まず最初に、「日経ビジネス電子版」のコメント欄を通じて、この連載に深く興味を覚えてくださる方がいらっしゃることがわかってとても感謝しています。
居林さん、コメント欄を見ていらっしゃるんですね。
居林:はい、楽しみに読ませていただいてます。ご興味に十分に応えられるか、教科書に書いていない株式市場の見方をお伝えできればと思っています。
その意味でも、いつもは市場環境の解説が多いのですが、今回は株価判断の技術編ということで「企業業績の実績と予想」のお話をさせていただきたいと思います。ここまでの連載のおさらい、という意味もありますね。
おさらいですか。初めてここから読む方にも役立ちそうですね。基本は「株価は業績予想の関数」でしたよね。いつも思いますけれど、実にシンプル。
居林:それだけに、間違った思い込みをしやすい危うい側面もあると思います。まずは、いつものグラフを見てください。
ピンクの線は、TOPIX500採用銘柄(金融を除く)の純利益の予想です。
縦の線が入っているところは、現時点で予想した12カ月先の500社の純利益予想の合計ということですね。
居林:そうです、現時点の株価に対応しているのは、この図では「12カ月先の業績予想」なのです。これは、いわゆるコンセンサス予想 (アナリスト予想の平均を500社分合計したもの)を使っています。将来分については、UBSCIOで予想したものをグラフに掲載しています。
つまり、現時点ではほぼ終わっている19年3月期、20年3月期、もうすこし時間が経つと21年3月期の純利益もブレンドして12カ月先業績予想を作っているわけです。
細かい話をしますと、3月期といっても3月末日に決算が出るわけではありませんから、予想値としては4月、5月くらいまでは「19年3月期の予想」「20年3月期の予想」に加えて「21年3月期の予想」と、3期分の予想が影響を与えることになる。重要なのは、「予測は常に複数の会計年度を跨ぐことになる」ことです。いま進行中の今期、そして来期、来来期です。ここは大丈夫ですね?
業績ではなく「業績予想」
ええと……、はい。でも、各期の純利益予想の重み付けはどうやって計算するんでしょう。
居林:いろいろなやり方が考えられますが、私を含めアナリストが一般的に行うのは、単純に、予想する期間に含まれている長さに応じたウェイト付けです。3月期決算として、今期があと3カ月なら、今期予想を3/12、来期を9/12で計算します。ですので、各期の予想の間を縫って予想の線が伸びていくことになります。
さきほどの事情で、決算発表が多い4月、5月は、今年なら21年3月期の予想値が入り始めることになります。19年4月には、20年3月期はすでに今期なので「来期予想が必要」ですね。
なるほど、といいつつ、このお話のどこが重要なのかよく分かりません、すみません。
あっ、株価は業績予想の関数なんですよね。だったら、決算が出る4月、5月には、「予想値と実際の株価が一致する、予想の答え合わせができる」とかですか?
居林:違います。見事な思い込みによる勘違いを披露していただきました。
ぐっ。
居林:勘違いは業績「予想」と「実績」の混同です。株価は「業績予想の関数」と申し上げても、やはりどうしても「業績の関数」という理解をされている方が意外に多いです。
いま減益決算予想や発表がぞろぞろメディアに出ていますが(この状況についての私の理解は前回参照です)、「だから株価が下がる」と思うのは、素直すぎると思います。期末の決算発表の時点で市場が見ているのは、終わってしまった前期ではなくって、次の今期、来期以降の利益がどうなるか、なのです。
決算「発表」は株価に影響しない?!
……まさか「決算発表は株価には影響しない」ってことですか?
