佐伯涼太

こんなのどう考えても強要ですよ。
言っておきますけど、後悔しますよ。

椎名善晴

後悔はいたしません。
君には是非とも『協力』していただきたいですね。



 椎名が念を押すように告げる。



 涼太は小さく息を吐くと、震える手を自らの衣服に伸ばした。



佐伯涼太

はぁ……。
なんでこんなことに……。



 なげき声を呟きながらシャツのボタンを外す。



 左腕だけを使い、包帯を解いていく。



 椎名たちはその一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくを見つめている。



佐伯涼太

あ、いてて……。



 涼太は顔をしかめながら右肩を押さえた。


 肩が痛くて包帯を外せない、というジェスチャーを送ってみせる。


佐伯涼太

これは1人じゃ外せません。
そこにお医者さんがいるなら手伝ってくれませんか?


 医者が慌てて涼太に近づき、包帯をゆっくりほどき始めた。


椎名善晴

最後まで細かい演技をなさいますね。
その諦めの悪さ、嫌いではありませんよ。


 椎名の言葉を受け、涼太は静かに言い返した。


佐伯涼太

ねぇ椎名さん。
これ、明らかにイレギュラーなやり方ですよね。
僕は暴行を受けて安静にしろと言われてる『被害者』なんです。
それを取調室とりしらべしつに軟禁なんて。
しかも包帯を取って怪我の具合を見せろだなんて。
こんな扱いはないですよね。


 椎名と高尾は何も答えない。


 それでも涼太は悪あがきをやめない。


佐伯涼太

みんな僕のことを無視シカトするなぁ。
でも、僕は負けませんよ。
無視シカトされることには慣れてるんです。
どれだけ無視シカトされても、壊れたスピーカーみたいに喋りますよ。


 全ての包帯が解かれた。


 残りは包帯の下に貼られた湿布しっぷだけ。


佐伯涼太

きっと『被害者』である僕のもとに、マスコミの取材が殺到します。
その時に今の状況を喋りまくってやりますよ。
『被害者』に無茶な尋問じんもんをした無能捜査の失態を、これでもかと喋りますからね。


 その言葉は虚勢ハッタリであり、ただの悪あがきでしかない。


 椎名はそのように考えていた。


 医者は涼太の身体から湿布をがすと、


お医者さん

……うん?
この、れは……?


 少し不安そうに呟いた。


 なぜなら、そこには打撲痕だぼくこんと思われる痕跡こんせきがあったからだ。


 紫色に染まっている皮膚。


 微かに膨れ上がっているようにも見える。


お医者さん

これは?
本当に怪我をして……


 医者が涼太の腕を掴み上げた。


 涼太が悲鳴をあげながらそれを振り払う。


佐伯涼太

うぎゃああ!
痛いですよ先生!
何するんですか!?

お医者さん

えっ?
いや、すみません……。
こ、これはなんですか……?

佐伯涼太

見ればわかるでしょ。
打撲だぼくですよ。
ついさっき殴られたから腫れてるんですよ。


 涼太は舌打ちしながら、その場にいる全員に自らの身体を見せつけた。


 もちろん「いかにも痛そう」という演技を混ぜながら。


椎名善晴

なっ……。

高尾律果

え、えっ……?


 椎名と高尾は言葉を失っている。


 目の前の光景が信じられない。


 涼太の身体には、複数の『あざ』と思われる箇所がある。


 いくつかは皮膚が擦れてかすかに出血している。


 一見では打撲痕だぼくこんにしか見えなかった。



椎名善晴

……バ、バカな!
そんなはずがない!



 椎名が青ざめながら叫ぶ。


 涼太は勝ち誇ったように笑った。


佐伯涼太

うぷぷ……。
やっちゃいましたね。
だから言ったんですよ。
「後悔しますよ」って。

椎名善晴

な、なぜだ……!
なぜ君は怪我をしているんだ!?


 思わず立ち上がり、涼太の肩を乱暴に掴み上げる。


佐伯涼太

いででっ!?
だから腕を掴まないくださいよ!
暴力ですか!?

