部長

藤原は他部署に異動してもらった。
もう『ふるのう』には戻ることはない。
そういうことなんだよ。



 二宮は驚いて部長と樹を見つめた。



二宮翔太

ふ、藤原さんが……異動!?
な、なんでですか!?
藤原さんがそう希望したんですか!?

部長

いや、本人が希望した訳じゃない。
異動の理由は……。



 部長はチラリと樹を見つめた。


 樹が小さく頷く。



樹莉乃

私から説明します。
ここは任せてください。

部長

そうだな……。
わかってると思うが、あまり公言しないようにな。



 ひとつ口止めして、部長は会議室を後にした。


 残された樹を二宮が見つめる。


 樹は至極当たり前のように言った。



樹莉乃

ねぇ二宮ニノ……。
説明しなくてもわかるでしょ?
『パワハラ』『セクハラ』だよ。
もうさすがにね、私も我慢の限界だったの。


 「ふぅ…」と小さく息を吐く。


樹莉乃

そうは言っても、トドメを刺したのは『みかんの王子様』だけどさ。
いやあの人……。
相当とんでもないよ。
よくあんな人の信頼を勝ち取ったね。

二宮翔太

あ、天野さんが……?
天野さんが、何かしたんですか?

樹莉乃

天野さんは二宮ニノ『企画担当』に戻すよう、藤原さんと交渉してたの。
それがうまくいかなかったみたいでさ。
藤原さんを飛び越えて、うちの『社長』まで話を通しちゃったのよ。

二宮翔太

えぇっ!?
しゃ、社長に!?



 二宮は仰天した。


 『ふるのう』を運営しているのは『株式会社ファイバーエージェンシー』という一流企業だ。


 広告代理店の規模でいえば、業界でも3本の指に入る。


 社長の顔なんて内定式でしか見たことがない。


 二宮にとっては『神』のような存在だ。



二宮翔太

ど、どうして、そんなことができたんですか!?


 樹はげんなりした表情で言った。


樹莉乃

それがさぁ……。
どんな手段を使ったのかわからないのよ。
突然、社長から

藤原さんと『みかんの王子様』の件を何とかしろ。

……って通達されてさ。
あの王子様、どんなコネクションを持ってるんだろう……。
ミステリアスにも程があるっての。


 ため息を吐きながら言葉を続ける。


樹莉乃

社長直々じきじきに動かれたら、私も部長も大人しく従うしかないよ。
だけど『パワハラ』は事実だったし、『セクハラ』まがいのこともしてたからね。
いい機会だと思って『ふるのう』から異動してもらったの。

山下佐介

まじッスか……。
そんなことになってたんですか……。


 山下が呆然と呟く。


 二宮は青ざめながら尋ねた。


二宮翔太

そ、それじゃ……。
もしかして、僕のせいですか?
僕に対する『パワハラ』が問題だった……。
そういうことですよね!?

樹莉乃

うーん……。
言いにくいけど、そうだね。

二宮翔太

だけど、僕は復帰しましたよ!
藤原さんの前に立つ覚悟もあります!
それに階段からは本当に足を滑らせて落ちただけなんです!
僕のせいで、藤原さんが飛ばされるなんて……!


 樹は冷静に二宮を見つめた。


 冷めた表情だ。


 怒っているようにも見える。


樹莉乃

あのさぁ……。
二宮ニノ、正直に言うよ。
みんなわかってたじゃない。
『度が過ぎてた』って。

二宮ニノは聞き分けがいいから、あの手のタイプはやりやすかったんだよ。
何を言っても素直に聞いてくれるから。
だけどね……。


 思いのたけをぶちまけるように言葉を続ける。


樹莉乃

私はずっと腹が立ってたの。
藤原さんはもちろんのこと、状況を変えられなかった自分自身にも。

あんたは優秀だし、成長する伸び代もある。
だからこそ、あれが『スタンダード』なんて思ってほしくなかった。
あれが『正しい上司』だなんて、考えてほしくなかったの。


 疲れたように息を吐く。


 顔をしかめながら言葉をつむいだ。


樹莉乃

だから天野さんの『作戦』にも協力して、藤原さんを『ふるのう』から追い出したよ。
藤原さんには恨まれるかもしれないけど、そんなのどうだっていい。
あんたが何を言っても、この結果が間違ってるとは思わないから。


 二宮は生唾を飲み込みながら樹を見つめた。


 樹も藤原に対して『思うところ』があったのだ。


 多くを語らないが、きっと『セクハラ』という言葉に、何かが隠されているのだろう。


 それでも、直接的な原因は自分にある。


 二宮は立ち上がって言った。


二宮翔太

ぼ、僕は、藤原さんに会いたいです……。
藤原さんに謝らないと……。
僕が迷惑をかけたのは、本当のことなんですから……!


