天野たちが『真犯人らしき人物』と接触してから1週間後。



 人通りの少なくなった深夜23時。



 電脳学博士による『4件目の事件』が、新宿しんじゅく歌舞伎町かぶきちょうの裏路地で発生した。



佐伯涼太

……うぎゃああっ!



 涼太は派手な悲鳴をあげると、頭を押さえながら裏路地からい出た。



 衣服は汚れ、髪と顔が赤く濡れている。



 助けを求めるように周囲を見渡すが、誰も足を止めてくれない。



 何せここは歌舞伎町かぶきちょう



 多少の『暴力沙汰ざたは「見て見ぬフリ」をするのがルールの街だ。



佐伯涼太

はぁ……。
誰も声をかけてくれない。
相変わらず冷たい街だよ。
まぁ、それでいいんだけどさ。



 涼太は気を取り直して、すぐさま近くの『クリニック』に飛び込んだ。


佐伯涼太

失礼しまーす!
助けてください!
怪我人です!


 当直の看護師は戸惑とまどいながら涼太を出迎えた。


 髪と顔が赤く濡れている。


 もし出血しているのであれば、無視することはできない。


 しかし、ここは怪我人を治療するような病院ではない。


 主に妊娠にんしんした女性が通う『産婦人科のクリニック』なのだ。


 どうしたものか困惑こんわくしていると、


???

……これはいかん。
大怪我しているじゃないか。


 クリニックの奥から1人の医師が現れた。


 年齢は50歳ほど。


 がっちりとした体格の男性だ。


 胸に『院長・堂本どうもとというネームプレートをつけている。


堂本吾郎

スカウトと揉めたのか、半グレに喧嘩を売られたのか……。
どちらにしても何らかの事件に巻き込まれたのだろう。
ここは私が治療する。
君は下がっていなさい。

上白○萌音似の看護師

は、はい!


 看護師を遠ざけて、涼太を処置室に運び込む。


 堂本は涼太の衣服を脱がすと、


堂本吾郎

これは酷い怪我だ……。
右肩や背中を強く殴られている。
頭部からの出血も相当な量だな……。


 身体の具合を確かめながら包帯ほうたいを巻き始めた。


 涼太は小さくうめきながら尋ねた。


佐伯涼太

頭部の傷って……。
そんなに酷いんですか?

堂本吾郎

ああ、これは縫合ほうごうする必要があるね。

佐伯涼太

マジですか?
それって髪を剃ります?

堂本吾郎

うむ、剃る必要があるな。

佐伯涼太

それは困っちゃうなぁ。
頭の傷はなかったことにしてくれません?

堂本吾郎

クランケがそうしたいのであれば、そうしようか。


 堂本はそこまで言うと、可笑おかしそうに吹き出した。








堂本吾郎

……ふっふっふっ。
髪の毛を剃るのは嫌かい。
涼太くん、久しぶりだね。

佐伯涼太

お久しぶりです堂本さん。
ご面倒をおかけしてすみません。

堂本吾郎

気にすることはない。
このくらいはどうってことはないさ。


 堂本は懐かしげに涼太を見つめた。


堂本吾郎

君と最初に会ったのは……。
高校生の頃だったかな?
っちゃんも立派になったが、君もまた立派な青年に成長したね。

佐伯涼太

また堂本さんのお世話になるとは思いませんでした。
『お芝居しばいにご協力いただき、本当にありがとうございます。

堂本吾郎

坊っちゃんの頼みとあれば断れないさ。
君は暴漢ぼうかんに襲われて、たまたま近くにあった知り合いの病院に駆け込んだ。
私は君を治療して『暴行事件』として警察に届ける。
それでいいんだね?

佐伯涼太

はい。
それでお願いします。


 もう天野と堂本の『打ち合わせ』は終わっている。


 堂本は天野が幼い頃から付き合いのある医者の1人。


 天野の父親が経営するクリニックのひとつを任されている男性だ。


(詳しくは『彼が上手にチャラ男になる方法』などを参照)


堂本吾郎

しかし、なかなか芝居が細かいね。
これはっちゃんが手配したのかな?

