橋田在昌

佐伯くんが発見した、鈴本という看護師の死体……。
その殺人現場に、望月の『毛髪』が落ちていたんだよ



 涼太は「ぎょっ」とした表情を浮かべた。



佐伯涼太

も、毛髪が!?
それ、望月のもので間違いないんですか!?

橋田在昌

ああ、まず間違いないだろう。
しかも『死体の衣服』から発見されてね。
看護師の衣服に付着していただけかもしれないが、私たちは『望月が現場にいた』と考えている。
涼太くんは死体を発見した時、望月の姿を見かけなかったかな?

佐伯涼太

いや、見てないですね。
僕が鈴本さんを見つけた時、周囲には誰もいなかったはずです。

橋田在昌

その前はどうかな?
望月を見かけたりしなかったかい?

佐伯涼太

それもないですね。
僕たちはワケあって望月を追ってました。
視界に入れば気づいたはずです。



 橋田は腕組みをしながら涼太を見つめた。


 普段は軽薄なチャラ男の大学生だが、今は真剣な表情で答えている。


 この言葉を疑う必要はないだろう。



橋田在昌

そうか……。
まず望月が現場にいたことは間違いない。
鈴本さんとは『親しい仲』だったとも聞いている。
事件に関わっている可能性が高いだろう。
もしどこかで望月を見かけたら、すぐ私に連絡してくれるかな。


 涼太は力強く頷いた。


佐伯涼太

わかりました……。
疑ってるんですね。
望月のことを。

橋田在昌

うーん……。
そこまでちょっと言えないな。
でもまぁ、想像にお任せするよ。



 橋田が困ったように肩をすくめる。


 言葉には出していないが、肯定したようなものだ。


 警察は望月を『殺人事件の容疑者』として追っている。


 そして絶好ともいえるタイミングで、『窃盗』の通報が入った。


 通常であれば『逮捕状』を出さないと、自宅の捜査はできない。


 しかし『窃盗の通報』という免罪符めんざいふがあれば、捜査一課の人間も大手を振って自宅を捜索できるという訳だ。



佐伯涼太

(たぶん橋田さんたちは『凶器』を探したり、『ゲソこんの裏取りを取ったりしてるんだね……。それが出てくれば『殺人犯』として逮捕できる。望月も逃げられやしない。『窃盗』は最高の別件逮捕になったワケか……)



 涼太は納得しながら壁を見つめた。


 『胡桃の写真』が貼られた壁だ。


 赤ん坊から最近の姿まで、ありとあらゆる胡桃が飾られている。



佐伯涼太

(ここまでくると、警察に『胡桃ちゃんへのストーキング』『嘱託殺人』のことを告げるべきかもしれないね。今なら僕たちの『証言』でも捜査してくれるかもしれない。まだ『物的証拠』は少ないけど、望月が異常者であることは把握できるだろうし……)



 天野に電話して相談しよう。


 そう思って涼太がスマホを取り出した時だった。



佐伯涼太

……あれ?



 壁から1枚の写真が剥がれ、涼太の足元に滑り落ちた。


 運動会の写真だろう。


 胡桃が同級生と一緒に大玉を転がしている。


橋田在昌

……おや?
ダメだよ佐伯くん。
部屋のものには手を触れないでくれ。

佐伯涼太

あっ、すみません。
なんか勝手に落ちたんですよ。
戻しておきましょうか。

橋田在昌

いや、いいよ。
そのままにしておいてくれ。
君の指紋がつくと、色々厄介なことになるからね。


 それもそうだな、と涼太が壁を見つめる。


 写真は端のほうに貼られていたのだろう。


 壁が『地肌』を覗かせている。


 『胡桃の写真』の一部に現れた、白く美しい壁。


 涼太はそこで違和感を覚えた。



佐伯涼太

……んん?
これ、どういうことかな……。



 涼太は部屋を見回した。


 『書斎』の壁はどこも白く美しい。


 ポスターやカレンダーなども貼られていない。


 望月はこの部屋でタバコを吸うこともなかったのだろう。


 涼太はそれをじっくり見つめた。



佐伯涼太

……同じだ。
『大玉転がし』の写真が貼ってあった壁と、他の壁はまったく同じなんだ……。



 そう呟いた瞬間。


 涼太の背筋に「ぞっ」と冷たいものが走った。


 まるで冷凍庫に飛び込んだかのように、身体中が冷えて固まっていく。


 そんなことがあるはずない。


 きっと偶然だろう。


 しかし、気になる。


 とても些細ささいなことではあるが、妙に気になって仕方ない。


 確かめることは簡単だ。


 そう思いながら、涼太は橋田に言った。



佐伯涼太

……橋田さん。
今から、僕は橋田さんが困ることをします。
先に謝っておきます。
ごめんなさい。

橋田在昌

えっ?
何を言って……


 橋田が戸惑いの声をあげた時だった。





 ビリリリッ





橋田在昌

ああっ!
何をしてるんだ佐伯くん!?



 涼太は『胡桃の写真』を思い切り引き剥がした。


 赤ん坊の胡桃も、小学生の胡桃も、JKに成長した胡桃も引き剥がす。


 ふらふらと床に落ちていく胡桃たち。


 剥き出しになった『白い壁』を指さし、涼太は言った。



佐伯涼太

橋田さん……。
見てくださいよ。

橋田在昌

な、何を言ってるんだ!
私を困らせないでくれよ!

佐伯涼太

いや、だから、壁を見てください。
これって、おかしくないですか?

橋田在昌

か、壁ぇ?
壁がなんだって言うんだ!



 橋田が涼太を羽交い締めにしながら壁を見る。


 そこで橋田も違和感に気づいた。


 涼太はそれに答えるように口を開いた。



佐伯涼太

『胡桃ちゃんの写真』が貼ってあった壁が、他の壁と同じようになんですよ。

望月はこの部屋を7年前に購入してるんです。
それだけ長いこと写真を貼っていたなら、少しだけ色が違ってくるはずじゃないですか。
埃が積もったり、色があせたり、ちょっとした変化があるはず。

それなのに、何ひとつ、変わらないんですよ。



 涼太は生唾を飲み込みながら言葉を続けた。



佐伯涼太

つまりこれ、ってことですよね?
それってなんか、おかしくないですか……?






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つばこ

念のため補足しますが、『ゲソ痕』とは足跡のことですね。
殺人現場で発見された足跡と、望月の部屋にある靴が一致すれば、もうそれだけで「逮捕だルパーン」なワケです。
それはそれとして、もうすぐ最終回だってのに『謎』が出てきましたね。
まさかここで伏線を増やすとか、ほんとつばこ氏はクレイジーですよ。
でも仕方ないのです。
悪いのは勝手に剥がれちゃった写真なのです。
恨むなら大玉転がしの胡桃ちゃんを恨みましょう!
そんなこんなでいつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(๑•̀ㅂ•́)و✧

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コメント 8件

  • Demurrer

    警察は死体のことを「死体」とは言わないはずですよ

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  • ゆう

    実は全てブラフで目的はお兄ちゃんで同性愛とかとても面白い。

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  • ユタ

    解決編かと思いきや謎を増やされた( ゚д゚)

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  • べっちん

    ほんと、ここにきて謎増やすとか、正気の沙汰ではありません。
    さすがです!つばこ先生w

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  • ドラゴンポテトが美味しすぎて

    てか亮太も迷惑かけないようにゴム手袋でも持ち歩こうよ

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