深夜2時。



 西園寺祥子さいおんじしょうこは微かな物音を聴いて目を覚ました。



 階下から響いた物音。



 ガラスの割れたような音だ。



西園寺祥子

……瑠璃るりちゃん?



 真っ先に思ったのは「瑠璃が何かを落としたのか」ということ。


 しかし、瑠璃は祥子の隣で丸くなっている。


 薄っすらまぶたを開けているが、まだ夢の中にいるのだろう。


 祥子は身体を起こし、周囲を不安気に眺めた。


西園寺祥子

何かしら……?
物音が聴こえたと思ったんだけど……。


 祥子の寝室は2階にある。


 1階で何かが割れたのだろうか。


 嫌な予感がする。


 祥子はベッド脇の車椅子に乗り、ゆっくり扉に近づいた。




???

……ねぇ、マジで大丈夫?
こんな……やばいって……。

???

うるせぇ……。
下手を踏む………ねぇぞ。




 祥子の心臓が「ドクン」と高鳴った。


 微かに聴こえる男たちの声。


 『泥棒』だ。


 何者かが侵入したのだ。


 男たちは何を盗もうとしているのだろう。


 リビングに立ち寄れば、飾られている裸石ルースの数々を見つけるはず。


 しかし、そこには『赤外線センサー』『振動検知センサー』が待ち受けている。


 宝石に触れた瞬間、大音量の警報が鳴り響き、警備会社に通報する仕組みだ。


 祥子はじっと耳をすませて、その時を待った。



西園寺祥子

…………



 しばらく待ったが、何の物音も聴こえない。


 泥棒はリビングを見逃したのだろうか。


 ……いや、あれだけ目立つ『宝石』を見逃すはずがない。


 そこで初めて祥子の背筋に冷たいものが走った。


 意を決して、寝室の扉を開ける。



西園寺祥子

…………



 廊下に人影は見当たらない。


 まだ泥棒は1階に潜んでいるのだろう。


 脳裏に弁護士である二階堂の言葉がよぎった。




二階堂一成

……いいですか祥子さん。
泥棒に気づいたとしても、声をかけたり、姿を見せたりしてはいけませんよ。
寝室に鍵をかけて閉じこもってください。
顔を合わせれば、命を狙われることもありますからね。




 それでも祥子は廊下を進んだ。


 全身の血が冷えわたり、心臓は嵐のような動機どうきを打っている。


 目的地は書斎しょさい


 夫が生前に使っていた部屋だ。


 震える手で扉を開き、真っ直ぐ本棚へ向かう。


 動かされた形跡けいせきはない。


 まだこの部屋には立ち入っていないのだろう。


 祥子は「ほっ」と胸を撫で下ろし、扉の鍵をかけようとした。



天野勇二

……なるほどね。
そこに隠していたのか。

西園寺祥子

……っ!?



 廊下から男の声が響いた。


 聞き覚えのある声だ。


 昼間、突然やって来た大学生。


 天野がゆらりと闇の中から現れた。


天野勇二

クックックッ……。
どうも祥子さん。
今宵こよいはなかなか月の綺麗な夜だ。

西園寺祥子

あ、天野くん……?
天野くんよね?
どうして、あなたがここに……?


 祥子の全身が恐怖に震えている。


 ショックのあまり卒倒そっとうしてしまいそうだ。


 天野は両手を広げ、軽やかに笑った。


天野勇二

あっはっはっ。
驚かせてすまなかった。
俺たちは『泥棒』ってワケじゃない。
あなたをどうこうするつもりもないんだ。
まずはそんなに怯えないでくれ。


 祥子の震えは止まらない。


 顔色はもう真っ白。


 天野の隣には、どこか軽薄けいはくそうな男が立っている。


佐伯涼太

ねぇ勇二ぃ……。
そんなこと言われても無理だって。
どう考えても僕ら怖いよ。
だからやめようって言ったのに。


 もう1人の男、涼太が呆れたように言った。


天野勇二

だが、これが一番手っ取り早かったのさ。
なぁ祥子さん。
俺はどうしても、

『本物の宝石の

が知りたかったんだ。
この部屋の『本棚』に隠してあるんだな。
どんな仕掛けなのか知らないが、本棚の奥に『金庫』が隠されているのだろう。
脱税を好む金持ちがよく使う手だ。