佐伯涼太

そうみたいです。
どんな成分なのか、詳しくは教えてもらえなかったんですけど。

堂本吾郎

ふむ……。
これであれば、もう少し強めに固定しようか。


 健康そのものの身体に包帯を巻いていく。


 涼太への『暴行事件』


 これが電脳学博士による『4件目の事件』であり、堂本を巻き込んだ自作自演じさくじえんのお芝居だ。


 もちろん涼太は怪我なんかしていない。


 それでも一目では重症じゅうしょうに見えるように、治療をほどこしている。


堂本吾郎

この怪我であれば、しばらく肩を上げないほうがいいだろうね。

佐伯涼太

このくらい上げても大丈夫ですか?

堂本吾郎

それは無理だ。
肩に激痛が走ってしまうぞ。

佐伯涼太

そっかぁ。
それじゃ全然動かせませんね。

堂本吾郎

肩から背中までの打撲だぼくだからね。
しばらくは安静にする必要がある、という設定にもしておこうか。


 いつわりの治療を終えると、堂本はカルテの捏造ねつぞうに入った。


 堂本にとって、カルテの捏造ねつぞうや改ざんなんて軽い仕事だ。


 歌舞伎町という土地柄、非合法な中絶ちゅうぜつを依頼されたり、極道や半グレの治療を頼まれたり、時には「銃弾を摘出てきしゅつしてくれ、もちろん警察には内緒で」懇願こんがんされることもあるのだ。


 堂本はそんな依頼を『金』で引き受けてしまう。


 つまりは『裏社会』に精通している医師なのだ。


堂本吾郎

……よし。
カルテもこれでいいだろう。
後は警察に電話するだけか。
涼太くんと知り合いであることは喋ってもいいんだね?

佐伯涼太

大丈夫みたいです。
ちょっと話題の事件絡みなんで、しばらくは警察やマスコミがうるさいかもしれません。

堂本吾郎

それぐらいは平然とやり過ごすさ。
まかせておきなさい。


 堂本はすぐに警察に通報した。


 涼太はクリニックにやって来た警察官に、



佐伯涼太

突然、裏路地に引きずり込まれたんです。
棒みたいなもので何度も殴られて……。
大声を出さなかったら殺されてたと思います。
犯人の顔ですか?
いやぁ、暗くて見えなかったですね。



 そのように訴えた。


 警察官は涼太の話を聞きながら「この犯人は捕まらないな」と、どこか楽観的に考えていた。


 喧嘩や暴行事件なんて歌舞伎町では日常茶飯事にちじょうさはんじ


 しかも涼太は加害者の顔を見ていない。


 事件は『迷宮入り』となり解決することはないだろう、と思っていた。



佐○健似の警察官

……えっ?
な、なんですって?
それは本当ですか!?



 被害者の情報を記録している頃。


 とんでもない知らせが無線で届けられた。



警視庁の上層部にいる偉い人

その被害者は『電脳学博士トロイウイルス事件』のターゲットだ!
本庁まで連れて来い!



 警視庁のお偉いさんからの指令だ。


 警察官たちは「これはただの暴行事件じゃなかった」と、全員が青ざめた。


 世間をこれでもかと騒がせている大事件の被害者だったのだ。


 涼太は「そのことを知らない」という設定なので、どこかのんびりしていた。


佐伯涼太

もう帰ってもいいですか?
そろそろおネムなんですけど。

佐○健似の警察官

い、いや!
待って!
悪いんだけど本庁ほんちょうまで来てくれるかな?

佐伯涼太

えぇ?
安静にしろって言われたんですけど。

佐○健似の警察官

いいから!
そこを頼むよ!
本庁まで来てほしいんだ!

佐伯涼太

なんで被害者を連行するんですか。
イヤですよぉ。

佐○健似の警察官

わかってる!
でも頼むよ!
ねっ!
それじゃあ行こう!
すぐに行こう!


