※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。




 都内にある私立大学。



 学生食堂の2階テラス席。



 ここは『天才クソ野郎』こと、天野勇二あまのゆうじの特等席だ。



 普段であれば大学の関係者。



 それも天野と関わりのある人間しか立ち寄ることがない。



 しかし、その日は違った。




内田愛唯

やっほー。
パパってば久しぶり!
元気してた?



 テラスに現れた少女。


 小学5年生の11歳。


 天野のめいこと、内田愛唯うちだめいだ。


 実際のところ、本当に『天野の姪』なのかどうか不明なのだが……。


 今のところは叔父おじめいの関係を保っている。


(詳しくは『天才クソ野郎の事件簿・特別編』にて)



天野勇二

メイか。
本当に久しぶりだな。
お前は未だに俺のことを『パパ』と呼ぶんだな。

内田愛唯

別にいいじゃん。
『パパ』は『パパ』なんだから。

天野勇二

良くないだろ。
俺はメイの父親じゃない。
叔父なんだ。
そろそろ『パパ』からは卒業してほしいんだがな……。



 メイは訳があって父親とは別々に暮らしている。


 そのため、叔父である天野のことを『パパ』と呼んでしたっているのだ。


 天野はため息を吐きながらも「にんまり」と優しげな笑みを浮かべた。



天野勇二

まぁ、そんな細かいことはどうでもいいか。
『依頼』とはなんだ?
何か俺様に頼みたいことがあるのか?


 メイは「こくり」と頷いた。


内田愛唯

うん……。
ごめんね。
パパも忙しいのに。
『急に会いたい』なんて、めいわくじゃなかった?

天野勇二

迷惑なワケがないさ。
お前との時間以上に重要な予定なんか存在しない。
何か買ってほしいのか?
今ならなんでも買ってやるぞ。


 メイの機嫌をとるように尋ねる。


 この時、天野にはひとつのたくらみ』があった。


内田愛唯

そんなのいいよ。
パパにはいつも『お小遣い』とかもらってるし。

天野勇二

遠慮なんかするなよ。
最近はあまり会えなかったからな。
メイがどうしているのか気になっていたんだ。

本当に欲しいものはないのか?
学校の様子はどうだ?
ちゃんと勉強しているのか?
天野の家には立ち寄ったりしているのか?
桃香ももか胡桃くるみとは会ったのか?


 矢継やつばやの質問。


 メイは小首を傾げて言った。


内田愛唯

お姉ちゃんたちと?
最近は会ってないなぁ。

天野勇二

それなら連絡を取ってないか?
お前もLIMEライムはやってるだろ。
アイツらの『アカウント』なんか知らないのか?


 またまたメイが小首を傾げる。


内田愛唯

LIMEのアカウント?
そういえば最近、胡桃ねぇちゃんから『アカウントを変えた』って連絡きたよ。
パパは知らないの?


 天野が「その言葉を待っていた」とばかりに頷く。


天野勇二

そ、そうなんだ。
どうやら俺に教えるのを忘れているようでなぁ……。
知らないんだよ。

内田愛唯

ふぅん。
おねぇちゃんたちはうっかりしてるもんね。
じゃあ今度パパに伝えるように言っておくね。

天野勇二

い、いや!
そこまでしなくていい!
お前からこっそり教えてくれればそれでいい!

内田愛唯

えっ?
あたしから?

天野勇二

そうだ!
むしろそれが最適解だ!
今すぐ教えてくれ!


 天野は必死だ。


 実は最近、妹たちと一悶着ひともんちゃくあり、あらゆる連絡手段をシャットアウトされているのだ。


 LIMEのアカウントはわからない。


 電話もつながらない。


 メールは宛先不明で戻ってくる。


 どうやら妹たちを少しばかり怒らせてしまったようだ。


(詳しくは『彼が上手にメスブタを飼う方法』にて)




 メイはじれったそうに言った。


内田愛唯

胡桃ねぇちゃんのこともいいんだけどさぁ……。
今日はあたしの『依頼』を聞いてよ。
どうしてもパパにお願いしたいことがあるんだ。



 メイは「パパに依頼したいことがある。急だけど会えないか」といったメールを送っている。


 それでわざわざテラスを訪ねているのだ。


 胡桃のことなんかどうでもいい。



天野勇二

あ、ああ……。
そうだな。
まずその話をするべきだな。


 ここでメイの機嫌を損ねたら、胡桃の『アカウント』は手に入らない。


 天野は向き直って尋ねた。


天野勇二

改めて尋ねよう。
何を『依頼』したいんだ?
教えてくれ。

内田愛唯

えへへ……。
えっとねぇ……。
ちょっと恥ずかしいんだけどさぁ……。


 デレデレと頬を染める。


 瞳を潤わせながら言った。



内田愛唯

好きな男の子ができたんだ!
ていうか『お付き合い』することになったの!
あたしに恋人カレシができたんだよ!



