※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。







 大都会、東京都とうきょうと渋谷しぶやの中心部。



 駅の真上にそびえ建つ複合施設。



 昨年開業したばかりの『渋谷スクランブルエッグ』という駅ビルだ。



 渋谷エリアでは最も高い地上51階建て。



 その17階ロビーに、佐伯涼太さえきりょうたの姿はあった。



佐伯涼太

誠にありがとうございました。
以前より御社おんしゃ『第一志望』として考えておりましたが、本日の面接を通して、改めて御社で働きたいという気持ちが強くなりました。
是非ともよろしくお願いいたします!



 涼太は深々と頭を下げた。


 いつものチャラチャラした服装ではなく、パリッとした『リクルートスーツ』に身を包んでいる。


 当然ながら、ピアスやリングなどのアクセサリーも外している。


 それも当然だろう。


 涼太は先ほどまで『新卒採用』の面接に挑んでいたのだ。



樹莉乃

ふふっ……。
そんなかしこまらないでよ。
もう役員はいないんだから。

二宮翔太

そうですよ。
いつもの涼太さんでいてください。
僕としては、そちらの方が話しやすいです。



 涼太の目の前には、2人の若手社員が立っている。


 樹莉乃いつきりの二宮翔太にのみやしょうただ。


 2人は涼太が志望している『株式会社ファイバーエージェンシー』に勤める会社員。


 涼太とは、ひとつの事件を境に知り合っている。


(詳しくは『彼が上手に上司を殴る方法』を参照)



佐伯涼太

……そうです?
じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。


 涼太がネクタイをゆるませながら言葉を続ける。


佐伯涼太

いやぁ、本当に莉乃さんと二宮パイセンのおかげですよ。
僕みたいな平々凡々へいへいぼんぼんな大学生が、こんなに大きな会社の面接を受けれるなんて。
マジで感謝してます。

二宮翔太

謙遜けんそんしないでください。
涼太さんならどこでも採用されます。
役員の反応もすごく良かったと思いますよ。

樹莉乃

そうね。
今日の感じだとほぼ『内定』決まったと、そう考えてもいいんじゃないかな。
涼太くんと一緒に仕事できること、楽しみにしてるからね。

佐伯涼太

うわぁ!
マジっすか!?
莉乃さんにそう言ってもらえるなんてハッピー!


 涼太は破顔はがんしながら「すすっ」と樹に近づいた。


 二宮には聞こえないよう、小声でささやく。


佐伯涼太

ちゃんと約束通り、『コンパ』の予定組んでおきますから。
今週末、空けておいてくださいね。


 樹がにんまりと悪い笑みを浮かべる。


樹莉乃

ふふっ……。
期待してる。
いつも感謝してるわよ。

佐伯涼太

もう『医者』『医学生』はあらかた制覇せいはしたと思うんで、次はIT系の『若手社長』にしてみます?
もしくは『読モ』のイケメンなんか集めてみましょうか?

樹莉乃

両方、お願いしていいかな。
どっちも楽しそうじゃない。
涼太くんのコンパはレベル高いからなぁ。

佐伯涼太

そう言っていただけると光栄です。
お代官様が話のわかる御方で助かりましたよ。

樹莉乃

わかってると思うけど……。
二宮ニノやうちの幹部連中には内緒でよろしくね。

佐伯涼太

イッヒッヒ……。
承知しておりますよ。


 揉み手をこすりながら悪い笑みを浮かべる。


 どうやら涼太は様々な裏取引を駆使しているようだ。


 二宮が小首を傾げながら言った。


二宮翔太

……うん?
どうしたんですか?
内緒話なんかして。

樹莉乃

な、なんでもないの。
本当になんでもないのよ。
ほら二宮ニノ、そろそろ仕事に戻るよ。

二宮翔太

はぁ……。

じゃあ涼太さん。
またお会いできることを願ってます。
もしインターンする時は言ってくださいね。
少しは便宜べんぎを図れると思いますから。

佐伯涼太

ありがとうパイセン!
お仕事頑張ってくださいねー!


