※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。








『天才クソ野郎の事件簿』


「彼が上手にマーダーミステリーする方法」









 その日、涼太りょうた『オンライン合コン』に参加していた。



 男子2人、女子3人という、こじんまりとしたオンライン合コン。



 友人の『ホランド怜生れいから誘われたのだ。



 怜生はコンパで知り合った都内の大学生。



 ドイツ系アメリカ人と日本人の間に産まれた『ハーフ美男子』だ。



 見た目はかなり欧米人に近いのだが、怜生本人は東京都蒲田かまた生まれの蒲田かまた育ち。



 残念ながら外国語は一切喋ることができない。



 女遊びの大好きな『チャラ男』だったので、涼太はそれなりに『同族』ならではのシンパシーを感じていた。



ホランド怜生

いよぉ涼太。
俺と『密談』なんてどうした?
お前が『密談』するのは女だけかと思ってたな。
そっちに目覚めちゃったの?

佐伯涼太

うぷぷ……。
それも悪くないんだけどさぁ、『真犯人』を暴くには怜生クンの協力が必要不可欠なワケよ。
ちょっとお願い聞いてくんない?

ホランド怜生

へぇ?
どんなお願いなんだ?

佐伯涼太

『犯人』は『充希みつきちゃん』ってことにしない?
彼女ならやりかねないっしょ?
僕も『投票』するからさぁ、怜生クンも彼女に1票入れてほしいんだよねぇ。

ホランド怜生

館林たてばやしかぁ……。
洋館のメイドだからな。
『ご主人様』に恨みを抱いていた可能性は高いかもな。



 ノートPCの画面上で、怜生がニタニタと微笑んでいる。


 2人が話しているのは、オンラインで遊べる『マーダーミステリー』というゲームのことだ。


 『マーダーミステリー』とは、推理小説のような世界観の中で、役割を演じロールプレイながら遊ぶコミュニケーションゲームのこと。


 プレイヤー間での心理戦や駆け引きが要求されるが、『人狼ゲーム』『テーブルトークRPG』ほど敷居しきいが高くないこともあり、初心者でも気軽に楽しめるゲームとして人気をはくしている。




 今回涼太たちが遊んでいるのは、富士山麓ふじさんろく洋館殺人事件』というシナリオだ。


 とある嵐の晩、ナイフで刺殺された洋館のあるじ


 ゲームに参加するプレイヤーには『探偵役』『犯人役』『共犯者』『傍観者』『目撃者』などの「役割」や「情報」がランダムで与えられ、最終的には参加者全員の投票で『犯人』を決めることになる。



ホランド怜生

館林を『犯人』に仕立て上げたいなら、みんなに『公開質問』で呼びかければいいじゃないか。
なんで俺と『密談』するんだ?
本当はお前が『犯人』なんじゃないのか?



 怜生が言う通り、マーダーミステリーにおける交渉方法は2種類ある。


 全員が揃っている場での『公開質問』


 1対1でこっそり行える『密談』


 内緒話をしたり、交渉を持ちかけたりと、『密談』はゲームを有効に進めるための重要なファクターなのだ。



佐伯涼太

僕は『犯人』じゃないよ。
でもさ、館林さんを選んでくれると助かるんだよねぇ。



 涼太が演じているのは『目撃者』だ。


 「片思い相手の保坂が偶然犯行に及ぶ場面を目撃してしまった。保坂の逮捕を防ぎ、かねてから嫌っていた館林を犯人にする」という役割を与えられている。


 つまり涼太にとっては、「みんなが館林を犯人として指名すること」が、ゲームの勝利条件となるのだ。



ホランド怜生

怪しいなぁ……。
でもまぁ、理由次第では聞いてやらないこともないぞ。

佐伯涼太

理由は言えないよ。
僕としては怜生くんの正体もわからないワケだし。

ホランド怜生

俺はただの『配達員』じゃないか。
館の主人に頼まれて夕食を運んでいたんだ。
富士山麓でもUber Eatsがあるなんて驚きだよな。

佐伯涼太

それだけじゃないはずだよ。
絶対にウラがあるんだよなぁ。



 涼太が言う通り、怜生には『探偵役』という裏があった。


 「洋館の主人に雇われている探偵であり、真犯人を見つけ出して逮捕する」という役割を与えられている。


 怜生としては正しい『犯人』を多数決で選ばなければ、ゲームに勝利することができない。



佐伯涼太

……あっ、もうすぐ『密談』の時間が終わっちゃう。
これ5分超えたらペナルティがあるんだよね?

