鈴本つぐみ

直接会って話したいの。
電話じゃうまく伝えられる自信がなくて。
今夜、2人きりで会ってくれないかな?
勇一さんのことで、勇二くんに伝えたいことがあるんだ。




 天野は微かな驚きを抱きながら、鈴本の言葉を聞いていた。



 前述した通り、鈴本は兄の友人。



 しかも兄のサポートを献身的に行ってくれた、恩のある看護師だ。



 鈴本自身が語っていたように、天野を『本当の弟』のように感じていることも、天野は気づいている。



 しかし、病院の外で顔を合わせたことなんて、数えるほどしかない。



 それも「2人きりで会いたい」と誘われるとは。



 天野はしばし迷ったが、



天野勇二

……構わない。
何時にどこに行けばいい?
鈴本さんの都合に合わせるよ。


 鈴本は「ほっ」としたように息を吐いた。


鈴本つぐみ

遅くなっても大丈夫かな?
今日は『準夜勤』なの。
仕事が終わるのが24時前になるんだけど……。
その後でもいいかな?


 天野はいぶかしげに顔を歪めた。


 神埼記念総合病院の『準夜勤シフト』は、14時半から23時半まで。


 いくら何でも待ち合わせ時間が遅すぎる。


 それほど早く伝えたい話なのだろうか。


天野勇二

ああ、いいだろう。
予定を空けておくよ。


 天野は二つ返事で了承した。


 鈴本がまた安堵したような息を吐く。


鈴本つぐみ

ありがとう。
ごめんね。
非常識な時間に呼び出して。

天野勇二

それほど早く伝えたいことなのだろう?
その認識で問題ないよな?

鈴本つぐみ

……うん。
そうなると思う。
もし迷惑でなければ、病院まで来てくれないかな?
そのほうが早く話せると思うし。

天野勇二

わかった。
病院の近くで待機しているよ。
仕事が終わったら連絡してくれ。

鈴本つぐみ

うん。
また、連絡するね。


 そこで電話は切られた。


 会話を盗み聞きしていた涼太が「ヒュゥ」と口笛を吹く。


佐伯涼太

おやおやぁ……?
勇二も隅に置けないねぇ。
確か『鈴本さん』って、神埼の病院に勤めてる看護師さんだよね?
ちょっと幸が薄そうな顔立ちだけど、清楚な黒髪美人のお姉様なことでお馴染みの、あの鈴本さんだよね?


 天野は白い目で涼太を見つめた。


天野勇二

ああ、そうだ。
よく知っているな。

佐伯涼太

そりゃ会ったことあるもの。
ほら、『まきりん』の襲撃事件の時だよ。
あの時に協力してくれた看護師さんでしょ?
僕たちをVIP室まで案内してくれたり、マネキンを手配してくれたりした人だよね。


 天野は大きく頷いた。


 過去に天野は『神埼記念総合病院』のVIP室を使い、アイドルを狙った殺し屋たちを一網打尽にしたことがある。


 その時に協力してくれた看護師が鈴本なのだ。


(詳しくは『彼女を上手にスキャンダルから守る方法』を参照)


天野勇二

よく覚えているな。
女のことに関しては目ざといヤツだ。

佐伯涼太

結構な美人さんだったし、勇二とも親しそうだったからね。
ちょっと気になったんだよ。
昔からのお知り合いなの?

天野勇二

そんな感じだ。
鈴本は兄の同期であり友人でな。
よく世話になっているのさ。

佐伯涼太

へぇ、そんなの知らなかった。
いいなぁ年上のお姉様ナースさん。
しかも深夜に直接会って話したいなんて、めっちゃドキドキする呼び出しじゃん。
もしかして愛の告白かな?
これはワクテカが止まりませんぞ。
ていうか、いつの間に口説いてたのよ?
実はすでにパコってるとか?


 涼太がチャラチャラしながら尋ねる。


 天野は黙って涼太を見つめた。


 殺気を含んだ鋭い視線だ。


 その瞳が「あまりふざけたことを言うと、股間を蹴り潰してやるぞ」と語っている。


 涼太は慌てて言った。


佐伯涼太

ちょっとちょっとぉ。
これぐらいで怒らないでよ。
軽いジョークだってば!
ジョークよジョーク!
ほらほら笑って!
スマイル!
プリキュア!


 天野は涼太を睨みつけながら、大きくため息を吐いた。


 冷静に考えてみれば、まだ涼太には「鈴本が真実を偽装していたこと」を伝えていない。


 野暮な考えに至ってしまうのも当然だろう。


天野勇二

まだお前には伝えていなかったな。
実は鈴本は怪しいんだよ。
先日、驚くことを告白されてな……。



 天野は鈴本と話した一部始終を語って聞かせた。


 鈴本が勇一の容態を偽装していたこと。


 勇一の様子が演技である可能性が高いこと。


 そして、何らかの『秘密』を抱いていること。


 全てを聞き終えた時、さすがに涼太の顔から『チャラ男』の笑みは消えていた。



佐伯涼太

……な、なにそれ……!
マジなの?
勇二のお兄さんは、そんなに良くなってたの?
しかも演技をしていたなんて……!