 樹と莉乃がオフィスに戻って行く。


 涼太は2人の背中を見送ると、軽く拳を握った。


佐伯涼太

うぷぷぷっ……。
やったよ。
ついに僕ちゃんの『就職』が決まったよ。

なんだかんだあったけど、天才クソ野郎のダチで良かった。
勇二ゆうじ『コネクション』がこんな形で役立つとはなぁ……。


 何度もガッツポーズを決めながら周囲を眺める。


 高層階オフィス棟への玄関口であるロビーには、社員や関係者など、様々な社会人が行き交っている。


 どれも日本を代表する一流企業の人間ばかりだ。


佐伯涼太

(僕も大学を卒業したら、この中の1人になるんだねぇ。青春時代に別れを告げて、社会という名の砂漠に飛び込むことになるワケだ。思えば長いようで、あっという間の大学生活だったなぁ……)



 ロビーのベンチに腰掛け、涼太は約5年間のキャンパスライフを回想した。


 数え切れないほど参加したコンパ。


 あらゆる街で挑んだナンパ。


 たくさんの魅力的な女性との出会い。


 そして何より、『学園の事件屋』として挑んだ数々の事件。


 ストーカー犯をお仕置きしたり、殺人犯を追い詰めたり、アイドルに襲いかかる乱暴者を撃退したこともあった。



佐伯涼太

(思えば、あれで僕の『探偵』という才能が開花したんだ。興信所こうしんじょなんかで働くのも悪くないね。また『尾行』とか『張り込み』とかしたいなぁ)



 苦笑しながら息を吐く。


 卒業まで残りわずか。


 想定外の『留年』を経験したこともあったが、もう卒業に必要な単位は全て取得している。


 卒論そつろんも書き終えているので、今度こそ間違いなく卒業できるだろう。



佐伯涼太

(さすがに卒業したら、『学園の事件屋』に付き合うことはできないなぁ。ていうか、勇二も社会人になったら、事件屋じけんや稼業かぎょうから足を洗うだろうね。そもそもアレは勇二の「暇つぶし」だったワケだし。テラスを牛耳ぎゅうじるクソ野郎がいなくなるってのも、なんだか寂しい気がするねぇ……)



 涼太は大きく伸びをしながら立ち上がった。


 もうすぐ終わる大学生活。


 ありふれたキャンパスライフ。


 天才クソ野郎の相棒として、数々の事件に立ち向かった日々。


 親友と共に怒ったり笑ったり泣いたり。


 時には理不尽りふじんに蹴り飛ばされたり。


 おかしな依頼を無茶振りされたり。


 窮地きゅうちを救うために奔走ほんそうしたりしたこともあった。


 今はそれが、とても懐かしく感じる。


 自分は親友と一緒に、かけがえのない時間を過ごしていた。


 そう感じてしまうのは、大学生活が「終わること」を意識しているからだろうか。


 涼太がそんなことを考えていた時だった。



???

……おや?
そこにいるのは……。
涼太くんじゃないか。
久しぶりだね。



 背後から男の声が響いた。


 涼太が驚いて振り返る。


望月蒼真

こんなところで会うとは奇遇きぐうだね。
スーツを着ているということは、就職活動中なのかな?
元気してるかい?

佐伯涼太

あ、あなたは……!



 涼太は驚愕きょうがくの表情を浮かべながら立ち上がった。


 柔らかな茶髪をたなびかせた長身のインテリ男前イケメン


 望月蒼真もちづきそうまだ。


 天野の宿敵であり、天野が最も憎んでいる男。


 まさかこんなところで出会うとは。


 涼太は生唾なまつばを飲みこみながら言った。



佐伯涼太

お久しぶりです……。
望月さん、ですよね?

望月蒼真

そうだよ。
僕のこと、覚えていてくれたんだ。
君に会うのは4年ぶりになるのかな?

佐伯涼太

たぶん、そうだと思います……。
望月さんも、お元気そうで……。


 望月の話は天野からよく聞いている。


 写真を見たり、遠くから観察したこともあった。


 しかし、直接顔を合わせるのは4年ぶりだ。


 当然ながら話すのも久しぶり。


 それなのに、望月は恐ろしいほどフレンドリーに語りかけている。


佐伯涼太

望月さんは、ここで何を?
外来がいらいというワケじゃないですよね?