ホランド怜生

そうだな。
2回のペナルティで投票権を失うぞ。


 涼太は感心しながらアプリの画面を眺めた。


 『密談』が終了するまでの時間がカウントダウンされている。


佐伯涼太

アラームとカウントダウンまで表示されるなんて、よくできた『ビデオ会議アプリ』だよね。
これ怜生クンが作ったってマジなの?

ホランド怜生

ああ、マーダーミステリー用にアレンジしたんだ。
といっても、既存のアプリを軽くいじっただけだよ。

佐伯涼太

チャラ男のくせに妙な才能があるんだねぇ。
怜生クンの特技は『王様ゲーム』だけかと思ってたな。

ホランド怜生

大したことじゃないって。
なぁ、そんなことよりさ……。


 画面の中の怜生が下品な笑みを浮かべる。


ホランド怜生

涼太ってさ……。
今日の女たちの中で誰を狙ってんの?
やっぱり『夏川なつかわ』とか?

佐伯涼太

夏川さんもセクシーでいいんだけどね。
本命は『菜々子ななこちゃん』かな。
彼女で決まりだよ。

ホランド怜生

ああ、『保坂ほさか』か。
ああいう女、好きだよなぁ。
どうせカラダしか見てないんだろ?

佐伯涼太

そうだけど……。
何か問題あった?
むしろ他に何を見ればいいのかな?
女の子の一番魅力的なところを見ちゃうのは、健康的な男子にとって当然の行為じゃない?

ホランド怜生

あははっ!
言えてる!
マジでお前は最低だな!


 怜生が両手を叩いて笑う。


 まったく下衆げす下品げひんなどうしようもない会話だ。


 怜生は何度か頷くと、子供のように瞳を輝かせながら言った。


ホランド怜生

やっぱり涼太には教えておきたいな。
これ終わったら家まで来いよ。
たまには男同士で飲むのも悪くないだろ?
見せたいものがあるんだ。
マーダーミステリーの後に見たら、絶対にテンション上がると思うぜ。

佐伯涼太

なにそれ!?
すっごい気になるじゃん。
じゃあ、コンパが終わったらそっちに行くね。



 そこで『密談』は終了。


 女性陣が待つチャットルームに戻る。


 今日の『オンライン合コン』のお相手たちだ。



館林充希

なになに?
2人でどんな『密談』してたの?
教えなさいよぉ。



 派手な金髪の女の子が甘ったるい声で尋ねる。


 専門学生の館林充希たてばやしみつきだ。


 チャームポイントは可愛い八重歯やえばと、自己主張の激しすぎる豊満な胸。


 涼太の大好物とも言える女の子だ。



夏川愛海

それ聞いたら『密談』の意味ないでしょ。
だけど、涼太から『密談』を持ちかけてたから、何か交渉したいことがあったんだよね。
これはヒントになるかも♪



 リズムを刻みながら喋っているのが夏川愛海なつかわまなみ


 クラブで知り合ったDJ志望の女の子だ。


 特徴は全身からにじみ出ている色っぽい仕草と、趣味のダンスで磨き上げた極上のヒップライン。


 涼太の大好物とも言える女の子だ。



保坂菜々子

何を交渉してたのかなぁ。
ねぇ涼太くん、私だけにこっそり教えてよ。



 大人しそうな黒髪の女の子が保坂菜々子ほさかななこ


 正統派アイドルグループに在籍していてもおかしくないほどの美少女だ。


 おまけにメリハリのあるスタイルの持ち主。


 涼太の大好物とも言える女の子だ。



佐伯涼太

そんなの教えられないって。
怜生クンとは男同士の話を……。

……あれ?


 怜生に語りかけるが反応がない。


 笑顔のままフリーズしている。


 そして『ビデオ会議』からログアウトしてしまった。


保坂菜々子

あれぇ?
怜生くん?
どうしたの?

佐伯涼太

これはあれだね。
ネット回線が切れたっぽいね。

館林充希

アプリがフリーズしたのかもよ。
もう何やってんのアイツ。
これから投票なのにさ。

夏川愛海

まぁ、しばらくすれば帰ってくるでしょ。
ちょっと待ってみようよ。


 雑談しながら怜生を待つ。


 マーダーミステリーは全員の投票を終えないとゲームが終了しないのだ。


 しかし、なかなか怜生は復帰しない。


夏川愛海

……遅いねぇ。
じゃあちょっと抜けるね。
トイレ行ってくる。


 夏川が回線をつないだまま席を立った。


館林充希

うちもビール取ってくる。
ついでにポテチ食べよっと。


 館林も立ち上がり、画面から消えた。


 アプリ上に残ったのは涼太と保坂の2人だけ。


 涼太は苦笑しながら言った。


佐伯涼太

ありゃま。
菜々子ちゃんと2人きりになっちゃったね。

保坂菜々子

そうだね。
なんかこうやって涼太くんと話すの、すごく久しぶりな気がする。

佐伯涼太

本当だよねぇ。
最近はどうしてるの?
どこか遊びに行った?

