再会の時は、意外にも早く訪れた。



 2度目の『オンライン合コン』が開催されたのは、涼太が館林を怒らせた翌日の夜のこと。



 涼太は3人の女性たちそれぞれに頭を下げると、



佐伯涼太

本当に悪いことをしたと思ってる。
どうか僕に謝罪の場を与えてほしいんだ。
みんなに集まってくれとは言わない。
せめてもう一度だけ、オンラインでお話させてくれないかな。



 低姿勢で『オンライン合コン』の再開催を懇願こんがんしたのだ。


 憔悴しょうすいしきった表情を浮かべ、土下座もしたし、涙も浮かべてみせた。


 言葉通りの誠心誠意をこめた謝罪だ。



館林充希

うちはイヤだなぁ……。
涼ちんにはガッカリしたよ。
もう話したいこともないんだけど。



 館林はかなり嫌がっていたが、渾身こんしんの謝罪がヒットしたのか、それとも夏川と保坂が前向きになったくれたからなのか。


 最後は仕方なく承諾しょうだくしてくれた。


 以前と同じように『ビデオ会議アプリ』で互いをつなぐ。


 涼太はノートPCの画面に表示されている娘たちに頭を下げた。


佐伯涼太

今夜は集まってくれてありがとう。
改めて謝罪するよ。
昨日はごめん。
僕はどうかしてた。
菜々子ちゃんの気持ちを考えもせず、追い詰めるようなことを言った。
あれは最低の行為だったよ。
本当にごめんなさい。


 床に額をこすりつけながら反省の意を示す。


 女性陣は困ったような表情を浮かべていたが、やがて保坂が切なげに口を開いた。


保坂菜々子

ううん……。
もう気にしないで。
むしろ私のほうこそごめんなさい。
涼太くんが気になったのも理解できるの……。


 青白い表情で言葉を続ける。


保坂菜々子

あの夜、私はもう頭が真っ白になっちゃって……。
涼太くんや警察に伝えるべきだったのに、それができなかった。
自分がとっさに想像してしまったことが、すごく恐ろしくなって……。
でも本当は、色々なことを、涼太くんに相談すべきだったんだよね……。


 肩を落とす保坂を見て、館林が苛立いらだったように吐き捨てる。


館林充希

菜々子が謝ることじゃないよ。
友達の死体を見たら動揺するのが普通だし。
他人に説明できない行動を取っても不思議じゃないよ。

保坂菜々子

うん……。
そうなんだけどさ……。

館林充希

菜々子が『殺人』なんてするワケない。
うちはそのことを信じてる。
涼ちんも同じだって考えていいんだよね?
まさかと思うけど、いまだに菜々子のことを疑ったりしてない?

佐伯涼太

もちろんだよ。
菜々子ちゃんが『犯人』だなんて、これっぽっちも考えたことがない。
誤解させたこと、本当に申し訳なく思うよ。

館林充希

じゃあなんでさ、あんな風に問い詰めたの?
まるで『犯人』糾弾きゅうだんするみたいだったよ。
菜々子が関係ないって信じてるなら、あそこまで言わなくても良くない?
こう言っちゃ悪いけど、昨日の涼ちんは怖かった。
殴ってくるんじゃないかと思ったし。

夏川愛海

まぁまぁ……。
もうそのぐらいでいいじゃない。


 夏川が苦笑しながら割り込んだ。


 興奮する館林をなだめるように語りかける。


夏川愛海

そろそろ許してあげたら?
涼太は反省してる。
菜々子も気にしてないって言うんだから、これ以上蒸し返す必要もないと思うな。
この話はこれでおしまい。
それで良くない?

館林充希

えぇ……?
ちっとも良くないし。
昨日も思ったけど、まなたんは涼ちんに甘過ぎるよ。
このチャラ男は一度フルボッコにしておきゅうをすえたほうがいいって。

夏川愛海

そんなことしなくてもいいよ。
それにさ、涼太だって動揺してたんじゃないかな?
私たちより怜生と仲が良かったんだから。
しかも『盗撮』のことは知らなかったんだし。


 館林は不服気に黙り込んだ。


 涼太は『怜生の悪行』とは無関係である。


 館林もそのことは理解しているようだ。


館林充希

……まぁ、そうだね。
涼ちんも死体を見てるんだったね。
そりゃショックだよね……。

夏川愛海

そうだよ。
涼太だけ「普段通りにしてろ」ってのはこくだと思うな。
もう許してあげたら?

