その後、天野は長い作戦会議を開いた。



 電脳学博士でんのうがくはかせがWeb上に降臨こうりんする際の文章や、それに反応した人間への対応。



 涼太が現実世界において取るべき行動など。



 あらゆることを細かく指示すると、姫子と一緒に『トロイプログラム』の生成に入った。



 姫子が新種のトロイを作り上げ、天野が『脅迫状』の文面を作成する。



天野勇二

『脅迫状』のパターンはこんなものかな。
トロイは完成したか?

板垣姫子

うん……。

天野勇二

ではテキストファイルを送るぞ。


 『脅迫状』のテキストをトロイが取り込む。


 これで姫子特製のトロイプログラムが完成だ。


板垣姫子

おけ……。
できた……。

天野勇二

『天才クソ野郎』『電脳姫』によるトロイプログラムの誕生か。
何か名前をつけたいな。
2人の名前をとって『クソ脳』と名付けよう。

板垣姫子

クソ脳……。
相変わらず……ダサい……。

天野勇二

うん?
何を笑ってんだ?

まぁ、そんなことはどうでもいい。
涼太よ、ポイントは見つけたか?


 涼太は先程から地図を広げて、いくつかの場所に印をつけている。


佐伯涼太

こっちもバッチリ。
ポイントを決めたよ。
横浜よこはま代官山だいかんやま、あと麻布あざぶなんてどうかな?

天野勇二

どれも悪くないな。
富裕層ふゆうそうを嫌うPCオタクの陰キャにとっては馴染なじみの薄い土地だろう。
マイクロSDカードも買ってきたか?

佐伯涼太

もちろん。
20枚ほど買ってきた。
これで足りる?

天野勇二

それだけあれば十分だ。
姫子よ、『クソ脳』をカードに保存してくれ。
とりあえず10枚ほど仕込もう。


 姫子が10枚のマイクロSDカードに、『クソ脳』と名付けられたトロイプログラムを保存する。


 このカードをPCに差しただけではトロイに感染しない。


 カードを開いても、見つかるのは『みかんの画像』だけ。


 ところが、この画像をクリックしてしまうと、トロイプログラムが走り出す仕組みになっている。


 PCが天野作成の『脅迫状』をメール送信するようになってしまうのだ。


佐伯涼太

このカードはどうするの?

天野勇二

目星をつけたポイントにばらくんだ。
最終的にはこれを警察に捜索させてやる。
それが真犯人を追い詰める『ネタ』になるのさ。

佐伯涼太

これがネタねぇ……。
それは誰がばら撒くの?

天野勇二

お前に決まっているだろう。

佐伯涼太

はぁ……。
やっぱり僕なんだ。
勇二は最初から僕を使い倒すつもりだったんだね。
やけに事件のことを詳しく解説してくれるから、なんかおかしいとは思ったんだよねぇ……。


 ため息を吐きながら地図を眺める。


 カードをばら撒くポイントはかなりの広範囲。


 誰かに目撃される可能性が高く、監視カメラを回避するのも難しいだろう。


佐伯涼太

この『トロイカード』をばら撒くのは危険だよ。
たぶん誰かに見られちゃう。
そうなると僕が逮捕されるんじゃないの?

天野勇二

…………

佐伯涼太

うわぁ、無視シカトだ。
姫ちゃんの癖を真似しないでよ。

天野勇二

お前が逮捕される可能性は高いな。

佐伯涼太

ぎゃあ!
喋ってくれても嬉しくない!