居林:発表日は影響を受けるでしょう。企業によってはしばらくそれが残ることも多い。それは、実績の業績が将来予想に変化を与えるからです。将来の業績には関係がないような数字でも、短期間は株価が反応することも多いです。でも、もしそれが一過性のものであれば、さほど経たないうちに「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではないですが、「あまり気にしなくてもよさそうだ」として忘れていきます。株価は年間3割くらいの上下のブレを持ちつつ、基本的に「いつも」12カ月先を見ている。私はそう思っています。つまり、業績予想については、二つの変化が毎日起きているのです。一つ目は株式市場が見ている「12カ月先業績予想」というのが1日経てば、1日先の未来に移行すること、そして二つ目は、今期、来期といった特定の決算期のアナリストの業績予想が変わってゆくことです。
そして昨年、18年3月時点での、19年3月期のアナリストの業績予想はどうだったかといえば、純利益合計額は40兆円で絶好調と見られていた。ちなみに私は「減益になる」と叫んでいた少数派ですが。徐々に予想の下方修正が行われて、現時点では30数兆円に落ち込んで終わりそうです。
だったら、いま株価も引きずられて下がりそうですが、そうでもない。
居林:そうなんです。そこが今回の勘所で、なぜかといえば、時間軸が19年3月期を進むにつれて、20年3月期の予想が占める比率がだんだん上がっていくからですね。次期の予想を織り込み始めるので、19年3月期が不調であっても、なかなか株価は下がらない。
1年前から振り返ると好調の予想でスタートして、でもやっぱりダメそうだと思って沈み始め、後半に入ると、終わった期のことはみな忘れて……。
居林:株価は未来予想でできていますからね。
そのうちに20年を織り込んで上がっていく、ということですか。
居林:そうだと思います。だから、実績と予想は永遠に交わりません。仮に、12カ月先のアナリストの予想が、まったく現状と同じであればもちろん別ですが。
居林:さて、19年3月期が終わり、20年3月期に入るわけですが、利益の伸び率は業界(証券会社)各社がお出しになります。多い数字はプラス5%~10%といったところですか。
この予想は「ボトムアップ予想」と呼ばれます。アナリストが入れた数字を足し上げたモノです。「トップダウン予想」もあります。マクロの観点から、為替がこのくらい、GDPはこのくらいだろう、とまず考えて、よって業績は何パーセント伸びる、というものですね。
とはいえ、19年のお話から推して、ボトムアップの業績予想もだいたい楽観的に始まって、途中で下向きに修正されたりするわけですよね。
居林:そうです。個別企業担当のアナリストの業績予想はどんどん変わります。変わらなければおかしい。19年半ばを過ぎれば21年3月期の予想も入るわけです。
1年どころか2年先の話を織り込むことになる。そういう意味では、アテにならないのでは。
居林:業績予想がそのまま当たるかというと、期初時点の予想は確かにあまりアテにはなりません。なぜかというと、繰り返しになりますが、ある会計年度の業績があったとして、それは時間とともに変化するからです。なので、ある時点で業績が伸びる予想になっている企業が、実は業績が悪化したということは十分にあり得ます。
一方で、今期がダメだから来期もダメ、とは限りませんし、その逆もしかりです。常に一定の将来を見ながら株式市場は動いていると思います。これは、動いている車のヘッドライトが照らしている範囲がいつも一定の距離の「先」、というイメージで考えるとわかりやすいかもしれません。
業績「予想」の一歩先を歩め
居林:業績予想が変わっていくのは、それはそれでいいんです。確かに、市場全体で見れば期初時点の業績予想は実績になるまで20%程度は上下するのが普通です。
「じぁあ、アナリストの業績予想は当たらないってことじゃないか」と言いたくなるかもしれませんが、アナリストの予想は、市場が業績についてどう考えているのかを教えてくれますし、それが株価の先行きの目印にはなります。忘れないでください。株価は「業績」の関数ではありません。業績「予想」の関数であって、私たちはその予想の変化の一歩先にいるのが大切なんです。
ううむ、そうですね。しかし、そもそも、複数のアナリストがよってたかって出した数字を合計しても、一貫性というか、信頼性ってあるんでしょうか。
居林:アナリストによって業績予想の精度にばらつきが生じるのでは、やむをえません。繰り返しになりますが、それよりも大切なことを市場コンセンサスというのは教えてくれます。
前回いただいたコメントで、私の「企業投資の判断をするアナリストとして株式市場を動かす貿易問題を『市場が』どう受け止めたのかを理解することと、自分がどう考えるのかは切り離して考える必要があると思うのです」という発言を評価してくださった方がいらっしゃいました。あれは嬉しかったですね。
株価判断は、まずは業績について「世の中の大多数」がどう考えているのかを知るのが大事。そうなれば、世のアナリストが公表している数字を全部使うことで、他の投資家がどう考えているのかを理解するのがいい方法だと思います。
一つ、大事な注意ですが、このコンセンサス予想というものは、敵でも味方でもありません。一緒だからといって喜んでもいけませんし、違うからといって無視することもできないと思います。
なるほど。
居林:投資家の反応も業績予想もすべて、時間の変化とともに変わっていきます。その変わっていく方向と理由を押さえておくと投資判断に役立つ、そう私は信じています。
たとえば昨年末に、「米中貿易問題について、株式市場は過剰に感応しすぎている」と申し上げたのも、業績予想に対して株価が下落しすぎていることが根拠だったわけですが、読者の方の中には、もともと私が市場コンセンサスの業績予想が高すぎると懐疑的だったので、どうして急に強気になったのが疑問に思われた方もいらっしゃると思います。
昨年11月時点の市場コンセンサス業績予想というのは私の見方では「楽観的過ぎて下方修正される」と思っていました。ところが、12月に入るとその下方修正を見込んだ私の保守的な業績予想を使っても、なお割安な位置に株価が落ち込みました。それで、「大漁旗」となったわけです。
そして、今年2月には業績の下方修正が相次いでいることを見て、株式相場的にはあく抜けして上値が期待できると考え、強気継続となっています。
「みんなの予想」の正誤ではなく、どちら向きかを知ることが大事
居林:つまり、アナリストの業績予想を重ね合わせれば、世の中の代表的な予想者が業績の先行きをどう考えているのかを知ることができる。しかも、ヒストリカルで追いかけているから、予想が上方修正に動いているのか、下げるほうに動いているのかもわかる。
問題は「参加者の総意」の方向を知ることなんですね。それと自分の判断が合っているか否かではなく。
居林:「そうか、みんなそう思うのか」が分かったところで、株価のグラフと重ねてみる。株価判断に「使えそうかな? うん、使えそうじゃないか」というのが、いつもお見せしているグラフなのです。上に行きすぎが、下に行きすぎか、がわかるわけです。あ、ちなみに、来期利益の「伸び率」は意識しないでください。ほうっておいてOKです。
え、なぜですか?
