週末の土曜日。


 天野はメイが通う小学校に向かっていた。



 本日は『授業参観日』


 メイが通う小学校では『学校公開週間』と呼ばれており、前期と後期それぞれに1回ずつ開催されている。


 『月・水・土』の3日間において授業を公開しているのだ。


 特に土曜日は午後から『保護者説明会』が開催されることもあり、とても見学者が多い。


 保護者以外の近隣住民でも見学は可能。


 しかも全学年の授業を見学できる。


 大学でいえば『オープンキャンパス』のような役割を果たしているのだな、と天野は感じた。



天野勇二

(……だが、これは教師が大変だろうな……。見学者はもちろんのこと、不審者の徘徊はいかいにも気を使わなければならない。かといって期間を狭めれば保護者モンスターペアレントがうるさいのだろう……)


 そんなことを思いながら校内に足を踏み入れる。


 メイの教室は3階。


 ちょうど2時間目と3時間目の間にある『中休み』の時間だったようだ。


 教室では賑やかな声が飛び跳ねている。



内田愛唯

……あっ!
パパだ!
パパー!
ここだよー!



 メイが嬉しそうに手を振った。


 途端に周囲から好奇の視線が飛んでくる。


 何せ天野は大学生。


 『パパ』と呼ぶにはあまりに若すぎる。




ユキちゃんのお母さん

……あれ?
内田うちださんのところ、母子家庭じゃなかった?

ハジメくんのお母さん

もしかして新しいパパ?
再婚したって聞いてる?

ユウカちゃんのお母さん

うわぁ……。
羨ましいなぁ……。
すっごい男前じゃん……。




 保護者から微かに聴こえる声。


 天野は苦笑しながらメイに声をかけた。


天野勇二

こうやってお前の様子を見るのは初めてだな。
楽しみにしてるぜ。
もし授業態度が悪かったら、ママに告げ口してやるからな。


 メイはにんまりと微笑んだ。


内田愛唯

大丈夫だよ。
私すっごくいい子だもん。
パパに恥ずかしい思いはさせないよ。

天野勇二

それなら安心だな。
今日は昼までいるつもりだ。
学校が終わったらメシでも食いに行こうぜ。

内田愛唯

うん!
それなら、えっとぉ……。


 チラチラと賢人を見つめる。


 その視線が「ピカルくんも一緒でいいかなぁ?」と告げている。


天野勇二

ああ、もちろん構わないさ。
学校が終わったら校門で待ち合わせしよう。

内田愛唯

やったぁ!
ちょっと待っててね!


 メイは賢人の耳元で何かをささやいている。


 その様子を見て、天野は「付き合っていることは内緒なんだな」と察した。


 小学5年生なんて多感かつ『デリカシー』という概念を知らない年頃。


 クラスメイトが男女交際に励んでいれば、とてつもない冷やかしを飛ばすだろう。


吉川賢人

オジさん!
こんにちは!
今日もお会いできてうれしいです!


 賢人がやって来た。


 お行儀よく頭を下げている。


 相変わらず大人びた美少年だ。


 その印象は小学校においても変わらない。


天野勇二

まったく君は礼儀正しい『炎上系YouTuber』だな。
動画を何本か拝見したぜ。

吉川賢人

えっ!?
ほんとですか!?
ど、どうでしたか!?

天野勇二

なかなか楽しめたよ。
特に『小学生がいきなり果樹園のお手伝いをしたらご褒美として何が貰えるのか?』が面白かった。

みかん農家の手伝いをするとは素晴らしい男だ。
君には言ってなかったが、俺様には『みかんのインスタグラマー』の知り合いがいるんだ。
今度紹介してやるよ。


 賢人は尊敬の眼差しで天野を見上げた。


 国民的アイドルと仲が良く、芸能事務所の人間に顔が知られており、いくつかの殺人事件を解決に導いた名探偵。


 おまけに『インスタグラマー』の知人までいるとは。


吉川賢人

そ、そうなんですか!
やっぱりオジさんはすごい……!
ありがとうございます!


