それは痛ましい事件だった。



 惨劇が発生したのは、ロサンゼルス国際空港。



 乗客の1人が拳銃を機内に持ち込み、離陸前に乱射したのだ。



 死者5人、重傷者11名。



 不幸なことに、『少年』は一家でこの飛行機に乗り込んでいた。




少年

お父さん……!
起きてよお父さん……!




 少年の叫び声が虚しく響く。



 血溜まりの上で動かない父親。



 どれだけ声をかけても反応はない。



 たくさんの悲鳴と少年の泣き声。



 それらがゆっくり闇の中に消えていく。








 そこで今永は目を覚ました。



 時刻は深夜2時。



 総合病院の外科病棟。



 個室のベッドの上だ。



今永春馬

くそっ……。
寝ていたのか……。



 自らの頬を叩く。


 久々に見た幼き日の悪夢。


 寝汗が病院着を濡らし、身体は小刻みに震えている。


 今夜はまだ眠ることができない。


 その緊張が夢を見せたのだろうか。




 今永は立ち上がり、窓の外を眺めた。


 そろそろやって来るはずだ。


 しばらくすると、路地に1台のタクシーが停まるのが見えた。


 後部座席から女性が現れる。



今永春馬

……来たな。



 呟きと同時にLIMEがトークを受信。


 無事に病院へ侵入できたようだ。


 ベッドの上で訪問客を待つ。


 しばらくすると、病室の扉が微かにノックされた。



駒元七珠

……駒元です。
今永さんはいらっしゃいますか……?

今永春馬

ああ、大丈夫だ。
今は誰もいない。
早く入ってくれ。


 扉を開け、駒元七珠を招き入れる。


駒元七珠

失礼します……。


 慎重に病室を見回す。


 今永以外の人間は見当たらない。


 駒元は安堵あんどしたように息を吐いた。


今永春馬

夜分にすまない。
誰にも見つからなかったかな?

駒元七珠

ええ、たぶん……。
入り口には誰もいませんでしたから……。


 駒元は冷たい目で今永を見つめた。


 頬が不機嫌そうに歪んでいる。


 今永は苦笑しながらベッドに座り、『ナースコール』のスイッチを掴んだ。


今永春馬

ごめんな。
せっかく見舞いに来てくれたのに。
もし、君が不審な行動に出た場合……。
すぐに『これ』を押させてもらうよ。


 駒元の目つきが鋭くなる。


駒元七珠

それって……。
どういう意味ですか。

今永春馬

正直に話すよ。
僕は君を警戒している。
これを押せばすぐに看護師がやって来る。
もし僕を殺すつもりなら、それは諦めてほしいんだ。


 駒元の顔が驚きに包まれた。


 呆れたように吐き捨てる。


駒元七珠

殺すって……!
私が今永さんを!?
そんなこと本気で考えてるんですか!?

今永春馬

ああ、考えてるよ。
君はありもしない『セクハラ』や『パワハラ』をでっち上げた。
おまけに僕が『自作自演』したことまでほのめかしたんだろ?
僕が『殺されるかもしれない』と警戒するのは、別に不自然じゃないよね。


 駒元が嫌そうに今永を睨みつける。


駒元七珠

……それ、聞いたんですか。
誰に聞きました?
天野って人ですか?

今永春馬

そうだよ。
事務所の『アドバイザー』らしいね。
何者なのか知らないけど、川口さんはかなり信頼している様子だったな。

駒元七珠

そりゃ信頼しますよ。
『伝説のSP』ですから。
今永さんも聞いたことありますよね?
前島悠子さんの命を救ったSPですって。

今永春馬

ああ……。
彼がそうなのか。
噂には聞いてるよ。


 今永が軽く息を吐いた。


 駒元を鋭い目つきで見上げる。


今永春馬

君は彼に何を話したんだ?
全ての『自作自演』を自白したのか?
あの『襲撃事件』が、僕たちの『計画』によるものだと喋ったのか?


 駒元は呆れたように今永を見下ろした。


 吐き捨てるように告げる。


駒元七珠

それは言ってません。
言える訳ないですから。
今永さんも黙ってくれると信じてますよ。

今永春馬

ああ……。
それでいい。
僕も自白するつもりはないよ。
秘密は墓まで持って行く。
君にもそれでお願いしたい。

駒元七珠

じゃあ教えてくれますか?
なぜあなたは、自分自身を『ナイフ』で刺したんですか?


