天野勇二

メスブタが果たす役割……。
そしてあなたの『LIMEトリック』が果たす目的……。
それはメスブタに

『犯人は20時に眞下の家から逃亡した』


という証言アリバイを残させることだった。
この証言アリバイを警察に誤認させるために全てのトリックは仕組まれた。
つまりあなたは……。



 大きく息を吸い込む。


 西崎の奥底に叩き込むように言い放った。



天野勇二

メスブタに『殺人の偽証』という重罪を押しつけたんだよ。




 西崎は苦しげにまぶたを閉じた。


 頬を流れる脂汗。


 天野の言葉が重く心にのしかかる。


 西崎の沈黙を確認すると、天野はあざけるように言い放った。



天野勇二

……どうしたんですか教授?
この場における沈黙は肯定に等しいですよ。
しっかり反論してください。

自分は若くして教授に昇進した教育学部のムードメーカーだ。
あらゆる教育者の模範となるべき存在であり、教え子に『重罪』を押しつける行為なんかするワケがない。


そう反論してくださいよ。



 西崎は黙り込んだままだ。


 何かをこらえるように唇を噛み締めている。


 受話器スマホから聴こえるのは荒い呼吸音だけ。


 天野は諦めたように言った。



天野勇二

……仕方ないな。
じゃあ改めてあなたの愚劣ぐれつな行いを解説してあげましょう。

眞下の死亡推定時刻『17時~18時』の間だ。
犯人はこの時間帯における『アリバイが存在しない人物』ということになる。
当然ながら、須田の奥様に『アリバイ』なんか存在するワケがない。


 踊るように言葉を重ねる。


天野勇二

そこであなたは考えた。

犯人を示す『17時~18時』『アリバイ』を偽装することはできないか?

例えば『17時~20時に延長してみたらどうだ?
犯人は『20時まで』犯行現場に残っていた。
その間の『アリバイ』がある人物は犯人ではない。
そのように警察が誤認すれば良いんだ。


 PCのディスプレイを叩き、耳障りなあえぎ声を止めさせる。


 沈黙する西崎の性癖。


 ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら言った。


天野勇二

つまり、あなたは俺たちのLIMEから逃げるのではなく、LIMEを『鉄壁のアリバイ』に変えようとしたのさ。
それも『メスブタの偽証』というワイルドカードを使ってね。

しかし、ただの女子大生の『偽証』では証拠として弱い。
警察が誤認する可能性も低いだろう。
それを補うためにLIMEの記録トークが欲しかったというワケだ。


 受話器スマホの向こうに耳をすます。


 まだ西崎からの反論は聴こえない。


 舌打ちしながら言葉を続ける。


天野勇二

昨晩の18時。
あなたは須田の奥様に『眞下のシャネル』を着せて歌舞伎町かぶきちょうに向かわせた。
自らの衣服は『返り血』で汚れてしまい着れたものではなかったのだろう。
それが俺様が目撃した『謎の女』だ。


そのまま権藤と合流させ、20時まで時間を潰させた。





◆須田の奥様(謎の女)の行動◆

・17時~

 眞下を刺殺

・18時~

 歌舞伎町に移動

 居酒屋で権藤と合流

・20時~

 権藤と別れてアルタ前に移動

・20時半~

 もう1人の『謎の女』と合流

 2人でタクシーに乗って移動





天野勇二

その間、メスブタは『眞下邸を張り込んでいるフリ』をしながら別行動に出た。

まずは自らの『変装』に必要な衣服や道具を準備。
そして20時に「眞下邸から飛び出した人間がいる」とLIMEに残し、自らその人物を演じてみせた。

つまりはメスブタ自身がタクシーに乗り込み、『GPSロガー』を貼りつけ、歌舞伎町まで移動したのさ。
そして『謎の女』である須田の奥様と合流した。





◆メスブタの行動◆


・18時~

 眞下邸を張り込むフリ

 衣服や道具(GPSロガーなど)を購入

・20時~

 眞下邸に移動

 LIMEに「眞下先生が家から~」のトークを送信

 タクシーに乗って歌舞伎町に移動

 タクシーにGPSロガーをセット

・20時半~

 アルタ前に移動

 もう1人の『謎の女』として登場

 須田の奥様と合流

 2人でタクシーに乗って移動

・21時~

 天野の尾行を撒いて眞下邸に移動

 眞下の死体を発見




天野勇二

あなたはあえて俺たちの前に『2人の謎の女』を登場させた。
「謎の女の正体は誰だ?」という疑問を抱かせ、正体を解き明かすことに集中させるために。

最終的に「謎の女は須田の奥様だ」と見破られても構わない。
なぜなら、それによって俺は須田の奥様の『アリバイ』を証明することになるからだ。


 どこか感心したように呟く。


天野勇二

よくもあんな短時間で、ここまで人を小馬鹿にする『アリバイトリック』を考えたものだ。

『謎の女』の正体を見破ること。
それは「須田の奥様は18時~20時半まで歌舞伎町にいた」という『アリバイ』の証明に等しい。

通常であればそんな『アリバイ』に意味はない。
しかし『メスブタの偽証』が生きるとなれば話は別だ。
メスブタはしっかり『犯人は20時まで眞下邸に残っていた』と警察に誤認させた。
これでは須田の奥様による犯行が立証できない。

