『盗聴器』を発見した後。



 天野と桃香は横溝よこみぞの身体検査に取りかかった。



 横溝の衣服や靴はもちろんのこと、身体も入念に調べ上げる。



天野桃香

……何も見つからないね。
予備の盗聴器があったらどうしようかと思ったけど、そこまで用意周到よういしゅうとうじゃなかったみたい。

天野勇二

そのようだな。
靴も分解したが何も出てこない。
恐らくコイツは下っ端だな。
使い捨ての駒なのだろう。


 天野は舌打ちしながら床に横たわる横溝を睨みつけた。


 今はボクサーパンツ1枚。


 天野たちにそれ以外の服を脱がされてしまったのだ。


天野勇二

それでも誰に盗聴を依頼されたのか、聞き出すことは可能だろう。
尋問じんもんを開始するぞ。
風呂場に運ぶ。
足を持ってくれ。


 桃香が頷き、横溝の足首を持ち上げる。


 そのまま風呂場へ連行。


 横溝の鳩尾みぞおちを蹴り上げ、冷水を浴びせる。



横溝淳弥

……がはっ!
ごほっ、ごほっ……。


…………えっ?



 横溝が意識を取り戻した。


 苦痛にあえぎながら、2人の兄妹を見上げる。









横溝淳弥

……え、え、えっ?
ちょ、ちょっと待って……。
桃香ちゃん?
どうしたの?
な、なんで、僕の服を、脱がせてるの……?



 怒りに満ちている2人の兄妹。


 それぞれの双眸そうぼうは凍えるような殺気を放っている。


天野勇二

桃香よ。
この男とはいつ知り合ったんだ。

天野桃香

1ヶ月半ほど前かな。
予備校の友達に紹介されたの。
その日のうちに告白されたよ。

天野勇二

なるほどね。
『誘拐』はその時点から計画されていたのか。


 天野は軽く首を回した。


 横溝が持っていた財布を取り出し、保険証を眺める。


天野勇二

横溝淳弥……。
19歳の浪人生か。
色々と教えてもらおう。
なぜ桃香に近づいたのか。
誰の差し金だったのか……。
全てを吐いてくれ。


 横溝は青ざめながら首を横に振った。


横溝淳弥

い、いや……。
なんのことですか……?
僕は、何も知りませんけど……。

天野勇二

下手な演技はやめろ。
あまり手荒な真似はしたくないんだ。


 天野はメスを取り出した。


 切れ味の鋭い医療器具いりょうきぐ


 しかし『天才クソ野郎』が手にした時、それは死の輝きを放つ拷問器具ごうもんきぐに姿を変える。


横溝淳弥

ひっ……!
やめてください!
僕は何も知らないんです!
警察を呼びますよ!

天野勇二

警察は呼べないんだよ。
お前の仲間が「通報するな」と命じてしまったからな。
もう一度言うが、手荒な真似はしたくない。
なぜならば……。


 天野は般若はんにゃの形相を浮かべた。


 放たれる殺気が濃くなる。


 叩きつけるように言い放った。


天野勇二

今宵こよいの俺様は機嫌が悪くてな。
手加減できる気がしないんだよ。
普段は半殺しで済ませることが多いんだが、今夜ばかりは殺してしまうかもしれない。
むしろお前の四肢ししをバラバラに切断するのも悪くないな、と考えているのさ。

それともあれか?
お前は殺されたいのか?
自らの血で赤く染まったバスタブを拝みたいのか?
それなら好きなだけ拝ませてやってもいいんだぜ。


 その声は鞭のように横溝の頬を打った。


 迫ってくる死の気配。


 失禁寸前の恐怖。


 横溝の身体はガタガタと震えている。


 その様子を見て、桃香が吐き捨てるように言った。


天野桃香

ねぇ淳弥くん……。
あまりちい兄を困らせないで。
淳弥くんが持っていた『盗聴器』のことは知ってるの。
時間の無駄だからさ、ちゃんと質問に答えてくれるかな?