 険しい口調で詰め寄る。


 今永は静かに首を横に振った。


今永春馬

それは誤解だよ。
僕は刺されたんだ。
君の狂信者ファンにね。

駒元七珠

バカなことを言わないでください!


 突然、駒元が叫んだ。


 震えながら今永を睨みつける。


駒元七珠

私は見たんですよ!
あなたが『せいちゃん』を押さえつけながら『ナイフ』を取り出して、自分の胸に突き刺すところを……!

なんであんなことしたんですか!?
おまけに『せいちゃん』を取り逃がすなんて……!
こんな『計画』じゃなかったはずですよ!?

今永春馬

ちょっと待て……。
さすがに声が大きいな。
静かにしてくれよ。


 今永が狼狽うろたえながら駒元を制する。


 深夜2時の病院だ。


 大きな声を出せば看護師に気づかれる。


 今永は唇を歪めながら言った。


今永春馬

……君には見えていたのか。
失敗したな。
見せないようにしたつもりだったのに……。


 肩をすくめながら言葉を続ける。


今永春馬

だけど、悪くないアシストだったろ?
僕が刺されたことにより、『襲撃事件』は世間を揺るがす大ニュースになった。
君の『ドラマ出演』にもはくがつく。
ようやく掴んだ『チャンス』を後押しする最高の宣伝ブースターになったよね?


 駒元がブンブン首を横に振った。


 血相を変えて今永を睨みつける。


駒元七珠

全然なってないんですよ……!
宣伝ブースターなんかになってないんです!
ドラマの出演はバラされちゃったんですよ!
大きな事件になり過ぎたから、スポンサーからキャスティングを変更しろって言われたんです!


 震えながら言葉を吐き出す。


 まるで呪詛じゅそのような怒りの言葉。


 今永は驚いたように言った。


今永春馬

……えっ?
そ、そうなのか……。
ここまで大きな事件になると、スポンサーが口を出してくるのか……。

駒元七珠

うなんですよ!
何もかもが最悪なんです!
全部あなたのせいですよ!
そもそもの『計画』では、今永さんが『襲撃前にせいちゃんを取り押さえる』はずでしたよね!?


 鬼気迫ききせまる表情で言葉を続ける。


駒元七珠

それなら『刑事事件』にはならない。
大きな騒ぎにもならない。
今永さんも責任を問われることはない……。

全部あなたがそう言ったんですよ!?
それがなんで、こんなことになってるんですか!?


 今永は苦しげに顔を落とした。


 駒元の追求はまだ止まらない。


駒元七珠

しかも、せいちゃんがブースに入った時……。
今永さんは近くにいませんでしたよね!?
せいちゃんが来たら、今永さんもブースでスタンバイする『計画』だったのに……!
そうしないと『襲撃』が防げませんから!

今永春馬

それは……。
少し手違いがあったんだ。
ブースに入るのは遅れた。
それは認めるよ。
でも、ちゃんと君を守るつもりだった。
信じてくれよ。

駒元七珠

信じてくれ……?
そんなの信じられる訳ないですって!

私のキャリアを台無しにして……!
せいちゃんに重い罪を着させて……!
どうせ自分が会社に『クビ』にされることも覚悟の上だったんですよね!?

あの時、もし『剥がし』が涼太さんじゃなかったら、私はどうなっていたのか…………



 駒元の言葉が途切れた。


 何かに気づいたように瞳を見開く。


 背筋に冷たいものが走る。


 全身を包む恐怖。


 怯えながら自らを抱きしめる。



駒元七珠

……いや、まさか……。
まさか、そういうことなんですか……?

あなた、本当は、私を『見殺しにするつもり』だったんですか……?

『犯人』に襲撃されてしまえばいいって……。
握手会で殺されればいいって……。
それがあなたの『計画』だったんですか……!?



 今永はため息を吐いた。


 どこか呆れたように駒元を見上げる。


今永春馬

……それは違う。
さすがにそこまでのことは考えてないよ。

駒元七珠

じゃあ、それなら……!
何を考えているのか教えてくださいよ!
今永さんの『目的』は何だったんですか!?
どうして自分を『ナイフ』で刺したのか、ちゃんと説明してください! 

今永春馬

その前に声を落としてくれ。
落ち着くんだ。
警察が来てしまう。

駒元七珠

別に構いませんよ!
警察が来たら言うだけです!
今永さんが自分自身をナイフで刺したって!
みんな私を信じますよ!