保坂菜々子

私からもお願い。
充希ちゃんの気持ちもわかるけど、涼太くんとは仲直りしてほしい。
2人ともすごく大切な友達だから、喧嘩してるのを見るのは辛いよ……。


 保坂も追随ついずいするように言葉を重ねる。


 館林は諦めたように表情を崩した。


館林充希

……はぁ、わかったよ。
2人がそう言うなら許す。
涼ちん、これは貸しにしておくからね。
今度うちらに何か奢って。
ピエール・エルメのマカロンがいいな。

佐伯涼太

うん、まかせて。
マカロンでもチョコでもケーキでも何でも奢るよ。

館林充希

ついでにとびきりのイケメンも紹介して。
涼ちんより顔が良くて、優しくて、頭も良くて、お金持ちの人がいいな。

佐伯涼太

わかった。
それもまかせておいて。
充希ちゃん好みの男をダース単位で手配する。

館林充希

オッケー。
期待してるね。
あとさ……。
うちも涼ちんに色々言い過ぎちゃって、ごめんなさい。


 館林の顔にようやく笑顔が戻る。


 保坂が「ほっ」としたように微笑む。


 そこで夏川がおずおずと口を開いた。


夏川愛海

ねぇ涼太……。
ずっと気になってるんだけど……。
その人は誰なのかな?


 画面に映る1人の男を指さす。


 実は今夜の『オンライン合コン』にはゲストが来ているのだ。


 誰なのかは説明するまでもないだろう。


 天野はどこか気障キザったらしく口元を歪めると、白い歯を覗かせながら眩しいほどの笑顔を浮かべた。


天野勇二

自己紹介が遅れてしまったね。
俺は天野勇二っていうんだ。
涼太と同じ大学の医学部に通ってる。
今夜はよろしくね。


 女性陣は戸惑とまどいながら画面を見つめた。


 全員が「どこかのコンパで会ったかな?」と記憶を漁っている。


夏川愛海

天野さん……。
えっと、初対面ですよね?
どこかで会ってないですよね?

天野勇二

初対面で間違いないよ。
どうしても君たちと話してみたくてさ。
涼太に無理を言って参加させてもらったんだ。
迷惑じゃなければ嬉しいよ。


 いつもの『クソ野郎節』を引っ込め、親しげに語りかけている。


 まるで『ただの大学生』のようだ。


 女性陣は多少困惑しているようだったが、否定的な反応を見せてはいない。


 何せ天野はそうそうお目にかかることができないレベルのイケメンなのだ。


 笑顔は春風のような爽快感を放ち、声もつやっぽく色気たっぷり。


 全身からオスとしての力強いオーラまで放っている。


 さらに『肩書き』がまた魅力的だった。


館林充希

天野さんは医学生なんですか?
それってすごくない?
涼ちんの大学って偏差値高いんでしょ?
めっちゃ頭が良いとか?

天野勇二

そんなことはないさ。
実家が病院を経営してるから、仕方なく通っているだけなんだ。
俺よりも涼太のほうが優秀だと思うよ。

館林充希

実家がお医者様……!
やばいそれゴイスーじゃん!
天野さんはカノジョとかいるんですか!?

天野勇二

いないんだ。
あまり縁がなくてね。

館林充希

もったいなーい!
それなら今度うちと遊びに行きましょうよぉ。
リアルでお顔を拝見してみたいなぁ。


 館林のテンションはマックスまで跳ね上がった。


 自慢の胸をブルンブルン振り回している。


 涼太は苦笑しながら言った。


佐伯涼太

勇二とは小学校からの幼馴染でさ。
仲が良いんだけど、コンパに連れ出すことはなかったんだ。
何せ忙しい医学生だからね。
そんな時間がなかなか……。

館林充希

涼ちんは黙ってて!

ねぇ天野さぁん。
今はどこに住んでるんですかぁ?
うちそっちまで行きますよぉ。
むしろどこでもイケますよぉ?

天野勇二

今は港区みなとくで一人暮らししてるんだ。
来てもらうのは悪いから、俺が君に会いに行くよ。

館林充希

いいですいいです!
うちが住んでるのは浦和うらわっていうクソ田舎なんで!
天野さんみたいな王子様が来ていい街じゃないです!

やだちょっとマジ最高なんだけど!
なんか今夜は運命の人に出会っちゃったかもしんない!


 しばらくの間。


 マシンガンのような館林のトークがオンラインに咲き乱れた。


 「背は高い?」「趣味は?」「好きな食べ物は?」「好きな女の子のタイプは?」といった質問を飛ばし続ける。


 天野は嫌な顔ひとつせず、その全てに答えてやった。


保坂菜々子

ちょっと充希……。
少し落ち着いてよ。
天野さんが困ってるじゃない。


 さすがに保坂が止めに入った。


館林充希

そうかな?
でもこれ『合コン』でしょ?
天野さんもカノジョを探しに来た、ってことでいいんでしょ?