 樹が呆れたように二宮を眺める。


 隣の山下が慌てたように言った。


山下佐介

いや、謝る必要はないだろ……。
これは自業自得だよ。
むしろ天野さんに感謝すべきじゃないか?


 二宮は驚いて山下を見つめた。


二宮翔太

天野さんに感謝すべきって……。
もしかして、山下も知ってたのか?
天野さんが影で動いてたって……。

山下佐介

ああ……。
まぁな……。
色々と相談されてさ……。

二宮翔太

それじゃ、天野さんが生産者さんからの『手紙』を持ってきたのは……。
山下と樹さんが……?


 樹と山下が困ったように二宮を見る。


 2人とも黙ったままだ。


 沈黙が肯定を運んでくる。


 二宮は青ざめながら言った。


二宮翔太

そんな……。
そんなの、卑怯じゃないですか……。
そりゃ、僕にとっては好ましい状況ですけど……。

藤原さんには、お世話になったこともあるんです。
口調は酷かったと思いますけど、きっと僕のために、言ってくれたこともあるって……。

樹莉乃

はぁ……。
ねぇ二宮ニノ
お人好しも大概たいがいにしてよ。


 樹が嫌そうに顔を歪める。


 半眼で二宮を見上げ、諭すように告げた。


樹莉乃

あんたの気持ちも少しはわかるよ。
でもさ、これが『社会』なの。
それにね、藤原さんは二宮ニノのことを何も考えてなかった。
私からはそうとしか見えなかったよ。


 二宮はぐっと黙り込んだ。


 『視点』の違いだ。


 樹の『視点』から見た藤原は、「『ハラスメント』で追放されても仕方のない上司だった」ということなのだろう。


二宮翔太

……だけど……。
僕は藤原さんと話したいんです……。
今回のことも謝らないと……。

樹莉乃

何を話して謝るの?
そんなこと藤原さんも望んでない。
これでいいんだよ。

私たちは新体制で『ふるのう』を成長させる。
藤原さんは反省して他部署でやり直す。

もう藤原さんとは会わないように。
わかったね?



 二宮は黙り込んだまま、静かに頷いた。


 樹は信頼できる先輩だ。


 きっとその判断が正しいのだろう。


 それに自分は何を藤原と話したいのか。


 何を謝りたいと願っているのか。


 それがよくわからない。



二宮翔太

(もう、藤原さんと一緒に、仕事をすることはない……。藤原さんの顔色を伺う必要もないんだ……)



 いつも顔を見るのが辛かった。


 どんな叱責しっせきを受けるのか、怖くてたまらなかった。


 怒られるのに怯えながら仕事をこなしていた日々。


 それが帰ってきてほしいとは思わない。


 これは待ち望んでいた展開のはずだ。


 それなのに、なぜ、自分は藤原と話したいと望んでしまうのだろう。


 何度も心の中で自問自答しても、答えは見つかりそうになかった。





 それからしばらくの間。


 二宮は『ふるのう』の一員として、仕事に追われる日々を過ごした。


 藤原の抜けた穴はそれなりに大きかったが、元々自らの仕事を二宮に丸投げしていたような上司だ。


 二宮の負担が変わることはない。


 それに『新プロデューサー』の樹は働き者で優秀。


 『新体制』の船出は順風満帆じゅんぷうまんぱん


 やがて、待ち望んでいた『みかんの王子様』との再会も果たすことができた。



天野勇二

やぁ二宮。
久しぶりだな。
こうして『実食会』の日を迎えること。
実に嬉しく思うよ。



 会議室で開催された『みかんの実食会』


 二宮は深々と頭を下げて言った。


二宮翔太

はい……。
天野さんにはご迷惑をかけてばかりで……。
その節は本当にありがとうございました。

天野勇二

そんなこと気にするな。
今日はみかんを腐らせなかっただろうな?

