佐伯涼太(LIMEトーク)

ほーい!
勇二と合流したよー!
行ってらっしゃい!



 涼太はとりあえずLIMEライムを更新してみた。


 いったいどうなるのか。


 非常に不安だったが、天野からのトークはしっかり返ってきた。



天野勇二(LIMEトーク)

須田のことは頼んだぞ。
今から殺害現場に向かう。
どうやって侵入してやるかな。
クックックッ……。



 呆然とスマホを見つめる。


 本当に『誰か』が天野のLIMEを乗っ取っている。


 天野によれば『謎の女』とのこと。


 しかし、涼太にも『謎の女』の正体はすぐに理解できた。


 『謎の女』に電話をかけてみる。



佐伯涼太

……あっ、前島さん?
須田教授の家の側にいるの?



 『謎の女』は平然と答えた。



前島悠子

はい。
そうですよ。
正確には須田教授のご近所さんである『春川さんの自宅』におります。



 前島は春川の家でのんびり紅茶を飲んでいた。


 右手には天野が残したスマホ。


 天野を装ってLIMEを更新し続けている。


春川ふみえ

……あら?
その電話、天野くんから?


 春川の家内が嬉しそうに尋ねる。


前島悠子

師匠からじゃありません。
子分みたいな人からです。

春川ふみえ

あらそう……。
天野くんじゃないの。
せっかく夜食も作ったのに。

前島悠子

師匠は『迎えに来る』と言ってましたから、その内に来てくれると思いますよ。

春川ふみえ

天野くんが来るまで起きてられるかしら。

前島悠子

ちょっと遅くなりそうですね。
師匠が来たら奥様を起こしましょうか?

春川ふみえ

そうしてくれると嬉しいわぁ。



 天野による『最後の作戦』は前島の仕事中に発動していた。


 前島は天野から、



天野勇二

仕事が終わったら春川の家まで来い。
このことは誰にも言うなよ。



 そんな『密命』さずかっていたのだ。


 そして、前島が春川邸に到着した頃。


 天野は春川の家内を完全にたらし込んでいた。



天野勇二

ここで須田の家を見張れ。
まず動きはないと思うが、何かあればすぐに連絡しろ。
そして俺様のフリをしてLIMEを更新するんだ。



 春川の家内が作った夕食を頬張りながら指示。


 張り込みの拠点きょてんとして利用するために、春川の家内を手懐てなずけてしまったのだ。


 これは『恋人カノジョ』としては複雑なシチュエーションだ。


 しかし、次の言葉が前島の心を揺さぶった。



天野勇二

深夜になれば冷え込む。
お前に風邪をひいてほしくはないからな。



 前島はこれで有頂天うちょうてんになった。



天野勇二

それに美味い『みかん』をくれるって言うからさ。
本当に美味いんだこのみかん。
お前も食っていいぞ。



 そんなセリフも言っていたが、前島は忘却ぼうきゃく彼方かなたに捨て去った。


 天野は自分の身体を気遣きづかってくれた。


 やはり自分は特別な存在なんだ。


 そう思い込み、上機嫌で天野のLIMEを更新していた。



春川泰俊

まったく……。
天野くんとは忌々いまいましい名前を聞くものだ……。
悠子ちゃんをなんだと思ってるんだ……。



 不機嫌なのは家のあるじである春川プロデューサーだ。


 遅くまで仕事をしてやっと家に帰れたと思ったら、そんな話になっており、前島がのんびり張り込みをしている。


 しかも天野は春川に屈辱くつじょくを与えた男。


 春川としては二度と思い出したくない存在だ。


(詳しくは『彼女を上手にプロデュースする方法』にて)



前島悠子

春川さんは寝てくださいよ。
明日も早いんじゃありませんか?

春川泰俊

僕はまだ寝ないよ。
天野くんがここに来るんだよね?
文句を言ってやりたいんだよ。

うちのタレントを探偵みたいにコキ使いやがって……!
あのクソ野郎……!
芸能人であれば潰してやるのに……!


