天才クソ野郎の事件簿 -特別編-

『彼女を上手に誘拐する方法』

第6話 「天野くんとメイとメイの生きる道」


 その日の夜。

 天野はメイと共に、メイの自宅へ向かった。


メイ

…………。


 メイが立ち止まる。

 自宅のあるアパートを怯えながら見上げている。


天野勇二

大丈夫さ。
メイ、こうだ。


 天野は優しげに声をかけ、自らの胸に拳を置く。

 メイはそれを見上げ、同じように拳を握った。


メイ


……すべてうまくいく……。

きっと、すべてうまくいく……。



 まぶたを閉じて呟く。


 

 天野はその姿を優しげに見つめた。



メイ

……うん。
もう、大丈夫。


 メイは力強く頷いた。


天野勇二

よし、それじゃママに迎えに来てもらおうか。


 スマホを取り出し、天野はメイの母親に電話をかけた。


天野勇二

……ああ、久しぶりだな。
勇二だ。
もう家の前まで来ている。
迎えに来てくれ。


 ガタン、と勢い良く扉が開かれた。

 2階にある部屋のひとつ。

 メイの自宅からだ。

 中からスマホを握り、真っ青な顔をしたメイの母親こと、内田尚美うちだなおみが飛び出した。


内田尚美

メイ……!


 尚美が驚いて声をあげる。

 カンカンと階段を駆け下りると、尚美はまず天野に向かって叫んだ。


内田尚美

勇二くん!
こんな遅くまで、メイをどこに連れ回してたのよ!?


 天野は呆れたように肩をすくめた。


天野勇二

おいおい尚美さん。
メールを送っただろ?
メイを『誘拐』させてもらう、とな。
身代金でも要求してほしかったのか?

内田尚美

違うわよ!
こんな遅い時間まで遊んでるなんて思わないじゃない!?


 尚美はとてもご立腹だ。

 それも当然だろう。

 なにせ、今は深夜23時なのだ。

 いくら相手が信頼できる『親戚』だとしても、この時間まで連絡もなく小学生の娘を連れ回されるのは恐怖でしかない。



 天野は「クックックッ……」と悪い笑みを浮かべた。


天野勇二

悪いが、俺様は依頼されてしまったんだ。
『誘拐』という依頼をな。
そいつを受けた以上、依頼人を満足させなければ気が済まない。
それが『天才クソ野郎』として、そして『学園の事件屋』としてのポリシーさ。

内田尚美

な、何を訳のわからないこと言ってるの!?
どこにメイを連れて行ってたのよ!

天野勇二

さっきまでは楽しくカラオケしていたぜ。
尚美さんにも俺様の美声を聴かせたかったな。


 天野はヘラヘラと嫌みったらしい笑みを浮かべている。

内田尚美

……もう!
メイ!
あなたは早くお家に入りなさい!


 メイはぎゅっと拳を握り、顔を伏せて俯いている。


内田尚美

メイ!
早くしなさい!


 メイは小さく息を吐くと、そっと天野のコートの裾を握った。


メイ

すべて、うまくいく……。

そうだよねパパ?

天野勇二

俺様をパパと呼ぶな。
何度言ったらわかるんだ。

まぁ、それはそれとして、とっととぶちかませ。

メイ

うん。


 メイはこくんと頷き、母の顔を見上げた。


メイ

……ねぇ、ママ。
ママはさ、本当のパパを捨てて、ケッコンするの?


 尚美がぎょっとした表情を浮かべた。


内田尚美

な、な、なに言ってるの!?
あなたまさか……!


 気まずそうに天野の顔を見つめる。

 天野は至極冷静だ。

 冷たい目で尚美を見ている。


内田尚美

そ、そのこと、勇二くんに言ったのね……!