居林:たとえば、「来期は今期比で7%増益予想です」と。でも、今期の予想が下がって、来期予想も下がれば、そのまま「7%増益です」と言い続けられますよね。でも、実額は下がっていく。
そうか、今期予想も修正が入るんだ。
居林:そういうことです。ヒストリカルで見ると予想時点の増減率なんてあまり意味がありません。絶対値を押さえておいて、どのくらい確度の高い数字かを判断するほうが先だと思います。
居林:今までの話を理解して、このグラフを見るとどうですか。
なるほど……。業績予想の修正の波を渡り歩くように株価の線が動いていきますね。これを見ると、このところずっと、アナリストの予想は上にオーバーシュートして始まるんですね。
居林:そうですね、アナリストはほぼ必ず増益予想を出す。なぜかは聞かないでくださいね。いろんな理由があると思いますが、GDPのマイナス予想は前もって出ないのと同じではないでしょうかね。20年3月期予想は……私の集計では8%増益、少し高いかなと思いますが、期初は10%内外の増益で予想されるのが通例なのでこのくらいでしょう。でも、まだ気にしないでいい時期です。まして、21年3月期は参考程度でいいと思います。
そもそも、どうして予想は外れるんでしょうか。
居林:そもそも、予想外のことが起きるというのがありますよね。為替相場が大揺れしたり、指導者の都合で貿易問題が出現したりするのは「そりゃ聞いてないよ」ということで、アナリストを責めるのは気の毒な事情もありますよね。ですから、予想外のことが起きるときにもう一つは、日本企業の売上高利益率の低さもあります。売り上げがちょっと動くだけでも、利益率が低いから数字が大きく変わる。この二つが、外れる理由の半分でしょうか。残りは評価ミスですね。
日本企業の売上高純利益率は、最高益で5~6%くらいです。売上高が1%動くと利益が10%くらい吹っ飛ぶことになる。ボラティリティが大きい。とはいえ、12年3月期の純利益率は1.1%でしたから、この7年間でずいぶん利益率は上がりました。
グラフから2019年3月期の予想の推移を改めて振り返ってみましょう。業績予想が本格的に動き始めるのは夏からです。19年3月期が完全に終わって、20年3月期、そして21年3月期を織り込み始める。ここで業績予想が上がりやすい。
ですので、狙い目です。ただし18年は特別です。18年3月期に米国での法人税負債の取り崩しがあり、利益がかさ上げされていましたから、減益になるのが見え見えだった。普通の年なら夏から上がるんです。
わかっていても間違えるものでしょうか……。
居林:事実としてはそうです。円高とか、中国と米国の貿易問題とかがなければ、業績予想は上がりやすい。「業績が上がりやすい」とはいっていませんよ。改めて要注意です。アナリストの皆さんが増益予想に修正してくるので、コンセンサス(アナリスト予想の集計値)も上がりやすい。
ということは、この方法で先行きを予想するには、頻繁に業績予想をチェックしなくてはいけませんね。個人投資家はどうすればいいんでしょう。
個人投資家が同じことをやってみるには?
居林:はい、我々のように情報端末に囲まれる職業でない方は、UBSのお客さんになっていただくのが一番ですが(笑)、そうはいかない方は、例えば日経QUICKニュース社のコンセンサス(こちら)がありますね。銘柄を絞り込んで集計したら同じようなことができるんじゃないかと思います。
銘柄数はいくつくらいでしょう。
居林:そうですね、製造、サービスで50、余裕があれば100銘柄くらいを追いかける。週に一度でいいのでエクセルなどに入れていくとよろしいと思います。予測が動いたら、動いた銘柄は何か、なぜ動いたのだろう、ああ、売り上げがここで減速したか。他でも同じことが類似業種でぽちぽち起きるんじゃないかな。次に来るならどこかな?と、先が見えてきます。
ここでも、大事なのは率ではなくて絶対値です。それと、会計処理の変更、M&A、減損などで、どかんと個別企業の数字が動くと平均値もずれます。そういうイベントが起こった企業は別にカウントしたほうがいい。会計年度の変更もやっかいですね。フラグを立てておきましょう。そうそう、詳しく説明はしませんが、金融機関はややこしいので外した方がいいです。
ああ、ということは、個別企業の業績予想までする必要はない。
居林:そう。でも、予想が動く様を見ることは個人投資家でもできると思います。仕事としてやるなら、個別の企業分析をやることは重要だと思いますけれどね。
業績予想は、しょせん他人が考えたものなので、自信を持つのは難しいけれど、見ていると、「あたり」がつくようになる。株価は「業績予想」の関数、それではアナリストは「予想」どう作り、市場はそれをどう株価に反映してゆくのか?、そこには意外に技術的な論点がある。今回はそういうお話でした。
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