 天野は驚いてメイを見つめた。


天野勇二

な、なんだと……!
お前に恋人カレシが!?
ちょ、ちょっと待ってくれ。
お前はまだ11歳だよな?

内田愛唯

うん。
そうだよ。

天野勇二

11歳で『恋人カレシ』なんてまだ早い……。

いや、別に早くもないか……。
まぁ、そういうこともあるだろうな……。



 天野は大きく息を吐いた。


 この男は「11歳の子供が男女交際に励むとは何事か」なんてことを考えるタマではない。


 驚いたのはメイが「そんな年頃に成長していた」ということ。


 時に『姪っ子』の成長とは、恐ろしいほど早く感じるものだ。



天野勇二

そうか……。
メイも『初恋』を知る年齢になったのか。
良いことじゃないか。
めでたいな。

内田愛唯

ありがと!
パパには早く報告しなきゃと思って。

天野勇二

いつから交際しているんだ?

内田愛唯

先週からだよ。
明日が『交際1週間記念日』なんだ。

天野勇二

それはお祝いをしないとな。
どちらから告白したんだ?

内田愛唯

あたしが告白したよ。
恋愛は先手必勝だよね。

天野勇二

あっはっは。
やるじゃないか。
さすがは俺様の姪だ。


 天野はほがらかに笑っている。


 この男は他人の『恋愛話』に頬をほころばせるタマでもない。


 しかし、可愛がっている『姪っ子』となれば話は別だ。


天野勇二

どんな男だ?
お前のハートを射止めた好青年。
興味があるな。

内田愛唯

同じクラスの吉川賢人よしかわけんとくんなの。
すっごくカッコいいんだよ。

しかもね、賢人くんは『リトルスターピカルくん』なの!
すっごいでしょ!


 天野はいぶかしげに瞳を細めた。


天野勇二

……うん?
リトルスターピカルくん……?
なんだそれは?

内田愛唯

えっ?
知らない?
結構有名人なのに。
パパは遅れてるなぁ。

天野勇二

そ、そうか……。
すまんな。
流行には興味がないんだ。

内田愛唯

YouTuberユーチューバーだよ。

『小学生YouTuber』としてはTOP10に入るほどの人気者なんだよ!




 天野は思わず真顔でメイを見つめた。




天野勇二

……YouTuber……?
い、今、お前はYouTuberと言ったのか?

内田愛唯

そうだよ!

……あっ、まさかパパ……。
YouTuberを知らないの?
そっかぁ……。
パパは世間知らずなところがあるからなぁ……。

えっとね、まず『YouTubeユーチューブ』は知ってるでしょ?


 メイはどこか気の毒そうな表情を浮かべている。


 天野は少々傷つきながら言った。


天野勇二

いや、YouTubeぐらいは知っているさ……。
もちろんYouTuberも知っている。
正直なところまったく興味はないが、動画ぐらいは見たことがあるぞ。


 基本的に天野は流行にうとい。


 つい最近まで『国民的アイドル』の存在さえ知らなかった。


 そんな男でも『YouTuber』は知っているのだから、認知度はとてつもなく高いのだろう。


天野勇二

そうか……。
小学生でもYouTuberをやっているのか……。

まぁ、今は子供が『将来の夢』として掲げる職業らしいからな。
お前のクラスメイトがやっていても、別に不思議ではないのか。

内田愛唯

フツーのことだよ。
うちの学校にも何人かいるし。
その中でも『ピカルくん』は一番人気なんだ。
チャンネル登録数だって数万もあるんだよ。
再生数も50万回いったことがあるんだ。


 メイは得意げに語っている。


 それは立派な数字らしいが、天野にはよくわからない。


天野勇二

『ピカルくん』とやらは、どんな動画をアップしているんだ?

内田愛唯

あっ?
やっぱり興味ある?
あるよね?

天野勇二

まぁ、お前の『カレシ』と聞けばな。

内田愛唯

えへへっ……。
じゃあ見せてあげるね。


 メイはスマホを取り出した。


 YouTubeのアプリを起動。


 『登録チャンネル』から恋人カレシを呼び出す。


内田愛唯

これだよ。
これがピカルくん。
見たことない?


