佐伯涼太

(……あれ? 『ゴキブリ』を潰したのに事件が解決しないじゃん。勇二は何を考えてるんだろう?)



 困惑したまま周囲を眺める。


 胸を押さえてうめく西崎。


 風に揺れるキープアウトテープ。


 警察官はまだ戻って来ない。


 先ほど聴こえた女性の悲鳴を追いかけているのだろうか。


 涼太がどうすべきか悩んでいると、スマホがひとつの番号を着信した。


 天野からの着信だ。



佐伯涼太

……ああ、勇二。
待ってたよ。
グッドタイミング。
僕も電話しようと思ってたんだ。

天野勇二

そうか。
西崎を捕らえたんだな。
今は殺害現場にいるのか?

佐伯涼太

いや、その前に捕まえた。
キープアウトは越えてないよ。

天野勇二

上出来だ。
今から写真を送る。
それを西崎に見せてやってくれ。

佐伯涼太

えっ?
写真?
ていうか、勇二はどこにいるの?



 質問はあっさり無視。


 1枚の写真が送られてくる。


 涼太はそれを見ると首を傾げて言った。


佐伯涼太

……あれ?
この写真……。
どっかで見た気がするね。

天野勇二

それを西崎に見せるんだ。
そして電話を変わってくれ。


 涼太は地面でうずくまる西崎にスマホを差し出した。


佐伯涼太

すみません西崎先生。
天才クソ野郎が先生と話したいそうです。
それにこの写真も見せろって。

西崎篤史

なんだと?

……こ、これは!


 写真を確認した西崎の顔が青ざめる。


 スマホを奪い取って叫んだ。


西崎篤史

あ、天野!?
天野だな!?
これはどういうことだ!?


 スマホの向こうから天野の笑い声が響く。


天野勇二

あっはっはっ。
どうも西崎教授。
ご機嫌いかがですか?

涼太は喧嘩が強かったでしょう。
素人のあなたでは手も足も出なかったはずだ。
お怪我はされてませんか?

西崎篤史

そんなことはどうでもいい!
この写真はどういうことだ!?

天野勇二

そんなの見ればわかるでしょう?
『あなたの部屋』の写真ですよ。
今さっき、ここで撮影してやったんです。


 西崎の全身から血の気が引いた。


西崎篤史

ま、まさか、お前……!
僕の家に不法侵入したのか!?

天野勇二

その通りです。
今はあなたの私室から電話をかけています。

いや驚きましたね。
なんとなくタンスの奥』を漁ったら大量の『現金』を発見してしまった。
これはかなりの金額だ。
億を軽く越えているじゃありませんか。


 ニヤニヤと悪い笑みを浮かべる。


天野勇二

おかしなものですねぇ。
俺は最近、こんな『写真』を1人の女から見せてもらったんですよ。

あなたと俺様が飼っている可愛い『メスブタ』からね。


 西崎の身体が震え始める。


 天野は叩きつけるように言葉を続けた。


天野勇二

メスブタが俺たちに見せた写真……。
あれは眞下ましたの部屋で撮られたものではなかった。
あなたの部屋で撮影された写真だったんです。

そりゃ警察が眞下の家から現金を発見できないはずだ。
あの時からあなたの『作戦』は始まっていたんですね。


 西崎は怒りに全身を震わせながら叫んだ。


西崎篤史

ふ、ふざけるな……!
家にまで侵入するなんて、君たちは『真の悪』だ!
絶対に許さんぞ!

天野勇二

あっはっはっ。
何をわめいているんですか?
この状況がとんでもなくやばいことは理解しているでしょう?
この部屋にはあなたのPCがある。
中にはどんな『証拠』が隠されているのか。
よくご存知ですよね?

西崎篤史

なんだと……!
そ、それを見たのか!?

天野勇二

もちろんです。
いくら自宅のデスクトップとはいえ、もっと高度なパスワードを用意しておくべきでしたね。
あなたの生年月日を教えたら簡単に股を開いてくれましたよ。

……おや?
この動画はなんだろう?
あなたの趣味かな?



