天野は極悪の笑みを浮かべ、ゆっくり会議室を後にした。



 廊下には『天才クソ野郎チーム』の面々が集結している。



 固唾かたずを呑みながら天野の『ブラフの発表会』を見守っていたのだ。



佐伯涼太

ね、ねぇ勇二……。
あれは何を狙ったのさ?



 涼太が青ざめた表情で尋ねる。


 天野は軽く一瞥いちべつすると、


天野勇二

テラスに行くぞ。
メスブタと合流しよう。
詳しい話はその後だ。


 堂々と歩き始めた。


 チームの仲間たちも慌てて追いかける。


 富樫が興奮したように口を開いた。


富樫和親

先ほどの西崎教授の『失言』……。
あれは『僕たちの尾行を知っていた』ということですよね。
昨晩の段階で知っていたんでしょうか?
だからあえて、西崎教授は関係者を歌舞伎町かぶきちょうに集めた……?


 涼太が首を横に振る。


佐伯涼太

いや、それはありえないよ。
教授が僕たちのLIMEライムを覗き見れるワケがない。
須田教授が僕の尾行を見破れたとも思えない。
仮に西崎教授が富樫くんの尾行を見破っても、須田教授と権藤教授を呼ぶ理由がわからないでしょ。

富樫和親

そうですよね。
僕も尾行がバレていたとは思えません。
西崎教授はそんな素振りをまるで見せなかったんです。


 涼太と富樫の会話に前島も参戦する。


前島悠子

さっき師匠は

『全ての謎は解けている』
『犯人の正体も見えている』


……と言ってましたよ。
涼太さんたちはご存知ないんですか?


 涼太と富樫は仰天して叫んだ。



佐伯涼太&富樫和親

す、全ての謎が解けているぅ!?



 天野の腕を掴んで呼び止める。


佐伯涼太

ど、どういうことさ!
僕たちはまるで解けてないよ!
犯人の正体なんかさっぱり見えない!
勇二はどんな情報を手にしたのさ!?


 天野は何事もないように言った。


天野勇二

ちょっと須田の自宅に行ってな。
そこで興味深い情報を入手したんだ。
須田の家内が夕方前に家を出た。
そんな目撃証言があるんだよ。

佐伯涼太

す、須田教授の奥さん!?
なにそれ!?


 涼太が愕然がくぜんとした表情を浮かべる。


 昨晩、須田の尾行を担当したのは涼太自身だ。


佐伯涼太

須田教授は間違いなく『18時過ぎ』まで大学にいたし、真っ直ぐ家に帰ったよ!
そして『20時半』に奥さんを残して出かけて、歌舞伎町で西崎教授たちと合流したんだよ!?

天野勇二

ところが目撃証言は真逆なんだ。
むしろ出かけたのは妻のほうだと言っていた。
お前の証言と矛盾むじゅんするんだよ。

佐伯涼太

え、えぇっ!?
それはウソでしょ!
須田教授は鍵もかけずに出かけたのに!
家の明かりも点いたままだった!
どう考えても自宅に人を残してたよ!
その目撃証言はおかしいって!

天野勇二

そうなる。
ならば、この矛盾むじゅんから導かれる解はなんだ?


 涼太は呆然と黙り込んだ。



佐伯涼太

(……な、なんでぇ? どういうこと? 僕が須田教授の尾行をミスったの?)



 昨晩の尾行を思い浮かべる。


 天野は会議室で「須田の替え玉がいた」とプレッシャーをかけていたが、その言葉が『ブラフ』であることは涼太が一番理解している。


 須田は間違いなく18時過ぎまで大学に残っていた。


 自宅に帰ったのも須田本人で間違いない。



佐伯涼太

(『尾行』も『張り込み』もミスってるはずがない。僕は完璧に須田教授の自宅を見張ってたんだ)



 須田の帰宅後。


 涼太は玄関だけではなく、あらゆる出入口を完璧にマークしていた。


 人が出入りした気配はなかった。


 須田は間違いなく自宅にいた。


 おまけに須田は外出する時、部屋の明かりを消さなかった。


 施錠せじょうさえもしなかった。


 涼太はそれで『須田の家内を自宅に残している』と思っていたのだ。



佐伯涼太

うわ、どういうことよ……。
犯人の見当すらついてないのに、教授たちの行動が意味不明すぎる……。

須田教授の奥さんが出かけたことが重要なの?
マジで意味わかんない。
なんでこの状況で勇二は犯人がわかっちゃうのさ……。



 混乱する涼太たちを無視して、天野はいつものテラスに上がった。


 まだ牧瀬の姿はない。


 椅子に座り、のんびりタバコを吸い始める。


 富樫はその姿を見ながら涼太に囁いた。



富樫和親

さっぱりわかりませんね……。
天野さんはどこで犯人に気づいたんでしょう?

