前島が天野の妹たちと『前島会』を開催し、望月と接触した翌日。



 天野の姿は学生食堂の2階にある、いつものテラスにあった。



 当たり前のようにタバコの煙を吐き出している。



天野勇二

チッ……。
望月め。
やはり弟子に接触したか……。



 スマホを睨みつけ、忌々しげに顔を歪める。


 画面にあるのは前島とのLINE。


 望月と接触した様子が事細ことこまやかにつづられている。



天野勇二

(色々と気になることはあるが……。一番の疑問は『なぜ前島と青山あおやまで接触できたのか』という点だな)



 望月は総合病院に勤める外科医だ。


 勤務中は忙しく、青山をぶらつく暇はない。


 オフの日に『いちょう通り』を歩き、そこでたまたま前島を見かけたのだろうか。



天野勇二

(そんなこと、ありえるはずがない。しかし、だからといって前島を尾行するような暇人とも思えない。なぜ望月は前島の行動予定スケジュールを知っていた? そして前島と接触することに『意味』があったのか? 望月の狙いはなんだ……?)



 紫煙しえんを吐き出しながら首を捻る。


 どれだけ推理を飛ばしても、望月の行動理由が掴めない。


 何かの必然性があるのか。


 それとも何もないのか。


 前島との接触自体も、何らかの『ブラフ』でしかないのか。


 なぜここにきて、望月は積極的に天野たちと関わろうとしているのか。


 その理由が何ひとつ見えてこない。



天野勇二

(最も可能性が高いのは、『俺たちの行動を牽制けんせいしている』ということだろう。今の俺様はアイツの周囲を飛び回るハエのようなものだ。望月はそれを嫌がっている。そのように考えるべきなのだろうか……)



 そこまで思案した時。


 テラスの階段を上る足音が聴こえた。


 弱々しい足音だ。


 天野がテラスの入り口を見ると、



佐伯涼太

……やっほー。
お久しぶり。
僕だよ。
勇二の相棒こと、佐伯涼太ちゃんだよ。



 お馴染みのチャラ男が現れた。


 天野は呆れたように言った。


天野勇二

ようやく来やがったな。
待ちわびたよ。
どこで何をしていたんだ?


 涼太は何も答えず、テラスの椅子に座った。


 あまり顔色が良くない。


 どんよりとした憂鬱ゆううつな表情を浮かべている。


 普段はやかましいほどに陽気なパコ野郎なのに、その面影が消えている。


佐伯涼太

ちょっと色々あってねぇ……。
ていうかさ、最初にこれだけは言っておきたいんだけど……。


 げんなりしながら言葉を続ける。


佐伯涼太

勇二の『メスブタちゃん』は、マジで優秀な女の子だね。
あの娘、とんでもないよ。
僕の行く先々に必ず存在するんだけど。

あれどうなってんの?
どうせ勇二が「尾行して張り込め」って命じたんでしょ?
いつから僕を見張らせてるのさ?


 涼太は疲れた表情で質問を飛ばしている。


 天野はニヤリと唇を歪めた。


天野勇二

ほう?
メスブタの『尾行』は見破ったのか。

佐伯涼太

そりゃこちとらプロだからね。
ダテに何度も『尾行』『張り込み』をしてたワケじゃないのよ。

僕の前には姿を現さないけど、陰からずっと見張ってるじゃん。
僕は何度もまいてやったよ。
だけど、必ず僕を見つけ出してまた見張るんだ。
ナンパしてても、コンパにいっても、クラブで踊っても、ずっとどこかで牧瀬さんが僕を見てるの。

天野勇二

メスブタも未熟だな。
お前のレベルに到達するのはまだ無理か。

佐伯涼太

いや、もう到達してるよ。
あそこまで僕の行動予定スケジュールが筒抜けになってるとは思わなかった。
神出鬼没しんしゅつきぼつすぎて怖いんですけど。

天野勇二

それには理由がある。
内緒にしていたんだが、お前のスマホをハッキングしているのさ。
常にGPSの位置を掴んでいる。
お前がどこに逃げたとしても、スマホを持っている限りは追いかけられるんだ。


 涼太が仰天して言った。


佐伯涼太

はぁっ!?
マジで言ってんの!?
それってつまり、姫ちゃんが僕のスマホをハックしてた…ってコト!?
その情報が牧瀬さんに流れてたんだ!
僕ちゃんのスマホは『擬態型』だったんだね!


 涼太が「バタン」とテーブルに突っ伏す。


 天野はトドメを刺すように言った。


天野勇二

そうだ。
お前の行動は全て把握している。
どんなコンパに参加しているのか。
どこでナンパをしているのか。
何人の女を持ち帰ったのか。
その全てを知っているんだ。
最近は鎌倉かまくらの病院』まで遠征したようだな。


 悪い笑みを浮かべながら涼太を眺める。


 涼太は青ざめながらぼやいた。


佐伯涼太

そりゃないよぉ……。
ドイヒーにも程があるって。
僕にはプライベートってのがないの?
なんでそんなことするのよ?

