃんのことだよね。

天野勇二

ほう……。
いいのか?

佐伯涼太

いいに決まってるじゃん。
少し気になってたんだよ。
あれからどうなったのか教えてほしいな。

天野勇二

パツキンのパンツを脱がすんじゃなかったのか?


 涼太は「あはは」と軽い笑い声をあげた。


佐伯涼太

らしくないねぇ。
なに水臭いこと言ってるの?

相棒ダチからの誘いが一番に決まってるよ。

それにメイちゃんに関することなら、僕だって見過ごせないね。
何でも力になるから。
出来ることがあれば言ってほしいな。


 天野はニヤリと笑みを浮かべた。


天野勇二

渋谷でどうだ。
どうせその辺りにいるんだろう?

佐伯涼太

いいね!
さすが天才クソ野郎!
僕ちゃんの行動パティーンは把握済みだね!

天野勇二

着いたら連絡するよ。

佐伯涼太

オッケー!


 電話を切ると、天野は夜空を見上げた。


 どんよりとした曇り空。

 月は遥か遠くに。

 星の明かりも届かない。


 天野はタバコに火をつけ、深く煙を吸い込んだ。

 拳を強く胸にあてて呟く。


天野勇二

(……そうさ。いつかきっと、全てうまくいくさ。俺はメイのダチだからな)


 雲を吹き飛ばすように、タバコの煙を吐き出す。

 天野は不敵な笑みを浮かべながら、星の見えない夜空を眺めていた。





(おしまい)


「天クソ祭り」特別企画!

☆マンガの人気先生に「天クソ」を
描いてもらいましたコーナー☆



金曜連載 『失格人間ハイジ』「野中かをる先生」に描いていただきました!
素敵なイラストありがとうございます!

そして12月10日発売の『天才クソ野郎の事件簿』を『三省堂書店様』でお買い求めいただきますと、こちらのイラストカードが購入特典としてもらえます!
しかもなんと!

「野中かをる先生」 「つばこ」のサインつき!

是非ともお近くのお店をチェックしてください!




本日で☆マンガの人気先生に「天クソ」を描いてもらいましたコーナー☆は終了!
ご協力いただいた先生の皆様!
本当にありがとうございましたヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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10,654

つばこ

ご愛読いただきありがとうございました。
何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。
 
特別編とはいえ、メイちゃんやお兄さんの問題は「おしまい」ではなく、「To Be Continued」となりそうです。気になる方は是非とも、本編も拝読いただければ嬉しいです(´∀`*)ウフフ
 
 
さてさて、特別編の大トリを飾る本日は『失格人間ハイジ』の「野中かをる先生」に天クソを描いていただきましたぁーー+。:.゚ヽ(*´ω`)ノ゚.:。+゚
天野くんカッチョイイ! まさに野中先生ならではのイラスト! 写真集のタイトルまで凝っていただき、本当にありがとうございます!
 
いよいよ明日が天クソ祭り最終日! 次は24時間更新です!
12/10 午前0時!
『天才クソ野郎の事件簿24 -TWENTY FOUR-』
にてお会いしましょう!
 
つばこでしたヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 292件

  • rtkyusgt

    相棒を優先する涼太すてき!

    それにしてもメイのお母さん・・・
    自分がこの立場で大きくなってから
    知ったら絶句だよなぁー。

    無理やりなのか合意なのか知らないけど。

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  • さら

    天野くんからしたら尚美さんは
    たったひとりの兄の心を壊した相手で
    大嫌いな父親と寝た女で
    将来好きな姪を傷つける相手ってことか…
    そりゃあの態度にもなるわ…衝撃の事実が多いんだけど本編でないのが謎

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  • ちいすけ

    やっぱり医者ってどいつもこいつもそうなんだな…

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  • ゆんこ

    ズギャーーーーン!!!!

    兄とは籍を入れていない?

    しかもメイは親父との子!!!?

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  • みと@第3艦橋OLD


    野中先生のクソ野郎は優しい目をしててタイプです

    涼太のフットワークの軽さが素晴らしいよね

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