二宮翔太

もちろんです!
前回よりみかんのラインナップも増やしてみたんです。

静岡しずおか『ニューサマーオレンジ』沼津ぬまづ『寿太郎みかん』
大分おおいたからは『パール柑』天草あまくさから実娘みこまで。

それに越智おち柑橘農園』べにまどんな』も取り寄せたんです。


 二宮の声に合わせて、部長と樹が『高級みかん』をテーブルに並べる。


 会議室に広がる爽やかな柑橘の香り。


 天野は満足気に頷いた。


天野勇二

クックックッ……。
二宮よ、マーベラスだ。
素晴らしい光景じゃないか。
かなり金がかかっただろう?

部長

いえいえ……。
天野さんに食べていただくためですから……。
これでも少ないくらいですよ。


 部長が揉み手をしながら語りかける。


 ちなみにこの時、会議室には数人の重役連中が揃っていた。


 他部署の幹部クラスが3人。


 人事の本部長まで出席している。


 『ふるのう』には関係のない人間ばかりだ。


二宮翔太

どれから食べますか?
写真撮影は終わってますので、天野さんの好きなものから召し上がってください。

天野勇二

どれも素晴らしい品だが……。
やはり『越智』『紅まどんな』かな。


 天野は迷わず『越智柑橘農園』のみかんを手にとった。


天野勇二

ほう……。
これが『越智』『紅まどんな』か。
さすがの俺様も初めて見る。

噂には聞いていたが、標準の倍の大きさがあるんだな。
少しでも力をこめれば潰れそうなほどに柔らかい。
なんと繊細な果実だ。
この輝きと弾力と香り……。
もはや芸術だな。


 そんなコメントを山下が素早くメモに取る。


 天野はナイフで軽く皮を削り、器用に剥き始めた。


二宮翔太

おおっ……。
お上手ですね。
輪切りにしてスプーンですくったほうが食べやすいかもしれませんよ。

天野勇二

それも悪くないんだがな。
一度、自らの指先でオペしてみたいのさ。
……うん、本当に素晴らしい香りだ。
よく手に入ったな。

二宮翔太

無理を言って分けてもらったんです。
国の偉い人に献上する予定だったみたいですよ。
『ふるのう』でも3組にしか提供できないですね。

天野勇二

それでも大したものだ。
これだけの希少なみかん。
手に入るならいくら出しても惜しくない。


 瞳を細めながら『紅まどんな』を見つめる。


 ゼリーのようなプルプルの果肉。


 太陽の輝きを無理やり薄皮に閉じ込めたかのようだ。


 天野はそれを頬張り、至福の笑みを浮かべた。


天野勇二

これは……!
なんという美味さだ……!

果肉の一粒一粒に甘みが凝縮されている。
それでいてみずみずしい。
後味も爽やか。
飲み込めばまろやかな香りが身体中に広がるようだ。
これほどのみかんは食べたことがないな。


 会議室にいた面々が感嘆かんたんの声を漏らした。


 なんて美味しそうにみかんを食べるイケメンなのだろう。


二宮翔太

(ああ……。良かった。これなら企画は成功する。やっぱり天野さんにお願いして正解だったな……)


 次々にみかんを頬張る天野を見ながら、二宮は「ほっ」と胸を撫で下ろしていた。





 『みかんの実食会』は2時間ほどで終了。


 最終的には集まった社員たちで、全ての『みかん』を食べ尽くすことになった。



部長

いや、みかんって美味しいですね。
『高級みかん』といっても、そこまで差がないと思っていたんですが……。
認識を改める必要がありそうです。

天野勇二

そうだろう?
どうせなら社長にもくれてやるといい。
きっと喜ぶぜ。



 そんな天野の言葉に、部長連中の背筋が伸びたりしていたが、大満足の『実食会』となった。


 これだけの『食レポ』があればコンテンツとしては十分。


 二宮は確かな手応えを感じながら、天野をロビーまで見送った。


二宮翔太

本日はありがとうございました。
実食会はあと3回ほど実施します。
予定が決まったらご連絡しますね。

天野勇二

ああ、楽しみにしているよ。
その後はどうだ?
上司が樹に変わったらしいが……。
うまくやっているのか?


 どこか楽しげに樹を眺める。


 樹は慌てたように頭を下げると、


樹莉乃

え、ええ!
もう新体制でバッチリやってます!
じゃあ、二宮ニノ
私と山下は先に戻ってるね。
天野さんをお見送りして差し上げて。

山下佐介

……あれ?
いいんスか?
樹さん、何か天野さんと相談したいって……。

樹莉乃

よ、余計なこと言うな!
ほら、行くよ!