 保存されていた動画ファイルを再生。


 西崎にも聴こえるよう大音量で流してやる。


 スマホから漏れる女性のあえぎ声。


 西崎はこれ以上ないほどの屈辱くつじょくに包まれた。



天野勇二

クックックッ……。

さて、隠してある現金は見つかった。
メールボックスには裏口のやり取りを示す記録もあった。
眞下を殺す『動機』も確認できた。
全てのデータを俺様のSSDにコピーしてますよ。

……ああ、もう終わった。
さすが今のUSBは高速だ。
あなたの性癖せいへきなんか欲しくもないのに。
まぁ、面倒だから全部まとめて警察に突き出してやりましょう。



 西崎の全身から力が抜けるようだった。


 メールボックスには『裏口』の記録が残っている。


 それを見れば、西崎が作り上げた『裏口入学のシステム』を簡単に理解することができるだろう。


 それでも西崎はひとつの希望を手にしていた。



西崎篤史

……だが、眞下さんを殺す『動機』……。
そんなものは見つかっていないはずだ。
お得意の『ブラフ』だろう?

天野勇二

へぇ?
さすがにPCの中身は把握していますか。
そうなんですよ。
眞下に繫がる記録だけが見つかりませんね。

西崎篤史

僕のPCから『裏口』の記録を盗んだとしても、それは不正なやり方だ。
いくらでも捏造ねつぞうできる。
証拠にはならない。
君の切り札にはなりえないぞ。

天野勇二

さすが西崎教授だ。
強気な態度を崩しませんね。
でも俺は『現金』を使ってキャンプファイヤーすることもできるんですよ?
一度、大量の現金を燃やしてみたかったんですよね。


 西崎は一瞬息を飲んだが、すぐに思考を切り替えた。


西崎篤史

『放火』の罪は重いぞ。
君はそんな行動に出る男ではないだろう。

天野勇二

教授のおっしゃる通りです。
放火で捕まりたくはないな。
やはり警察には素直に証言してやったほうが無難でしょう。
例えば………


 天野は極悪の笑みを浮かべた。


 処刑宣告のように言い放つ。



天野勇二

眞下准教授じゅんきょうじゅを殺した犯人……。
それは『須田教授の奥様』だ。
そう警察に教えてやったほうがいいでしょうね。



 西崎の時が止まった。


 天野は幼子にでも聞かせるように語り始めた。


天野勇二

あなたはその痕跡こんせきを回収するために、わざわざ殺害現場に訪れた。
そうなるようにLIMEを使って誘導してやったんです。
あなたなら『やり方トリック』が理解できますよね?
LIMEでやられたからLIMEでやり返してやったんですよ。

西崎篤史

バカな……。
君は、何を言って……。


 西崎の声が震えている。


 けば泣き出してしまいそうな声だ。


天野勇二

須田の奥様は、あなたが作り上げた『裏口のシステム』にとって欠かせない存在だった。
須田の奥様が『窓口』となり、裏口入学を望む人間と取引する。
それがシステムのキモだった。
そりゃ俺たちが教授たちを調べても埃が出なかったはずだ。

西崎篤史

そ、そんな、ことは……。

天野勇二

『ない』とでも言いたいんですか?
とぼけるのはやめてください。
それに重要なのはここからだ。

なぜ窓口である奥様が眞下を殺すことになったのか……。

正直なところ、当初は眞下本人が『裏口』に関与していると思い込んでいました。
眞下が所持している『不正な金』が多すぎましたからね。


 小さく息を吐く。


天野勇二

……だが、いくら何でも俺様に対する態度が強気すぎた。
『裏口』に関与していない絶対の自信をチラつかせていましたよ。

ならば眞下が手にしている金はどこから生まれたのか……。
こう考えれば一番しっくりくるかな?

眞下はあなたたちを強請ゆすっていたんだ。

『裏口入学』を斡旋あっせんしていることに気づき、糾弾きゅうだんするのではなく恐喝きょうかつに入ったのでしょう?