 偉そうに本棚を睨みつける。


 指先をパチリと鳴らし、楽しげに言葉を続けた。


天野勇二

やはりリビングなどに飾られている宝石は、全てまがい物イミテーションだったんだな。
中には本物の『宝石』があるのかもしれないが、どうせ大した価値はない。
あなたは偽りの輝きで自らを照らしていた、というワケだ。


 祥子が苦しげに天野を見上げる。


 まだ天野を恐れているのか。


 それともイミテーションを見破られたことを恥じているのか。


 恐らく両方だろう。


天野勇二

そもそも、あなたの提案には『違和感』があった。
見ず知らずの男女に『宝石』を恵んでやるなんて、あまりに話がうますぎる。
何か裏があるのだろうと踏んでいたよ。


 天野は楽しげに言葉を続けた。


天野勇二

何せあなたは『裸石ルース』を飾るほどの宝石愛好家。
亡き亭主のコレクションだったとしても、あなたが執着しているのは事実だ。
しかも二階堂の態度を見る限り、この家には膨大な資産が存在することも想定できた。
ならばなぜ、あなたはあっさり宝石を恵んでやったのか?


 人差し指を立てて。


 天野は軽く首を横に振った。


天野勇二

その疑問はひとつの可能性にたどり着く。
俺たちが猫から受け取った宝石は二束三文にそくさんもんの価値しかない』という可能性だ。

それが意味することはなんだ?
単純に考えればひとつしかない。
あなたが猫に遊ばせていた宝石は『本物ではなかった』ということさ。


 悪い笑みを浮かべながら階下を指さす。


天野勇二

それは『部屋に飾っている宝石自体がイミテーションである』という可能性にも等しい。
ならば、本物の宝石はどこにあるのか?
それはさすがに見当もつかない。
だからこそ、あなたに案内してもらったんだ。


 天野は『本棚』を指さした。


 祥子が持つ本物の宝石。


 それが隠されている場所だ。


天野勇二

『泥棒に入られた』という緊急事態。
おまけにリビングの裸石イミテーションをスルー。

この状況になれば、きっと本物の宝石の所在を確認するだろうと考えたよ。
そして、あなたは俺の思惑通りに動いた。
これだけで俺様の『推理』が正しかったと証明されたのさ。


 祥子はぐったりと肩を落とした。


 まだ動機どうきが激しいのだろう。


 苦しげに胸元で手を合わせている。


 振り絞るように言葉を吐き出した。


西園寺祥子

天野くん……。
あなたは何が欲しいの?
私のことも殺すつもり?
お金なら、いくらでも差し上げるから……。

天野勇二

ああ、違うんだ。
誤解しないでくれ。
あなたから『宝石』や『金』を奪うつもりはない。
むしろ渡さなければならないのは俺のほうだ。


 天野は懐から封筒を取り出した。


 中には万札の束が入っている。


天野勇二

キッチンの窓を割ってしまった。
弁償させてくれ。
すまなかったな。

西園寺祥子

……えっ?
ま、窓?

天野勇二

そうだ。
リビングに防犯機器を設置するだけでは不十分だ。
また泥棒に入られちまう。
二階堂と相談すべきだな。

西園寺祥子

ど、どうして、そんなことを……?
天野くんこそが『泥棒』でしょう……?

天野勇二

だから俺は『泥棒』じゃないんだ。
俺の目的は自らの『推理』を証明すること。
そして、あなたに忠告してやるためさ。

西園寺祥子

忠告……?
どういう意味なの……?