 歯ぎしりしながら唸っている。


 春川の家内が不思議そうに言った。


春川ふみえ

ちょっとあなた。
天野くんは『クソ野郎』なんかじゃないわよ。
そんなことしちゃダメだからね。

春川泰俊

くそぅ!
しかもなぜか僕の妻と仲良くなってるじゃないか!

絶対に許さないぞクソ野郎め……!
皮肉を山ほど叩きつけてやるからな……!



 前島はそんなうめき声を聞き流しながら、須田邸を見張り続けた。


 須田邸に変化はない。


 家の明かりも消えている。


 人が出入りした気配も見受けられない。



前島悠子

須田先生の家は真っ暗ですね。
もう寝てしまったみたいです。
涼太さんの方はどうですか?


 涼太は苦笑しながら言った。


佐伯涼太

いや、前島さん……。
それより『子分みたいな人』って言い方は酷いじゃん。
なんで勇二に言い寄る女の子は僕に冷たいのさ。
僕ちゃん悲しいよ。


 なげきながらLIMEにトークを送る。


 LIME上の涼太は須田邸を張り込んでいることになっている。



佐伯涼太(LIMEトーク)

須田教授の家は動きなし。
もう完全に寝てるね。



 ため息を吐きながら尋ねる。


佐伯涼太

それであのクソ野郎はどこに行ったの?
あれだけLIMEを強要したくせに、まさか自分がLIMEから消えるつもりとは思わなかったよ。

前島悠子

どこに行くのかは教えてくれませんでした。
ただ、ちょっと怖いこと言ってましたよ。

佐伯涼太

なに怖いことって?

前島悠子

涼太さんに『最悪の展開』が訪れるかもしれない……。
そう言ってました。
どういう意味ですかって尋ねたら、

「涼太が殺されるかもしれないのさ」

とか言ってニヤニヤ笑ってましたよ。

佐伯涼太

えぇっ!?
マジで!?


 涼太は青ざめて周囲を見回した。


 天野がそんな『警告』を残したということは、ここにやって来る人物が『犯人である可能性が高い』ということ示している。


佐伯涼太

うわぁ……。
確かに『ゴキブリを潰せ』とか言ってたよ。
まさか『犯人と対決しろ』ってこと?
なんでそう言ってくれないのさぁ……。


 涼太は小さく息を吐いた。


 ハリウッド映画の脇役のように告げる。


佐伯涼太

サンキュー前島さん。
それは今日一番の知らせだよ。
僕に何かあったら、家族によろしく伝えてくれ。

前島悠子

はい涼太さん。
生きて帰ってくださいね。

佐伯涼太

ああ、全てが終わったら、いつものテラスで乾杯しよう。



 涼太は『死亡フラグ』を立てるとすぐさま電話を切った。


 今夜は『スタンガン』や『特殊警棒』などの武装を用意していない。


 頼れるのは自慢の『足技』だけだ。



佐伯涼太

困ったなぁ……。
僕が勝てる相手なのかなぁ?
刃物とか振り回されたら逃げるしかないよねぇ……。



 涼太が怯えていると、ゆっくりと1台の車が現れた。


 キープアウトされた路地付近に停車。


 型落ちの乗用車だ。


 涼太はその車に見覚えがあった。



佐伯涼太

き、きた!
『ゴキブリ』だ!
あの車は過去の尾行で見たことがある!
あの人が来たんだ!
まずいじゃん!
あの人なんとなく強そうじゃん!



 涼太は慌てて物陰に隠れた。


 キープアウトの出入口には警官が立っている。


 まだ涼太にも『ゴキブリ』にも気づいた様子はない。


 相手は眞下を刺殺した『殺人犯』かもしれない。


 単独で挑むのではなく、警官を巻き込んだ乱闘に持ち込むべきだろう。


 そんなことを考えていると車のエンジンが停止。


 2人の人物が出てきた。



佐伯涼太

(うげぇ……。『ゴキブリ』は2匹だ……。1人は車の持ち主だとして、もう1人は誰なのよ?)