椎名善晴

そ、そんな……。
なぜ、なぜなんだ……。

佐伯涼太

まったくもう……。
本当にドイヒーだなぁ。
僕は被害者なのに。


 椎名が困惑こんわくしながら黙り込む。


 涼太は偉そうに医者に指示した。


佐伯涼太

もういいですよね?
包帯、巻き直してください。
湿布も新しいのに貼り替えてくださいね。

お医者さん

あ、いや……。
湿布は持ってきてないんです……。

佐伯涼太

はぁ?
あなた本当に医者ですか?
じゃあせめて綺麗に貼り直してくださいよ。


 医者が慌てて涼太の身体に湿布を貼り直し、改めて包帯を巻いていく。


 涼太は壁にかけられた鏡を眺めると、にんまりと笑みを浮かべた。


佐伯涼太

さぁ、椎名さん。
それにこれを見ている他の警察のみなさん。
全員に心境を尋ねてみたいですね。

これは明らかな警察の失態です。
被害者を疑い、わざわざ包帯を取らせて怪我の具合を確認させた……。
そんなドイヒーなことをしてしまった今の心境を教えてくださいよ。


 ふてぶてしく笑いながらも、涼太の内心はもう汗だくだった。


 心の中ではこんな叫び声が巻き起こっている。



佐伯涼太

(いひゃあああああ! クソあぶない! セーフ! 何とかギリギリセーフ! マジで怪我が本物かどうか確かめてきた! 勇二の言うことに従っておいて良かったぁ!)





 この『4件目の事件』を発生させる前。



 天野は念には念を入れることにしたのだ。



天野勇二

椎名という刑事は切れ者だ。
素直にカルテを信じるはずがない。
お前の怪我が本物かどうか確かめようとするだろう。



 そう想定していた。


 涼太は「まさか僕を殴るのかな…」と心配だったが、天野もそこまでの鬼畜きちくではない。


 ひとつの注射器ちゅうしゃきを取り出すと、



天野勇二

試薬しやくを打ってやろう。
アレルギー反応が出て腫れる。
しばらくは消えない。
念のため皮膚も少し切っておけ。



 そう言って、特殊な薬品を涼太の身体に注入し、打撲痕を偽装したのだ。



 涼太としては『試薬』という言葉が不安だった。



佐伯涼太

ねぇ……。
その薬、成分はなんなの。

天野勇二

別に知る必要はないだろ。

佐伯涼太

いや『試薬』なんでしょ?
人体実験してあるの?

天野勇二

ああ、今してる。

佐伯涼太

うぐぅ!
実験体は僕だった!

天野勇二

医学の発展のために犠牲になってくれ。





 何とも不安な『試薬』だったが効果は抜群。



 この場を誤魔化せるほどのリアルな打撲痕を再現している。



 あとは涼太自身の『演技力』を用いて、椎名たちの目をあざむくだけ。



 涼太は見事にやりきったのだ。


椎名善晴

佐伯くんが怪我をしていたとは……。
まさか、本当に暴行事件が発生していた……?


 椎名が震えながら呟く。


 高尾は首を傾げながら涼太の身体を睨みつけているが、何も言葉を発することができない。


 2人の心の中には「被害者に無茶な尋問をしてしまった。これは警察の失態になる」という後悔が渦巻うずまいている。


椎名善晴

……いや、違う。
そんなはずがありません。
それも自作自演ブラフですね。


 ようやく椎名が思考を切り替えた。


 相手は『天才クソ野郎』という名の『医学生』だ。


 何かの『薬物』を使ったのかもしれない。


 涼太はすかさず笑い飛ばした。


佐伯涼太

ブラフなワケないでしょ?
身体の状態はカルテと同じ。
椎名さんも傷跡を目視しましたよね?
まだ僕を疑うんですか?

椎名善晴

う、腕を貸してください!
私が君の身体を確かめます!

佐伯涼太

そんなことしたら痛いですよ。
それもマスコミに喋ってほしいんですか?