 西崎は呆然と呟いた。


西崎篤史

……なぜ……。
なぜ君は、そこまで……。

天野勇二

眞下が『裏口の共犯』なら、このタイミングで殺す必然性がないんですからね。
あなたにとっても眞下は邪魔な存在だった。
眞下の性格を考えれば

「裏口を黙ってやる代わりに教授へ昇進させろ」

ぐらいのことは言いかねない。
もし教授に昇進させれば大学から追放することは困難。
早急に始末しまつする必要があった。


 唇を歪めながら言葉を続ける。


天野勇二

それでもさすがに殺したいワケではなかったはずだ。
そこであなたは俺様を利用することを考えた。
教育学部の外敵である『天才クソ野郎』だ。

俺様を眞下にけしかけて問題を起こし、間接的に大学から追放する。
その前段階のために『メスブタ』を差し向けた。
あなたの『お下がり』である可愛い『メスブタ』をね。


 西崎は震えたまま黙り込んでいる。


 その沈黙は肯定に等しい。


 天野は忌々いまいましげに言った。


天野勇二

俺様がどれだけ攻めても眞下から『裏口の証拠』が漏れることはない。
眞下も恐喝している以上、『裏口』のことを喋ることはできない。

俺はあなたの思惑通りに眞下を攻めた。
無論、俺がそうしなくても眞下を攻めるように、あなたが間接的に情報を送ってきたでしょうね。


 呆れたようにPCの画面を見つめる。


 画面には西崎の趣味が流れ続けている。


天野勇二

そして眞下の家を荒らすようメスブタに命じた。
そこまでは作戦も順調だった。
眞下の周辺が騒がしくなり、俺様の調査も本腰に入り始めた。

だが、そこで想定外の事態が発生。
須田の奥様が眞下を刺殺してしまったんだ。


 西崎の唸り声を聞きながら吐き捨てる。


天野勇二

眞下はあなたたちに怯えていたんでしょうね。
警察に「殺される」と訴えていたのも理解できなくはない。
恐喝している相手が自分に牙をき始めたと警戒していたんだ。
そこで須田の奥様を自宅に呼び出したのでしょう。


 西崎から「くぅぅ…」という呻き声が漏れた。


 きっと苦しげに顔を覆っているのだろう。


天野勇二

眞下と須田の奥様が何を話したのか。
それは俺にもわからない。
問題は『結果』だ。
須田の奥様は眞下を殺した。
そしてあなたたちに連絡したのでしょう。
あなたも心底驚いたんじゃありませんか?


 西崎は力なく呟いた。


西崎篤史

……そんなことまで、読めるのか……。
君は本当に天才クソ野郎だ……。

天野勇二

残念ながら、あなたは『自首』ではなく『殺人の隠蔽いんぺいという愚かな選択肢を選んでしまった。

殺人事件において一番隠さなければならないのは『死体』だ。
死体の発覚は殺人事件の発覚。
犯人の逮捕にも直結しかねない。

しかし困ったことに、俺たちが『尾行』することをメスブタから聞かされてしまった。
死体を捨てることができない。これほど最悪な展開もない。


 西崎は呆然としながら尋ねた。


西崎篤史

な、なぜだ……?
なぜ気づいた……?
やはり牧瀬まきせくんのことを疑っていたのか……?

天野勇二

そうですね。
メスブタは初めから疑っていました。
アイツは裏切り者スパイであり誰かと通じている。
それは当然、教育学部の教授の誰かだ。

西崎篤史

だが、なぜ……。
須田さんの奥様のことを……?

天野勇二

俺が権藤を尾行したからですよ。
『謎の女』をこの目で確認した。
あなたの『LIMEトリック』『謎の女』の正体を隠すためのものだと気づいた。
俺様はずっと教育学部に関係する『女』を探していたんですよ。


 指先を「パチリ」と鳴らす。


天野勇二

だから、あっさり須田の奥様を疑うことができた。
しかも『目撃証言』まで入手するというオマケつき。
そして決定的だったのが奥様との接触コンタクトだ。
あなたは須田の奥様に俺のことを話していませんでしたね?