 望月は総合病院に勤める外科医。


 渋谷のオフィスビルに用はないはずだ。


望月蒼真

知人に会いに来たんだ。
完全なるプライベートさ。

しかし、涼太くんはより男前になったね。
スーツ姿も似合っているよ。
きっと良い会社に就職できるだろうね。

佐伯涼太

そ、そうですかね……。
それなら、いいんですけど……。


 涼太は背中に流れる冷や汗を感じた。


 望月の印象は昔と変わらない。


 どこか事務的な冷たさを感じる声も、抑揚よくようや掴みどころのない話し方も、以前となんら変わりがない。


 人によっては感情に乏しい男だと感じるだろう。


 しかし、物腰の柔らかさと、整った顔に浮かべている爽やかな笑顔が、見事にそれらの要素を中和している。


佐伯涼太

(相変わらず、気味の悪い人だよ……。どうして僕が『就職活動中』だと思ったのさ? スーツ姿なんだから、社会人だと判断するのがフツーなのに)


 そもそも会うのは4年ぶりだ。


 当時の涼太は大学1年生。


 時系列を考えれば「卒業している」と考えるのが自然。


 涼太が『留年』したことを知っているのか。


 なぜそんなことを知りながら、とぼけているのか。


 望月は涼しげな笑みを浮かべて言った。


望月蒼真

せっかく会ったのだから、お茶でもどうだい?
久々に涼太くんと話したい。
少しだけ、時間を貰えないかな?


 涼太は小さく息を吐いた。


 平常心を装いながら答える。


佐伯涼太

お誘いは嬉しいんですけど、用事があるんですよ。
すみません。
またの機会にお願いします。


 今は対峙たいじすべき相手ではない。


 天野にも「接触するな」と命じられている。


 涼太が望月に背を向けると、


望月蒼真

……待ってくれ。
僕と話すのはそんなにイヤかな?
涼太くんは僕に『興味』があるんじゃないかと、そう思っていたんだけどね。


 望月が唇を歪めながら言った。


佐伯涼太

……興味?
いや、そんなことはないですけど……。

望月蒼真

とぼける必要はない。
もう気づいているよ。
涼太くんが……いや、正確に言えば、勇二くんと涼太くんが、僕のことを調べているって。
そろそろ君たちと、しっかり話すべきじゃないかと思うんだけどな。


 涼太は震えながら振り返った。


 望月は人当たりの良い笑顔を浮かべている。


 そこにほんの一滴だけ『毒』が垂れたように、涼太は感じた。





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つばこ

どうも、つばこです。
今週もお読みいただきありがとうございます。
 
comicoノベルにおける最終エピソード『彼が上手に天才クソ野郎になる方法』です。
もし天クソが最終回を迎えるとしたら、タイトルはこれしかないだろうな、と決めてました。
ようやくお披露目できて感無量でございます。
どうか最後まで楽しんでいただけますように。
 
そんでもってもうすぐ更新も終わるので、「つばこが読者の質問に答えますコーナー」をやります!
つばこに読者コメントで質問してください!
 
 
(質問例)
Q:涼太くんの「キャンパスライフ」は女遊びと事件屋稼業しかないんですか?
A:そうみたいです(´・ω・`)
 
 
こんな感じで質問をチョイスして作コメでにてお答えします!
もし質問なかったら寂しくて泣いちゃうから!
ではでは、comicoノベルフィナーレまでよろしくお願いしまーす!ヾ(*´∀`*)ノ

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コメント 32件

  • たかてぃ

    天野くんは5年で卒業?

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  • ルーデンス

    チャラ男講座完全版はどうなりましたか?

    通報

  • konbu

    えー……まじかよ最後の最後で大波乱が起きそう怖い(´・ ・`)

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  • べっちん

    とうとう最後のストーリーなんですね…
    残念だ…

    質問は、ありそうでなさそうで…(笑)
    また次回までに考えときます。

    あ、≪質問≫
    今までの伏線は、全て回収されるのでしょうか?
    気になります。

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  • ぽむ

    Q.涼太くんは履歴書の「趣味/特技」の欄には何を書いてるんですか?

    …やっぱり「ナ〇パしてその後パコパ○することです」とか「拳銃とか毒とかの武器で武装して戦ったり、戦ってる友だちを動画に撮ったりすることです」とか書いてたりするんですか?www
    それとも「いつでも明るく笑顔を絶やさないことをモットーとしているので初対面の人とでもすぐに仲良くなれる性格だと思っています」とか「友だちと動画の撮影や編集をしていることもあり、PC関係は得意です」とかで誤魔化してるんですか?www

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