渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

映画ロケ地探訪4『彼のオートバイ.彼女の島』(1986) その4

2021年12月13日 | open



「彼女の島」を二人でオートバイで
出てからツーリングを続ける主人公
コオとミーヨ。
彼らは何度となく分かれては合流する
気まぐれで戯れの走行をして走って
来た。
そして、最後となる「分かれ道」に
到着した。

コオの横を日産ディーゼル(現
UDトラックス)のセミトレーラ
が走り抜けていく。大きな丸太
を満載している。

ミーヨも止まる。


「この先の橋のたもとにドライブイン
がある。
そこで待ってる」

コオはミーヨに言う。


ミヨーは
「私が待ってる」
と言い、アクセルを開いて加速しな
がら旧道を駆け下りて行く。


本線に合流するコオ。3度目の
分離合流走行の合流地点は「橋の
たもとのドライブイン」だ。


トンネルをアクセル全開。
前傾姿勢を取り伏せて加速して行く。


2012年12月現在の同地点。


そして、旧道を疾走するミーヨの
カワサキと上の新国道を行くコオ
が高低の位置で同時に走る。


場所はここ。


だが、これは非現実的だ。
まず、第一に旧国道184号のこの
旧御調郡木ノ庄町字畑から御調町
字諸原の区間は難所であり、旧道
は離合不能の幅員かつ超ヘアピン
があるため、大型セミトレは第五
輪荷重に関係なく全長からして
通行が不能だ。
多分だが、丸太満載のUDセミトレ
はコオを通り過ぎるシーンの後に
ミーヨの顔アップでカットが変
わっているので、コオの横を通り
過ぎた先で止まり、バックで戻し
て新国道に出してセミトレをいな
くさせてからミーヨ(代役は堀
ヒロコさんか)がオートバイで
走らせた撮影方法と推察できる。

2021年現在の旧国道184号。
広島県廿日市市吉和から島根県へ
抜ける離合不能の国道のように
いわゆる酷道だ。
そして、大曲りと極小ヘアピンが
ある。絶対に大型セミトレの走行
は不能だ。




このあたりから二人の上下二連走
が撮影された。


旧国道はあの上から降りてくる。


新国道の畑トンネルは1977に開通。
これは旧国道の標識。
ということは、これは1977年以前
の道路標識が残置されているという
事だ。
峠の坂道の途中では四輪車は普通車
でも離合できないので、この下り切
った地点で離合するための場所。
ここだけ一部幅員が広い。
あるいは、広島県や岡山県と島根
鳥取の県境の道路によくある四輪車
のチェーン脱着場だ。降雪の際には
チェーンがないと全く登れない程

の急こう配の旧国道だ。


現在この旧国道は、このエリアの民家
の人しか使わないだろう。




旧国道と新国道の合流地点。


新国道のトンネルを二つ抜けて、
コオはCB400フォア(ヨンフォア)
で右の新国道の坂を駆け下りて来た。


撮影場所の等高線入り地図。


この付近の詳細レポートは別項で
アップする。

新国道184号線を尾道方面の南から
北へ山を越えて駆け下りるコオ。




だが、この最後の分離走行のシーン
はあくまで映画作品の演出だ。
なぜならば、新道をあのアクセル開度
と速度で畑トンネルから北に走って
いったら、大曲りのコーナーを抜けて
コオのほうが遥かに先に到達する。

従って、どんなにミーヨが快速の
腕だとしても、このように二台が
重なるような時間帯は発生しない。
現実には。旧道はつづら折れで狭く
時間がかかる。
この図は「絵柄としての演出」と
いう映画上の創作である事が撮影
現地に行くとよく判る。


そうした事は映像作品上の表現と
しての演出なので齟齬には該当し
ない。
映画には映像マジックが多くある。
ここは現在の尾道市木ノ庄から
御調町諸原区間の国道184号線だ。
この北の先には現在は道の駅
みつぎがある。

しかし、映画は創作ファンタジー。
現実には「この先の橋」も無ければ、
「ドライブイン」も無い。
そこで映像ロケは一気に群馬県に
飛ぶ。
国道17号線ぞいの新三国大橋と
付近の有名なドライブイン「一美
(かずみ)」が出てくる。
一気にワンシーンで900kmの距離を
飛んだが、それはそれ。突っ込んで
はならない。「映像作品」なのだ。