 視界が悪く、顔は見えない。


 1人がキープアウトの側に残り、1人が遠くに離れて行く。


 片方の正体は理解できる。


 もう1人の正体が掴めない。


 しかし、すぐに単純な論理が正解を導き出した。



佐伯涼太

(い、いや、そんなの決まってるよ。だって本来は『張り込み』してるはずなんだ。それがLIMEのトークもなく、ここに一緒に来てるってことは、もうそれはそれしかなくてそれしかないじゃん! マジなの!?)



 涼太は怯えながらも全身の筋肉をシバリングし始めた。


 寒さでちぢこまった筋肉に活力を送る。


 やがて路地に女性の悲鳴が響き渡った。





イヤァァァァーーー!




 闇を斬り裂く絶叫。


 助けを求めるような悲鳴だ。


 キープアウトに立っていた警官が驚いて駆け出す。


 悲鳴の元へ全ての警官が向かっている。


 それを見計らったように、1人の男がキープアウトテープを潜ろうとした。



佐伯涼太

……おっと。
そこは立入禁止ですよ。
『教授』なんですから、入っちゃいけない場所ぐらい理解できますよね?



 男が驚いて涼太を見つめた。


 街頭の明かりが互いの姿を照らしている。


 教育学部のムードメーカー。


 西崎篤史にしざきあつしだ。



西崎篤史

……ほう。
涼太くんか。
これは困ったな。
天才クソ野郎の参謀さんぼうじゃないか。

佐伯涼太

参謀!
うんうん。
そう呼んでほしいですね。
みんな小物扱いが酷いんですよ。

西崎篤史

なぜ君がここにいる?
君がここにいるはずがない……。



 しばし涼太を凝視。


 しかし、すぐに苦笑いを浮かべて言った。



西崎篤史

……あははっ。
そういうことか。
僕はまんまとハメられたんだね。
これは『天才クソ野郎の罠』だったのか。



 涼太は構えながら言った。


佐伯涼太

そうですよ西崎先生。
あなたは天才クソ野郎にハメられたんです。


 西崎は懐に手を伸ばした。


西崎篤史

喧嘩はやめてくれよ。
君が空手の有段者であることは耳にしている。
暴力は控えたほうが教育的に好ましいね。

佐伯涼太

あなたこそ懐から手を出したらどうです?
人を刺し殺すなんて教育的指導が必要ですね。


 涼太の身体が「くるん」と一回転。


 鋭いハイキックが放たれる。


 何の牽制けんせいもなかった。


 涼太は一撃で仕留めにかかった。



西崎篤史

……うおおっ!?



 西崎が後退して倒れ込む。


 キープアウトテープが「バリッ」と破れた。


佐伯涼太

くそっ……!
当たらないね!


 舌打ちしながら構え直す。


 寒さのために筋肉が萎縮いしゅくしている。


 満足に足が振り上がらない。


 ハイキックが顔面に当たる気がしない。


佐伯涼太

それならこっちだ!


 長い脚をむちのようにしならせる。


 鋭く重いローキック。


 左右の足にリズムよく打ち込む。


西崎篤史

ぐぅっ……!
や、やめないか!


 西崎の顔が激痛に歪む。


 有段者のローキックは凶器だ。


 涼太は内腿を蹴り上げ、膝にも前蹴りを叩き込む。


 西崎の身体が「ガクン」と沈んだ。


西崎篤史

や、やめろ!
いきなり何をするんだ!?


 蹴りが速すぎて見えない。


 両足が燃えるように痛い。


 西崎は苦悶くもんの表情を浮かべながらも、懐からひとつの凶器を取り出した。


佐伯涼太

……スタンガン!
やっぱりね!


 サイドキックで西崎のスタンガンを蹴り飛ばす。


 涼太の身体が温まってきた。


 ギアを上げて右足を高く掲げ、垂直に振り下ろす。


 踵落かかとおとしが直撃。


 鎖骨の折れる嫌な音が響いた。



西崎篤史

ぐあああああッ!