 瞳をバラ色に輝かせる賢人を見送り、天野は教室の最後方に立った。


 3時間目の授業は算数。


 それぞれが様々な表情を浮かべて図形の面積を計算している。


天野勇二

(ほう……。これが授業参観なのか。なかなか面白いじゃないか)


 メイはもちろんのこと、賢人も真面目に黒板を見つめている。


 『学校公開日』だからなのか。


 子供たちの多くはすましたような表情を浮かべている。


 天野はその様子を眺めながら、


天野勇二

(『結婚』なんかするつもりはないが……。いつか子供を育ててみたいものだな……)


 『クソ野郎』には似つかわしくないことを考えていた。





 何事もなく4時間目の授業が終了。


 これで『学校公開週間』も終了だ。


 教室に弾ける子供たちの声。


 賢人はクラスの中心人物のようで、



ジュンペイくん

あんまり俺のことYouTubeにアップするなよー!

リサちゃん

私また出たい!
何かドッキリ仕掛けて!

サアヤちゃん

早くヒカキンに会ってよ!
サイン貰ってきて!



 たくさんの声に囲まれている。


 なかなかの人気者だ。


 YouTuberとしての活動も好意的に受け止められているようだ。


 しかも賢人には取り巻きファンが多く、常に複数の女子が気を引こうと声をあげている。


 メイはそれらをちょっとうとましく感じているようだ。


天野勇二

(フフッ……。どうしたメイよ。お前の恋人カレシが取られてしまうぞ。もっと頑張れ)


 心の中でエールを送っていると、スマホが鳴った。


 涼太からの着信だ。


 廊下を歩きながら電話に出る。


天野勇二

勇二だ。
どうだ?
何か掴めたか?

佐伯涼太

もうバッチリよ!
いやぁ、小学校ってなかなか美人の先生が多いんだねぇ。
これは盲点だったよ。
ナンパの『狩場』を小学校に移してみようかな。


 ニヤけたゲスい声。


 天野は舌打ちしながら言った。


天野勇二

くだらねぇことをするな。
『不審者』として追い出されるぞ。
いや、お前はそもそも存在自体が『不審』だったか。
一度ぐらい逮捕されたらどうだ?

佐伯涼太

ドイヒーなこと言わないでよぉ。
僕だってメイちゃんの授業を見たかったんだよ?
それを我慢して『聞き込み』したんだからさ、ちょっとぐらいご褒美があってもいいじゃん。


 涼太がヘラヘラと呟く。


 実はこのチャラ男も小学校に来ている。


 天野とは別行動を取り、教師や関係者に『聞き込み調査』を仕掛けていたのだ。


佐伯涼太

それに興味深い情報が手に入ったよ。
美術の坂本さかもと先生っていう若手の教師ちゃんと話せてね。
どうやら彼女が『リトル★スターピカルくん』の生みの親みたいなのよ。

天野勇二

ほう?
賢人をYouTuberとしてデビューさせた、ということか。

佐伯涼太

そういうこと。

ピカルくんから『お金を稼ぎたい』って相談されたんだって。
それで『PC教室にあるカメラを使ってYouTuberになったらどうか』ってアドバイスしたらしいの。

ピカルくんは大人ウケする美少年だから、案外再生数が稼げるかもって考えたんだね。

天野勇二

なるほど……。
なかなか『先見の明』がある女だな。

佐伯涼太

いえてる。
本人も教師を辞めてそっちの道に進んでみようかな、とか言ってたよ。

天野勇二

その女と賢人を狙っている襲撃犯……。
関係はありそうか?