佐伯涼太

こんなのわかるワケないよ。
凡人の僕にはまるで理解できない。
むしろクソ野郎の『ブラフ』じゃないのかと思うね。

富樫和親

天野さんは確実に西崎教授……。
そして須田教授を『犯人』だと疑ってますよね。

佐伯涼太

うん……。
でも、2人が潔白シロだってことは、僕たちが証明できるんだよねぇ……。



 2人は互いの顔を見つめてため息を吐いた。


 須田と西崎には鉄壁てっぺきともいえる『アリバイ』がある。


 涼太と富樫がしっかり『尾行』していたからだ。


 そこで前島が口を開いた。



前島悠子

あの涼太さん……。
ちょっと、訊いてもいいですか……?



 前島の顔はどんよりと曇り空。


 実のところ、前島は『殺人事件』のことなんかどうでもいい。


 それよりも重要な問題があった。


佐伯涼太

……うん?
いいよ。
どったの?


 小首を傾げながら尋ねる。


 前島は重い口調で言った。


前島悠子

あの……。
『メスブタ』って、どういうことですか……?
師匠が『メスブタを飼う』と言い出してるんですが……。


 前島は可哀想なほど落ち込んでいる。


 涼太はその反応で気づいた。


佐伯涼太

うぷぷ……。
もしかして、勇二のLIMEを見たの?

前島悠子

見ましたよ。
なんですかアレ。


 げんなりと肩を落とす。


 涼太は腹を抱えて笑い出した。


佐伯涼太

ぎゃはははっ!
やっぱり前島さんが落ちてる!


勇二!
ちゃんと説明してないでしょ!?
前島さんに刺されるよ!


 天野は呆れたように首を傾げた。


天野勇二

いや、俺は説明したんだがなぁ。
メスブタを飼うって。

佐伯涼太

あはは!
それは説明になってないよ!
ダメだよ勇二ぃ。
2人は交際してるんだからさ。
ちゃんと恋人カノジョである前島さんの気持ちも考えてあげないと。

天野勇二

だがメスブタは飼うんだ。
俺様はあれを飼いたい。

前島悠子

師匠はこればっかりなんです。
恋人カレシの発言じゃありませんよ。
もう交際破局の危機です。


 涼太は仕方なく説明してあげることにした。


佐伯涼太

『メスブタ』ってのはさ、前島さんが考えてるのとはちょっと違うんだよ。
どうせあれでしょ?
ムチで叩かれたり、ロウソクを垂らされたり、身体を縛られることに快感を覚えちゃったりする変態ドマゾな女の子』を想像してるんでしょ?

前島悠子

それ以外に何があるんですか。

佐伯涼太

そうじゃないんだ。
まぁ、勇二は『ご主人様』になるんだけど……。

前島悠子

ご、ご主人様ですって!?
やっぱり変態じゃないですか!

佐伯涼太

違うってば。
メスブタはただの新入生の女の子なんだよ。
いや、ただの女の子じゃないか。

前島悠子

うぇぇん!
やっぱり『人間』なんだ!
私はまだ『ブタさん』という可能性を捨ててなかったのに!

佐伯涼太

国産の女の子でさぁ。
これがまた変わってて……。


 涼太の言葉が終わる前。


 1人の女性がテラスへの階段を駆け上がった。


 清楚せいそなオーラを放つアイドル顔負けの美人。


 男子であれば誰もが二度見してしまうほどの魅力的なスタイルの持ち主。


 牧瀬こと『メスブタ』の帰還きかんだ。



牧瀬美織

……あぁっ!
ご主人様ぁ!
会いたかったですぅ!



 前島は牧瀬を見て声にならない悲鳴をあげた。


 涼太は「ただの女の子じゃない」と言っていた。


 確かにこれは『ただの女の子』じゃない。


 とびきり可愛くてスタイル抜群で色気もある上玉の女の子だ。


前島悠子

うぐぅ!
そういうことですか!
これは『ただの女の子』じゃないです!


 天野は嬉しそうにメスブタを出迎えた。


天野勇二

メスブタよ。
待ちびたぞ。
長い事情聴取じじょうちょうしゅだったな。
さぞかし辛かっただろう。

牧瀬美織

はい……。
でもご主人様に情報をお渡しするため、あえて粘って頑張りました。

天野勇二

素晴らしい心がけだ。
褒めてやろう。

牧瀬美織

ありがとうございます!
ご主人様!


 前島が「バタン」とテーブルに突っ伏した。


 苦しげに悶絶もんぜつしている。


 涼太は「フォローしてあげようかな」と思ったが、面白い展開になりそうなのでスルーすることにした。


天野勇二

それでメスブタよ。
『報告したいこと』とはなんだ?


 牧瀬はうるんだ瞳で天野を見つめた。


 さすがに1日も警察に拘束され、長い尋問を受け続けた疲労が見える。


 それでも天野のところにやって来た健気けなげなメスブタだ。


牧瀬美織

やはり警察には『尾行』と『張り込み』のことを話すしかありませんでした。
どうせ隠し通せるものではありません。
ありのままをお伝えしました。

天野勇二

ああ、それでいい。
別に俺たちが殺したワケじゃないんだ。
そのことは話しても構わないさ。
『不法侵入』『窃盗』のことは話したのか?