 警察が「いつか発生するのではないか」と恐れていた、トロイ事件の被害者第一号。


 しかも「殺されかけた」と証言している。


 警察官は無理やり涼太を言いくるめて、かすみせきの警視庁本部まで移送した。



佐伯涼太

(何だよぉ……。覚悟はしてたけど、これ被害者の扱いじゃないよね)



 警視庁の取調室とりしらべしつに放り込まれ、涼太は嫌な気分を味わっていた。


 こちらは嘘だが暴行の被害者。


 嘘だが安静にする必要がある。


 警察はそんなことを全く配慮はいりょしてくれない。


佐伯涼太

(せめてベッドに寝かせてくれると思ったのに。まさかパイプ椅子に座らせて放置とはねぇ……。)


 取調室は6畳ほどの狭い部屋。


 部屋にあるのはパイプ椅子が2つと、無機質なテーブルが1つ。


 壁には大きな鏡がかけられている。


佐伯涼太

(あの鏡が『マジックミラー』だね。ドラマで観たことある。鏡の向こうには警察の人がたくさんいるのかな? これがマジックミラー号だったら最高なのに)


 しばらく暇な時間を過ごしていると、1人の刑事が部屋に入った。


 黒縁のメガネに白髪の混じった髪。


 年の頃は50歳過ぎだろうか。


 温和な顔つきの中年男性だ。


椎名善晴

お待たせして申し訳ございません。
私、椎名しいなという生活安全課のものです。
お時間をいただきありがとうございます。

佐伯涼太

はぁ、どうも。


 涼太は気怠けだるげに返事しながらも、「椎名」の顔を注意深く眺めた。


 天野が「用心しろ」と告げていたCSPだ。


佐伯涼太

(きたね。これが噂の椎名さんか。見た目は優しそうなオジサマじゃん)


 実に物腰ものごしの柔らかい男性だ。


 警察関係者というよりも、役所の窓口で働いている公務員のような印象を受ける。


 その顔には疲労の色が濃く現れていた。


佐伯涼太

(お肌が荒れてクマもくっきり。お疲れなんだねぇ。僕と勇二のせいで迷惑をかけてるんだろうな。まぁ、依頼してきたのは向こうなんだし、別に気にする必要もないけど)


 椎名が椅子に座ると、相棒である高尾たかおも部屋に入って来た。


 30歳前後の大柄な女性。


 耳は餃子ぎょうざのように丸まっている。


 こちらは自己紹介をせず、どこか不機嫌そうに涼太を睨みつけている。


佐伯涼太

(おお、きたきた。これが相棒の高尾さんか。勇二が「猛牛みたいな女」って言ってたのもわかる気がするよ)


 高尾の姿を見ると、椎名がゆっくり口を開いた。 


椎名善晴

佐伯涼太さん。
暴行を受けられたそうですね。
とてもお辛いと思うのですが、そのお話を詳しくお伺いできませんか?


 あくまで柔らかく話を切り出す。


 涼太は欠伸を噛み殺しながら言った。


佐伯涼太

それは警察の人に何度も言いましたよ。
またイチから説明しなくちゃいけないんですかぁ?
お家に帰りたいんですけど。

椎名善晴

確かにそうですね。
君は安静が必要のようです。
それでは単刀直入にお話を伺いましょう。


 椎名は温和な笑みを浮かべたまま尋ねた。


椎名善晴

その怪我……。
本物なんですか?


 涼太は苦笑しながら言った。


佐伯涼太

何を言ってるんですか?
お医者さんにてもらったのに。
本物に決まってるじゃないですか。


 その言葉で引き下がるほど、椎名は甘くなかった。


椎名善晴

佐伯くん……。
私はですね、君のことをよく調べているのです。
正確には『天才クソ野郎』と呼ばれる青年のことを調べておりました。
天野くん、彼のことを知っていますね?