 ため息を吐きながら言葉を続ける。


天野桃香

あと念のため言っておくけど、大声を出しても無駄だから。
うちのお風呂場はお母さんの好みで防音になってるの。
助けを呼べると思わないで。


 横溝は涙目で桃香を見上げた。


 軽蔑けいべつ嫌悪けんおの表情を浮かべている恋人。


 刃物メスを突きつけながら脅しの言葉を吐いている恋人の兄。

 この状況から逃げ出すことは難しい。


 瞳をにじませながら言った。


横溝淳弥

……ごめん。
本当にごめんよ……。
でも、僕は何も知らないんだ。
頼まれたんだよ。
桃香ちゃんに近づいて、この家に入れって……。


 天野は横溝の髪の毛を掴んだ。


 横溝が小さな悲鳴をあげる。


天野勇二

ほう……。
盗聴器を持参じさんした上で恋人として家に招かれろ。
そう依頼されたんだな。

横溝淳弥

は、はい……。
そうです……。

天野勇二

誰に頼まれたんだ。

横溝淳弥

詳しくは知りません……。
男の人でした。
お金をくれるって言われたんです。

天野勇二

盗聴器もその男が用意したのか。

横溝淳弥

はい……。


 横溝が震えながら頷く。


 天野はため息を吐きながらメスを横溝の首元に当てた。


天野勇二

依頼したのはどんな男だ。

横溝淳弥

ひ、ひぃっ……!
普通の会社員みたいな人でした……。
それ以上は、よくわかりません……!

天野勇二

盗聴器を持ち込んで何をしろと頼まれた。

横溝淳弥

それ以上のことは何も……。
ただ家にいればいいって、そう言われました……。

天野勇二

それだけだと?
随分と楽な仕事アルバイトだな。
それでいくらもらえるんだ?


 横溝は一瞬、迷うような表情を見せた。


 桃香の顔をチラリと見上げる。


横溝淳弥

……50万円です。
うまく家に入ることができれば、それだけくれるって……。


 天野は深く息を吐いた。


 どこか失望したように横溝を見つめる。


 そして素早く喉元を掴み上げた。


横溝淳弥

ヒィィっ!?
な、なにするんですかぁ!?


 暴れる横溝を組み敷き、シャワーを顔面に押しつける。


 容赦ようしゃなく降ってくる冷水。


 天野は横溝の気道を絞め上げながら言った。


天野勇二

おいクソガキ……。
あまり俺様をナメるな。
手加減ができないと言っただろう?
まさか『殺す』という言葉がただの脅しだと思っていたのか?

哀れなヤツだ。
楽に死ねると思うなよ。
生まれたことを後悔するほどの拷問ごうもんを与えた上で、じわじわとなぶり殺してやる。
まずは右目から失明させてやろう。


 右目にメスを近づける。


 横溝は震えながらそれを見つめた。


横溝淳弥

……えっ?
じょ、冗談ですよね……?

天野勇二

冗談じゃねぇんだよ。
残念だったな。
頭の悪いガキめ。


 天野は横溝の顔面を掴み上げた。


 無理やりまぶたを閉じる。


 そして眉毛の下あたりを軽く斬り裂いた。


 血が垂れて瞳に染み込む。


 横溝は狂ったような悲鳴をあげた。



横溝淳弥

ひぃぎゃああ!
や、やめてぇ!
やめてください!

天野勇二

どうした?
ただの脅しだと思っているのだろう?
ほら、次は左目だ。


 メスが左目に近づく。


 薄く切り裂かれ、こぼれ落ちる鮮血。


 横溝はたまらず叫んだ。



横溝淳弥

すみません!
他にもあります!
男の人から、連絡先をもらいました!
お願いです!
やめてください!



 天野は薄く皮膚を切っているため、この程度の怪我で失明することはない。


 しかし、脅しとしては効果抜群だ。


 両目に血が染みたことによる痛み。


 視界が奪われた絶望。


 横溝はボクサーパンツを濡らしながら叫んでいる。


 天野は冷静に尋ねた。


天野勇二

連絡先はどこにあるんだ?

横溝淳弥

ス、スマホに入ってます……!

天野勇二

桃香よ。
コイツのスマホを持ってこい。
ついでに麻縄かロープも頼む。

天野桃香

うん。
わかったよ。


 桃香が持ってきたロープを取り、横溝の両腕と両足を縛り上げる。


 横溝のスマホを睨みつけながら尋ねた。


天野勇二

『指紋認証ロック』がかかってるじゃねぇか。
ほら、どの指だ?
人差し指かな?

横溝淳弥

い、痛いですぅ!
お願い!
桃香ちゃん助けて!

天野勇二

電話帳を開いてやったぞ。
依頼人の名前を教えろ。

横溝淳弥

あ、青木あおきさん、で登録してます……!
お願いだから助けてください!


