牧瀬はすぐさま眞下ました准教授の調査に取りかかった。


 眞下は教育心理学の専門。


 法学部生である牧瀬にとっては関わりのない相手だ。


 眞下の講義も受講していない。


 まずは教育学部の知人から眞下の評判を聞き出すことにした。



牧瀬の女友達

眞下先生?
結構悪くない先生だよ。

牧瀬の男友達

講義もわかりやすいし、厳しくもないよな。



 知人からはそんな反応が返ってきた。


 他にも色々と尋ねてみるが、手に入るのは悪くない評判ばかり。


 学生からはそれなりにしたわれているようだ。


 牧瀬は自らの目でも確かめるため、実際に眞下の講義に潜り込んでみた。



牧瀬美織

(あれが、眞下准教授……)



 眞下の講義は評判通り。


 テンポ良く進み、生徒を飽きさせず、おまけに内容もわかりやすい。


 「真面目で品行方正な准教授」という印象しか受けない。


 いったい天野は眞下の何を探りたいのだろう。



牧瀬美織

(これでは眞下先生の正体がわからない。話しかけてみようかしら……)



 牧瀬は接触を試みることにした。


 講義が終わった瞬間に席を立ち、眞下のもとへ向かう。



牧瀬美織

あの、眞下先生。
ちょっとだけ、お話いいですか……?





眞下朋美

……あら?
あなたは教育学部うちの学生だったかな?

牧瀬美織

私は法学部1年の牧瀬といいます。
講義についてお伺いしたいことがあるんです。
ほんの数分ほど、お時間を頂けませんか?


 牧瀬は丁寧に頭を下げた。


 ビッシリと書き込んだノートも見せつける。


眞下朋美

ふぅん……。
悪くない心がけね。
でもあなたは法学を専攻しているのでしょう?
何か興味があったのかな?

牧瀬美織

はい。
私、教員免許も取りたいと考えているんです。
まだ将来のことを決めてなくて……。


 眞下は納得したように頷いた。


 法学部生であっても、必須単位さえ取得すれば教員を目指すことができる。


 少々遠回りな道のりになるが、そんな学生は珍しくもない。


 大学生になれば色々な分野に興味を持つ。


 様々な人生を模索もさくしてみたいものだ。


眞下朋美

まだ1年生ならそう考えるわよね。
どんなことが聞きたいの?

牧瀬美織

えっと、生涯学習しょうがいがくしゅうついての考え方なんですけど……。



 牧瀬は適当な質問を飛ばし、眞下の反応を確かめた。


 40代と思われる細身の女性。


 なかなか派手な顔立ちだ。


 かなりの厚化粧あつげしょうを塗りたくっており、『若作り』の努力があちこちに見受けられる。


 『男受け』するタイプの女性ではないだろう。




 しかし『准教授じゅんきょうじゅ』としての姿勢は見事なものだった。


 嫌な顔を見せずに牧瀬の質問に答えている。


 牧瀬自身も悪い印象を受けなかった。



眞下朋美

……ああ、そろそろ次の講義が始まるわね。
このくらいでいいかな?

牧瀬美織

はい!
貴重なお時間をありがとうございます。

眞下朋美

いいのよ。
熱心な学生さんは嫌いじゃないから。


 そう言って気さくな笑みを浮かべる。


 牧瀬は頭の中で天野の言葉を反芻はんすうした。



牧瀬美織

俺様の心理を読み、どんな情報を望んでいるのか推理し、希望通りの調査結果を用意しろ……。天野様は眞下先生のどんな情報を望んでいるのかしら……?)



 このままでは「眞下先生は優秀な准教授です」と伝えることしかできない。


 天野が望んでいる情報とは違う気がする。


 牧瀬は踏み込んだ質問を飛ばした。



牧瀬美織

あの、眞下先生……。
ちょっと話が変わるんですが、『学園の事件屋』はご存知ですか?



 牧瀬がその『ワード』を出した瞬間。


 眞下の表情が嫌そうに歪んだ。


 明らかな変化だった。



眞下朋美

それって……。
もしかして天野勇二?
『天才クソ野郎』のこと?

牧瀬美織

はい。
教育者として、彼のことはどうお考えでしょうか?


 眞下は憎しみに満ちた表情を浮かべ、吐き捨てるように言った。


眞下朋美

あれは『学園のダニ』ね。
大学の汚点ともいうべき最悪の問題児。
絶対に近寄っちゃダメよ。

牧瀬美織

そ、そうなんですか。

眞下朋美

ええ。
アイツの評判は最悪なの。
教育学部はもちろんのこと、他学部の教授たちもみんな嫌ってる。
どうして退学にしないのか本当に不思議。
あんな『ダニ野郎』を在籍させているなんてありえない。
いつか絶対に大学から追放してみせるわ。


 興奮して喋り続けている。


 顔を真っ赤にさせ、口からつばを飛ばすほどのエキサイトぶりだ。


眞下朋美

アイツは本当に下品げひん下劣げれつ卑劣ひれつな最低の悪人。
これまで何人もの学生が泣かされたり、殴られたり、退学に追い込まれたりしてるの。
そんな悪人がのさばっている大学なんて最悪でしょ?
人を何人か殺している、なんて噂まであるのよ。

牧瀬美織

へ、へぇ……。
それは知りませんでした……。

眞下朋美

そうね。
まだ1年生なら知らないかも。
だけど問題が表面化する前に追い出すべき。
医学部の教授には何度も進言しているんだけど、誰もが『事なかれ主義』で聞く耳を持たないのよ。
この間の『学長選挙』だってね……。



 牧瀬は苦笑しながら相槌あいづちを打ち続けた。


 生真面目な准教授だが、『天才クソ野郎』に関しては全く別の思想を持っている。


 眞下は興奮して天野をののしっていたが、予鈴よれいが鳴るとさすがに我に返った。



眞下朋美

……あらやだ。
喋りすぎちゃった。
それじゃ牧瀬さん。
また講義で会いましょう。


 眞下は急いで次の講義に向かった。


 牧瀬は眞下の話をメモにとり、納得したように頷いた。


牧瀬美織

(眞下先生は天野様のことを嫌っている……。きっと天野様も好ましく思ってはいないはず。それなら天野様は眞下先生の『弱点』を探せと命じたのかしら……。もしくは……)



 瞳を「キラーン」と輝かせる。



牧瀬美織

(私に『それを作れ』と、ご命令されたのかしら……?)