 頬を染めながら、逃げるように天野の前から立ち去る。


 なぜ先に戻るのだろう。


 一緒に天野を見送ればいいのに。


 二宮は小首を傾げながら天野に頭を下げた。


二宮翔太

天野さん……。
樹さんから、ある程度のことは聞きました。
僕が『ふるのう』に戻れるよう、藤原さんに掛け合ってくれたんですね。

天野勇二

別に大したことはしていない。
ただ、お前が『企画に適任だ』と、伝えただけだよ。

二宮翔太

いやぁ……。
大したことだと思いますよ……。

社長に話を通したんですよね?
お知り合いだったんですか?
部長たちが『実食会』に参加したのも、きっとそのせいですよ。

天野勇二

ああ、そうなのか。
邪魔な人間が多かったな。
俺はてっきり『みかん』に釣られたんだと思ったぜ。


 天野は軽く話題を逸らした。


 どうやって社長に話を通したのか。


 それは聞いてくれるな、ということなのだろう。


天野勇二

その後、藤原はどうしてる?
アイツがどのように異動したのか。
俺も詳しくは知らないんだ。

二宮翔太

それは……。
僕も聞かされてません。
藤原さんには会うなと、キツく言われているんです。
僕が異動先を知ると、会いに行ってしまいますから……。

天野勇二

ほう?
お前は藤原に会いたいのか。
変わったヤツだな。


 二宮は軽く微笑んだ。


 変わったヤツ。


 天野の『視点』から見れば、そのように見えるということなのだろう。


二宮翔太

そうみたいですね……。
藤原さんが異動して日が経つのに、今も「会って謝らなければいけない」って、そう考えてるんです……。


 呟きながらビルの外に出る。


 かつて深夜、天野と会話を交わした渋谷しぶや東口の陸橋りっきょう


 今日はたくさんの人々が行きっている。



二宮翔太

自分でもよくわからないんですよ。
僕は藤原さんと、何を話したいのか。
何を謝りたいのか……。



 未だにその答えは見つからない。


 樹や山下は藤原の存在なんて、忘れたように過ごしているのに。


 自分は『藤原という亡霊』に怯えているかのようだ。


 天野に尋ねれば、この疑問が解消されるだろうか。


 そんなことを思いながら口を開く。



二宮翔太

冷静に考えると、藤原さんは本当にキツい上司でした。
でも、お世話になったこともあると思うんです。
だって、藤原さんは『正しいこと』を言ってましたから。
使えない社員だった僕のために、色々と指導してくれたんですから……。



 語りながら心の中で問いかける。


 だから、会いたいのだろうか。


 お世話になったから、謝りたいと考えているのだろうか。


 そんな単純な理由ではないような気がする。


 それだけなら、長く引きずることもないような気がする。


 自分が求めているのは、もっと違う何かではないのか。


 しかし、それが見つからない。



天野勇二

『正しい』ことか……。
まぁ、お前がそう考えるのも、自然なことなのだろう。


 天野は軽く笑った。


 唇を歪めながら二宮の顔を眺める。


天野勇二

だがな二宮……。
俺はその『正しい』という概念が嫌いなんだ。
俺の本性ほんしょうにはそぐわない。
心の底からそう思うね。

二宮翔太

えっ……?
ど、どういうことですか?

天野勇二

『正しさ』だとか。
『正論』だとか。
『正義』だとか。
そんなものは『クソくらえ』だってことだよ。


 天野はヘラヘラと嫌な笑みを浮かべた。


 気障キザったらしく指先をひるがえし、二宮の胸元に突きつける。


天野勇二

お前はどうだ?
『正しい』という概念が、最も大切なことだと思うか?

二宮翔太

そ、そりゃ……。
まぁ、思いますけど……。

天野勇二

本当にそう考えているのか?
お前だって近い将来、若手の部下を指導する立場になる。
そうなった時、『正しさ』だけを振りかざす上司になりたいと思うのか?
つまりは『藤原と同じような上司』になりたいと、本気で考えているのか?


 二宮は「ぎょっ」として天野を見上げた。


 慌てて首を横に振る。


二宮翔太

お、思いませんよ……!
思うワケないじゃないですか!
あんな上司になりたくありません!


 天野は偉そうに頷いた。


天野勇二

そうだろう?
誰かを指導するなら尚の事さ。
相手のことを思うなら、『正しい』だけの『言葉』なんか飛び出すはずがないからな。

二宮翔太

正しいだけの、言葉……?