 横溝の悲鳴を無視しながらスマホを眺める。


 登録されているのは携帯番号のみ。


 それを桃香に見せながら告げた。


天野勇二

これを母さんに伝えろ。
恐らく飛ばしの番号だと思うが……。
関係者の番号にヒットしないか、調べるように言ってくれ。

天野桃香

オッケー。
すぐ調べてもらう。


 桃香が風呂場を離れる。


 天野は横溝の頭を押さえつけながら尋ねた。


天野勇二

おいクソガキ。
青木ってのはどんな男だ?

横溝淳弥

普通の体型の……。
ただのサラリーマンみたいな人でした……。


 天野は横溝の人差し指を捻り上げた。


 まだ横溝の視界は鮮血で潰されたまま。


 突然指先に走った激痛に驚き、横溝はぎょっとしたような悲鳴をあげた。


横溝淳弥

い、いだだっ!?
何するんですか!?
もう勘弁してくださいよぉ!

天野勇二

よく叫ぶガキだな。
どうせ叫ぶなら、俺様が満足できる情報を告げてくれ。
もう一度だけ尋ねてやる。
青木とはどんな男だ?
俺様を満足させなければ、指を1本ずつへし折ってやるぞ。


 横溝はごくりと生唾を飲み込んだ。


 必死に言葉を吐き出す。


横溝淳弥

え、えっと……。
黒いスーツを着ていて……。
髪の毛は黒で、オールバックで……。
それから、えっと……。

天野勇二

ダメだ。
遅すぎる。
満足できない。


 風呂場に「ペキン」という嫌な音が響いた。


 天野が小指をへし折ったのだ。


 耐え難い激痛が横溝を襲う。


 つんざくような悲鳴が風呂場にこだました。


天野勇二

指は両手両足入れて、あと19本もある。
早く言えよ。
眼鏡はかけていたのか?
歳はいくつぐらいなんだ?


 横溝は泣きながら首を横に振った。


横溝淳弥

かけてなかったです……!
たぶん、30歳前後だと思います!
見た目は本当に普通のサラリーマンって感じでした!
予備校の帰りに声をかけられて、桃香ちゃんに近づいてほしいって、喫茶店で頼まれたんです!
理由を聞いたんですけど教えてもらえなくて……!
こんなことになるなら、協力なんてしなかったですよ!


 天野は感心したように言った。


天野勇二

随分とお喋りになったな。
だが、まだ物足りない。
次は中指にしようか。

横溝淳弥

うわああっ!
ま、待ってください!
まだあります!


 横溝は懸命に言葉を続けた。


横溝淳弥

家に入れって頼まれたのは、ついさっきのことなんです!
妹を誘拐するから、家族の様子を報告しろって、盗聴器を渡されました!
絶対にバレるなって、桃香ちゃんの恋人として状況を報告しろって、いきなりそう言われたんです!

さすがにイヤだって拒否きょひったんですけど、そんなことをすれば僕の家族も誘拐するって脅されて……!
どうしようもなかったんですよぉ!

天野勇二

家族の様子を報告しろ、だと?
手段はなんだ?
メールか?

横溝淳弥

はい……!
SMSショートメールで家の状況を送れって言われました!
必要であれば電話もしろって!

天野勇二

宛先は青木という男だな。

横溝淳弥

そうです!


 天野は桃香にアイコンタクトを送った。


 桃香は頷いて横溝のスマホを取り出した。


天野勇二

SMSを送る時間は決まっているのか?

横溝淳弥

決まってません!
それは任せるって言われました!
でも家族が何かしらの行動に出たら、すぐ報告しろって言われてます!

天野勇二

それは真実だろうな?
もし嘘を吐いているのであれば即座に殺すぞ。

横溝淳弥

ほ、本当です……!
嘘なんか吐いてません!
信じてください!

天野勇二

ふむ……。
まぁいいだろう。

おい桃香、コイツを真似て青木に報告しろ。
今のところ動きはない。
警察に通報することも迷っている。
そのようにSMSを送るんだ。

天野桃香

わかった。
任せて。


 桃香はスマホを操作し、SMSを送信した。


 天野は指を捻りながら横溝に尋ねた。


天野勇二

報酬はいつもらう予定だ?

横溝淳弥

そ、それは……。
全てが終わった後に、連絡するって言われてます。
たぶん、その時じゃないかって……。

天野勇二

『誘拐計画』のことは他に聞いてないか?
一番知りたいのは奴らの拠点アジトだ。
どこに胡桃を連れて行ったのか、見当はつかないのか。


 横溝はブルブルと首を横に振った。


横溝淳弥

わかんないです……。
それ以上のことは、何も教えてくれなくて……。
知っていれば、ここで教えてますよ……!