佐伯涼太

まぁ、そうなんだけどさ。
勇二に来てもらったのは、みんなに伝えておきたいことがあるからなんだ。
こう見えても勇二はネットワーク関係に強くてね。
怜生クンが仕掛けていた『盗撮』のことで報告があるんだよ。


 涼太が本題を切り出した。


 まるで冷水を浴びせられたかのように、館林たちの表情が真顔に戻る。


館林充希

……盗撮?
それって、アレのこと?
亜由美が悩んでたヤツだよね?

佐伯涼太

そうだね。
実は勇二に依頼して、『盗撮』のルートを暴いてもらったんだ。
なぜ怜生クンが古賀さんの部屋を盗撮できたのか。
ようやく判明したんだよ。

館林充希

マジで!?
どうやったの!?


 涼太は画面の中にいる天野を見つめた。


 天野はソファにゆったりと座りながら、真面目な表情で画面を見つめている。


天野勇二

涼太のPCを解析して見つけたんだ。
怜生という男は『マーダーミステリー』のアプリに『ウイルス』を仕掛けていたんだよ。


 丁寧に『ウイルス』の仕組みを解説する。


 PCが起動している限り、内蔵カメラから部屋の様子を撮影してしまうこと。


 盗撮データはPCからすぐに削除されてしまうため、気づくのは難しいこと。


 涼太は話を聞いている女性陣の顔を注意深く観察した。


 案の定、1人の人物だけ反応がおかしい。


 表面上は取りつくろって演技しているが、さすがに動揺までは隠し切れていない。


 涼太はその反応が悲しかった。



天野勇二

……というワケなんだ。
今からみんなに『ウイルス』をアンイストールするためのソフトを送る。
それで問題は解決するはずだ。
もし『マーダーミステリー』に参加したことがある人物を知っていれば、ソフトを転送してあげてほしい。
特に浦和にいる女の子には、早めに伝えてあげてほしいな。

館林充希

わ、わかりました……。
あのバカがそんなのを仕掛けてたなんて……。
全然気づかなかった。
みんなは知ってた?

保坂菜々子

ううん……。
私も知らなかった。
そんなの聞いたこともない。
私はいつもPCをシャットダウンしてたからかな……?

天野勇二

たぶんそうだね。
PCをシャットダウンしたり、カメラを隠すようにしていれば、盗撮される危険はない。
例えば『ノートPC』なら閉じてしまえば十分なんだ。
きっと浦和の女の子はそれをおこたっていたんだろうね。

館林充希

ありえそうだなぁ……。
亜由美はずっとYouTubeを流したりしてたから……。
これすぐに伝えなくちゃ。


 館林は青ざめながらスマホを操作している。


 夏川が怯えたように口を開いた。


夏川愛海

で、でも……。
それはもう、大丈夫じゃないんですか?
だってほら、『ウイルス』を仕掛けていた怜生は、もうあれなんだし……。

天野勇二

ああ、殺されてしまったからね。
当面の危険はないかもしれない。
だけど、それでもまだ不十分なんだよ。

夏川愛海

ど、どうしてですか?

天野勇二

なぜか『犯人』『怜生のノートPC』だけを持ち去っているからさ。
恐らく彼が所持していたPCだけが、『盗撮データ』を保存できるようになっていたはず。

あまりこんなことを考えたくはないんだけど……。
『犯人』『盗撮データ』を入手するために、彼を殺害したのかもしれないね。


 どこか切なげに言葉をつむぐ。


 保坂が震えながら尋ねた。


保坂菜々子

『犯人』の目的は『盗撮データ』だった……。
それってつまり、『犯人』も怜生くんに脅されていた、ということですか?
だから、怜生くんを殺した……?

天野勇二

そうだね。
もしくは『盗撮データ』を入手することで、彼と同じように「誰かを脅すつもり」なのかもしれない。
俺としてはそちらの可能性のほうが恐ろしいんだ。
彼が殺されても『盗撮事件』は終わらない。
そんなことになるからね。

館林充希

うわぁ……!
ありえないし!
それマジでやばいじゃん!