保坂菜々子

うん!
友だちと遊園地に行ったんだ。
ほら、夏で閉園しちゃったところ。

佐伯涼太

あそこに行ったんだ!
いいなぁ。
僕も菜々子ちゃんとお出かけしたかった。

保坂菜々子

えぇ?
本当にそう思ってる?
涼太くん、なかなか誘ってくれないじゃない。
他の女の子と遊んでたんでしょ?

佐伯涼太

そんなことないよ。
夏休みはずっとバイトしてたかな。
ほら、このご時世だから稼げる時に稼いでおかないと。


 涼太は平然と嘘を吐いた。


 確かにバイトはしていたが、他の女の子ともたっぷり遊んでいる。


 保坂は何かを期待するように言った。


保坂菜々子

それじゃ……。
今も忙しいの?
たまには涼太くんと会いたいな。
こうやって画面越しに話せるのも楽しいけど……。
どうせなら直接会えたらいいよね。


 はにかみながら頬を染める保坂を眺めながら、涼太は小さなガッツポーズを決めた。


 口説き落とせる手応えをビンビンに感じる。


 思えば長い道のりだった。


 出会ったのは昨年末のクリスマスコンパ。


 保坂は名門女子大に通っている白金しろがね在住のお嬢様であり、涼太ほどの『チャラ男』でも簡単には口説き落とせない難攻不落なんこうふらくの娘だったのだ。


 涼太はやや前のめりになりながら言った。


佐伯涼太

それだったらさぁ……。
今週末なんてどう?
僕ちゃんの愛車に乗ってどこか遠くにドライブ……

館林充希

ちょっとちょっとー!
何イチャイチャしてるのぉ!?
今はマーダーミステリー中なんですけどー!


 まるで見計らっていたかのように、館林が割り込んできた。


保坂菜々子

イチャイチャなんかしてないよ……。
ほら、どこか遊びに行きたいな、って話をしてて……。

館林充希

それはイチャイチャしてるじゃん!
ズルいよ菜々子ちゃん!
うちだって涼ちんと遊びに行きたいのにぃ!
抜け駆け良くないと思いまーす!
うちのことも誘ってよ!

保坂菜々子

そ、そう?
じゃあ、充希も一緒に行く?

館林充希

えっ!?
いいの!?
でも3人になっちゃうよ!?
うちそういうのしたことないけど、菜々子ちゃん経験あるの!?

保坂菜々子

……えっ?
け、け、経験……?
な、なんのこと……?


 赤面しながらとぼける保坂。


 それをニヤニヤしながらからかう館林。


 涼太は何とも言えないため息を吐いた。


佐伯涼太

(うーん……。充希ちゃんもいい子だし、おっぱいハンパないし、遊び相手としては最高なんだけど……。ちょっとやかましいんだよねぇ……)


 画面上では館林のマシンガントークが咲き乱れている。


 本当によく喋る女の子だ。


 自己主張が激しいのは胸だけではないのだろう。


夏川愛海

……あれ?
随分盛り上がってるね。
何を話してたの?


 夏川が画面に戻ってきた。


 片手に何かの料理が乗った皿を手にしている。


館林充希

まなたん遅いよぉ。
トイレで吐いてんのかと思っちゃった。
大丈夫?

夏川愛海

大丈夫に決まってるでしょ。
ちょっとツマミ用意してたの。
じゃーん♪
『生サーモンのカルパッチョ』を作ってみたんだ!

保坂菜々子

うわぁ、すごく美味しそうだね。
今作ったの?

夏川愛海

そうだよ。
安いサーモンのお刺身なんだけどさ。
これが白ワインに合うのよ。

佐伯涼太

へぇ、すごいねぇ。
愛海ちゃんって料理上手なんだ。
知らなかったな。


 涼太が褒めると、夏川は照れ臭そうに身体をくねらせた。


 DJかつダンス好きの夏川は、リズムを刻みながら喋る癖がある。


 それがまた色っぽくてたまらない。


夏川愛海

上手ってほどじゃないけどさ。
ほら私ってば、見た目が遊んでそうでしょ?
料理とか出来たりすると、イイ感じのギャップが生まれたりするかな、と思って。

館林充希

謙遜けんそんしなくてもいいのにぃ。
まなたんは家庭的な女の子だよ。
もっと涼ちんにアピールすればいいじゃん。
絶対に涼ちんはカノジョに

「俺のために『肉じゃが』作ってくれよ」

とか言っちゃうタイプの男子だよ。

夏川愛海

それマジで?
じゃあ今度、涼太のために頑張っちゃおうかな。
ねぇ、涼太はどんな食べ物が好き?
ずっと涼太に何か作ってあげたいと思ってたんだ。

保坂菜々子

そ、それ私も教えてほしい!
涼太くんは何が好きなの?