天野勇二

その理由はお前自身が理解しているはずだ。
これでも俺様は、寛大な処置を施してやっているつもりなんだが。

佐伯涼太

うげぇ……。
そうきましたか。
はぁ……。
勇二はマジで地獄耳デビルイヤーの持ち主だねぇ……。


 涼太はぐったりした表情を浮かべた。


 肩をすくめて告げる。


佐伯涼太

報告が遅れてたことは謝るよ。
ただね、別に隠してたワケじゃないんだ。
先に色々と調べておきたいと思ってさ。

天野勇二

ほう?
なんのことだ?

佐伯涼太

今さらとぼけないでよ。
知ってるんでしょ?
望月と接触した。
なぜか就活中の僕の前に、ひょっこり現れたんだよ。


 天野は満足気に頷いた。


 天野はずっと、涼太のその言葉を待っていた。


 なぜか涼太がそのことを報告しないので、牧瀬や姫子に命じて涼太を見張らせていたのだ。


天野勇二

ああ、知っているよ。
メスブタが偶然、目撃してな。


 スマホを取り出し、涼太の前に差し出す。


 画面に表示されているのは1枚の写真。


 喫茶店で話している涼太と望月の姿だ。


佐伯涼太

うわぁ……。
こんなのまであるの?
この時から尾行してたってこと?

天野勇二

いや違う。
これは牧瀬が偶然目撃したものだ。
お前も運が悪かったな。

だがなぜ、このことを隠そうとしていた?
すぐに報告してくれれば、俺様もお前を見張るつもりはなかったぜ。


 涼太がため息を吐きながら頷く。


佐伯涼太

そういうことか……。
これで勇二は僕を疑ったんだ。
だから牧瀬さんに僕を見張らせた。
望月と通じてるんじゃないかって、そんな可能性を想定したのかな?

天野勇二

まぁ、そんなところだな。

佐伯涼太

ありえない誤解だね。
望月は『ヤバいこと』を言い出してさ。
その裏付けを取りたいと思ったんだ。
マジで隠すつもりじゃなかったよ。

天野勇二

裏付けだと?
望月は何を言い出したんだ。

佐伯涼太

鎌倉のJK……。
河瀬結衣かわせゆいちゃんのことだよ。
勇二も覚えてるでしょ?
記憶喪失の女の子。
望月は彼女に「会った」とか抜かしたんだよ。



 涼太は望月との会話を天野に語った。


 まるで『脅し』のような発言の数々。


 涼太の『本質』に言及したことも含めて、包み隠さず説明する。


 全ての事情を理解すると、天野は納得したように頷いた。



天野勇二

なるほどな……。
望月はお前に圧力プレッシャーをかけたのか。
これ以上自分のことを嗅ぎ回るのであれば、お前の大切なものに手を出す。
そう告げたんだな。

佐伯涼太

明言めいげんはしなかったけどね。
とはいえ、さすがに無視できないでしょ?
結衣ちゃんに危害が及ぶなんて耐えられない。
それで鎌倉に行ってきたんだ。

天野勇二

望月の発言が真実かどうか確かめるためか。
裏は取れたのか?


 涼太は呆れたように首を横に振った。


佐伯涼太

それが取れなかったのよ。
望月は鎌倉の病院に出張なんかしていなかった。
結衣ちゃんの前に現れた形跡もない。
つまりは『ブラフ』だったの。
あのクソメガネのおっさん、僕を見事にハメたってワケよ。


 大げさに両手を掲げて吐き捨てる。


 天野は舌打ちしながらタバコの煙を吐き出した。


天野勇二

チッ……。
相変わらずイヤな男だ。
昔と変わってないな。

佐伯涼太

そうみたいね。
まさかあれがハッタリだなんてさ。

天野勇二

だが、実に効果的な『脅し』だといえる。
むしろ『ブラフ』であることが恐ろしいな。

佐伯涼太

ホントそれ。
『ブラフ』だと安堵あんどした反面、逆に怖くなっちゃったよ。
結衣ちゃんに会ってもいないのに、結衣ちゃんの状況を熟知していることになるからね。

天野勇二

それがお前を逆上させるほどの『弱み』であることも理解している。
末恐ろしいヤツだ。


 タバコを灰皿にねじ込み、改めて涼太の顔を見つめる。


天野勇二

それで結局のところ……。
アイツの『依頼』はなんだったんだ?
そこまでの『ブラフ』を駆使して、お前に何を頼みたかったんだよ?