 涼太はため息を吐きながら言った。


佐伯涼太

ないね。
僕ちゃんの第六感が『関係ない』って告げてる。
『反社会的組織』とのつながりがあるお姉さんには見えなかった。
マークする必要もないね。


 天野は腕組みをしながら頷いた。


 性根のイカれたチャラ男だが、女性を見る目はそれなりに信用できる。


 涼太は少し真剣な声で言った。


佐伯涼太

興味深い情報ってのはここからなんだ。
ピカルくんがYouTuberとして有名になっても、特に変わったことは起きなかった。
そもそもピカルくんは、自分が通っている小学校を『非公開』にしてるからね。
自宅も当然公開してない。

天野勇二

ああ、そうだろうな。

佐伯涼太

だけどね、最近おかしなことが多発してるんだって。
まず登下校時に『不審な男性』を見かけること。
誰かが子供たちを張り込んでるのよ。
午後からの『保護者説明会』で注意喚起する予定みたい。

天野勇二

不審者の男か……。
どんな男だ?

佐伯涼太

それが『複数』いるんだって。
1人じゃないんだよ。

学校側は相当警戒してるみたいでさ、今回の『学校公開』も中止になったかもしれないんだって。
色々と物騒なご時世だからね。


 天野は静かに唸った。


 脳裏のうりに自分たちを轢き殺そうとした『黒いミニバン』が浮かぶ。


天野勇二

それはクロいな。
敵が『反社会的組織』であれば、複数で張り込むのも自然だ。

佐伯涼太

そうなのよ。
ピカルくんに直結するかわからないけど、十分に警戒すべきだね。


 涼太はひとつ息を吐いた。


佐伯涼太

それにもうひとつ。
僕はこっちが気になった。

最近、小学校に『侵入者』が出たらしいんだ。
夜間に忍び込んで、ひとつの教室を徹底的に荒らしたんだって。

どこを荒らしたのか。
勇二なら読めるんじゃない?


 天野の眼光が鋭く光った。


 唸るように尋ねる。


天野勇二

まさか……。
『PC教室』か?

佐伯涼太

正解!
さすが天才クソ野郎!

『侵入者』はPC教室に忍び込んで、全てのデータを消去したあげく破壊したんだ。
まだ犯人は捕まってない。
おまけに警察が言うには『複数犯による犯行』らしいって。


 どこか興奮したように言葉を続ける。


佐伯涼太

これもピカルくんに直結するかはわからない。
だけどね、僕は『一本の線』でつながる気がするんだよ。

ピカルくんを狙う『反社』の存在。
複数の『不審者』
PC教室に忍び込んだのも『同一犯』だとしたら?

僕が言った『前提』を改めるべきかもしれないよね。



 天野はゆっくり頷いた。


 2人の『推理』は一致している。


 険しい顔で言った。



天野勇二

賢人が狙われている原因……。
それが『YouTuber』にあるということか。





 涼太との会話を終え、天野は校門へ向かった。


 涼太は『保護者説明会』に参加。


 教師や保護者から情報を集めるつもりだ。



天野勇二

(PC教室に侵入し、データを消去した上に破壊……。犯人は賢人の『動画データ』を探していた可能性が高い。だが、なぜそこまでする必要があるんだ……?)



 賢人は『反社』が嫌がる動画を撮影したのか。


 何かを目撃してしまったのか。


 それともまったく違う原因が潜んでいるのか。


 現時点では判断がつかない。



天野勇二

(賢人の動画YouTubeを全てチェックするべきだな。あの『悪ふざけ』の中に、襲撃犯の手がかりがあるはずだ……)



 舌打ちしながら校門に到着。


 メイが1人で佇んでいる。


天野勇二

……おや?
お前だけなのか?
賢人はどうした?


 メイはどこか得意気に言った。


内田愛唯

さっきまで一緒だったんだけどね、『週刊誌の記者』の人がきたんだよ。
『リトル★スターピカルくん』を取材したいんだって。
2人きりにしてほしいって頼まれたの。

天野勇二

……なに?

内田愛唯

すっごいよね。
ピカルくんきてるよ。
どんどん有名になっちゃうよ。
有名人が『恋人カレシ』なんてドキドキしちゃうなぁ。

天野勇二

どこで声をかけられたんだ?