僕は『脅迫状のターゲット』かつ『容疑者』にもなるのかぁ……。
ほんと勇二はドイヒーだよ。
僕の扱いが雑すぎて泣けてきちゃう。
ぴえん超えてぱおんなんですけど。


 涼太はグズグズと泣き言を吐いている。


 天野はため息を吐きながら言った。


天野勇二

何を甘いことを言っている。
お前の役目が一番ラクなんだ。

姫子はネット上で『クソ脳』をばら撒き、警察と真犯人を挑発。
俺は『脅迫状メール』の内容を実行するうえに首謀者しゅぼうしゃとなるんだぞ。
それに比べれば、お前の罪なんてハナクソみたいなものだ。

佐伯涼太

うぬぬ……。
首謀者、と名乗ったね。
はぁ……。
勇二の根本は変わってないね。


 天野と涼太のきずなは強い。


 今の言葉だけで、涼太は天野の意思を察した。


佐伯涼太

(勇二が『首謀者』を名乗るってことは、この悪巧わるだくみが警察にバレても「全て俺様の指示だ」って言い張るつもりなんだね。それで僕と姫ちゃんの罪を軽くさせるのかな。肉食獣みたいなクソ野郎のくせに、とんでもなく甘いベジタリアンだよ……)


 涼太は軽く自らの頬を叩いた。


 天野は全ての罪をかぶる覚悟を決めている。


 自分も末端まったんとしての役目を果たすべきだろう。


 それが『相棒』の務めだ。


 涼太は拳を握りながら言った。


佐伯涼太

……オッケー!
まかせてよ!
この天才パコ野郎にかかれば全てがオールオッケーだからね!

天野勇二

ああ、頼んだぞ。
誰にも目撃されずにカードをばら撒くのは難しい。
だからこそお前が適任なんだ。
自慢の『変装』に期待してるぜ。

佐伯涼太

うぷぷ……。
もちろんわかってるよ。
僕ちゃんの特技を披露しまくっちゃう。
久々に女装じょそうでもしてみようかな。

天野勇二

それが無難ぶなんだろう。
期待してるぜ。

佐伯涼太

よっしゃ!
それじゃ行ってきまーす!