椎名善晴

違います!
君の傷を確かめるだけ……。


 椎名がそこまで言った時。


 「プルルル…」と、取調室に設置されている電話が鳴り響いた。


 この状況を『マジックミラー』の向こうから観察している「上層部」からの電話だ。


 高尾は慌てて受話器を取った。


高尾律果

高尾です。
……はい。
そうですか。
承知しました。


 受話器を置くと、椎名の耳元でささやく。


高尾律果

椎名さん……。
上からストップ入りました。
もうやめろ、これ以上の尋問は危険だと言ってます。

椎名善晴

しかし、彼の怪我は……。

高尾律果

本当に『被害者』であれば大問題になります。
マスコミに喋らせないように口止めもしておけ、とのことです。

椎名善晴

このまま彼を解放しろ、ということですか?


 高尾が悔しげに頷く。


 被害者を一旦解放して泳がせろ。


 それが上層部からの指示だ。


椎名善晴

しかし、彼の怪我は偽装です。
このまま勾留こうりゅうすべきでしょう。

高尾律果

私もそう思います。
本物の打撲痕とは思えません。
ですが、上がそれを望んでませんよ。
この場でのスタンドプレイはマズいと思いますね……。


 椎名は顔をしかめながらマジックミラーの向こうを睨みつけた。


椎名善晴

……納得できません。
上に掛け合いましょう。


 椎名は部屋の受話器を手に取った。


 呼び出し音が鳴るが、相手が出る気配はない。


 椎名のリクエストに応えるつもりがないのだ。


 それは「もう尋問を中止しろ」という無言の圧力に等しかった。


椎名善晴

……仕方ありません。
上がそう判断するのも、無理はないでしょう……。


 ため息を吐きながら受話器を叩きつける。


 椎名の役職は『警視』だ。


 決して階級が低い訳ではないが、上には上がいる。


 警察という縦社会の組織において、上からの指示に逆らうことは許されない。


 椎名は額の汗を拭うと、涼太に向き直った。


椎名善晴

佐伯くん……。
大変失礼いたしました。
私の認識が誤っていたようです。
誠に申し訳ないのですが、ここでの会話は犯人確保のために、ご内密にしていただけませんか?

佐伯涼太

それも強要ですか?

椎名善晴

いえいえ。
これはお願いでございます。


 椎名は柔らかな笑みを浮かべながら頭を下げた。


 先ほどまで放っていた奇妙な迫力を全て引っ込めている。


椎名善晴

君の発言によって余計な混乱が生じると、犯人の逮捕が遅くなってしまうかもしれません。
そうなれば民間人の皆さまを不安にさせてしまいます。
そのためにご協力いただきたいのです。

佐伯涼太

ふぅん……。
どんな状況でも警察は警察ですね。
あくまでも上から目線ってワケですか。

椎名善晴

そんなつもりはございません。
不快な思いをさせたことは心から謝ります。
ですが、君も捜査をさまたげることは望んでいないでしょう。
是非ともご協力、お願いいたします。


 涼太は満足気に頷いた。


 涼太の目的は、自分が『被害者』だと警察に認識させること。


 ここまでくれば目的は達成できたといえるだろう。


佐伯涼太

わかりました。
僕も犯人には早く捕まってほしいですから。
この場の会話を全て忘れます。
マスコミにも何も喋りませんよ。

椎名善晴

ありがとうございます。
佐伯くんが聡明そうめいな青年であることに感謝いたします。


 涼太は息を吐きながら椎名を見つめた。


佐伯涼太

(ふぅ……。ちょっとだけ詰んだかなと思ったけど、これで万事オッケーだよね。別に警察と敵対したいワケじゃない。僕たちが追いかけてるのは『トロイの真犯人』だけなんだ)


 天野たちが追いかけているのは『遠隔操作トロイウイルス事件』の真犯人だけ。


 椎名たちと喧嘩ガチンコしているようにも見えるが、それが主目的ではない。


 むしろどこかで警察とは共闘きょうとう関係を結ぶ必要がある。


佐伯涼太

ねぇ椎名さん。
ひとつだけお願いしていいですか?
僕を出口で見送ってほしいんです。

椎名善晴

ええ、君は重症の『被害者』ですからね。
護衛の人間をつけましょう。

佐伯涼太

あ、いや、椎名さん。
あなたに見送ってほしいんですよ。

椎名善晴

……はい?
私ですか?