佐伯涼太

天野……?
ああ、勇二のことですか。
あのクソ野郎は友人ですけど。

椎名善晴

ただの友人ではないはずです。
君は天才クソ野郎の相棒。
それも参謀さんぼうしょうされるほどの青年です。
過去には『殺人事件』を名探偵のように解決したこともありましたよね。

佐伯涼太

まぁ……。
確かにそんなこともありましたね。

椎名善晴

あれは実に見事なご活躍でした。
君が現場にいなければ『凶器』や『証拠』は全て隠蔽いんぺいされ、『殺人事件』として扱われることもなかったでしょう。
天野くんが天才クソ野郎と呼ばれるためには、君という『張り込み』『尾行』を得意とする仲間が必要不可欠であると、私はそのように考えておりますよ。


 涼太は嫌そうにその言葉を受け止めた。


佐伯涼太

ふぅん……。
本当に僕のことを調べてるんですね。

椎名善晴

ええ、色々と耳にしております。
君が天野くんをサポートするために数々の犯行現場を録画したこと。
殺人犯が相手でも果敢かかんに立ち向かったこと。
時には天野くんの疑いを晴らすために、殺人犯の情報を集めていたこともありましたね。

君は本当に素晴らしい相棒バディです。
天野くんとは小学生からの付き合いらしいですが、昔からコンビを組まれていたのですか?

佐伯涼太

あはは。
どうですかね?
小さい頃のことなんて忘れましたよ。


 涼太は無理やり空笑そらわらいを浮かべた。


 背中を冷たい汗が流れている。


 この男はただのオジサマではない。


 穏やかな表情を浮かべながら『ホットリーディング』を操り、言葉の端々はしばし『ブラフ』『ハッタリ』をさりげなく混ぜ込んでいる。


 こちらの動揺や思惑おもわくを見抜こうとしているのだ。


 涼太は「これは勇二が警戒するはずだよ」と納得していた。


椎名善晴

実を言うとですね……。
私は天野くんと顔を合わせたことがあるのです。
何度かお話させていただきました。
佐伯くんはそのことを知っておりますよね?
『学園の事件屋』に依頼した変わり者の刑事。
それが私なのですよ。


 椎名が唐突とうとつに切り出した。


 涼太の表情がゆるんだ隙を狙ったのだ。


佐伯涼太

……い、いやぁ。
どうですかね。
僕はあなたのことを知りませんけど。


 額の脂汗をぬぐいながら答える。


 動揺どうようを隠しきれなかった。


 今の質問は「それって何のこと?」と、自然にとぼけなければならなかった。


 椎名は表情を変えずに言った。


椎名善晴

それは不可解ですねぇ。
私のことも、『電脳学博士』のことも、何もかも知らないとおっしゃるのですか?

佐伯涼太

は、はぁ?
電脳学博士?
だ、誰ですかそれ?

椎名善晴

世間を賑わす凶悪犯であり、佐伯くんの『お知り合い』ですよ。
天野くんは電脳学博士とつながっていることをほのめかしておりました。
相棒バディの君もご存知のはず。
佐伯くんも電脳学博士と仲が良いのですか?

佐伯涼太

な、仲が良いって……。
何のことですかね?
話がよくわかんないんですけど……。


 涼太は呆れたように肩をすくめてみせたが、その心はガタガタ震え始めていた。


 これは想像以上の強敵だ。


 椎名は涼太の動揺を引きずり出しながら、質問という名のやいばを突きつけている。


椎名善晴

とぼける必要はありません。
そもそも電脳学博士が操るトロイプログラムの『脅迫状メール』は、「前島悠子さん」「佐伯涼太さん」の2人だけを狙っているのですよ。
不思議だとは思いませんか?
なぜ電脳学博士は、君たちを狙い撃ちしているのでしょう?

佐伯涼太

そんなこと言われても……。
僕は何も知りませんって……。

椎名善晴

知らないはずがありません。
電脳学博士が起こす事件は、全て天野くんの周囲で発生しております。
佐伯くんへの暴行もそのひとつ。
しかし、それは本当に起きた事件なのでしょうか?
私は事実だとは思えないのですよ。

佐伯涼太

じ、事実に決まってますよ。
僕はちゃんと病院で診察も受けて……。


 椎名が片手を上げ、涼太の言葉をさえぎる。


椎名善晴

もちろん病院のことも調べております。
佐伯くんを診察した堂本先生は、天野くんと古い付き合いのある男性ですね。
彼はトロイの事件なんて知らないと仰ってましたが、本当は違うのではありませんか?