 白いパーカーを着た小学生男子。


 線の細い華奢きゃしゃな体格に整った顔立ちが乗っている。


 『美少年』呼称こしょうしても問題ないだろう。


 天野は内心「メイのヤツめ。なかなか面食めんくいだな」と苦笑した。


内田愛唯

どれが見たい?
面白いのいっぱいあるよ。

天野勇二

『どれ』と言われてもな。
俺にはどの動画が面白いのか知らん。
メイが………


 「気に入ってるやつを見せてくれ」と。


 そう告げようとした唇が止まった。


 瞳を細めてサムネイルを睨みつける。


 それぞれの動画のタイトルも睨みつける。


 天野は押し殺した声で言った。


天野勇二

おいメイ……。
これはなんだ。

内田愛唯

えっ?
だからピカルくんだよ。

天野勇二

そうじゃない。
このふざけた動画のラインナップはなんだ。
そう訊いているんだ。


 舌打ちしながら尋ねる。


 天野が渋い表情を浮かべてしまうのも無理はなかった。


 スマホに表示されている動画は、







マネキンをつかってスカートめくりを極めてみた


夏休みの工作を10,000円で売れるか実験してみた


10,000円で小学生の心を支配できるか試してみた


「本物のうんこを投げられたら怒らない人0人説」を検証してみた


小学生だったら「おっぱい」を触っても怒られないか検証してみた






 そんな過激なタイトルが並んでいる。


 ガイドラインすれすれの「やってみた系」の炎上動画ばかり。


 どうやらこれが『リトル★ピカルくん』の芸風のようだ。



天野勇二

……メイ。
まぁ、俺が言うことでもないんだが……。
お前の恋路に口を出すつもりもないんだが……。
でもまぁ、そのなんだ。
あくまで『叔父』としての意見として聞いてほしいんだが……。



 迷ったが言ってみた。



天野勇二

大丈夫かコイツ?
本当にこれが『カレシ』で良いのか?
他にもっと相応しい男がいると思うぜ。


 メイは驚いて天野を見つめた。


 そんなことを言われるなんて想像もしていなかった、という表情だ。


内田愛唯

酷いよパパ!
なんでそんなこと言うの!?
ピカルくんのことを何も知らないくせに!

天野勇二

い、いや……。
まぁ、そうなんだが……。


 げんなりしながらスマホを指差す。


天野勇二

他人様に『うんこ』を投げつけて、それをYouTubeのネタとしてアップするバカはロクな人間じゃない。
それは俺でも理解できるぞ。

内田愛唯

本物の『うんこ』じゃないもん!
粘土に色を塗って作った偽物だよ!?

天野勇二

『うんこ』は偽物なのか。
それは安心したよ。
だが、同じことだよな。

内田愛唯

はぁ!?
同じじゃないよ!
『うんこ』『粘土』は違う!
本物の『うんこ』を投げたら警察につかまるに決まってるでしょ!

天野勇二

ああ……。
それはそうなんだが……。



 天野は困ってメイを見つめた。


 メイはプンプンと頬を膨らませている。


 どこか失望したような表情だ。


 普段の天野であれば「何が『うんこ』だ。くだらねぇ。お前、男の趣味がクソだな」ぐらいの暴言を投げつけてやるのだが、今日ばかりは勝手が違う。


 メイから『妹たちの情報を引き出したい』という企みがある。


 機嫌を取るように言った。



天野勇二

……まぁ、そうだな。
俺が悪かった。
ピカルくんのことを知りもしないのに、先入観で決めつけるべきではないな。


 メイが「うんうん」と頷く。


内田愛唯

本当だよ。
パパはよく『先入観は悪だ』とか言うのに。
変な先入観で人を決めつけるのは良くないことなんだよ。

天野勇二

そ、その通りだな。
まったくだ。
すまなかった。

内田愛唯

それに『うんこ』とか『スカートめくり』なんてさ、パパがやってることにくらべればカワイイと思うな。

パパは『天才クソ野郎』で『学園の事件屋』でしょ?
パパのほうがずっと悪人だもん。
ダメだよ自分のことを棚に上げたりしたら。



 天野は唇を噛み締めた。


 ぐうの音も出ないほどの正論。


 確かに天野の悪事に比べれば、『うんこ』や『スカートめくり』なんて本当にカワイイものでしかない。



天野勇二

(そうか……。俺様が『悪』だから、メイはこんなことを考えてしまうのか……)