佐伯涼太

そうなんです。
実は『友人』が迎えに来ているはずなんです。
きっと椎名さんも会いたい男だと思いますよ。


 椎名は思わず息を飲んだ。


 会いたがっている男。


 天才クソ野郎こと、天野しか考えられない。


椎名善晴

まさか……。
彼ですか?
彼がここに来ているのですか?

佐伯涼太

そういうことです。
僕を車で送ってくれるんですよ。

椎名善晴

なんて若者たちだ……。
よく、作戦を練られているものです……。


 椎名は顔を歪め、悔しそうに唇を噛み締めた。


 あのクソ野郎が桜田門さくらだもんに来ている。


 それは涼太の事件が『自作自演ブラフ』であり、本庁に移送されることも想定していた、ということを示していた。


椎名善晴

このタイミングですか……。
ここで私と会いたい、というのですね。

佐伯涼太

まぁ、そうなんでしょうね。

椎名善晴

まったく情けない話です。
私は君たちのてのひらの上で踊らされていますね。

……いいでしょう。
高尾くん、彼を見送りましょう。


 椎名の先導で取調室を出る。


 高尾は涼太の背後をマーク。


 人気の少ない深夜の警視庁を歩く。


 椎名と高尾は苛立いらだっているのだろう。


 どこか不思議な緊迫感に満ちている。


佐伯涼太

……ああ、そうだ。
これだけは椎名さんに言っておこうかな。


 そんな空気を無視して、涼太はのんびりと口を開いた。


佐伯涼太

椎名さんはご存知ないと思いますけど、勇二は昔から『先入観』っていう感情を嫌ってるんですよ。
噂や第一印象を気にしながら他人と関わるなんて、あのクソ野郎の美学に反するみたいなんです。


 苦笑しながら言葉を続ける。


佐伯涼太

だからなんですかね。
昔から変わった友達を作る男でしたよ。
噂や見た目で人を判断しないんですもん。
僕もそんな勇二の美学に、救われたこともありました。


 椎名はいぶかしげに涼太を見つめた。


 何を言いたいのか、今ひとつ理解できない。


椎名善晴

……それが、どうなされたのですか?

佐伯涼太

『先入観』なんてロクな感情じゃない、ってことです。
椎名さんは僕を取調室に放り込んで尋問する前に、警察病院に連れて行って診察させるべきだった。

それを怠ったのは、『怪我は嘘である』という『先入観』が強すぎたからなんです。
「暴行事件はブラフである」という『先入観』とらわれちゃった、とも言えるのかな?
その結果、上司の前で大失態を演じちゃったワケですよ。


 椎名は涼太から顔を背けると、悔しげに唇を噛んだ。


椎名善晴

なるほど。
私は君を本庁に連れて来た時点で敗北していた……。
そういうことですね。

佐伯涼太

まぁ、そうなりますね。
尋問は失敗。
再診察するチャンスも逃しちゃった。
『先入観』とらわれるべきではないってことを、改めて椎名さんが証明してくれたんです。
天才クソ野郎の美学ってやつも、時には正しいのかもしれませんね。