天野勇二

チッ……。
使えないヤツめ。


 天野は即座に中指をへし折った。


 また風呂場に横溝の悲鳴が巻き上がる。


 横溝は泣きじゃくりながら訴えた。


横溝淳弥

ゆ、ゆるしてください……!
ほんとうなんです!
ほんとうにわからないんですよぉ……!

天野勇二

うるせぇよ。
お前は営利誘拐に加担したんだ。
それがどれだけ卑劣ひれつな行為であるのか理解しているはずだ。
命があることに感謝しろ。


 天野は顔を歪めながら立ち上がった。


 冷水を横溝の顔にぶちまけ、垂れた鮮血を洗い流す。


 ようやく戻ってきた視界。


 横溝は泣きながら折れ曲がった自らの指を見つめた。


横溝淳弥

ひぃぃぃ……。
こんなのひどいよ……。
なんで、こんなことに……。


 横溝の嗚咽おえつを聴きながら、天野は桃香に言った。


天野勇二

あとは好きにしていいぞ。
お前も話しておきたいことがあるだろう。

天野桃香

うん……。
ちい兄、ありがと。


 桃香がゆっくり横溝に近づく。


 横溝は激痛をこらえながら顔を上げた。


 そして、こびを売るような笑みを浮かべた。


横溝淳弥

桃香ちゃん……。
ごめん……。
君を騙してごめん。

でも、信じてほしいんだ。
僕は本当に、君のことをいいなって思ったんだよ……。
だから、助けてよぉ……。

天野桃香

………


 桃香は横溝の左手を掴み、指を3本まとめてへし折った。


 狂ったような横溝の悲鳴があがる。


 桃香は吐き捨てるように言った。



天野桃香

テメェ……。
ナメたことしてくれたな。
大切な妹の誘拐のために近づきやがって……。

私はちい兄ほど甘くないよ。
全ての指をへし折ってやる。
覚悟しな。

横溝淳弥

う、うそでしょ!?
桃香ちゃん、やめ、やめて……!


……ぎゃあああああ!



 風呂場にとどろく横溝の絶叫。


 それと同時に響く鈍い音。


 天野はため息を吐きながら言った。


天野勇二

おい桃香。
念のため注意しておくが、喉を潰すなよ。
場合によっては青木と通話させる必要があるからな。

天野桃香

わかってる。
私はそんなにバカじゃないから。
男を見る目はないけど、そのあたりはうまくやるよ。


 そう言いながら横溝の股間を踏み潰す。


 哀れな横溝の絶叫を聴きながら、天野は風呂場の扉を開けた。


 呆れたように呟く。


天野勇二

まったく……。
血の気の荒い妹め。
誰に似やがったんだ。
将来が心配だよ。





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つばこ

【横溝くんが当初考えてたこと】
 
横溝「まず桃香ちゃんのカレシとして家に上がる……。きっと家族は誘拐事件で混乱してるはずだから、それを励ましたりなだめたりしてみるか。桃香ちゃんはウブな女の子だから泣いちゃうだろうなぁ。慰めてあげないと。場合によっては誘拐犯に身代金を届ける役割を演じてもいいな。なんだかサスペンスドラマみたいでワクワクしてきたぞぅ!」
天野「お前スパイだな(バチコーン」
桃香「覚悟しな(バキボキッ」
 
 
さすがに桃香ちゃんも心が折れちゃうかな、と心配したんですけど、指を折ってましたね。
ちょっと前に「高校はちい兄の『悪評』が知れ渡ってたからね。誰も私と付き合おうとしなかった」とか言ってましたが、たぶん付き合おうとしなかった理由はそれだけじゃないな!(名推理)
 
そんなこんなでいつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(∩´∀`)∩
※誤字修正しました。

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コメント 48件

  • ゆっきー

    いやあ、勇二と桃香ちゃんそっくりだなあ(笑)

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  • ИДЙ

    桃香ちゃんが指折った所から笑いが止まらないwww
    間違いなく勇二似だよwww www

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  • ちょぱ

    桃香ちゃん!!マジか!!!内容吹っ飛ぶ衝撃

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  • ユタ

    『全く誰に似たんだか…』

    間違いなくおめぇだよwwwwww

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  • みーな

    誰かさんにそっくりな桃香ちゃんには涼太がお似合いだよ(笑)

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