違うわよもう……。


 尚美はため息を吐きながら、メイに近づいた。

 しゃがみこみ目線を合わせる。


内田尚美

ママはね、誰かと再婚するつもりはないの。
メイに言ったのは、言い寄られてる人がいるっていうだけで、お付き合いなんてまったく考えてないんだから……。


 ちらりと天野を見上げる。

 言い訳するかのように言葉を続けた。


内田尚美

そう、本当に考えてない。
誤解させたならごめんね。
ママはメイとこれからも暮らしていきたいの。
一緒にパパが帰ってくるのを待ちましょう。


 メイはぶすっとした表情で黙りこんでいる。

 尚美は言い聞かせるように言った。


内田尚美

それに、どれだけ大変でもメイがいればそれでいいの。
あなたがいる限り、再婚なんて考えないんだから。


 尚美は「ほら、お家に帰りましょう」と言って、メイの手を引こうとした。


 メイはその手を振り払った。


内田尚美

メイ……?


 メイの口から「うぅぅ……」という声が漏れた。


 泣いている。


 涙が止まらない。


 メイはただ悔しくて、泣いていた。


メイ

そんなの、おかしいよ……。

おかしい……。

ママはおかしいよ!


 メイが叫ぶ。


メイ

あたしがいるからケッコンできないって、あたしがいるからサイコンを考えないって……。

あたしはママにとって何なの!?

あたしがいるから、ママは幸せになれないの!?

そんなの嫌だよ!


 ボロボロと大粒の涙がこぼれる。


メイ

あたしは、ママと2人でいることが、あたりまえで、普通のことなんだよ……。

それなのに、ママにとっては 大変なことなの……?

あたしがいるからケッコンはダメなの?
じゃあ、あたしがいなければいいの?
あたしがいなければ、ママは幸せになれるの……?


 尚美が慌てて口を開いた。


内田尚美

ち、違う……!
メイそれは誤解……!

メイ

ちがわないよ!


 ブンブン両手を振り回し、メイはわんわん泣き叫んだ。


メイ

あたしなんて、いなくなればいいんだ!
だって、あたしママに幸せになってほしいもん!
あたしが誘拐されていなくなれば、ママはもっと幸せになれるんだ!
そんなの嫌だけど、ママが幸せになれるなら、あたしどこかにいなくなるよ!


でもさぁ……。
でもママ、教えてよ……。


 メイは尚美に手を伸ばしながら尋ねた。


メイ

幸せって、なんなのさぁ……?

ママが好きなのに、ママといることが幸せで当たり前だったのに、それじゃ大変でダメみたいだなんて、あたしの幸せって、いったい何だったの……?

あたしがいるだけじゃダメ?
それだけじゃ、どうしてダメなの?
大変なのに、どうしてママはあたしと一緒にいるの?
ママの言ってることはおかしいよ……。
ママの言ってること、あたしにはわかんない……。

わかんないよぉ!


 メイは大声で泣きわめいた。


 尚美は小さな身体を抱きしめ、ただメイが泣き止むのを待った。


内田尚美

ごめんね……。
メイ、ごめんなさい……。


 尚美はただ、その言葉だけを呟いていた。



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お楽しみに!ヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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9,386

つばこ

メイちゃん、そんなに泣かないで(´;ω;`)ウッ…
 
さてさて、本日は『アンダーワールド』の「猫又ヨオスケ先生」に天クソを描いていただきましたぁーーヽ(*´∀`*)ノ.+゚
素敵なイラストを本当にありがとうございます!
さつきちゃんと天野くんという夢のツーショットだぁーー!+。:.゚ヽ(*´ω`)ノ゚.:。+゚

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コメント 170件

  • ИДЙ

    暗田和町の天野君は即死しそうだなw

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  • ゆんこ

    アンダワ仕様の天野くんかわいい♡汗出てるww

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  • ゆめおぼろ@天クソ/パステル

    すまん、25にもなっていまだ幸せって何かわからないよ…

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  • たらこ

    メイちゃん
    本質見すぎてて小学生には見えへん
    これも天才の血筋だからか…

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  • 冷凍

    猫又さんの天野くんちょーーーーーかっこいい!!!!!めっちゃ爽やかイケメンじゃん!!!やば!!!

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