メスブタはご主人様の指令を完璧に遂行したというワケだ。



 天野は嫌そうに顔を歪めた。


 殺人の『隠蔽いんぺい』と『偽証ぎしょう』が重罪であることは、法学部生かつ頭の良い牧瀬ならば十分に理解していただろう。


 それでも西崎という『ご主人様』の期待に応えた。



天野勇二

……いや、正確に言えば『期待に応える』という道を選ぶしかなかったんだ。

あなたはメスブタに『眞下を殺した犯人』は誰なのか、伝えてもいなかった。
恐らく『殺人事件』や『死体』のことも伝えなかったはずだ。

メスブタはご主人様の意図が掴めないまま指令に従った。
そして眞下の死体を発見した時、ようやく愛するご主人様の意図を悟ることができたんだ。



 昨晩の眞下の自宅前。


 天野が駆けつけた時、牧瀬は警察官とパトカーに囲まれ、震えながら泣いていた。


 そこに嘘の気配はなかった。


 牧瀬は心底怯えていたのだ。


 『死体』を見つけた恐怖。


 殺人の隠蔽いんぺいに加担してしまった、という恐怖。


 そして、これから殺人の『偽証』をしなければならない、という恐怖に。



天野勇二

犯人の正体は不明。
事件の全貌ぜんぼうも掴めない。
これではメスブタはどこにも逃げることができない。
『偽証』をくつがえして正しい証言に変えることもできないんだ。
殺人の『隠蔽いんぺい』を重ね続けるように、あなたが輪廻りんねの中に放り込んでしまった。


 ひとつ大きく息を吐く。


天野勇二

あなたはこの点についてどう思っているのか。
詳しく訊いてみたいものだ。

罪悪感は覚えているのか?
メスブタがどうなろうと知ったことじゃないのか?
教育学部の教授として、自らの行為がどれだけ人の道に外れているのか理解しているのか?

黙ってないで何か言えよ。

西崎篤史

………………



 西崎は強く唇を噛み締めた。


 何か言葉を発しようと口が開く。


 しかし、それは大きなため息に変わるだけ。


 天野は失望したように言った。



天野勇二

……なるほど。
西崎教授はまだ諦めてないんですか。

下手に喋れば俺様に言葉尻ことばじりを掴まれる。
この会話も録音されているかもしれない。
自供なんかしたくない。

そんなことを考えているんでしょうね。


 舌打ちしながら吐き捨てる。


天野勇二

それなら、あなたの考えていることを言葉に変えてみせましょう。

実のところ、あなたの『LIMEトリック』はまだ『完全犯罪』に至ってはいない。
しかし、ひとつの簡単な行動でこれは『完全犯罪』に転じる。

それは……。


 殺気に満ちた言葉を叩きつける。


天野勇二

このタイミングで『メスブタを殺すこと』だ。

メスブタの口を塞いでしまえば『メスブタの偽証』は永遠に覆ることがない。
検察や弁護士も無視はしないでしょう。
須田の奥様を法廷に招いたとしても『メスブタの偽証』が守ってくれるというワケだ。


 受話器スマホから聴こえる西崎の呼吸音が荒くなる。


 天野は西崎の胸奥に突き刺すように言った。


天野勇二

聡明そうめいな西崎教授なら察していると思いますが……。
メスブタもそのことには気づいてますよ。

ご主人様は自分が死ぬことを望んでいる。
いつ殺されても不思議じゃない。

そんな恐怖と不安にさいなまれているはずです。
それでも従順な態度は崩してはいないのでしょう。
あなたのようなクズにはもったいないほどのメスブタだ。


 そう言ってヘラヘラと唇を歪める。


 そこでようやく西崎が口を開いた。



西崎篤史

……き、きみは……。
本当に……。
口達者な男だ……。



 かすれるような声。


 喉奥が乾いているのだろう。


 何度も生唾を飲み込み。


 大きく息を吐き。


 改めて言い放った。



西崎篤史

実に見事な『ブラフの発表会プレゼンテーション』だ……。
確かに、筋の通った推理のように聴こえる……。

だが、それだけで須田さんの奥さんを起訴きそすることはできないぞ。
逮捕だって不可能だ。
まだ『物的証拠』が存在しない。
それがなければ警察だって……


 天野は笑いながら口を挟んだ。


天野勇二

……おや?
西崎教授、もうお忘れですか?
なぜあなたは『そこ』にいるんでしたっけ?
俺たちのLIMEを見たからですよね?
俺様が到着する前に『殺害現場』に侵入するつもりじゃなかったんですか?