 西崎は顔を歪めた。


 確かに『天才クソ野郎』という邪魔者の存在を伝えてはいなかった。


 天野がこれほど早く須田の妻に接触するとは想定していなかったのだ。


天野勇二

……その反応は伝えてませんでしたね。
俺は須田の奥様に『裏口』に必要となる情報を渡したんです。
その反応リアクション直撃ブルだったんですよ。

須田の奥様は『高校生の個人情報』『自分に関わりのある情報』だと示してしまった。
あとはゆっくり推論を重ねていくだけだ。


 嫌な笑みを浮かべながら言葉を続ける。


天野勇二

須田の奥様は『裏口』に関与している可能性が高い。
おまけに死亡推定時刻の『アリバイ』がない。

まさか眞下を殺したのはこの女なのか?
もしかすると『謎の女』の正体もコイツじゃないのか?
つまり眞下を殺害した直後に歌舞伎町へ向かったことになる。
なぜそんな不自然な行動に出た?
なぜそんな『危険な橋』を渡らなければならない?
そこまで考えれば結論は見える。


 気障キザったらしく指を鳴らす。


天野勇二

須田の奥様が渡ったのは『殺害を隠蔽いんぺいするために渡らなければならない橋』だったということ。

それが意味するのは何か?
『アリバイ』ですよね。
あなたは須田の奥様に、

『20時過ぎまで歌舞伎町にいた』

という『アリバイ』を与える必要があったんです。


 西崎は苦しそうに顔を覆った。


西崎篤史

なぜだ……!
なぜそこまで読める……!

天野勇二

推論を重ねた結果ですよ。
あなたはメスブタから俺たちがマークしている人間を聞き、全員を歌舞伎町に集結させた。

メスブタには眞下の家を張り込んでいるようにLIMEを更新させる。
そして即座に違う行動を取らせた。
メスブタには『重要な役割』を果たしてもらう必要がありましたからね。


 天野はひとつ息を吐いた。


 殺気を含んだ口調で告げる。


天野勇二

俺が許せないのは『これ』だ。
どうしても『これ』を許すことができない。
まさかあなたがここまでの『悪人』だとは思わなかった。

俺様が何を怒っているのか。
理解していますよね?

西崎篤史

ああ……。
君は、恐ろしい男だ……。
本当にすまないと、思っている……。



 西崎がうなだれて地面を見つめる。


 天野は吐き捨てるように言った。



天野勇二

メスブタが果たす役割……。
そしてあなたの『LIMEトリック』が果たす目的……。
それはメスブタに

『犯人は20時に眞下の家から逃亡した』

という証言アリバイを残させることだった。
この証言アリバイを警察に誤認させるために全てのトリックは仕組まれた。
つまりあなたは……。



 大きく息を吸い込む。


 西崎の奥底に叩き込むように言い放った。



天野勇二

メスブタに『殺人の偽証』という重罪を押しつけたんだよ。





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つばこ

天野くんは何としても西崎の部屋に不法侵入(余談ですが『焼き破り』で侵入してます)した上で、彼自身の『LIMEトリック』で西崎をハメてやりたかったのでしょう。
そもそも不法侵入なんていつでも出来たんです。
それでもあえてこのタイミングを選んだというところに、彼の底意地悪い「クソ野郎」さがあるんだろうなぁ、と思っております( *`ω´)グフフ
 
そんなワケで天野くんの解決編がようやく本格始動!
今回のポイントは『偽証によるアリバイ工作』でした!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(๑•̀ㅂ•́)و✧

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コメント 29件

  • kj

    パソコンの性癖について詳しく教えてほしい

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  • taki

    反応がブルって、勇二が履歴書を渡す時の「奥様も関係するレポートなのかもしれませんね」って問いに、須田奥さんが「関係あるかもしれない」って言ってたやつのことかな?

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  • ゆんこ

    かっこいい

    通報

  • LAMP

    天野くんがマジメに解説する間も滔々と流れ続ける喘ぎ声

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  • ぷに

    やっと色々わかってきたー楽しい^ ^

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