 涼太はマイクロSDカードを持って電脳部を飛び出すと、愛車を走らせて横浜に向かった。


 『赤レンガ倉庫』のある新港しんこうに到着すると、後部座席から自慢の変装道具を取り出す。


 電脳の世界では本領ほんりょう発揮はっきできないが、涼太は尾行や張り込みなどの『探偵業』を好む変態だ。



佐伯涼太

むふふっ……。
僕ちゃんの最終奥義、女装の出番だ。
僕はメイクだってできるんだからね。


 涼太は鼻歌をかなでながらメイクを始めた。


 男性の肌感を隠すため、カバー力のある下地とコンシーラーを塗り、艶感つやかんのあるパウダーファンデーションで仕上げる。


 アイメイクは自然なブラウン系のアイシャドウを選択し、ナチュラルに見える『つけまつげ』も装着。


 ウィッグも被り、鏡の前で微笑んでみせる。


佐伯涼太

うんうん。
僕好みのナチュラルメイク。
結構悪くないじゃん。
涼子りょうこちゃん』
とでも命名しようかな。


 涼太は元々ベビーフェイスのイケメン。


 あとはマスクを装着して髭剃ひげそり跡を隠してしまえば、女性として十分に通用する。


 派手すぎない自然な美人さんの完成だ。


 しかし、問題は顔から下。


 180cmを超える身長と、男らしい骨格を衣服で隠すことが難しい。


佐伯涼太

手はスキニーグローブ、喉仏のどぼとけはネックウォーマーで隠せばいいよね。
服はちょっとおダサいけど、僕の体格ならジャージが無難だね。


 涼太はとある企業の『女子バレー部』のジャージを取り出した。


 きっとナンパした女の子から貰ったのだろう。


 それだけでは味気ないので、可愛らしいピアスやリングを配置して女性らしさを演出。


 やがて『プロ女子バレー選手の涼子ちゃん』が完成した。


涼子ちゃん

これならそうそうバレないでしょ。
それじゃ、『トロイカード』をばら撒きますか。



 車を出て『赤レンガ倉庫街』を歩く。


 横浜を代表する有名なデートスポットのひとつだ。


 涼子ちゃんは港に停泊ていはくする船や、オシャレな雑貨店を眺めながら、マイクロSDカードを隠して回った。


 赤レンガ倉庫の排水溝に仕込んだり。


 お店の看板の裏に貼りつけたり。


 山下公園やましたこうえんのベンチ下に埋めてみたり。


 この作業は1日では終わらなかった。


 いくら変装しているといっても、誰かに目撃されたり、監視カメラに撮影されるのは危険だ。


 行動パターンや車などを追跡ついせきされてしまうかもしれない。


 慎重に慎重を重ね、3日かけてマイクロSDカードをあらゆる場所にばら撒いた。



涼子ちゃん

……よし、これで10枚目っと。
やっと終わったぁ。


 急いでその場を離れ、車に戻って変装を解く。


 涼太はウィッグをむしり取りながらぼやいた。


佐伯涼太

だけど……。
なんでこれが真犯人を追い詰めるネタになるのかな?
勇二はそのことを教えてくれないんだよねぇ。
あんなカード、どうするつもりなんだろう?





 涼太が順調にマイクロSDカードをばら撒いている頃。


 天野はひとつの情報を入手していた。


 手元にあるのは1枚の戸籍こせき


 そこには『とある人物』の名前が書かれている。


天野勇二

フフッ……。
やはりそうだったのか。
世間とは狭いものだな。


 スマホでSNSや匿名掲示板をチェックすると、もうそこには『電脳学博士』が降臨していた。


 天野は満足気にそれを眺めた。






電脳学博士

我輩は電脳学博士。

『遠隔操作トロイウイルス事件』は、私の踏み台にしか過ぎない。
あの程度の犯罪では、世界を変えられない。

私の踏み台にされたキモオタさん。
今頃は警察に捕まらないか、怯えて泣いているんでしょう?
いつまでもそうやって、部屋に引きこもっていなさい。
あなたの茶番はもう終わった。

私が、全ての事件を超える。
警察も私を捕まえることはできない。
もう私のトロイプログラムは世界中に拡散されているんだ。

怯えよ、争え、踊れ。
我が死んでも自由は死せず。
You can't see me.
If you want some, come get some.






 これが電脳学博士の書き込みだ。


 いくつかの掲示板にはメールアドレスも残している。


 この電脳学博士の登場に、ネットの住人たちは様々な反応を返していた。


 呆れたようにからかったり、噛みついたり、素直に正体を尋ねたり。


 たくさんの反応が見受けられるが、冷ややかに無視スルーしている人間が圧倒的に多い。


 これはただのイタズラに過ぎない。


 そのように考えているのだ。



天野勇二

だが……。
そうはいかなくなる。



 天野は掲示板の反応を見ながら、決行のタイミングをうかがっていた。


 やがて1週間が経過した頃。


 その時はきた。




天野勇二

……この辺りでいいだろう。
姫子よ、やってしまえ。



 短いメールを姫子に送る。


 次の瞬間、電脳学博士は新たな書き込みをSNSに発信した。






電脳学博士

我輩は電脳学博士。

トロイプログラムが実行される時がきた。
警察よ、哀れなる子羊共よ、泣いて震えるがいい。
本日、脅迫状の内容を決行する。

真犯人と呼ばれるキモオタさん。
私を呼んだのはあなた。
あなたが仕出かした行いを後悔して泣くがいい。

我が死んでも自由は死せず。
You can't see me.
If you want some, come get some.





 その書き込みを確認すると、天野は単車にまたがり都内を走った。


 ひとつの建物の前に近づく。


 周囲を確認しながら、胸元に隠した『小型リモコン』に手を伸ばす。


 スイッチを押した数秒後。





 ……パァーーン!





 どこかで小さな破裂音が響いた。


 それを確認すると単車を走らせ、急いでその場から離れる。


 20分ほど適当に走っていると、スマホが1人の男からの着信を告げた。



天野勇二

……ああ、やっと電話してきたな。
待ちわびたよ。



 偉そうに告げると、スマホの向こうにいる男が驚いたような声をあげた。


椎名善晴

これはこれは……。
もしかすると、私からの電話を待っていたのですか?