 天野は薄い笑みを浮かべながら祥子に近づいた。


 耳元でそっとささやく。



天野勇二

あなたは厄介な人間に狙われている。
相手は『殺人犯』かもしれない。
このままだと殺されかねないのさ。





 その日の午後。


 祥子はぼんやりと庭にたたずんでいた。


 小暮が入れてくれた紅茶を飲みながら過ごす、穏やかな午後の時間だ。



モリアーティ

……ニャー。



 庭にモリアーティがやって来た。


 真ん丸のくりくりした瞳で祥子を見上げている。


西園寺祥子

瑠璃ちゃん……。
お帰りなさい。
私ね、すごく怖い思いをしたのよ。

モリアーティ

…………

西園寺祥子

どうして、天野くんに宝石を差し上げたの?
何か私に、訴えたいことでもあったの……?

モリアーティ

……ニャー。


 モリアーティはひと鳴きすると、軽やかに祥子の膝に飛び乗った。


 そこが彼女の特等席なのだ。


 丸くなるモリアーティの喉元を撫でていると、


小暮達也

……奥様。
天野さんと柊さんがいらっしゃいました。


 庭に天野と千紗がやって来た。


 約12時間ぶりの再会。


 天野は丁寧に頭を下げた。


天野勇二

祥子さん。
昨日は申し訳ございませんでした。
再度のご訪問を許していただき、本当にありがとうございます。


 祥子は呆れながらその姿を眺めた。


 昨晩は威圧感を放つ『泥棒』だったのに。


 今はその気配を完全に引っ込めている。


西園寺祥子

……いいのよ。
こちらにいらっしゃい。
ちょうど瑠璃ちゃんも来ているわ。

天野勇二

ええ、そうしましょう。
柊さん。
君はリビングに残ってくれ。
祥子さんと2人で話したいんだ。

柊千紗

……えっ?


 千紗は驚いて天野を見上げた。


 つい先ほど、「今から祥子さんの家に行く。君も一緒に来てほしい」と頼まれたのに。


柊千紗

ちょ、ちょっと待ってください。
なぜですか?
私も祥子さんとお話しさせてください。

天野勇二

すまないな。
先に2人で話しておきたいことがあるのさ。
君は小暮くんと話していればいい。
それも悪くないだろう?

柊千紗

はぁ……?
なんで、そんないじわるなこと言うんですか?
それじゃまるで……。


 「自分と小暮をくっつけようとしているみたいだ」という言葉を飲み込む。


 天野は爽やかに微笑んだ。


天野勇二

妙な誤解をするなよ。
本当に2人で話したいだけなんだ。
それが終われば君も呼ぶ。
頼まれてくれるかな。

柊千紗

……もう。
わかりましたよ……。


 千紗が頬を膨らませながら肩を落とす。


 天野はそれを確かめ、祥子のもとへ向かった。


 膝の上でくつろいでいるモリアーティを眺める。


モリアーティ

…………


 モリアーティは軽く天野を一瞥いちべつしたが、まるで興味がないかのようにまぶたを閉じた。


 今は昼寝を満喫したいのだろう。


 天野は深く頭を下げて言った。


天野勇二

昨晩はすみませんでした。
驚かせてしまいましたね。
手荒な真似をしたこと、深くお詫びさせてください。

西園寺祥子

何を言ってるのよ。
もう猫をかぶるのはおよしなさい。
昨晩の姿こそが、本当の天野くんなのでしょう?