 怯える館林の声を聞きながら、天野はさりげなく薬指で前髪をかき上げた。


 これは『作戦開始』合図サインだ。


 涼太もさりげなく「了解」のハンドサインを送る。


 小さく息を吐くと、決意をこめた表情で言った。



佐伯涼太

……僕としては、勇二の『推理』は外れていると思う。
『犯人』は誰かを脅そうとは考えてない。
「怜生クンに脅されていた」んじゃないかな。
何があったのかは知らないけど、怜生クンのことを殺すほど恨んでいた。
きっとそうだと思うんだ。



 画面の中にいる天野が嫌そうに顔を歪めた。


 当然の反応だろう。


 『作戦』にはこんなセリフが存在しないからだ。



佐伯涼太

怜生クンを恨むのは理解できる。
もし彼が生きていたら、僕は再起不能になるまでぶん殴っていただろうね。
殺したいと願う気持ちもわかるよ。

でもさ、それはいけないことなんだ。
絶対に許されない行為なんだ。
僕は君にそんな罪を背負って生きてほしくないんだよ。

なぜなら、どんな計画にもほころびがあるから。
完全犯罪なんてありえない。
いつまでも隠し切れることじゃないんだ。
あの夜の僕が『違和感』に気づいてしまったようにね。



 熱をこめた言葉を吐き出す。


 突然の独白どくはくに、女性陣は戸惑いを隠せない。



夏川愛海

……涼太?
どうしたの?
なんか様子がおかしいけど……。



 夏川が怯えたように尋ねる。


 館林と保坂も困惑こんわくの眼差しを向けている。


 涼太は振り絞るように言った。



佐伯涼太

『ドルチェ&ガッバーナ』の香水のせいだよ。

あの時、気づくべきだった。
……いや、それも違うな。
もっと早く気づくべきだったんだ。
こんなことを言っても、何もかもが遅いんだけどさ……。


 涼太が大きく息を吐いた瞬間。


 その顔がフリーズし、全ての声が途切れた。


 そのまま『ビデオ会議アプリ』からログアウトしてしまった。


館林充希

……えっ?
う、嘘でしょ?
涼ちん?
どうしたの!?

夏川愛海

涼太?
ちょっと何してるの?
ねぇ返事してよ!


 館林と夏川が青ざめながら叫ぶ。


 当然ながら涼太の返事はない。


 やがて全員のスマホが「ピロリ」と鳴った。


 涼太からLINEが送信されている。


 スマホの画面に表示されたものを見て、保坂が驚愕きょうがくの声をあげた。



保坂菜々子

ど、どうして……?
どうして、涼太くんが、こんな『写真』を送ってくるの!?



 LINEで送られていたのは1枚の写真。


 『真っ赤な液体』が散乱する涼太の部屋が映し出されている。


 赤いペンキをぶち撒けたかのようだ。


 女性陣の顔が絶望に染まった。


館林充希

こんなの嘘でしょ……!?
なんなのこれ!?
怜生の時と同じじゃん!
涼ちん何やってんの!?

夏川愛海

あ、天野さん!
からかってるんですか!?
涼太と一緒にドッキリを仕掛けてるんですよね!?
悪趣味あくしゅみにもほどがありますよ!


 館林は泣き出しそうに顔を歪め、夏川は鬼のような剣幕けんまくで叫び、保坂はスマホを見つめたまま硬直している。


 天野は冷静に自らのスマホを眺めると、ゆっくり首を横に振った。


天野勇二

いや、俺もこんなことは知らない。
みんなにも『写真』が送られているのか?

夏川愛海

送られてますよ!
天野さんにも届いてるんですか!?


 全員がスマホの画面をカメラに向ける。


 天野はそれぞれの画面を確かめると、スマホを耳にあてた。


 そのまま全員に告げる。


天野勇二

……電話にも出ないな。
ただの馬鹿げたイタズラだと思うが……。
どうも気になる。
今から涼太の家に行ってくるよ。

保坂菜々子

お、お願いします!

……いや、私も行きます!
一緒に行かせてください!


 保坂が真っ先に叫んだ。


 一呼吸遅れて、夏川と館林も叫ぶ。


夏川愛海

私も行きます!
涼太とは近所なんです!
すぐに様子を見てきます!

館林充希

待ってまなたん!
1人じゃ危ないよ!
うちも行くからそれまで待ってて!

夏川愛海

充希を待ってられないよ!
私が一番早く到着できるはずだから!


 天野は頷き、ビデオ会議アプリに涼太の住所を送信した。


 東京都とうきょうと杉並区すぎなみく荻窪おぎくぼ


 一番近くに住んでいるのは、同じ荻窪おぎくぼ在住の夏川だ。


天野勇二

ここが涼太の家だ。
俺は港区にいるから、到着まで時間がかかるだろう。
夏川さんは先に様子を見に行ってくれ。
少しでも危険を感じたら、引き返して警察に通報してほしい。

夏川愛海

わ、わかりました!

