天野は歌舞伎町かぶきちょうの喫茶店で涼太たちと合流。


 コーヒーを飲みながら互いの情報を交換することにした。



天野勇二

LIMEライムでも送ったが、本当に眞下が殺されていた。
刺殺しさつだ。
さすがにこれは予想していなかった展開だ。



 天野が嫌そうに吐き捨てる。


 涼太も同感とばかりに頷いた。


佐伯涼太

マジありえないよ。
まさか眞下ました先生が殺されるなんて……。

眞下先生。
ご冥福をお祈りします。
別に死んでほしいとまでは思ってなかったんです。

天野勇二

こんな殺人事件に横槍よこやりを入れる趣味はない。
だが、俺たちはすでに『巻き込まれている』といえるだろう。
とりあえず全員の情報を共有するぞ。


 そう言って富樫を見つめる。


 富樫はメモを取り出しながら口を開いた。


富樫和親

では僕からいきます。
西崎にしざき先生の尾行の様子です。
大学を出た後は歌舞伎町のキャバクラに直行。
須田すだ先生が来るまで楽しそうに飲んでいたと思われます。

天野勇二

お前は権藤ごんどうの来店後に店へ入ったはずだ。
なぜ西崎が『楽しそうだった』とわかる?

富樫和親

僕がお店に入った時、西崎先生のテーブルは大盛り上がりだったんです。
空のシャンパンも置かれてましたし、西崎先生は女の子の肩を抱いてご機嫌でした。


 涼太が補足するように言った。


佐伯涼太

僕がお店に入った時も、西崎先生は上機嫌で女の子を口説いてたね。
それに引き換え権藤先生は全然ダメ。
女の子と会話しないで俯いてばっかり。
2人のテンションはまさに真逆だったね。

天野勇二

なるほど……。
須田の様子はどうだった?

佐伯涼太

須田先生には特に不自然な様子がなかったよ。
大学を出ると真っ直ぐ帰宅。
愛妻あいさい料理でも食べて寝るもんだと思ってたけど、夜になったら車でお出かけ。
歌舞伎町のキャバクラで西崎先生たちと合流だね。

天野勇二

出かけたのは何時だ?
寄り道はしなかったのか?


 涼太はLIMEを確認して言った。


佐伯涼太

夜の20時半だね。
寄り道なんか一切しなかったし、急いでる様子もなかった。
車に乗って歌舞伎町に来たってことは、朝まで飲むつもりなのかな?


 天野は大きく頷いた。


天野勇二

それが最初の『違和感』だな。
権藤も大学を出ると車で歌舞伎町に向かいやがった。
なぜ車で来たんだ?
酒を飲むつもりならタクシーでも使えばいいのによ。

佐伯涼太

そうだよねぇ……。
代行だいこうでも頼むつもりかな?
タクシーのほうが便利だと思うけどねぇ……。

勇二のほうはどう?
権藤先生は女性と密会みっかいしてたんでしょ?


 天野は顔を歪めながらタバコを取り出した。


天野勇二

ああ、『謎の女』と接触していたよ。
マスクやサングラスを装着。
食事や酒にも一切手をつけない。
歩き方を見る限り『老人』ではないと思うが、正体は不明だ。

佐伯涼太

『女性』ってのがおかしいね。
教育学部の教授きょうじゅは男性だけ。
准教授じゅんきょうじゅも眞下先生だけ。
教育学部は呆れるほどの『男社会』なのにさ。

天野勇二

まったくだ。
眞下以外の女はまるでマークしていなかったな。

佐伯涼太

教育学部の女性講師は何人も存在するけど、『裏口』に関与しているとは思えないんだよね……。
他学部の女教授が絡んでるとも考えにくいよ。

富樫和親

顔を隠しているのも気になりますね。
居酒屋に入って何も飲まないなんて普通じゃありません。

天野勇二

完全に『正体を隠し通す』つもりだったのだろう。
手袋すら外さなかったからな。

佐伯涼太

居酒屋でお酒を飲まないなんて何が楽しいんだろ?
須田先生はあまりキャバクラに滞在しなかったけど、すぐにシャンパンを飲み始めたのにさ。


 富樫が頷いて補足する。


富樫和親

須田先生が来た時は驚きましたね。
しかも西崎先生はすぐに須田先生を自分のテーブルに呼んだんです。
あれはあの場所で『待ち合わせをしていた』としか思えません。


 天野は静かに富樫を見つめた。


天野勇二

そこが重要だ。
3人が揃ったのは偶然じゃないんだな?

富樫和親

はい。
偶然のはずがありません。
待ち合わせをしていたはずです。

天野勇二

まぁ、同学部の教授が歌舞伎町のキャバクラに偶然集まる可能性なんて皆無かいむに等しいか……。
そうなると、困った『結論』が俺たちの前に現れる。


 天野たちは頷いて『結論』を見つめた。


 涼太がそれを言葉に変える。



佐伯涼太

眞下先生を殺したのは……。
僕たちがマークしていない『第三者』である。
……ってことだよね。



 天野が言葉を継ぎ足す。


天野勇二

おまけに俺たちがマークしていた連中が、示し合わせたかのように歌舞伎町に集結しやがった。
まるで『アリバイ』を俺たちに証明させるかのようだ。
俺たちの『尾行』と『張り込み』まで知っていたのではないか。
そんな気すらしてくるよ。


 涼太がスマホを取り出して言った。


佐伯涼太

今回は『LIME』を導入してみたじゃん。
これがまずかったんじゃない?