佐伯涼太

それは実にシンプルだったよ。
望月の要求は3つあった。


 涼太が指を3本立てる。


佐伯涼太

ひとつは勇二への伝言。
自分は勇二と敵対したくない。
良好な関係を築いてくれないかって。

天野勇二

なるほど。
却下だ。
他はなんだ?

佐伯涼太

もう自分を嗅ぎ回ることはやめてくれって。
僕たちが陰でこそこそ調べるのは「ノーサンキュー」なんだってさ。

天野勇二

それが本題だろうな。
アイツは俺たちの『動き』に気づいたのか?

佐伯涼太

そうかもしれない。
慎重に動いていたつもりだけど、どこかでミスったんだろうね。

天野勇二

だがそれは、俺たちの『調査』が効果的だったことの証明に等しい。
やはり俺様の『読み』は正しかったようだな。

佐伯涼太

言えてる。
僕たちは『真実』に近づいてるよ。
望月っていうクズメガネ野郎の本性に手をかけてる。
だからこそ望月は『結衣ちゃん』っていう僕の弱点ウィークポイントを叩いた。
そう考えて間違いないだろうね。


 涼太はそこで生唾を飲み込んだ。


 実は3点目が重要なのだ。


佐伯涼太

最後の要求は、僕を内通者スパイとして雇いたい」ってことだった。
勇二の動向を細かく報告してくれって。
報酬も支払うとか言われたよ。

天野勇二

ほう……?
いくら支払うと言ったんだ。

佐伯涼太

半端な額じゃないよ。
500万円
勇二のことを報告するだけで、それだけ支払ってくれるって。
どうやらあの人、相当溜め込んでるみたいだね。


 天野は瞳を細めながら涼太を見つめた。


 全てを見透かしてしまうような鋭い視線。


 涼太はそれを見て「うげぇ、このクソ野郎、また僕の心を読んでる」と感じた。


佐伯涼太

も、もちろん断ったよ。
正直に言うけど、めっちゃ魅力的な話だった。
そりゃ僕だってお金欲しいもの。
『内通者』のフリをしてお金だけ頂戴しようかな、とも思ったよ。


 食い気味に言葉を吐き出す。


 どうせ天野は全てを見透かしてしまう。


 こちらの『嘘』なんて簡単に見破ってしまうのだ。


 先に白状してしまったほうが無難だろう。


佐伯涼太

だけどね、それは大した問題じゃないんだ。
問題は望月がその後に付け足した言葉だった。
あれを聞いた時、さすがに背筋が凍ったよ。
想定したことのない言葉だったからね。

天野勇二

それはなんだ?
気になるな。


 新しいタバコを取り出しながら天野が尋ねる。


 涼太はチラリと周囲を眺めた。


 テラスにいるのは2人だけ。


 それを改めて確かめると、言葉を紡いだ。


佐伯涼太

あれはマジで驚いた。
望月はこう言ったのよ。

内通者は涼太くんだけじゃない。
君たちの中には、他にも裏切り者がいるんだよ。


……ってね。





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つばこ

天野くん「メスブタよ。しばらくの間、涼太を見張れ。あのバカ、なかなか望月と接触したことを報告しやがらない。これは寝返ったかもしれん。必要であれば制裁しても構わないぜ」
メスブタ「かしこまりました。当然の措置ですね。もしご主人様を裏切るような愚か者であれば、私の手で処刑いたします。男性器をもいでしまいましょう」
 
実は天野くん、こっそり上記のような会話をメスブタちゃんと交わしており、涼太くんのことを尾行させていたようです。
付き合いの長い幼馴染なのに、大切な親友なのに、天野くんはイマイチ涼太くんを信用していないところがありますね。
たぶん、女癖が悪いからだろうなぁ…( ゚д゚)
「あのパコ野郎はいつか妹たちを口説くかもしれない」とでも考えているのかもしれないなぁ……。
 
そんなこんなで次回に続きます!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(*´∀`)

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コメント 10件

  • 茄子

    涼太のちいかわ語録かわいい

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  • ユタ

    ぜっっっったいブラフじゃんwww

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  • ニル

    色仕掛けで切り落とすのか…

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  • さすらいのももくり好き

    GPS望月も使ってるのでは?
    LINE始めたのも最近だし仕込めそう

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  • べっちん

    クソ野郎、面白いのに、comicoからノベルが撤退するってなってから、極端に読者減ったな…
    まだ終わってないのにねー

    それにしても、メスブタちゃんが、「偶然」涼太と望月を見かけた、っていうことが、とても違和感あるんよね。
    そこから仕組まれてたとしたら、メスブタちゃんが天野っちの前に現れたこと自体が、望月の「罠」だったりしてね。

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