天野勇二

そうだ。
『言葉』
ってのは恐ろしいほど強い。
『拳』
と同じなんだ。
無闇に振り回せば、命なんて簡単に奪うことができる。


 天野は拳を握った。


 二宮の胸元に突きつける。


天野勇二

大切なのは『正しさ』じゃない。
『心』
だよ。
それが『言葉』を制御するんだ。

どれだけお偉い人間だったとしても、何を言っても許されるワケじゃねぇのさ。
例えばお前は藤原に、

『その辺の窓から勝手に飛び降りろ』
『死んでもらった方がマシ』


そんな言葉を投げられたそうだな。


 二宮は驚いて天野を見上げた。


 どうしてこの男は社内事情に詳しいのだろう。


 誰かが告げ口しているのだろうか。


二宮翔太

よくご存知ですね……。
確かに、そう言われました……。

天野勇二

そんな『言葉』が許されてたまるかよ。
自らの立場を利用し、『正しさ』という免罪符めんざいふを握りしめ、乱暴な『言葉』で殴り飛ばす。
中には『これはお前のためにやるんだ』なんてことを抜かすヤツもいるだろう。
どれもふざけた『パワハラ』さ。


 呆れたように息を吐く。


 天野は二宮の肩をぽんぽんと叩いた。


天野勇二

二宮よ。
お前はもう様々な『視点』で世界を眺めている。
だからこそ、藤原にこだわっているのだろう。
それが悪いこととは思わない。

だが、もう藤原が操っていた『正しさ』に縛られる必要はないんだ。
そこから自分を解き放て。
お前はもう、一人前の社会人なんだぜ。



 二宮は黙って天野を見上げた。


 まるで風が吹いたかのようだった。


 天野から放たれた風が全身を駆け抜け、心臓を強く打ち鳴らす。


 胸の奥で熱いものが弾けたように、二宮は感じた。



二宮翔太

僕は、一人前ですか……?
天野さんは、そう思ってくれるんですか……?

天野勇二

もちろんだ。
俺様を満足させられる男は多くない。
誇りに思えよ。

お前にかかれば、きっとすべてうまくいく。


そう自信を持つがいい。


 偉そうに言い放ち、天野が腕時計を見つめる。


 二宮に手を振りながら言った。


天野勇二

もう失礼するよ。
大学に戻らなくてはならない。
また何かあったら連絡してくれ。


 二宮は慌てて頭を下げた。


二宮翔太

は、はい……!
ありがとうございます!
またよろしくお願いします!



 二宮は胸を押さえながら天野を見送った。


 雑踏ざっとうの中に消えていく『王子様』の背中。


 もう藤原さんに縛られる必要はない。


 僕は一人前の社会人として、胸を張れるんだ。


 そんなことを思った時だった。






藤原雄大

……おい二宮。
お前、随分と調子良さそうじゃねぇか。



 背後から聴こえた懐かしい声。


 驚いて振り返る。


 そこにはかつての上司、藤原が立っていた。





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つばこ

昔の話ですけど、女友達が「妻子ある人と不倫しててさぁ」なんてことを言い出したんです。
私はそれを聞いて猛烈に怒ってしまいまして。
不倫なんてダメだ、妻子の気持ちを考えろと、キツく叱ってしまったんです。
 
今でもあの時、彼女が浮かべたしょんぼりとした顔が忘れられません。
私は正しいことを言ったんです。
彼女のために「不倫はよくないぞ」と伝えたんです。
でも、あれは彼女を救う言葉になったのでしょうか。
色々なことに悩む彼女にとって、私の正しさは苦痛でしかなかったのではないでしょうか。
今でもそんなことを思います。
誰かのための正しさが、優しさと呼べるものであるとは限らないんですよね。
おっぱいうんちおっぱいうんち(なんか小難しいことを書いたので小学生並みの下ネタで中和)
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!ヾ(*´∀`*)ノウンチョス-!

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コメント 35件

  • hide

    言葉の暴力。某女子プロレスラーが亡くなったニュースが思い浮かんだ。

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  • ニル

    やっぱり天才クソ野郎の言葉はつばこさんの実体験なんだなぁ。

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  • ヽ(・∀・)ノ

    うちの兄、金持ちじゃないけど、毎年1万円くらいの紅まどんなを買ってる。
    今考えると…結構クソ野郎に似てるわ。

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  • まこと

    うわ、いい気分をぶち壊す藤原

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  • ユウリ

    全てを持っていくおっぱいうんち

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