天野勇二

グループは分けている。
俺たち4人以外は見ることができないぜ。

佐伯涼太

わかんないよ。
敵は凄腕すごうでの『スーパーハッカー』かもしれない。
僕たちのLIMEに潜り込んで尾行に気づいた、とかさ。


 天野は静かに首を横に振った。


天野勇二

LIMEのセキュリティはそこまで甘くない。
それにLIMEを使い始めたのは尾行を開始してからだ。
しかもメスブタの『張り込み』があったんだぞ。
それをどうやってかいくぐった?
メスブタは殺人犯を見過ごすほどの間抜けなのか?


 涼太は困ったように肩を落とした。


佐伯涼太

いや、牧瀬さんは優秀だよ。
経験を積めば僕を超えると思う。
それだけの才能があるよ。

天野勇二

だろうな。
俺様もそんな気がする。

佐伯涼太

じゃあ勇二はどう考えてるの?


 天野はゆっくりタバコの煙を吐き出した。


 紫煙しえんを眺めながら呟く。



天野勇二

決まっているさ。
ひとつしかない。
だが、少しばかり想定外だな。



 何かに気づいたような呟きだ。


 涼太と富樫は小さい声でささやきあった。


佐伯涼太

ねぇ……。
また勇二がワケのわからないことを言い出したよ。
なんだろうね?

富樫和親

まるでわかりませんね。
何をお考えなのでしょう。

佐伯涼太

相変わらず天才クソ野郎の頭脳は理解できないね。
平凡な僕たちじゃさっぱりだよ。


 涼太は仕方なく尋ねてみた。


佐伯涼太

ねぇ勇二。
それってどういうこと?
僕にも教えてほしいなぁ。

天野勇二

今は言葉に出すほどの根拠こんきょがない。
お前たちに教えてやる必要もないな。
自分で考えろ。


 涼太と富樫はがっくりと肩を落とした。


佐伯涼太

はぁ……。
勇二は冷たいなぁ。
そもそもなんで眞下先生が殺されたんだろ?

天野勇二

そう、それだ。
一番わからないのはそれなんだ。


 悔しげに言葉を続ける。


天野勇二

眞下を殺害する『動機』が見えない。
どれだけ推理を飛ばしても、必ず動機という名の壁にぶち当たる。
『裏口』に絡んでいるのか。
まったく関係ないのか。
それすら判断できない。

佐伯涼太

そうだよねぇ……。
何せ僕たちは『裏口』の証拠すら掴んでないんだ。
眞下先生をこの段階で消す必要性を感じない。
むしろ眞下先生には鼻で笑われたぐらいなのにさぁ……。



 昼間の様子を思い浮かべる。


 眞下は天野の挑発を軽く笑い飛ばし、「天才クソ野郎の調査も案外大したことはない」とまで言っていた。


 天野たちは眞下が抱える『秘密』に迫ってはいない。


 そう告げたにも等しい発言だった。



 天野はしばらく黙ってタバコを吸っていたが、思い出したように口を開いた。



天野勇二

……涼太よ。
この『裏口』はどこから始まったんだ?
確か『やかましい眞下の弱みを握ろう』と、俺がお前に提案したんだったよな。

佐伯涼太

かなり前の話だね。
2人で色々調べてみたね。

天野勇二

その過程でお前が『眞下が裏口に関与している可能性がある』と言い出したんだ。
どこでそんな疑念ぎねんを入手したんだ?

佐伯涼太

そういえばそうだね。
どこでそう思ったのかなぁ……。



 タバコを吸いながら記憶を辿たどる。


 『裏口』の噂は様々な場所で耳にした。


 何人もの教育学部の女子大生から、コンパの席やベッドの上で教えてもらった。


 実際に関与している疑いのある学生に接触し、その反応から黒いと気づいた。


 だが最初の『疑念』はどこから生まれたのか。


 涼太は記憶を辿り、1人の男の発言を思い出した。



佐伯涼太

……うわっ。
やばい。
思い出したよ。
1人の教授がチラリと口走ったんだ。
確か講義の時間だった。
こんなことを言ったんだ。



 タバコの火を揉み消す。


 興奮したように口を開いた。



佐伯涼太

教育とは最高に儲かる『ビジネス』でもある。
君たちも参考書をローンで売りつけるバイトをすれば、そのことに気づかされるだろう。
だけど、決して金儲けの道具として『教育』を捉えてはいけない。
うちの教授たちは金を積まれたら首をうっかり縦に振ってしまう癖があるが、君たちはそうならないようにな。


……ってさ。



 誰かのモノマネをしながら言葉を続ける。



佐伯涼太

こんな感じのことを喋ったんだ。
たぶんちょっとしたジョークのつもりだったと思う。
みんな笑ってたけど、僕は引っかかったんだよね。
その発言を聞いて何か「ピーン」ときたんだ。
それで調査を開始したのよ。