 青ざめながら天野の様子を伺う。


 涼太はまごうことなき天野の親友。


 天野が『真実』を聞き、ショックを受けているのではないかと心配しているのだ。


 天野は肩をすくめながら言った。



天野勇二

そんな顔をするな。
俺様だってヤワじゃない。
初めはそれなりにショックを受けたが、今は気にしていないさ。



 涼太は切なげに天野を見つめた。


 そんなはずがない。


 涼太は天野がどれだけ『兄のこと』で心を傷めていたのか、よく知っている。


 事実として、高校生になった天野は、手がつけられないほどグレてしまったのだ。


 それも参考書を片手に持ちながら、近所の小悪党を片っ端から叩き潰すという、一風変わったグレ方をしていた。


(詳しくは『彼を上手にチャラ男にする方法』を参照)



佐伯涼太

それならいいんだけどさ……。
しかし驚いたね。
鈴本さんとお兄さんが、ずっと勇二を騙していたなんて……。

天野勇二

ああ、完全に想定外だった。
友人である兄のためとはいえ、そこまでの偽装に手を染めるなんて普通じゃない。
俺が知る限り、鈴本は良識ある看護師だったのによ。

佐伯涼太

僕はそこまで鈴本さんの『人となり』を知らないけど……。
勇二が言うならそうなんだろうね。
確かにフツーじゃないよ。

天野勇二

しかも抱えている『秘密』が気になる。
まさかとは思うが……。


 涼太は「ごくり」と生唾を飲み込んだ。


 天野がどんな言葉を続けるのか。


 容易に想像できてしまったのだ。


天野勇二

鈴本は望月と通じているのかもしれない……。

そんな可能性も考えられる。
望月の『犯行』が俺たちの推測通りであるならば、まさに最悪の展開だよ。


 想像通りの言葉が飛び出した。


 涼太が青い顔で頷く。


佐伯涼太

ありえるね……。
望月は神埼の外科医。
鈴本さんとも接点があるはず。
ある意味では『内通者』ともいえるんだ。

天野勇二

その通りだ。

しかも看護師は『犯行』にうってつけの共犯者だ。
鈴本のことは信用していたし、望月に加担するような人間だとは思えないのだが、もう認識を改めた。
今は姫子に調べさせている最中だ。

佐伯涼太

姫ちゃんお得意のハッキングを使えば、何か見つかるかもしれないね。
望月はガードが固かったけど、鈴本さんなら話は別ってワケか……。


 涼太はそこでため息を吐くと、どこか悲しげに言葉を続けた。


佐伯涼太

だけど『共犯者』なんて想定してなかったな。
僕は望月のことを『単独犯』だと思いこんでた。
あんなクズメガネ野郎のイカれきった『犯罪』に協力する人間なんか、この世界に存在しないと思いこんでたよ。

だけど、これも当たり前の話なんだね。
犯罪には協力者が存在することが多いんだから。


 天野が渋い表情で頷く。


天野勇二

望月は『サイコパス』だからな。
特にアイツは自らの表面を『魅力的な人間』に偽装させることに長けている。
しかも簡単に他者の心理を揺さぶり、時には操ってしまう。

佐伯涼太

言えてる。
この僕でさえも、望月の前じゃ平常心でいられなかった。
鈴本さんも同じように脅されているのかもしれないね。

天野勇二

その可能性も高いな。
姫子には鈴本の『生い立ち』『家庭環境』なども探らせよう。


 天野がスマホを手に取り、素早く指を動かしている。


 きっと姫子に追加の指令を与えているのだろう。


 涼太はそれを聞き、ふと疑問に思った。


佐伯涼太

そういえばさぁ……。
望月の家族って、どんな人なの?
兄弟とかいるのかな?


 天野がスマホを操作しながら答える。


天野勇二

過去に調べたことがある。
結論から言えば『謎』だ。
そもそもアイツは『養子』なんだよ。

佐伯涼太

えっ?
そうなの?

天野勇二

義理の両親は子宝に恵まれなかったらしい。
そのため、養護施設にいた望月を引き取った。
アイツは幼い頃から頭が良かったからな。
そのおかげで引き取り手が見つかったのだろう。

佐伯涼太

ふぅん……。
今も義理両親は健在なのかな?