 小さなため息を吐く。


 自らの『悪』は巡り回ってメイにも影響を与えている。


 それは天野にとって喜ばしいことではない。


 天野の困惑には気づかず、メイが言った。


内田愛唯

でもさぁ、ちょっとパパが言うこともわかるんだ。
コメントで批判する人も多いし。
ピカルくんを嫌う大人がいるのも当然なんだろうね。


 天野は感心しながらメイを見つめた。


 しっかり客観的に事実を認識している。


 以前から頭の回る少女だったが、より賢く成長しているようだ。


 やはり『血筋』が影響しているのだろうか。


内田愛唯

だけど、本当のピカルくんを知らないのに、好き勝手に批判するのはダメだと思う。
特にパパには本当のピカルくんを見てほしい。
だから紹介したいの。
ピカルくんと会ってくれないかな?


 照れくさそうに天野を見上げる。


 どうやらそれがメイの『依頼』のようだ。


天野勇二

ほう……。
それはなかなか興味深いな。
ピカルくんも承知の上なのか?

内田愛唯

もちろん!
『パパ』じゃなくて、ちゃんと『叔父さん』に紹介したいって言ってある。
ピカルくんもご挨拶したいって。

天野勇二

なかなか出来た男じゃないか。
それならママにも紹介しているんだな?


 メイは顔を曇らせた。


 どこか気まずそうに告げる。


内田愛唯

うんとね……。
ママにはまだ言ってないんだ。
ママは頭が固いから。
ちゃんと紹介するべきだとは思うんだけど……。


 天野は思わず苦笑してしまった。


 『反抗期』だろうか。


 メイほどの年頃になれば、母親との仲が難しくなるのも珍しくはない。


天野勇二

ちゃんと紹介すべきだな。
俺は順番にこだわるつもりはない。
だが、ママは真っ先に報告してほしいと願うはずだぜ。

内田愛唯

そうだよね……。

……うん、わかった。
ちゃんと紹介する。
でも、その前にパパから会ってもらっちゃダメかな?

天野勇二

それは構わない。
いつ会えばいいんだ?

内田愛唯

パパの都合が良ければいつでも。
今日でもOKだけど。

天野勇二

ならば、今から会おう。
お前の『初恋』の相手であり『恋人カレシ』か……。
実に興味深い。
俺様がどんな男かしっかり見極めてやろう。



 不敵な笑みを浮かべながら立ち上がる。


 この時、天野の頭にあったのは「メイの機嫌をとって妹たちの情報を聞き出そう」ということだけ。


 ピカルくんとの出会いが大きな事件に発展するとは、これっぽっちも考えていなかったのだ。



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つばこ

どうも、つばこです。
今週もお読みいただきありがとうございます。
 
今回のエピソードは当初『彼が上手にYouTuberになる方法』というタイトルだったのですが、
 
担当さん「『YouTuber』という単語を使うのは問題ないんですが……。さすがにタイトルにするのはちょっと……」
 
という指摘をいただきまして、『彼女が上手に初恋を叶える方法』になりました。
姪っ子のカレシはYouTuber。
そんなことが当たり前にありえる時代でございます。
青春ハートシェイカーなメイちゃんの恋路がどうなるのか、ご期待いただければ幸いです。
 
なお念のため補足しますが、つばこはYouTuberのことをよく知らないので『ピカルくん』のモデルはいません! いないのです!!!
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!ヾ(*´∀`*)ノ

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コメント 20件

  • ピカルディの3度

    天野さんって、身内相手だと本当に別人のように頭回らなくなるよね。
    彼に限った事じゃないはずなんだけど、彼ですらこうなるという事実を見せつけられると、「嫌われたくない」という名の足枷の恐ろしさを思い知らされる。

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  • メロンパンの皮欲しいです。

    1万円でカタヌキ買い占めてみた

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  • まりごるごんぞーら

    いやいや…
    「10,000円で小学生の心を支配できるか試してみた」
    「小学生だったら「◯◯◯い」を触っても怒られないか検証してみた」
    とか、姪っ子ちゃん、ターゲットになってない?!
    大丈夫??

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  • ポンデリング

    ぐうの音も出ない天野くんとか珍しい

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  • altena

    次回、ピカル「僕の彼女の叔父であり、学園の事件屋である大学生に喧嘩うってみたwwww」という動画を出し、天野くんに処される。

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