天野勇二

当たり前じゃないか。
捜査を依頼したくせに進捗しんちょくを尋ねてこないから、どうしたものかと困っていたんだ。

椎名善晴

それは申し訳ないことをしました。
いや、私としても連絡するかどうか迷っていたのですよ。


 CSPの椎名だ。


 声を聞くのはテラスで会った時以来。


 天野は呆れたように尋ねた。


天野勇二

今まで何をしていた?
『遠隔操作トロイウイルス事件』の担当から外されたのか?

椎名善晴

そんなことはございません。
警察も忙しいのですよ。
特に今は『新しいトロイプログラム』に振り回されておりますからね。

天野勇二

ああ、『電脳学博士』と名乗るヤツのことだろう?
いったいどれだけのトロイプログラムがばら撒かれたのやら。
警察や椎名さんの面子メンツも泥だらけだな。
顔を洗いたいのであれば、俺様が手伝ってやってもいいんだぜ?


 嫌味たらしい挑発を飛ばす天野。


 おだやかな笑みを浮かべながらそれを受け止める椎名。


 2人の声がスマホ越しににらみあっている。


椎名善晴

天野くん……。
もう私との会話に『トラッシュトーク』は不要です。
下手な探り合いも止めましょう。
まさか君が、ここまでの無茶をするとは思いませんでしたよ。

天野勇二

無茶だと?
それはどういう意味だ?

椎名善晴

それを私の口から言わせるのですか?

天野勇二

あんたが言い出したことだろう?
俺には覚えがないぜ。

椎名善晴

では、率直そっちょくにお尋ねしましょう。
突然ネット上に現れた『電脳学博士』
あれは君の差し金ではありませんか?


 天野はニタリと悪い笑みを浮かべた。


天野勇二

『差し金』ねぇ……。
なぜそう思うんだ?
『電脳学博士=俺様』とは考えないのか?


 その質問を無視して椎名が言葉を続ける。


椎名善晴

実はもう我々は、電脳学博士のトロイプログラムを入手し、その中身を調べ上げているのです。
なんと『脅迫状』のターゲットに選ばれているのは、ほとんどが天野くんの関係者ばかり。
知らないとは言わせませんよ。

天野勇二

そうなのか?
まるで覚えがないな。

椎名善晴

そんな言い訳は通用しません。
君が電脳学博士と関係していることは明白めいはくです。
これは私だけでなく、捜査本部の見解けんかいだとお考えください。

天野勇二

ふぅん。
俺には覚えのない話だが、疑っているなら逮捕すればいいじゃないか。
まぁ、どうせそんなことできるワケがないんだがな。


 鼻で笑いながら言葉を続ける。


天野勇二

きっと電脳学博士は通信を秘匿化ひとくかしている。
あんたはどこからトロイが拡散されたのか、誰がSNSや匿名掲示板に書き込んでいるのか、何ひとつ掴めていないんだ。
『遠隔操作トロイウイルス事件』と同じだよ。
これでは俺を逮捕することはできない。
『5件目の誤認逮捕ごにんたいほを生み出すだけさ。


 椎名は重苦しい息を吐いた。


椎名善晴

ええ……。
残念ですがその通りです。
今は天野くんを逮捕することができません。
君に任意同行にんいどうこうを求めても時間を無駄にするだけでしょう。
私としても『黙認』するしかないと、そのように考えておりました。
ところが、無視できない発言が出てきましてね。


 ここで椎名は声のトーンを落とした。


 脅すようにな口調で言った。


椎名善晴

いいですか天野くん。
これは警告です。
先ほど電脳学博士は『犯行予告』と思われる文章を書き込みました。

「本日、脅迫状の内容を決行する」と。

これは他の捜査員が黙っていません。
すぐに撤回していただきたいのです。

天野勇二

チッ……。
なんだよ。
それだけなのか。


 天野は呆れたように息を吐いた。


 天野が思っているより、CSPの動きは俊敏しゅんびんではないようだ。


天野勇二

その程度のことで電話したのか。
俺様は残念だ。
まだ通報していない、ということか。

椎名善晴

……はい?
それは、どういう意味ですか?

天野勇二

俺は『犯行予告』が実行されたから、電話をかけてきたと思ったのだがな。


 そこで椎名の笑みが消えた。 


 生唾を「ごくり」と飲み込む。


椎名善晴

な、なんですって……?
犯行予告が、実行された……?