天野勇二

涼太から聞いているが、保坂さんは港区の白金しろかねに住んでいるらしいね?
通り道だから合流しよう。
駅の近くで待っていてくれないか。

保坂菜々子

大丈夫です!
あとで場所を送ります!

館林充希

ちょ、ちょい待って!
うちも行くから!
ちょっと遅れると思うけど、うちも涼ちんの家まで行くし!

天野勇二

わかった。
遠くからすまないが頼むよ。
後ほど落ち合おう。


 天野はそこで『ビデオ会議アプリ』を落とした。


 全員がログアウトし、画面上に映し出されていた参加者の顔が消える。


 その1人である夏川は即座に立ち上がると、同居している妹に向かって叫んだ。



夏川愛海

出かけてくる!
戸締まりちゃんとしておいて!



 妹の返事を待たずに外へ飛び出す。


 嫌な予感が夏川の胸を打ち鳴らしている。


 まるで『あの夜』が再現されているかのようだ。


 なぜこんなことが起きているのか。


 まったく見当がつかない。


 そして、先ほどの涼太の言葉。


 あれはどんな意味があったのだろう。


 不安という名の胸騒ぎが膨れ上がり、自らの身体が弾け飛んでしまうかのようだ。


 夏川が道路に出た時だった。



夏川愛海

……ッ!?



 突然、近くにいた車がけたたましくクラクションを鳴らした。


 ハイビームが夏川の全身を照らす。


 思わず道路に飛び出したのかと思ったが、そうではない。


 車は停車している。


 コンテナのようなものを積んだ軽トラックだ。


 運転席には見知った顔がある。


 夏川はそれを驚愕きょうがくの表情で見つめた。



夏川愛海

なっ……!
ど、どうして……!?
なんで、アンタがここにいるの!?



 全身を震わせながら叫ぶ。


 運転席にいた男はどこか悲しげに頷いた。



佐伯涼太

……ごめんね。
こんなこと、したくなかったんだけどさ……。



 涼太が切なげに息を吐く。


 夏川は震えながら尋ねた。



夏川愛海

ど、どういうこと!?
あの『写真』は何なの!?
いったい、何のために、こんなこと……!?

天野勇二

今さら何を言っているんだ。
さすがに理解できるだろう?
君が仕掛けた『アリバイトリック』模倣もほうさせてもらったんだよ。



 夏川の背後から天野の声が響いた。


 偉そうで不快感を刺激する嫌味たらしい声。


 顔を歪めながら振り返る夏川を見下しながら、天野はニタリと悪い笑みを浮かべた。



天野勇二

君の偽装トリックは見事だった。
あの夜の映像を眺めても、まるでそのようには見えなかったからな。
何度もリハーサルを重ね、不自然に見えないよう訓練したのだろう。

だが、それも見破られてしまえば意味はない。
小手先のトリックを暴くことなんて、この天才クソ野郎にかかれば全てうまくいくんだ。



 指先を振り回して、震える夏川の顔に突きつける。


 叩きつけるように言った。



天野勇二

夏川愛美……。
君が『犯人』だ。
君が『ホランド怜生』を殺したのさ。






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つばこ

でも見てくださいよ今の天野くんを。
クズになった天野くんを。
人を傷つけてまた泣かせて(あと時々ぶん殴ってメスで斬り裂いて拳銃をぶっ放して)も。
何も感じとれない天野くんを(´;ω;`)
 
 
そんなワケで犯人はこの娘でした!!!
皆さまの推理は当たりましたか!?
次回はトリックの種明かしをするんだと思いますが、さすがにもうおわかりいただけたでしょう!
そういうことです!
ものすごく物理たっぷりの力技!
確かにたくさんリハーサルして訓練しないと難しいでしょうね!
 
なお今回の『マーダーミステリー編』には、「犯人当て」とは別にもうひとつ問題を仕込ませています。
「菜々子ちゃんの矛盾」という謎です。
明らかに不自然な彼女の行動にはどんな秘密が隠されているのか?
そっちも推理してくれたら僥倖でーす!
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!✧٩(ˊωˋ*)و✧

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コメント 22件

  • コハク

    香水のせいだったw

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  • みょん

    シリアスな話しだったのに、ドルチェ&ガッパーナの香水で吹きそうになっちゃったよwww

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  • ちょぱ

    違和感は香水しか思いつかなかったけど、ドルチェ&ガッバーナはネタだと思ってハズレかと思ってたらまさかの笑

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  • コンテナの中を自分の部屋に見立てて殺害したんでしょ?おそらく。知らんけど。

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  • まこと

    よし、違和感を探しに行こう

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