 夏川と保坂が瞳を輝かせながら尋ねる。


 涼太は「そんなの決まってるじゃん。『肉じゃが』だよ。僕のために作ってほしいよね」と言いながら、束の間の『ハーレム気分』を噛み締めていた。


 これ以上に楽しい『コンパ』があるだろうか。


 女子3人は明らかに涼太への好意を抱いており、それぞれが巧みにセックスアピールしながら迫って来るのだ。


 館林は積極的なトークと胸。


 夏川は色気とギャップ。


 保坂は可愛らしい好意をほのめかしている。


 これが『オンライン』じゃなければ、全員お持ち帰りしてしまうのに。


 至福しふくの時間は風のように過ぎ去り、30分ほどが経過した。




館林充希

……ってかさ、怜生が戻って来ないね。
何してんだろ?
まさか寝落ちしたのかな?


 館林がぽつりと呟き、そこで涼太は怜生の存在を思い出した。


 楽しすぎてすっかり忘れていた。


 そう言えば怜生もいたのだ。


佐伯涼太

何してんのかな。
寝てるワケじゃないと思うんだけど。


 呟きながらスマホを操り、LINEでトークを送ってみる。


 既読きどくはつかない。


 誰かと電話でもしているのだろうか。


館林充希

これじゃマーダーミステリーが終わらないじゃん。
うち犯人わかっちゃったのに。
そもそも怜生がマーダーミステリーしたいって言い出したのにさぁ。
アイツほんと空気読めないよねぇー。


 館林がブーブー愚痴り始めた。


 確かにその通りだ。


 そもそも『コンパ』の幹事は怜生本人。


 涼太も怜生から「頼むから参加してくれよ。お前がいると女が集まるんだよ」と懇願されていたのだ。


佐伯涼太

おかしいねぇ。
怜生クンは『幹事』を投げ出すような人じゃないんだけど……。
何かあったのかな?

…………うん?























 ふいに自らのトークに既読きどくがついた。




 それと同時に、怜生から何かが送信されてきた。




 写真だ。




 涼太は画面に表示されたものを見て、一瞬、思考が停止した。




佐伯涼太

………えっ?
な、なにこれ……。




 震えながら写真を拡大する。



 何度か訪ねたことのある怜生のアパート。



 廊下と玄関の扉が写っている。



 なぜか靴や傘などが乱雑に散らばっている。



 そこに怜生の姿はない。



 しかし、そんなことは問題ではなかった。



 問題なのは、壁と床に付着している『血痕』だ。



 それも生半可な量ではない。



 まるでペンキをぶち撒けたかのように、部屋が赤く染まっていたのだ。








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つばこ

どうも、つばこです。
今週もお読みいただきありがとうございます。
 
最近の天野くんは誘拐事件に挑んだり、妹さんとの関係に悩んだりしていたというのに……。
涼太くんは『オンライン合コン』でキャッキャウフフしていたワケですか。
 
まったくけしからんですね!
何その夢みたいなハーレムコンパ!
つばこの知ってるコンパじゃない!
そんなコンパ参加したことない!
背景がいきなり暗くなった程度では誤魔化されないぞ!
お前みたいに無駄にモテやがるチャラ男はZoomデート中に女の子の口車に乗せられてうっかり下半身を露出してそれがスクショされてTwitterなんかで公開処刑されたり週刊誌に売られたりしちゃえばいいんだ!ヽ(`Д´)ノプンプン
 
そんなこんなで、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!∠( ゚д゚)/セイヤー!!

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コメント 19件

  • コロテール

    セッセッセイヤー!⊂(・∀・⊂*)

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  • riku

    「「「「「全員大好物」」」」」

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  • べっちん

    よく事件に遭遇する人達だなー
    …て、そうじゃないと、つばこ先生が失業しちゃうね(笑)

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  • リョウ

    結局全員大好物

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  • らおりん



    マダミス…!蒲田…!

    とか思ってたら、とんでもない方向に…

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