天野勇二

……フフッ。
そうだな。


 天野は気障キザったらしい笑みを浮かべた。


 いつもの『クソ野郎口調』で語りかける。


天野勇二

だが、悪いと思っているのは真実さ。
心から謝罪するよ。
驚かせてすまなかった。

西園寺祥子

本当に困った子ね。
寿命が縮んだわよ。
昨晩は天野くんに殺されるかと思ったわ。

天野勇二

あなたは相当な頑固者がんこものだからな。
『イミテーション』の証拠を突きつけても認めることはなかっただろう。
あれぐらいの荒療治あらりょうじが最適と踏んだのさ。


 天野はしれっと言い放った。


 その顔には欠片かけらほどの罪悪感も浮かんでいない。


 清々すがすがしいほどのクソ野郎。


 祥子は苦笑しながら言った。


西園寺祥子

とんでもない男の子ね……。
私が警察に通報したらどうするつもりだったの?

天野勇二

もちろんその懸念けねんはあった。
だが、通報は避けるだろうと想定していたよ。
あなたは『イミテーション』の事実を隠すことを優先する。
金庫の中には、国税庁に伝えていない資産が隠されている可能性も高いしな。


 祥子は苦しげに頷いた。


西園寺祥子

……そうね。
イミテーションのことは知られたくない。
あまり良い趣味とはいえないから。
天野くんも内緒にしてくれると嬉しいわ。
千紗さんにも、昨晩のことは言ってないのでしょう?

天野勇二

ああ、何も伝えていない。
むしろ弁護士の二階堂にも伝えていないようだな。
理由でもあるのか?


 祥子は軽く息を吐いた。


 膝の上のモリアーティを優しく撫でる。


西園寺祥子

……イミテーションの裸石ルースはね、元々、夫が飾っていたものだったの。
見栄っ張りだけど小心者の人でね。
宝石を飾って自慢したいけど、本物を人前に晒すのは抵抗があったみたい。
ずっと二階堂さんにはイミテーションを本物だと言い張っていたのよ。

天野勇二

そうか……。
二階堂は『御主人』を敬拝けいはいしている。
真実を伝えれば傷つくと考えたのか。

西園寺祥子

その通りよ。
別に騙すつもりじゃなかったの。
だけど、言い出すタイミングを逃してしまってね。

天野勇二

それでも俺たちまで騙す必要はあるまい。
猫が運んできた宝石はただの安物。
売ったとしても金にならない。
そのように告げれば十分だったはずだぜ。

西園寺祥子

ええ、そうね……。
本当にその通りだわ。


 祥子は重いため息を吐いた。


西園寺祥子

正直に言うわ。
私はね、寂しかったのよ。

子供や親族はいない。
家を訪ねてくれる友達も少ない。
足を悪くしてしまい、自由に外出することもできない。
ずっと独りぼっちだった……。

だからこそ、天野くんたちと出会った時、しばらく遊びに来てくれる『お友達』ができるかもしれないと考えたの。


 祥子は寂しげに微笑んだ。


 どこか切なげに天野を見上げる。


西園寺祥子

私もね、天野くんと話した時、この子はかなりの頑固者がんこものだろうと感じたのよ。

宝石の返却が拒否されても、それで諦めるような子じゃない。
きっと日を改めて返しに来てくれる。
そうなればまたお喋りできる。
あれだけ礼儀正しい男の子と『お友達』になれるなら、偽物の宝石なんて安いもの。
いつか本物の『宝石』だってプレゼントしたいって、そう考えていたわ。

そんな小狡こずるいことを考えてしまうほど、私は寂しかったのよ……。


 遠い目で庭を眺める。


 手入れのよく行き届いた庭だ。


西園寺祥子

誰も訪れる予定はないのに、庭を手入れさせて、部屋に宝石を飾って、お茶菓子も用意して……。

もしかしたら、瑠璃ちゃんはそんな私を哀れに思ったのかもしれないわ。
だから天野くんに『宝石』を運んだの。
これで飼い主のお友達になってね、って。
そう思わない?