内田愛唯

下駄箱のところ。
ずっとピカルくんを待ってたみたい。

天野勇二

どこで取材すると言っていた?

内田愛唯

わかんない。
たぶん『裏門』のほうに行ったのかなぁ。
静かなところでお話したいって言ってたから…………


 メイの言葉が途切れた。


 天野が鬼のような形相を浮かべている。


 全身から湧き上がる殺気。


 天野はスマホを取り出して叫んだ。



天野勇二

……涼太!
敵が賢人に接触した!
『反社』が校内に侵入しているぞ!
教師に伝えて通報させろ!



 スマホの向こうで「わ、わかった!」という慌てた声。


 天野はメイをギロリと睨んだ。


天野勇二

メイ!
裏門はどこだ!?
案内しろ!

内田愛唯

え、えぇっ!?
どうして!?
取材じゃないの!?

天野勇二

そんなワケあるかよ!
バカみたいに浮かれやがって!
賢人は自分の学校を公開してないんだろ!?


 メイがようやく事態を把握した。


 青ざめながら走り出す。


内田愛唯

そ、そんな……!
だって、週刊誌の名刺を持ってたんだよ……!

天野勇二

いいから教えろ!
裏門はどこだ!?

内田愛唯

あ、あっち!


 メイが全速力で駆ける。


 校舎を突き抜けて裏門へ。


 人気のない裏路地に出る。


 微かに少年の声が響いた。



吉川賢人

や、やめてよ!
離してってば……!
誰か助けて!



 裏路地の先に賢人がいた。


 かたわらには1台の黒いミニバン。


 ナンバープレートを隠された車。


 2人の男性が賢人を車内に引きずり込もうとしている。



内田愛唯

ああっ!
あの人……!
取材にきた人だよ!

天野勇二

待ちやがれ!
賢人をどこに連れて行くつもりだ!



 男たちは天野に気づき、明らかな狼狽ろうばいの表情を浮かべた。


 抵抗する賢人の頭を掴み、無理やり車内に押し込む。


???

見られたぞ!
早く出せ!
早くしろ!


 荒々しく閉まる扉。


 それと同時にミニバンが走り出す。


天野勇二

クソッ……!
間に合わねぇ……!


 距離が遠すぎる。


 全力で駆けるが追いつけない。


 最悪の展開だ。


 賢人が拉致らちされてしまう。


 天野が青ざめた時だった。









???

…………ッ!



 裏路地の物陰から、1人の男が飛び出した。




この作品が気に入ったら「応援!」

応援ありがとう!

33,533

つばこ

今は小学校の様々なルールが地域によってバラバラなので、恐らく読者の皆さまの間でも「もう授業参観とは言わない」「うちはまだ2学期制じゃない」「2時間目と3時間目の休み時間は『中休み』と呼ばない」「そもそも『中休み』が存在しない」といった認識の違いがあるのではないでしょうか。
 
作中の小学校ルールですが、天クソ世界においては正しくそういうものなのだ、とご理解ください。
なのでいきなり本文に、
 
【メイたちが元気よく『ベントラーベントラー』と叫んでいる。どうやら4時間目の宇宙学の授業でUFOを呼ぶらしい。きっとこの後、みんなでチチンパマッチョクン体操をするのだろう。】
 
こんな奇文がぶちこまれても「そういうものなんだなぁ」とご理解ください!!!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!ヾ(*´∀`*)ノ

この作品が気に入ったら読者になろう!

コメント 23件

  • ポンデリング

    見た目不審者ヒーロー、もしやモノホンのピカルパパか?!

    通報

  • まこと

    正義の味方風に飛び出してきたけど風体が不審者だった

    通報

  • かずまる

    ロング休みとか行間休みだったかな

    通報

  • g0vank

    業間でしたね。
    それより、いいねボタンが表示されなくて押せないよー…

    通報

  • LAMP

    業間休みだったよ〜(山梨)

    通報

関連お知らせ

オトナ限定comicoに移動しますか?
刺激が強い作品が掲載されています。

  • OK