 涼太は青ざめながら椎名を見つめた。


 椎名はずっとおだやかに微笑んでおり、威圧的いあつてきな発言も飛ばしていない。


 どこから見ても役所の窓口にいる公務員。


 それでも部屋には椎名の『迫力』が満ちている。


 淡々たんたんと言葉を重ねているだけなのに、椎名は涼太が怯えるほどの圧力プレッシャーを放っているのだ。


佐伯涼太

……ち、違う?
何を言っているのか、さっぱりですけど……。


 もう涼太には笑みを浮かべる余裕がない。


 椎名の圧力に押し潰されそうだ。


椎名善晴

まだご理解いただけませんか?
あなたが治療を受けたのは、天野くんの息がかかった病院なのです。

つまり、今回の『暴行』は、君たちによる自作自演ブラフなのではありませんか?

暴行やカルテを捏造ねつぞうし、電脳学博士の事件として世間を挑発する……。
なぜこんなことをしているのか、その理由を教えていただけますかね。


 もう涼太の身体は小刻みに震えていた。


 何度も膝を叩いて平常心をたもとうとするが、この奇妙な圧迫感あっぱくかんを拭い去ることができない。


 椎名は完全に『自作自演』を見抜いている。


 もしかしたら、天野のたくらみの全てを見抜いているのかもしれない。


 涼太は悲鳴をあげるように叫んだ。



佐伯涼太

僕はそんなこと知りません!
もう家に帰してください!
こっちは怪我人なのに!
これはただの尋問じんもんじゃないですか!?
このことをマスコミに喋ってもいいんですよ!



 その言葉を聞くと、椎名は少し嫌そうに顔をしかめた。


 チラリと壁にある大きな鏡を見つめる。


 そこで涼太は天野から説明されたことを思い出した。


佐伯涼太

(……そうだ。今の警察はトロイ絡みの『誤認逮捕ごにんたいほ』を恐れてるんだ。強引な尋問じんもん露呈ろていすることも避けたいはず!)


 相手の弱点ウィークポイントが見えた。


 涼太はそこを突きまくる。


佐伯涼太

僕は殺されそうになったんですよ!?
それなのに、あなたは僕を『容疑者』として疑ってる!
これは違法捜査の尋問です!
僕はこの事実をマスコミに喋りまくってやりますからね!

椎名善晴

それは感心しませんね。
品のない行為ですよ。

佐伯涼太

品のない行為をしてるのは椎名さんですよね!?
よし、家に帰ったら記者会見を開こう!
僕は被害者で殺されかけたのに、取調室に放り込んで尋問してきた警察のことを喋ってやる!
何度も何度も喋ってやる!


 涙目になりながら叫んだ。


 目の前の椎名ではなく、この様子を見ている『上層部の人間たち』に向けた叫び声だ。


 きっと『マジックミラー』の向こうで自分を見ているはず。


 椎名は小さく息を吐くと、ここで初めて声色にけわしさをこめた。


椎名善晴

……いいですか佐伯くん。
君が何を叫んだとしても、状況が好転こうてんすることはありません。
私は天野くんと君が、電脳学博士に関わっていると確信しております。

君たちが仕出かした『爆弾』『脅迫』『銃撃』の罪は軽くないのです。
君に良心があるのであれば、もうくだらない遊びをやめて、全てをお話したほうが無難でしょう。


 ここで引いてはいけない。


 涼太は堂々と言い放った。


佐伯涼太

僕は『被害者』です。
『容疑者』として扱われるのは納得できません。
早く終わりにしてください。
どれだけ椎名さんが僕を尋問しても、記者会見で話すネタが増えるだけですよ。