 天野は苦笑しながら首を横に振った。


天野勇二

俺の考えは違うな。
猫はそこまで気のいた生物じゃない。
それにあなたは若いんだ。
孤独な老婆を気取るには早すぎるぜ。

西園寺祥子

またそんなこと言って……。
お世辞でも嬉しいけど。

天野勇二

二階堂や小暮とは庭で過ごさないのか?
あなたのことを気にかけているように見えるぜ。

西園寺祥子

ええ、2人とも優しい人よ。
でもダメなの。
どうしても私に気を使ってしまい、お友達のような関係にはなれないのよ。


 祥子はすがるように天野を見上げた。


 弱々しく言葉を吐き出す。


西園寺祥子

天野くん……。
あなたは乱暴で口も悪いけど、性根は真っ直ぐな男の子ね。
千紗さんも優しくて素敵な女性。
このまま2人とお別れしたくない。

改めてお願いするわ。
私の『お友達』になってくれないかしら?


 天野は半眼で祥子を見つめた。


 祥子は言い訳するかのように言葉を続けた。


西園寺祥子

もちろん報酬はお渡しする。
イミテーションじゃなく、本物の『宝石』をプレゼントさせてちょうだい。
時々でいいから一緒にお茶を飲みましょうよ。

もし天野くんが望むなら、家に来てくれる度に『お手当』を出しても構わないわ。
きっと良いお小遣いになるはず。
千紗さんが同意するように説得してくれないかしら?


 天野はじっと祥子を見つめた。


 垣間見かいまみえる老婆の孤独。


 今の祥子は大切に保管していた宝石よりも、一緒に過ごす『お友達』渇望かつぼうしている。


 それが心の隙間すきまを埋めることになるのだろう。


 天野は軽く息を吐いて言った。



天野勇二

祥子さん……。
そうやって『金』『宝石』をチラつかせるのは、あなたの悪い癖だ。
目の前に宝石をぶら下げても人は操れない。
それが『本物』でも『まがい物』でも同じことさ。
そんなことを考えるべきじゃないね。



 祥子は切なげに天野を見上げた。


 自らを見つめる鋭い瞳。


 それは決して険しいものではない。


 しかし、全てを見透みすかしてしまうような輝きを放っている。


 まるで自らの浅はかな考えが丸裸にされているように、祥子は感じた。



西園寺祥子

……そうね。
その通りだわ。
私は昨日も今日も、天野くんを『宝石』で釣ろうとしたのね。



 祥子が呟いた時。


 ふいにモリアーティが顔を上げた。


 じっと祥子の顔を見つめる。


 祥子は目元を拭いながら尋ねた。


西園寺祥子

……うん?
どうしたの?
何か言いたいの?

モリアーティ

…………


 モリアーティは黙って立ち上がった。


 そして、祥子の指先に額を押しつけた。


 何度も、何度も。


 自らの存在を主張するように。


 やがてその指先をぺろりと舐めた。


西園寺祥子

瑠璃ちゃん……。
どうしたのよ。
急に甘えてきて……。
おかしな子ね……。


 しばしの間。


 祥子は黙ってモリアーティを撫で続けた。


 しばらくして、モリアーティは何かに満足したのだろう。


 まぶたを閉じて、また祥子の膝の上で丸くなる。


 天野はその姿を眺めながら言った。


天野勇二

よく懐いている猫だ。
俺はコイツのこんな顔を見たことがない。
きっとあなたに心を許しているのだろう。


 祥子は小さく頷いた。


 何度も目元を拭いながら、モリアーティの鼻筋を撫でる。


西園寺祥子

本当ね……。
瑠璃ちゃんに出会うまで、猫がこんなに可愛いなんて知らなかった。
不思議よね。
人間の気持ちなんかわかるはずがないのに……。


 祥子は大きく息を吐いた。


 軽く微笑んで。


 どこか晴れ晴れとした表情で天野を見上げた。


西園寺祥子

……ねぇ天野くん。
私、もっと瑠璃ちゃんを大切にしてあげたい。
もっと瑠璃ちゃんが快適に過ごせる環境を整えてあげたいの。
何かいい方法を知らないかしら?