 おどけたように言葉を続ける。


天野勇二

現場には『犯人の所有物』が残されている。
俺様はかばんだと踏んでいる。

そんなトークをあなたは見た。
まぁ恐らくメスブタのアカウントを使って『PC版LIME』から閲覧しているのでしょう。

俺様のトークを見て心底慌てたんじゃありませんか?
あなたも『鞄』の存在は認識していなかったでしょう?

西崎篤史

……ッ!
ち、違う!
そんなものは知らん!


 西崎の悲鳴を無視して言葉を続ける。 


天野勇二

『謎の女』はシャネルの大きなトートバッグを持っていた。
中身は返り血に染まった自らの衣服。

そして眞下を殺した凶器。

まぁそんなものが入っていたはずだ。

だが、俺は須田の奥様が『ルイ・ヴィトンの赤いカプシーヌ』を持って家を出た、という目撃証言を手に入れてしまった。

そうなると、ひとつの疑問が目の前に現れる。


 叩きつけるように言い放つ。


天野勇二

『赤いカプシーヌ』はどこに消えたんだ?

それなりにかさばる鞄で折りたたむことは難しい。
『謎の女』が持っていたトートバッグに入るかどうか微妙なラインだ。
もし入っていなかったとしたら『カプシーヌ』はブランドだらけの眞下の部屋に残したのではないか?
そんな『仮説』に変化する。


 不敵な笑みを浮かべる。


天野勇二

もし『カプシーヌ』を回収することができれば、俺様の『推理』『確証』に変わり、須田の奥様を逮捕する『物的証拠』に進化する。

しかし現段階では犯行現場を調べるのは困難。
それでも犯人より早く回収しなければ意味がない。
だが俺様は犯行現場に侵入する必要もないんだ。
LIMEにトークするだけで良かった。


 西崎はそこで天野の企みを悟った。


 自分が天野の『手駒』として動かされたことに気づいたのだ。


天野勇二

俺が殺害現場に侵入する。
目的は『鞄』だ。
それが犯人を捕まえる『物的証拠』になる。


そのようにLIMEにトークを残し、殺害現場に誰もいない『空白の時間帯』を作る。
そうすると俺よりも早く『カプシーヌ』を回収しようと考える犯人ゴキブリが現れる。


 処刑宣告のように言い放つ。


天野勇二

それが西崎教授……。
あなたなんですよ。


あなたが殺害現場に来れば『カプシーヌ』はある。
来なければ『カプシーヌ』はない。
つまり俺様はLIMEを操作するだけで鞄の有無がわかってしまうんだ。

そして、あなたは殺害現場に来た。
やはり『カプシーヌ』は眞下の部屋にあるんだ。
これで全ての『推理』『確証』に変わった。


 指を「パチリ」と鳴らす。


 不敵な笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。


天野勇二

つまり、眞下を殺した犯人は『須田の奥様で確定した』ということです。
これでチェックメイトだ。
あなたの存在こそが、俺様の『推理』が正しいという『証明』だったんですよ。


 西崎は顔を歪めて肩を落とした。


 スマホを持つ手が小刻みに震えている。


 涼太はその様子を、


佐伯涼太

うーん……。
さっきから、2人は何を話してるのかなぁ……?


 首を傾げながら眺めていた。



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つばこ

しかしなんというか……。
まぁ、よく喋る主人公ですねぇ…( ゚д゚)
 
なんと1話分、ほとんど喋り倒しましたよ。
しかもまだ喋りそう。
むしろ喋り足りなそう。
天野くん本人はきっと楽しく喋っていると思いますので、優しく見守っていただければ幸いでございます(´∀`*)ウフフ
 
今回の事件やトリックや作戦はちょっとややこしいので、読者の皆さまにうまく伝わっているか心配でございます。
視点が変わったりしながら事件の全貌が明かされていきますので、最後には「なんとなくわかった」と思っていただける……と思います……たぶん……。
今のところは「メスブタちゃんはどうなるんだろう」なんてことを思いながらお付き合いくださいませ!
 
そんなこんなでいつも応援やコメント、本当にありがとうございます!!!

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コメント 24件

  • kj

    警察戻ってこいよ笑

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  • ゆんこ

    止まる西崎の性癖

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  • 昆布

    つばこさん、ちゃんと伝わってます!
    すごい、の一言です。

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  • まこと

    涼太はほぼ沈黙を守る教授を見守るだけの役

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  • ニル

    前話でゼニスに蹴りを入れられた西崎教授辛そう

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