 椎名の背筋に冷たいものが走る。


 これまで『脅迫』が実行されたことはない。


 それは警察にとって、誤認逮捕ごにんたいほよりも避けたい問題だ。


 『脅迫』の実行は民間人への被害を意味する。


椎名善晴

何を言っているのですか?
まさか、天野くんが……?


 椎名が困惑こんわくしていると、自らの相棒である高尾たかおが真っ青な顔で駆けて来た。


 椎名が電話しているのは捜査本部の一室。


 周囲の人間には聴こえないように、部屋のすみでこっそり通話していたのだ。


 高尾は悲痛ひつうな声で叫んだ。



高尾律果

椎名さん!
大変です!
芸能事務所で爆発事件が発生です!
『電脳学博士』の脅迫状が実行されました!

椎名善晴

な、なんですって!?



 慌てて携帯の向こうにいる天野に怒鳴る。







椎名善晴

天野くん!
君が電話を待っていたのは、この件だったんですか!?
まさか君は、爆発物を仕掛けたんですか!?



 天野は「クックックッ……」と悪い笑みを浮かべた。


天野勇二

落ち着け椎名よ。
そんな大声を出すな。
早く現場に行けよ。
爆発物を確認したほうがいい。
俺と話している場合じゃないと思うぜ。


 椎名は苦しげに顔を歪めた。


 確かにそんな場合ではない。


 捜査本部も騒然そうぜんとしており、全ての捜査員は血相けっそうを変えている。


 警察が恐れていた脅迫状の実行、それがついに発生したからだ。


椎名善晴

まず私の質問に答えなさい!
君は本当に爆発物を仕掛けたんですか!?

天野勇二

なぜ俺の仕業しわざだと決めつける?
やったのは電脳学博士じゃないのか?

椎名善晴

そ、それは違います!
君が絡んでいるはずです!
君が電脳学博士を操っているはずなんです!


 天野は不敵ふてきな笑みを浮かべた。


 椎名をあおるように尋ねる。


天野勇二

俺が電脳学博士を操っている?
そう考える『物的証拠』でもあるのか?
あるなら持って来いよ。

だが、どうせそんなものは存在しない。
見つけ出すことも不可能。
これでは『5件目の誤認逮捕』が発生……。

……いや、違うな。
逮捕状が出るかどうかも怪しいな。

椎名善晴

き、君は、いったい何を考えているんですか!?
なぜそんなに、逮捕されない自信があるんですか!?

天野勇二

決まっているだろう?
あんたには電脳学博士を逮捕できない『決定的な理由』があるからだ。

椎名善晴

決定的な理由……?
そ、それは、何のことですか!?

天野勇二

とぼけるなよ。
俺様は見つけ出したんだ。
あんたが天才クソ野郎に依頼を持ちかけた理由をな。
頭の良いあんたには、これだけ言えば理解できるだろう。
『戸籍』を調べたんだよ。

椎名善晴

なっ……!



 その言葉は稲妻となり、椎名の全身を貫いた。


 椎名はいつか「天野はその事実に気づくだろう」と覚悟していた。


 しかし、天野と接触したのは1週間前のこと。


 これほど早くその事実にたどり着き、もう『真犯人』を捕まえるための『何か』を仕掛けている。


 このスピードが椎名の予想を超えていた。



高尾律果

ちょ、ちょっと椎名さん!?
何をしてるんですか!?
天野に構ってる場合じゃありませんよ!



 高尾が青ざめながら叫ぶ。


 椎名はそれを苦しげに見つめると、深く息を吐き出した。


椎名善晴

……驚きましたね。
これが『天才クソ野郎』ですか。
君は私の予想を軽々と超えてきましたね。

天野勇二

よく言うぜ。
これもあんたの想定内だろう?
あんたは天才クソ野郎のやり方を熟知じゅくちしている。
こうなることも予想していたはずだ。

椎名善晴

ここまでのスピードとは思っておりませんでした。
もう真犯人を捕まえるために動かれているのですね。
電脳学博士の登場も、芸能事務所の爆発も、その一環いっかんということですか?