 天野は偉そうに頷いた。


天野勇二

そりゃ色々あるぜ。
瑠璃のおもちゃを買い揃えるとか。
瑠璃の遊び場を作ってやるとか。
いっそのこと『イミテーション』の『裸石ルース』を外して、『キャットウォーク』でも設置すればいいじゃないか。


 祥子は子供のように目を輝かせた。


西園寺祥子

キャットウォーク……!
それってあれよね?
壁に瑠璃ちゃんが飛び乗れる段差を設置したりするのよね?

天野勇二

そうだ。
きっと瑠璃も喜ぶだろう。
他にも新しい『お友達』を迎えるという手段もある。
瑠璃は散歩を好むからな。
多頭飼たとうがいもひとつの手段かもしれないぜ。

西園寺祥子

新しい猫ちゃんを迎えるのね。
私の歳でも大丈夫かしら?

天野勇二

当然だよ。
何度も言っているが、あなたは老け込むような年じゃないんだ。
金で友人を買おうなんて似合わないね。

好きなことをすればいいさ。
宝石を着飾ることも。
まともな『お友達』を探すことも。
そして大切な瑠璃のために、これまでの環境を入れ替えることもな。

西園寺祥子

ふふっ……。
そうよね。
そうだったのね……。


 祥子は嬉しそうにモリアーティを撫でている。


 天野は薄い笑みを浮かべながらリビングを眺めた。








 イミテーションで彩られた部屋の中。


 小暮が顔を真っ赤にさせながら千紗に語りかけている。


 千紗も最初は警戒していたが、小暮の一生懸命な姿に心を許し始めたのか。


 柔らかな微笑みを浮かべている。


 天野は呆れたように呟いた。



天野勇二

クックックッ……。
まったく熱心なものだ。
人間の『発情期』ってやつは、季節を選ぶことがないんだな。






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つばこ

【番外編】深夜2時の涼太くん
 
涼太「こんな時間に呼び出されて「見張りしろ」って言われたけど、これなんのバイトなんだろ? 宝石っていくらなのかなぁ。最近はコロナ禍でバイトも見つかりにくいから助かるなぁ」
天野「(おもむろに窓をバリーン)」
涼太「ぎゃあ!? なにしてんのよ!? 不法侵入するつもり!?」
天野「どう見てもそう思うよな。ところがそうなんだ。行くぞ」
涼太「はああっ!? ダメだってば! 捕まるよ! 通報されちゃうって!」
天野「問題ない。キッチンに防犯装置がないのは確認済みだ」
涼太「いやいやいや! そういう問題じゃないって! イヤだよ泥棒なんて! 待ってよ勇二ぃー!」
 
(おしまい)
 
完全にパシリとして使われている涼太が輝く日は来るのか!?
そんなこんなで『恩返し編』もクライマックス突入!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!ヾ(*´∀`*)ノ

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コメント 14件

  • お雑煮

    恋の始まりかな?という2人に「発情期」呼ばわりは口が悪いな…とか思ってしまったけど、そもそも天野くんからそういうクソ野郎要素を抜いたらただのイケメンになってしまうだけだから、逆にこのままでいいなw

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  • LAMP

    一件落着みたいな雰囲気出たけどそうか!まだ殺人犯のことが片付いてないのか...

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  • ゆき

    動悸漢字間違えとらんか?

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  • ニル

    イミテーションなのに本物じゃないと見破れない辺り普通にウン万円しそう

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  • はるちゃん

    つばこさんコメントの番外編ありがたや…!
    涼太の慌てぶりが想像できます。笑

    祥子さんがお金や宝石でお友達を作ろうとしていること、天野くんが見抜いてそのやり方は違うと言って、他のやり方を提案してくれるの、いいなと思いました。

    私ならそのままお友達になっちゃうかもと思ったので。勿論お金や宝石は断りますが…祥子さんは断っても渡してくるもんな。さすが天野くん。
    誰に狙われているのかはさっぱりわかりませんが次回も楽しみです!

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