 西崎が激痛にうめき崩れ落ちる。


 そこで勝負はついた。



佐伯涼太

……ありゃ?
圧勝だ。
もう終わっちゃった。



 冷静に残心ざんしんして構えを解く。


 小物扱いに悩む男だが、天野が「足技だけなら自分より上」と称するほど強い。



佐伯涼太

やり過ぎちゃったかな……。
西崎先生、大丈夫ですか?



 西崎は苦しげに息を吐いた。


 憎しみを込めて睨みつける。


西崎篤史

き、君は、警告もなしに人を蹴るのか……!?
年寄りをいたぶり過ぎだ!

佐伯涼太

だって西崎先生……。
サーフィンとかやってますし。
スタイルも健康的ですし。
喧嘩も強いのかと思ったんですけど。

西崎篤史

僕はもう50を越えてるんだぞ!
ただの教授だ!
喧嘩が強いはずないだろ!?


 涼太はさすがに反省した。


 相手が『殺人犯』と思い、うっかり本気を出してしまった。


 西崎はただの素人だ。


 空手の有段者が蹴りまくって良い相手ではない。


 それでも「ここは勇二のように決める場面だよね」と思い、偉そうに言い放った。


佐伯涼太

西崎先生……。
あなた、眞下先生を殺しましたよね。
人殺しには容赦しないってのが、僕たちのポリシーなんですよ。


 西崎は呆れたように口を開いた。


西崎篤史

何を言ってるんだ……。
僕は眞下さんを殺してはいない……。
君も知っている通り『アリバイ』があるだろう……。

佐伯涼太

……あれ?
そうでしたね。
ううん?
あっれー?


 小首を傾げる。


 確かに西崎には鉄壁てっぺきともいえる『アリバイ』がある。


 涼太は「ぽん」と手を叩いて言った。


佐伯涼太

じゃあアレですかね。
何かのトリックを使って刃物を遠隔操作したんですかね。
それで眞下先生を刺殺したとか。

西崎篤史

バカなことを言うな……。

佐伯涼太

まぁそうですよね。
そんなものあるワケない。
じゃあなんで『殺害現場』に侵入しようとしたんですか?



 西崎はその問いに答えない。


 苦しげに顔を落とすだけ。


 涼太は小首を傾げながら周囲を眺めた。


 まだ警官は戻って来ない。


 住宅街にあるのは涼太と西崎の姿だけ。


 破れたキープアウトテープが風に揺れている。



佐伯涼太

(……あれ? 『ゴキブリ』を潰したのに事件が解決しないじゃん。勇二は何を考えてるんだろう?)




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つばこ

【こんな西崎教授はイヤだ】
 
西崎教授「クククッ…! 天才クソ野郎の参謀め! 見せてやろう! 数ある『悪魔の実』の中でも最強と恐れられる『マシャマシャの実』の能力を…!」
涼太「ヒィッ!? ぼ、僕の顔が福山雅治になっちゃった! 集団左遷されちゃう! 助けてあんちゃん! こうなったら僕も本気を出すしかないね!」
西崎教授「何っ!? まさかそれは…! 伝説の悪魔の実『チャラチャラの実』の能力…!?」
 
激戦はまさかの能力バトルに発展!
探せ! この世の全てを長崎においてきた!
2人の福山雅治はグランドライン(大村湾)を目指し桜坂を歌い続ける! 世は正に大海(後略
 
 
そんなこんなで事件もクライマックス突入です!
天野くんはいったい何を考えているのか!?
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!∠( ゚д゚)/

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コメント 22件

  • まこと

    つばこさん、色々吹っ飛びました(TT)

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  • ゆんこ

    福山○治引っ張るねwww

    ワロタwwww

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  • 永愛

    カッコよく蹴りを決めたのに、「ううん?あっれー?」で全て台無しだよ涼太・・・ww
    やっぱりメスブタちゃんが1番怪しいと思うんだけど・・・天野くんは何を考えてるんだろう?

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  • ぷに

    警察も全員行かずに一人くらい残ればいいのに。

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  • しずく

    集団左遷笑笑

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