天野勇二

そのようだ。
望月と会う機会は少ないようだが、元気に暮らしている。
例え義理の息子でも医学部に進学させたんだ。
立派な両親だよ。

佐伯涼太

うん……。
そうだよねぇ……。



 涼太はぼんやりと呟きながら、ひとつのことを考えていた。


 『養子』という特性を持つ人間といえば、もう一人だけ心当たりがある。


 天野の義妹、胡桃くるみのことだ。


 なぜ天野の両親は胡桃を『養子』として迎えたのか、涼太は詳しい事情を聞いていない。


 それは家族のプライベートな問題。


 部外者の自分が踏み入るべきではないと考えていたのだ。



佐伯涼太

(望月の生い立ちは胡桃ちゃんと似てるね、とか言ったら、勇二は怒るだろうなぁ……。俺様のカワイイ妹をクズメガネと一緒にするんじゃねぇ、とか怒鳴りそう……)



 どうして胡桃は神埼家かんざきけに引き取られたのだろう。


 既に「勇一」「勇二」「桃香」という実子が3人もいたはず。


 子宝には恵まれている。


 どんな事情があったのだろう。



佐伯涼太

(……まぁ、そんなの考えても仕方ないか。今は関係ないし。むしろそれだけ立派なご両親に引き取られたのに、なんであんな『サイコパスメガネ』に成長しちゃったんだろうなぁ……)



 涼太がため息を吐いた時。


 スマホを打ち終えた天野が尋ねた。


天野勇二

夜までには時間がある。
俺様はこの後、実習に行くのだが……。
お前はどうするつもりだ?

佐伯涼太

講義に顔を出すよ。
卒業まで残りわずかだからね。
必須単位は取得してるけど、講義をマジメに受けるのもオツなものかなって。

天野勇二

それなら講義後に時間を貰えないか?
相談したいことがあるんだ。

佐伯涼太

おっ?
なになに?
鈴本さんとの密会に同行してほしいとか?
もちろんオッケーだよ。

天野勇二

それはそれで頼みたいんだが……。
もうひとつ、重要なことがあるのさ。

佐伯涼太

えっ?
どったの?
望月のこと?

天野勇二

いや、違う。


 天野はゆっくり首を横に振った。


 そして、嬉しそうに破顔はがんした。


 野蛮なクソ野郎の邪悪な笑顔ではない。


 穏やかで優しげな笑顔だ。


天野勇二

実は胡桃が『誕生日』を迎えるのさ。
しかも16歳の誕生日だ。
そのプレゼント選びを手伝ってほしいんだよ。


 涼太は「ヒュー!」と口笛を吹きながら天野を見つめた。


 野蛮なクソ野郎が持つ、もうひとつの素顔。


 『シスコン番長』のお出ましだ。


佐伯涼太

うぷぷ……。
そういうことか。
僕ちゃんにイマドキのJKが喜びそうなものを教えてほしいってワケね。

天野勇二

そうだ。
もちろん礼はする。
胡桃が喜びそうなものを教えてくれ。

佐伯涼太

礼なんかいらないっての。
そっかぁ。
胡桃ちゃんも大人になったもんだねぇ。
出会った頃はあーんなにちっちゃい女の子だったのに。

天野勇二

まったくだ。
月日が経つのは早いものだよ。
最近は誘拐されたりと、胡桃も大変なことがあった。
だからこそ盛大に祝ってやりたいのさ。



 涼太はニヤニヤ笑いながら悪友の顔を見つめた。


 きっと言葉通りのとんでもなく盛大なパーティを企画しているのだろう。


 望月という脅威に振り回されながらも、天野が天野らしくいられるのは、大切な妹という存在があるから。


 それはなんて素晴らしいことなのだろう。


 どうか天野がいつまでもイカれた『シスコン番長』でありますようにと、涼太はそんなことを神に願っていた。






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つばこ

【質問コーナー】
Q:涼太くんは履歴書の「趣味/特技」の欄には何を書いてるんですか?
A:涼太くん「趣味はたくさんの人たちと関わりを持つことです。人見知りをしないので、年齢、性別、国籍を問わず、どのようなタイプの人とでも打ち解けることができます。また、根気強い性格も持ち味と考えており、友人にどれだけ無茶な依頼をされても大抵のことは成し遂げることができます。その結果、両手では数え切れないほどの殺人犯、暴漢、殺し屋、ストーカーなどの犯罪者を捕まえて警察の捜査に貢献しました」
 
面接官「……んん( ゚д゚)?」
 
 
次回はアダルティナースさんこと鈴本さんとの密会!
物語もターニングポイントを迎えます!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!∠( ゚д゚)/

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コメント 7件

  • あゆ

    履歴書も気になるけど、名前天野じゃなかった。。。
    神崎だった。。。

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  • 神楽

    胡桃ちゃんと望月が兄妹で繋がっている説……あり得そうで怖いなぁ。
    ちなみに自分は、実は望月と天野くんが実の兄弟でゆう兄ちゃんの方が養子なんじゃないか?と疑っております。

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  • べっちん

    そもそも、望月が何者なのか。
    そこに、全ての謎を解く手がかりがあると思われる。
    どうか、天野が信用している人たちが、「内通者」ではありませんように…

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  • ドラゴンポテトが美味しすぎて

    勇二にとって胡桃ちゃんは「意味がある」存在だからなぁ...!

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  • カボルイス世ハピ天クソ契約

    うっわ……胡桃ちゃん……まさか望月と兄妹とかある……??

    どんな展開:(´◦ω◦`):?!
    スピード感……

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