教育学部の友達に聞き込み。
推薦入学者の親の年収。
過去の偏差値や内申点も調べた。
それらの内容を吟味ぎんみして、教育学部には『裏口』が存在する可能性が高いと思ったワケよ。



 富樫は感心して涼太を見つめた。


 見事すぎる推理と調査。


 ただの女好きの『チャラ男』にはできない芸当げいとうだ。



天野勇二

それを口走った男は……。
『西崎』だな。


 涼太は指を「パチン」と鳴らした。


佐伯涼太

正解!
そう、西崎先生が言ったんだ。
何の講義かは忘れちゃった。

天野勇二

西崎が『裏口』を把握はあくしていた可能性がある……。

だが関与していたのか。
黙認もくにんしていたのか。
ただの『ジョーク』だったのか。
どれも決定打に欠けるな。

くそっ……。
情報が足りなすぎる。
現段階では手詰まりだ。


 富樫がおずおずと尋ねた。


富樫和親

そうなると追加で調査が必要ですよね。
西崎先生をさぐりますか?

天野勇二

その必要があるだろう。
富樫は西崎を徹底的に洗え。
涼太は権藤を担当してくれ。
アイツの金の使い道が知りたい。

佐伯涼太

オッケー。
そうなると勇二は須田先生にアタックするってことね。

天野勇二

そうだ。
『裏口』が組織ぐるみである以上、学部長ボスである須田が関わっていないとは思えん。
ひとつ須田にプレッシャーをかけてやる。


 涼太は神妙しんみょうな顔をしながら言った。


佐伯涼太

今回はちょっと気乗りしないなぁ……。
僕たちは直接被害を受けてないし、依頼さえ来てないんだもの。
それに眞下先生が殺されたのは、僕たちが『裏口を調べ始めた』ことが原因なのかもしれないでしょ?

天野勇二

そうだな。
俺たちが眞下にプレッシャーをかけた。
だから消された。
その可能性もありえるな。

佐伯涼太

さすがにそれは眞下先生に悪いよ。
こんなことになるなら調べるんじゃなかった。
今回は手を引いてもいいんじゃない?
僕たちが動くことで誰かが『消される』のはイヤだよ。


 涼太は及び腰だ。


 それも自然な反応だろう。


 天野は意外にも素直に頷いた。


天野勇二

その気持ちも理解できる。
俺たちの存在が直接的な動機ではないとしても、間接的に殺人に関与した可能性が高い。
あまり好ましい気分ではないな。


 顔をゆがめて呟く。


天野勇二

だがそれでも、俺様はもう立ち止まるつもりはない。
『殺し』に手を染めた外道を見逃してやるほど、俺様の『悪』は汚れちゃいねぇんだよ。

必ず外道共の尻尾を掴んでやる。
そして完膚かんぷなきまでに叩き潰す。

俺様という『極悪』を甘く見たことを地獄の底で後悔させてやるのさ。


 天野の顔は怒りに満ちている。


 それは眞下を殺害した人間への怒り。


 決して揺るぐことのない憤怒ふんぬ


 涼太と富樫はそれを見て互いに目を合わせた。


佐伯涼太

勇二がこれだけ言うんじゃ、僕も降りられないね。
天才クソ野郎を信じようか。

富樫和親

はい。
僕も天野さんを信じます。
地獄の底までお供します!

佐伯涼太

あはは。
地獄の底まで同行したくはないなぁ。
でも勇二、僕も天才クソ野郎の『作戦』を信じてるよ。

天野勇二

ああ、任せておけばいい。
この天才クソ野郎にかかれば全てうまくいくからな。


 天野は力強く頷き、頼もしい2人の仲間を見つめた。





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つばこ

★今のところ判明している教育学部の人たち★
 
『須田教授』
教育学部の学部長。天野くんがとことん疑っているところを見ると、恐らく結構な影響力を持つ人なのでしょう。
『西崎教授』
サーフィンが趣味のイケオジ教授。いったいどんな顔をしているのでしょう。モデルは福山○治さんです。
『権藤教授』
バツ2の中年教授。だらしない性格の持ち主のようです。この人の行動は不審すぎてもはや逆に怪しくないですね。
『眞下准教授』
死亡。
 
さぁ、まだ物語は始まったばかり!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!( ̄ー ̄)bグッ!

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コメント 25件

  • rtkyusgt

    どうしてもメスブタを疑ってしまう

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  • ゆんこ

    君たち、最高にかっこいいぜ!

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  • まこと

    天野くんは汚れなき極悪☆

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  • モンピア

    極悪ながら正義であるクソ野郎ねぇ〜
    (←文章に起こしたら想像以上にヤバいwww)

    やっぱメスブタ犯人説かな
    西崎と付き合ってたりして、、、
    天野を貶めるために演技を?
    ふーむ分からんw

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  • ポンデリング

    眞下先生は確かに亡くなったけども、既に紹介文が”死亡”の1単語だけってのは可哀想すぎませんかつばこさん…(^ω^;)

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