 椎名の柔らかくもどこか鋭い視線。


 精一杯の虚勢きょせいを張る涼太の視線。


 両者が交差して火花を散らしている。



椎名善晴

…………

佐伯涼太

…………



 部屋をしばしの沈黙が包んだ。


 高尾はどこか不安気に椎名を見つめている。


 先に動いたのは椎名だった。


椎名善晴

……仕方ありません。
これが最終通告です。
佐伯くん、君は何も知らないと主張されるのですね。

佐伯涼太

ええ、僕は被害者ですから。

椎名善晴

その度胸、嫌いではありませんよ。
高尾くん、お願いします。


 椎名がゆっくり片手を上げる。


 それを見て高尾が頷いた。


高尾律果

わかりました。
お連れします。


 高尾が取調室の扉を開ける。


 そして廊下でスタンバイしていた1人の男を招き入れた。


佐伯涼太

(うげげぇ! マジでここまでやるの!?)


 涼太は青ざめながらその男を見つめた。


 白衣を着ている。


 警察病院の医師だ。


 椎名は涼太の身体を確かめるために、医師を手配していたのだ。


 小刻みに震える涼太を見つめながら、椎名は処刑宣告のように告げた。


椎名善晴

君を解放しましょう。
ですが、その前にお願いがございます。
その包帯を取り、怪我の具合を見せていただけますか?
本当に怪我をしているのであれば、別に問題はありませんよね?


 涼太は思わず周囲を見回した。


 取調室にいるのは椎名と高尾のみ。


 椎名も高尾も、どこか冷たい目で涼太を睨みつけている。


佐伯涼太

……拒否とか、できる雰囲気じゃないですね……。

椎名善晴

そんなことはありません。
これは任意でございます。
しかし、事件解決のためにご協力いただければ幸いです。

佐伯涼太

こんなのどう考えても強要ですよ。
言っておきますけど、後悔しますよ。

椎名善晴

後悔はいたしません。
君には是非とも『協力』していただきたいですね。


 椎名が念を押すように告げる。


 涼太は小さく息を吐くと、震える手を自らの衣服に伸ばした。






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24,020

つばこ

【つばこのイメージしている歌舞伎町】
 
・深夜23時になると人通りが少ない
・多少の『暴力沙汰』は「見て見ぬフリ」をするのがルール
・クリニックに極道や半グレがやって来て無茶なことを言う
・倫理観の欠如した悪い医者がいる
・警察官がイケメン
 
「なんか私の知ってる歌舞伎町とは違うなぁ」と思う方もいるかもしれませんが、天クソの世界ではそういうことなんだと理解してください!
それにこの物語を書いてるのはコロナ禍!
23時になればガラガラですよ!
がんばれ歌舞伎町!
歌舞伎町はとてもいい街!
風評被害に負けるな歌舞伎町!!!
 
ということで、次回は涼太くんvs椎名さんの後半戦です!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!ฅ( ̳• ·̫ • ̳ฅ)

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コメント 22件

  • ИДЙ

    某ドラマ似のキャストに吹いたwww

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  • べっちん

    椎名さんの娘が姫ちゃんだとしたら、椎名さんは、電脳博士が自分の娘だとわかってて、この尋問をしてるのかしら?
    どこまで天野っちが、対策しているのか気になりますねぇ~

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  • まこと

    一つだけマジな怪我を作ってるとか?どうなっちゃうの?

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  • カボルイス世ハピ天クソ契約

    うーん、涼太がケロッとしすぎだしほんとに怪我させられてることはない気がするけど、だからってここまで本格的に調べられることを想定していない天野くんじゃないよな……
    てことはこの警察の医師も天野くんの手の者?
    たしかに天野くんどこからか科捜研の情報引っ張ってきてたような……そのパイプなのかな?
    だとしても、そのパイプが椎名さんにバレてない確信が天野くんにあるのか否かはわからないしなぁ……
    とにかくどう転ぶか楽しみだな!

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  • さつき

    どうせその医師も天野くんとグルでしょ

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