今永春馬

やめたほうがいい。
それは何の意味もないよ。
事態は進展しない。
そもそも『犯人』が捕まってないからね。

駒元七珠

『犯人』なんかどうせすぐに捕まります!
いつまでも逃げられるはずありませんから!

今永春馬

彼が君の『自作自演』を暴露したらどうするんだい?
君との『密会』を打ち明ければ、君のアイドル人生は本当に終わるんだよ。


 駒元は微かに唇を歪めた。


 薄笑いを浮かべながら吐き捨てる。


駒元七珠

あんな気持ち悪いオタクの言うことなんて、どうせ誰も信じませんよ……!

何もかも『デタラメ』だって言えばいいだけです。
アイツと2人で会っていた『証拠』もありませんから。
今永さんだって、アイツに『自分を刺した罪』をなすりつけるつもりですよね?


 今永は苦しげに肩を落とした。


今永春馬

……ああ、そうだよ。
彼には悪いことをしたね。

駒元七珠

気にすることないですよ。
アイツはエロいことが目的で騙されたキモオタなんです。
生きる価値もありませんね。

そんなことより、私は今永さんの考えていることが理解できません。
あなたは何を考えているんですか?


 駒元の厳しい追求が続く。


 今永は小さく息を吐いた。


 駒元をなだめるように語りかける。


今永春馬

何を考えていたのかって……。
それは別に大した問題じゃないよね。
重要なのはこれからのことだ。

僕は君の『自作自演』を自供しない。
それは絶対に隠し通してみせる。
だから頼むよ。
君も僕の『自作自演』のことを黙っていてくれ。
これ以上、君に迷惑をかけるつもりはないからさ。


 真摯しんしな表情で懇願こんがんしている。


 駒元は呆れたように顔を歪めた。


駒元七珠

よくもまぁ、ぬけぬけとそんなことが言えますね……!

だから今永さんの『目的』を説明してくださいよ!
どうして私を助けようとしなかったのか!?
なんでここまで『事件』を大きくさせたのか!?
どうして自分自身を『ナイフ』で刺したのか、全てを説明してください!
それを聞くまで今永さんのことは何も信用できません!



 今永は困ったように駒元を見上げた。


 完全に興奮し、ヒステリックに叫んでいる。


 駒元は今永の行動理由が理解できない。


 今永の存在自体が恐怖そのもの。


 『目的』を説明しろと詰め寄るのも当然だろう。


 何か弁解しようと、今永が口を開いた時だった。





天野勇二

……哀れな小娘アイドルよ。
それは俺様が説明してやろう。



 病室に設置されたスピーカーから、天野の気障キザったらしい声が響いた。


 今永と駒元が驚いて周囲を見回す。


 勢いよく病室の扉が開かれた。










天野勇二

クックックッ……。
やかましいネズミ共だ。
もう消灯時刻を過ぎていると言うのに、いつまでも騒ぎやがって。
『お仕置き』が必要だな。



 ジャケットをひるがえしながら天野が現れた。


 偉そうに今永と駒元を睨みつける。


駒元七珠

あ、天野さん!?
どうしてここに……!?
そ、それに……!


 駒元が驚愕の表情で石田を見つめた。


 石田は泣いている。


 醜く顔を歪め、号泣しながら駒元を見つめている。


石田清史郎

……うぅぅ……!
そんなの……酷いよぉ……!
ぼ、僕は、ななみったんのために、やったのにぃ……!

駒元七珠

せいちゃん……!
まさか、今の話……。
聞いてたの……!?


 そこで今永が我に返った。


 青ざめながらナースコールを連打。


 無機質な「カチカチ」という機械音が鳴る。


 天野は呆れたように言った。


天野勇二

悪いな。
ナースコールの電源は切っている。
そんなものを押しても看護師は来ないぜ。
それにお前たちに必要なのは、看護師ではなく警察だよなぁ?


 ヘラヘラと悪い笑みを浮かべる。


 指先をパチリと鳴らし、駒元に突きつけた。


天野勇二

駒元よ。
今永に『動機』を尋ねても無駄なことだ。
この男は口を割らない。
『ナイフ』を自らの胸に突き刺すほどの『動機』を、そう簡単に語るワケないだろう?