天野勇二

何度も言うが、そんなことに覚えはない。
俺はただの大学生だぜ?

椎名善晴

もうブラフは結構です。
教えていただきたい。
君は何を企んでいるのですか?

天野勇二

ただの大学生には何もわからないさ……と、言いたいところだが、それだけじゃあんたも可哀想だな。
この『ホームズ』でもあり『ボンド』でもある『天才クソ野郎』が推理してやろう。
特別サービスだぞ。


 ヘラヘラ笑いながら言葉を続ける。


天野勇二

電脳学博士の事件は始まったばかりだ。
まだ『脅迫状の実行』は続く。
そして、その内容は加速するだろうな。


 天野の言葉が椎名に重くのしかかる。


 椎名は青ざめながら言葉を吐き出した。


椎名善晴

なんということを……!
君はまだ、別の事件を起こすつもりなのですか!?

天野勇二

いやいや、俺は推理を口にしただけだ。
そんな誘導尋問ゆうどうじんもんは止めてくれ。

椎名善晴

トロイをばら撒き、その脅迫内容を実行し続ける……。
しかも事件のスケールを大きくさせるつもりですね。
私はとてつもない犯罪者と会話していることになります。
全身が震えるようですよ。

天野勇二

いいねぇ。
怯えて震えているのか。
それとも武者震むしゃぶるいなのか。
後者であってほしいものだ。


 椎名の腕が強く引っ張られた。


 高尾が肩をいからせながら、椎名を睨みつけている。


 電話をしている場合ではない、早く現場に行くべきだ、と主張しているのだろう。


 椎名は重い息を吐きながら言った。


椎名善晴

……わかりました。
今、私はこの会話を録音していなかったことを、深く悔やんでいますよ。
天野くん、また近い内にお会いしましょう。


 その言葉と同時に電話は切られた。


 天野はタバコを取り出しながらスマホを眺めた。


天野勇二

クックックッ……。
椎名め、この俺様をハメた罰だ。
しばし掌の上で無様ぶざまに踊りやがれ。


 タバコに火をつける。


 不敵な笑みを浮かべながら煙を吐き出すと、どこか楽しげに呟いた。


天野勇二

ついに『脅迫』が実行された。
どんなヤツがこの『釣り』に引っかかるのか……。
早く真犯人の顔を拝みたいものだぜ。







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つばこ

【つばこよりお詫び】
 
きっと読者の皆さまは「なんで涼子ちゃんの挿絵がないの? すごく見たい! 美人プロ女子バレー選手の涼子ちゃんが見たい見たい!」なんて思われていることでしょう。
思ってなくても思ってることにしてください。
誠に申し訳ないのですが、美人さんに変身した涼太くんのことは脳内で補完していただきますようお願い申し上げますm(_ _)m
 
 
いやぁ、ついにやっちゃいましたね。
今回ばかりは「さすがのクソ野郎も逮捕されるだろう」という気がしてます。
しかし残念なことに、4件もの『誤認逮捕』がボディブローのように効いてまして、警察は『遠隔操作トロイウイルス事件』絡みの逮捕状をなかなか出すことができないのです。
これが地味に作用しているので、天野くんも強硬策に出たのかなぁ。
 
そんなこんなで、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(๑•̀ㅂ•́)و✧

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コメント 21件

  • みょん

    椎名と電脳姫が親子ってことだよね?

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  • ちょぱ

    戸籍…わからぬ笑
    さすがつばこさん、いつも答えが分からない!

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  • 泣き虫負けず嫌い勇者

    法律あんまり詳しくないけど、爆発の被害者が被害届を出さなかったら、逮捕できないとか?

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  • ゆーまる

    涼子ちゃあああああああぁぁぁ

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  • OD-10

    You can't see me.(見えっこねえ)
    If you want some, come get some.(欲しいモンがあるなら取りに来いや)
    今回の決め技はAAかな?
    相変わらず随所に散りばめられるプロレスネタにプヲタはニヤニヤさせてもらってますw

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