椎名善晴

彼は、天野くんには……。
そんな信念があったんですか……。


 椎名が小さく息を吐く。


 どこか切なげに呟いた。


椎名善晴

だからこそ、彼は関係を築くことができた……。
そういうことかもしれませんね……。
それは、私の中にはなかった考えです……。


 その独白どくはくは涼太まで届かなかった。


 代わりに背後から高尾が言った。


高尾律果

……やっぱり、あなた、怪我なんかしてないのね。


 ドスをかせた脅しの声。


 余裕たっぷりの涼太の心を粉砕するかのようだ。


佐伯涼太

い、いやだなぁ……。
してますってば。
怪我してますよぉ……。

高尾律果

私はね、元々は『マル暴』だったの。
打撲痕なんて見慣れてる。
CSPが見落としても、私にはわかるのよ。


 涼太は思わず震え上がった。


 『猛牛』の顔から憤怒ふんぬがほとばしっている。


 どんな闘牛士マタドールも裸足で逃げ出してしまうような恐ろしい剣幕けんまく


 涼太は股間が「キュッ」と縮み上がるのを感じながらも、爽やかに笑ってみせた。


佐伯涼太

そんな怖いこと言わないでくださいよぉ。
……あっ、コロナが収束したらコンパでもしません?
警視庁の美人婦警さんとお酒をご一緒したいなぁ。

高尾律果

その減らず口……。
いつかこの手で潰してやるから。

佐伯涼太

そんな怖い顔、高尾さんには似合いませんよ!
スマイル!
プリキュア!
ねぇねぇコンパしましょうよぉ。

高尾律果

本当に生意気なガキね……。


 高尾は心底嫌そうに涼太を睨みつけた。


 涼太は間違いなく『電脳学博士』と関係している。


 それなのに、今の状況では涼太を勾留こうりゅうすることすらできないのだ。


高尾律果

あんたは私がいつか叩き潰す。
警察をナメないことね。


 高尾が飛ばせるのは脅しの言葉だけ。


 涼太はそれを爽やかにやり過ごす。


佐伯涼太

だからやめましょうよぉ。
僕は高尾さんと楽しいお喋りがしたいな!
尋問はもう無理なんですから、次はコンパにしましょうよ!
そうしたら色々と喋っちゃうかも!?
とりあえずコンパしましょ!
コンパコンパ!

高尾律果

うぐっ……。
こ、この男……なんて軽い……。


 2人の会話を冷ややかに聞いていた椎名が、感心したように涼太を見つめた。


椎名善晴

天野くんは『トラッシュトーク』を駆使していましたが、君はまた違った会話術を操るのですね。
いやはや、君たちは本当に変わったトリオです。

佐伯涼太

おやおや?
さては椎名さんもコンパに参加……。


 涼太はそこで言葉を止めた。


佐伯涼太

……えっ?
『トリオ』
椎名さん、今あなた『トリオ』って言いましたよね?
僕たちは『コンビ』ですよ。


 椎名はその言葉を無視して歩き続ける。


 涼太は慌てて椎名の前に立ちはだかった。


佐伯涼太

なんで僕たちを『トリオ』と呼ぶんですか?
僕たちは『コンビ』です。
いや正確にいえば、『天才クソ野郎チーム』大所帯おおじょたいなんです。
ほかにもメンバーがいます。
もう『トリオ』じゃない。
そのことを椎名さんは知ってますよね?


 椎名は小首を傾げながら涼太を見上げた。


椎名善晴

……おや?
君はなぜ、それにこだわるのでしょう?

佐伯涼太

いや、だから……。
僕たちは『トリオ』じゃないんですよ。
『3人目』は誰のことを言っているんですか?
前島さん?
富樫とがしくん?
牧瀬まきせさん?
まさかコトちゃんとか?

椎名善晴

おかしな質問をされますね。
そんなことを知りたいのですか?

佐伯涼太

し、知りたいですね……。
『トリオ』じゃ困るんですけど。


 涼太は本気で慌てている。


 椎名はその事実に気づくと、どこか同情したように言った。


椎名善晴

……そういうことですか。
天野くんは君に全てを話していないのですね。
君にも内緒にされているのですか。

佐伯涼太

な、内緒?
えぇ?
な、何を言ってるんですか?

椎名善晴

大したことではありませんよ。
先を急ぎましょう。


 椎名は平然と言い放った。


 本庁の正門を目指して歩き出す。


 涼太は青ざめながら椎名の小柄な背中を見つめた。


佐伯涼太

(……な、なんで? どうして『トリオ』とか言い出したの? まさか『姫ちゃん』のこと? 姫ちゃんのことは誰にも話してないのに……。まさか椎名さんは、姫ちゃんを知ってるの……?)


 思わず足を止める。


 その背中を高尾が軽く突き飛ばした。


高尾律果

早く歩きなさい。

佐伯涼太

いたっ!
ちょっとやめてくださいよ!
僕は怪我人なのに!