 駒元は青ざめながら天野と石田を見つめた。


 突然の展開に思考が追いついていない。


 天野は苦笑しながらポケットに手を伸ばし、1枚の紙切れを取り出した。


天野勇二

だからこそ、俺様が哀れなお前に講義してやろう。
これは『今永の履歴書』だ。
『動機』の解答はここに書かれていた。


 今永が驚いて天野を見上げる。


今永春馬

ど、どうしてそんなものを!?

天野勇二

『イベント会社』をしつこく脅して取り上げたのさ。
お前が『中途入社』したのは3年前のこと。
その前に勤めていたのは『大日本セキュリティシステム株式会社』のようだな。


 今永が苦しげに顔を歪める。


 天野は心底楽しそうに問いかけた。


天野勇二

今永よ。
教えてくれないか?
この『大日本セキュリティシステム株式会社』とは、どんな商売をしている会社なんだ?
お前はどんな仕事に励んでいた?
そして、なぜ会社を辞めてしまったんだ?


 今永は何も答えない。


 悔しげに唇を噛み締めている。


天野勇二

無視とは酷いな。
お前にとっては新卒で入社した企業なのに。
夢と希望を抱いて、企業の門戸を叩いたのだろう?

しかも、お前は優秀な社員として評判だったらしいじゃないか。
当時の同僚が色々と教えてくれたぜ。


 今永が驚愕の表情を浮かべた。


今永春馬

と、当時の同僚……!?
ま、まさか、僕のことを調べたんですか!?

天野勇二

ああ、もちろんだ。
駒元が知りたがっている事件の『動機』は、そこにあるのだからな。


 駒元も驚いて天野を見つめる。


駒元七珠

事件の『動機』が、その会社に……!?
ど、どういうことですか!?
その会社に何があるんですか!?

天野勇二

なんだ?
お前は知らないのか?
業界じゃ最大手の企業だぜ。
『幕張メッセ』でも世話になっていたじゃないか。



 気障キザったらしい笑みをひとつ。


 どこまでも偉そうに言い放った。



天野勇二

最新鋭の『検査システム』を導入していた企業だよ。

幕張メッセだけでなく、東京オリンピックで使われる全ての会場に、同様のシステムを卸す予定になっている。
今永の『動機』はそれだよ。
その『検査システム』と企業に一矢報いるため、『自作自演の方程式』は描かれたのさ。



 指を「パチリ」と鳴らし、今永に突きつける。


 トドメを刺すように言った。



天野勇二

つまり、これはお前の『復讐劇』だったんだ。

『検査システム』の先に『凶器』を届けること。
それによる『傷害事件』が発生すること。


この両方を実現させることが、お前の『目的』だったのさ。




この作品が気に入ったら「応援!」

応援ありがとう!

36,352

つばこ

【ちょっと前の出来事】
 
川口さん「大変です天野様! イベント会社が今永さんの履歴書提出を拒否しました! 個人情報がうんたらかんたら言ってます!」
天野くん「ほう…。俺様の要求を拒否するとは、ナメた企業もあるもんだ…! 今からイベント会社に行くぞ! 不可能を捻じ曲げる俺様という名の恐怖を叩き落としてやる!」
 
……なんてことがあり、今永さんの履歴書は無事(?)入手できたようです。
 
ちなみに挿絵の石田くんですが、泣き顔がめっちゃブサイクで気に入っております。
何せ絵師様に「もっと石田をギャン泣きさせて! 鼻水も出して! 石田のモデルはジャ○○ズのキス○イの宮○くんなんですけど、それが微塵も感じられないほどのやつをオナシャス!」とお願いしたほどなんです。
絵師様、いつも本当にありがとうございます(´∀`*)ウフフ
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!

この作品が気に入ったら読者になろう!

コメント 24件

  • しずく

    モデルwwwww

    通報

  • べっちん

    なんか、急に物語の真相に迫ってきたので、かなりびっくりした。

    通報

  • みぃ

    石田くんなかなかにイケメンで草

    通報

  • りなぷ~る

    宮◯をまったく感じない…。

    通報

  • みょん

    石田のモデルはジャ○○ズのキス○イの宮○くんだったんですか!?笑
    私はジャニーズファンじゃないからいいけど、ファンが見たら、可愛そう、、、

    通報

関連お知らせ

オトナ限定comicoに移動しますか?
刺激が強い作品が掲載されています。

  • OK