 牧瀬は悲しげに首を横に振った。


牧瀬美織

それは隠しました。
私はもちろんのこと、涼太さんにもご迷惑がかかります。
眞下先生には申し訳ないことをしてしまいました……。


 涼太がそれを聞いて安堵あんどの息を漏らした。


 実のところ『不法侵入』と『窃盗せっとう』の件がどうなるのか、涼太はずっと心配していたのだ。


 なるべく早めに眞下の自宅、もしくは遺族に盗んでしまった貴金属などを返却する必要がある。


 牧瀬は自らの腕を指しながら言葉を続けた。


牧瀬美織

私の身体や髪の毛に、眞下先生の『血液』が付着していないか。
かなり細かく調べられました。

しかし私が『張り込み』を開始したのは18時。
LIMEの記録にも残っております。
眞下先生の死亡推定時刻からは微妙に外れているようで、私の身体からも血液反応は検出されませんでした。


 天野は安堵あんどしたように頷いた。


 警察が牧瀬をどのように扱うのか。


 それが今回の事件における重要なポイントだ。


 腕組みをしながら思案する。



天野勇二

(警察はメスブタの身体から『眞下の血痕けっこんを見つけ出すことができなかった……。どうせ遺体からも『DNA』や『毛髪』を検出できなかったのだろう。そうなればメスブタを『殺人犯』として立件するのは不可能に近いな……)



 眞下は『刺殺』されており、部屋中には『血液』が飛び散っていた。


 それだけ出血すると、必ず『返り血』が犯人の身体に付着する。


 この痕跡こんせきを隠すのは容易ではない。


 例え衣服を変えたとしても、肉眼では確認できないほどの微細な血液が身体のどこかに付着してしまう。


 どれだけ身体を洗い流しても無駄なこと。


 優秀な科捜研かそうけんは最新の検査薬を使って血痕けっこんを見つけ出すのだ。



天野勇二

それを聞いて安心したよ。
お前が犯人として疑われないか。
その点が気がかりだったんだ。
警察はお前を『ただの第一発見者である』と断定したんだな。


 牧瀬が大きく頷く。


牧瀬美織

そうなんです。
警察も私に『犯人だと疑うことはない』と伝えてくれました。
だからこそ私の『張り込みの証言』も信用していただけたんです。


 天野はかすかに瞳を細めた。


天野勇二

『張り込みの証言』……。

それはお前が18時から張り込みを開始したこと。
そして20時に『犯人』が眞下の自宅から逃亡したこと……。
これで間違いないな?
つまり警察は、

『犯人は殺害現場に残り20時に逃亡した』

と考えているんだな?

牧瀬美織

はい。
その通りです。
20時に眞下先生の自宅を飛び出した人物……。
それが『犯人』だと思われます。


 天野は満足気にタバコの煙を吐き出した。


 どこか感心したように頷く。


 心の中で呟いた。



天野勇二

(……見事だ。実に優秀なメスブタだ。これで『LIMEトリック』が完成した、というワケか……)





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つばこ

担当さん「ノベルでは『メスブタ編』。マンガでは『ゲス不倫編』。偶然とはいえ物騒なタイトルが同時進行してますねぇ」
つばこ「せやなぁ(*´∀`)」
 
ここで宣伝です!(脅威の3話連続宣伝)
ただいま『マンガ版・天才クソ野郎の事件簿』では、つばこ書き下ろしエピソード『彼が上手にゲス不倫する方法』が連載中!
しかも全話パック購入50%キャンペーンも実施中!
めっちゃお得です!!!
期間限定となりますのでお見逃しなく!
ノベルでは表現が難しいネタをいっぱい入れました!
カッチョイイ天野くんとどうしようもない涼太くんに注目してください!!!
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!ヾ(*´∀`*)ノ

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コメント 22件

  • モンピア

    天野くん「だがメスブタは飼うんだ。
    俺様はあれを飼いたい。」

    なんかすごいダダのこね方www

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  • ニル

    つばこさんすげえなぁ(n回目)

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  • 子熊

    やっぱりメスブタは、敵である教授らが送り込んだ、スパイ的な役割のようだね(๑´Д`ก)

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  • カボルイス世ハピ天クソ契約

    うーん、メスブタが実行犯てことはなさそうだな。ただ共犯者の可能性はあるわけで…てかそうじゃないと女が2人出てないからなぁ。謎の女2人ってのが須田奥さんとメスブタってのが1番ありそうだし。

    ただいくつも違和感があって、須田奥さんが天野くんにボロを出さなかったこと。
    実行犯では無かったとしても、人殺しに加担する人間を天野君が「飼いたい」と思うか?ということ。

    トリックもなんかよく分からんし…明かされるのが楽しみだなぁ…

    メスブタが晴れて仲間になるにしても、ならないにしても、前島さんの後日談も楽しみだよ 笑

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  • 昆布

    メスブタやりおる

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