高尾律果

無傷のくせにうるさいのよ。
グダグダ言ってると股間を蹴り飛ばすわよ。

佐伯涼太

ひぃ……。
わかりましたよ。
歩きますよぉ……。


 何とも落ち着かない行進だった。


 椎名は『3人目』の存在を口にした。


 『電脳姫』の存在を知っているのではないか、という不安が涼太の中で渦巻うずまく。


佐伯涼太

(それはまずいよ……。姫ちゃんのことだけはバレたくないんだ。作戦のキモだし、警察の尋問を誤魔化せるとは思えないし……。今はギリギリ逮捕されないラインを歩いてるけど、電脳部のPCを押収されたりしたら話は別なんだし……)


 落ち着かない行進は本庁の玄関で終着した。


 正門側に1人の男がたたずんでいる。


 椎名はその顔を見て言った。







椎名善晴

お待たせしたようですね。
君との再会を願っていましたが、ここで相見あいまみえることになるとは想定しておりませんでした。

天野勇二

ほう、そうかな?
ここで会うことも、あんたの想定内だと思っていたが。


 タバコを携帯灰皿に押しこみ、天野は椎名の顔を見上げた。


 クソ野郎はどんな場所でもクソ野郎だ。


 ここが警視庁本部の目の前であっても、いつもの偉そうなスタンスを崩そうとしない。


 深夜の桜田門さくらだもんにて、天才クソ野郎とCSPによる3度目の対決が始まろうとしていた。






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つばこ

念のため補足しますが、天野くんが用いた『試薬』の主成分は「オモニヒフダケガハレール」となります。
これは「ヒフムラサキイロニナール」と「ハレテネツガデール」をマイナス70度下で混ぜ合わせたあとにプロテインシェイカーで撹拌し、電子レンジ(1500w)で3分温めたらゴマ油と「パットミハケガニミエル酸」を加えて1ヶ月寝かせる…という行程を踏むことで完成しています。
つばことしては「天野くんが涼太くんを殴らなくて良かった」と思うと同時に、「こんなワケのわからない試薬を打つ時点で十分鬼畜じゃないのかなぁ…」と思ったり思わなかったり。
 
そんなクソどうでもいい嘘は置いといて、ようやく天野くんと椎名さんが再会!
まだまだ椎名さんの受難(小生意気な大学生にフルボッコにされること)は続くのか!?
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(୨୧ ❛ᴗ❛)✧

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コメント 21件

  • けーやん

    天クソを読み始めたのが高校生の頃。
    気付けばそんな私も高校・大学を卒業し、社会人になっていました。
    毎週1回の楽しみとして読ませていただいていました。
    ノベル版が無くなってしまっても、また別の形で天クソを読み続けたいです。
    大好きな作品がこんな形で読めなくなってしまうのは悲しすぎます?

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  • 神楽

    もっとずっと読んでいたい……せめて、comicoノベルが終わってしまう前に『天才クソ野郎の事件簿』全話を書籍化して欲しい。

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  • ぷに

    怪しい人体実験されるくらいなら、ちょっとアザ作った方が良かったんじゃないかと

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  • ブチコ

    天クソが読めなくなるなんて悲しすぎる!
    あとがきの怪しげな試薬も吹っ飛んじゃったじゃん(泣)

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  • カボルイス世ハピ天クソ契約

    あぁ、天クソ読んでる間はノベル無くなるの忘れられるほど面白かったのに、コメントしようとしたら思い出して全部飛んだ……

    comico自体アンインストールもそう遠くないなぁ……

    天クソ2巻待ってるんだけど、そもそも出なさそうだな。
    他の媒体で出そうにも難しいしほんとcomicoクソ過ぎ。あー……言っても仕方ないけど。
    本当に天クソが愛されてる作品だってのは伝われ……

    椎名さんやっぱり父親で確定っぽいなぁ。
    このままどう展開するのか……天野くん今椎名に会って何をしたいんだろう?

    そしてその薬めちゃくちゃ胡散臭いw
    涼太後日談とかでエグい副作用で叫んでそうだね 笑

    一気に読めるけどどうしようかな……

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