ミーヨは来ていない。
おれのほうが先に着いたか、と
いう面持ちでコオはドライブイン
に入って行く。
ここからがこの映画のクライマッ
クスだ。




ミーヨが国道で観光バスを追い
抜かしてバスの乗客たちが驚く
シーンは角川春樹の意向により
大幅にカットされた。本作は
とんでもない量がカットされて
いる。
カットの理由は、同時併催の
角川春樹てこ入れ映画『キャ
バレー』の上映時間と合わせる
と予定時間枠をオーバーするから
とのことで、本作
の監督とスタッ
フや出演者を馬鹿にしたプロデュ
ーサーの意向内容
だった。
大林監督は「それならば本作品
で一番苦労したシーンを丸ごと
ごっそりカットしよう」という
事になった。30分ほども各シーン
がカットされては、本来ならば
映画としての体をなさない。
しかし、大林監督は編集効果で
見事に一編の叙事詩に本作品を
まとめた。
だが、役者は新人二人のど素人
が主役。演技は学芸会以下だ。
1983年当時を知る人たちは、
ドラマでの堀ちえみの「ぐずで
ノロマな亀」の演技を思い出して
もらえばいいだろう。
あれ系。
この映画で一番演技が上手かった
のは、何をおいても田村高廣だが、
このドライブイン一美でのトラッ
クの運転手役の泉谷しげるもなか
なか良い味を出している。

ドライブイン一美は国道17号の
峠のオアシスとして運送ドライ
バーや行楽客に人気があった。
現在廃業。
私は一度だけ高校時代に日光の
中禅寺湖行き
の同級生たちとの
二輪一泊ツー
リングの時に、男体
山のほうから
沼田まで下ってから
三国峠方面
に向かい、ドライブイン
一美に仲間と
立ち寄った事がある。
トラック
多し。店内は結構広い。
トイレはあんまし綺麗ではなかった。

なにより、新三国大橋が凄かった。
走っていると落ちそうで怖かった。
片側一車線複線だが道幅も狭く、

欄干も低い。

新があれば旧もある。
旧三国大橋は旧三国峠の谷にかかる
橋で、現在廃道。
この新三国大橋は140mほどで谷を
繋ぐが、廃道の旧道は約1km以上
かけてこの谷を渡るルートだ。

オフロードバイクでも現在は走行
不能。
山が崩れて道が消滅している
ようだ。

現場探検が好きな方は、ぜひとも
オフ車で現地探査を。夏にね(笑

現在の映画撮影地点。
「橋のたもとのドライブイン」


ドライブイン一美は廃業後は長らく
廃墟として朽ちるに
まかせていたが、
群馬県の有志たちが
リフォームと
屋外での飲食店舗、
幼児児童むけ
遊戯施設を設置して
なんとか復興
化をめざして活動して
いる。
この国道は17号だが、中山道では
ない。中山道は東京板橋から北上
して
群馬県高崎で左折して国道18号
して西進し、碓氷峠を登って軽井
沢を抜けて西に向かう。京都まで。
旧街道というのは海沿いは渡河し

ないとならないので、橋の無い明治
時代以前は山間部の街道を通るの
が一般的だった。ゆえに、幕末
の清川浪士隊も中山道で江戸から
京都に向かった。
ここ国道17号のドライブイン一美
跡地は、ズトンと東京からR17を

真北に直進したような位置にある。


栃木県日光から群馬県の新三国大橋
や長野県へは意外と近い。ただし、
ど外れた山の中だ。
広島県や岡山県などの緩やかな山岳
高原地帯とは違う。
もう山、山、山。山の穴、穴。



映画『彼のオートバイ.彼女の島』
(通称「カレカノ」)では、最初に
なだらかな広島県の三原北部の田園
地帯を走っていながら、少し尾道の
険しい山のトンネルのシーンを入れ、
そして群馬の谷深い山中のドライブ
インへのシーンへと上手く違和感
無いように映像を繋いでいる。
大林マジックが生きている。

この映画は俳優の演技を見る(と
いうか観るに堪えない)作品で
はなく、片岡義男の独白小説を
どのように大林宣彦監督が絵と
してまとめ上げたかを観る映画だ。

俳優の演技としては映画史上最低
ランキングに入るだろう作品だが、
映画の視覚効果としては成功作
だと感じる。

誰か、都内のコオのアパートの場所
と「けた下2.2M」のガード横にある
「道草」の場所を特定してくれ~。

S字のガード下と両側のガードレール
歩道があるのが特徴。
「けた下2.2M」
は実物表示かと思わ
れる。東急線独特の書き方。
ガードも
東急線独特の特徴あり。


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