 牧瀬の『メスブタ』としての忠誠心ちゅうせいしんは天野の想定をはるかに超えていた。


 天野でも見抜けなかったが、牧瀬は恐ろしいほどの潜在能力ポテンシャルを秘めた女性だ。


 おまけに頭の回転も速い。


 ただの変態メスブタではないようだ。



牧瀬美織

(『弱点』を工作するなら、眞下先生のプライベートを把握するべき。帰り道を尾行して自宅を突き止めないと……)



 そんなことを考えながらキャンパスを歩いていると、



佐伯涼太

やっほー!
牧瀬さん!
こんなところで会うなんて奇遇だね!
調査は順調かな?



 涼太がチャラチャラしながらやって来た。


 相変わらず軽薄けいはくそのものといった笑顔を浮かべている。


牧瀬美織

はい。
眞下先生に接触して天野様の評判を尋ねてみました。
眞下先生は天野様をとてもお嫌いなんですね。
いわば天野様の敵。
天野様は眞下先生を追い出したいとお考えなのでしょうか?


 涼太は驚いて腕時計を見つめた。


 まだ牧瀬と別れてから2時間ほどしか経過していない。


牧瀬美織

それを前提として考えると、天野様は私に『眞下先生を失墜しっついさせる弱みを作れ』と命じられたのでしょうか?

しかし、お相手は女性。
これは少し厄介ですね。
眞下先生が男性だったら『簡単なこと』なのですが……。


 涼太は悩む牧瀬の姿を見て、彼女への評価が過小だったことを知った。


 眞下に接触した場面は見ていた。


 しかし、そこまで関係性を見抜き、眞下の『弱点』を工作することまで考えているとは。


佐伯涼太

(このメスブタちゃん、とんでもない策士さくしじゃん……! こりゃマジで使えそうだよ)


 涼太は即座に考えを改めた。


 感心しながら告げる。


佐伯涼太

こんな短時間でそこまで考えるなんて、牧瀬さんはなかなかやるね。
意外にも僕と気が合いそうだ。

牧瀬美織

いいえ。
私はそう思いません。
これっぽっちも思いませんが。


 涼太の心に何本かのトゲが刺さる。


 それを平然と投げ捨て、ヘラヘラと薄い笑みを浮かべた。


佐伯涼太

牧瀬さんの『見立て』通りだよ。
眞下先生は『天才クソ野郎』の敵に等しい。
別に直接何かしたワケじゃないのに、僕たちのことを毛ジラミのように嫌ってるんだ。

牧瀬美織

直接何かした訳ではない……。
それは本当ですか?
あそこまで毛嫌いするなんて、過去に何かあったのではないかと邪推じゃすいしてしまいます。

佐伯涼太

マジで何もしてないよ。
ただ、『教育学部』とはちょっとした小競こぜりあいをしたことがあってね。
眞下先生がやかましくなったのはそれからなんだ。

牧瀬美織

なるほど……。
やはり因縁いんねんがあるんですね?

佐伯涼太

そうなの。
別に眞下先生をいじめたワケじゃないんだけどねぇ。
だけど、とにかくうるさいんで『弱み』を握ろうと思ったんだ。
そこで、ひとつの『黒い噂』を掴んだ。

牧瀬美織

黒い噂……ですか。

佐伯涼太

うん。
眞下先生には『裏口入学』斡旋あっせんしている疑いがあるんだ。


 牧瀬は仰天ぎょうてんの表情を浮かべた。


牧瀬美織

あの眞下先生が!?
とてもそんな先生には見えません!


 涼太が納得して頷く。


佐伯涼太

そうだよね。
僕も最初は半信半疑だった。
でも君はすぐにそれを疑った理由にたどり着きそうだ。
それなら情報を公開してあげたほうがいいね。


 牧瀬の肩を抱きながらささやく。


 さり気ないボディタッチが女の子と仲良くなるコツ、と考えているチャラ男だ。


 その手は「ぺしっ」と牧瀬に払われていたが、涼太は全く気にしない。


佐伯涼太

眞下先生を尾行するとね、随分と金遣かねづかいが荒いことがわかるんだ。
ブランド品を買い漁る趣味があって、しかも『シャネル』が大好きな愛好家シャネラー
ホストクラブにもよく通ってる。
眞下先生の『夜の顔』はかなりお盛んなんだよ。


 牧瀬は半眼で涼太の顔を見上げた。


牧瀬美織

……それは真実ですか?
眞下先生の『昼の顔』からは想像もつきません。
天野様の命令を混乱させるつもりじゃないですよね?

佐伯涼太

ヒュー!
それを疑うの!?
なかなか策士ちゃんで嫌いじゃないねぇ。

でも真実なんだ。
尾行すれば金遣いの荒さに驚くよ。
だけどね、その出処でどころがさっぱりわからないんだ。


 涼太の言葉は真実だ。


 眞下が不自然なほどの大金を持っていることが判明したが、その出処が掴めない。


 そのまま調査を打ち切っていたのだ。


 牧瀬は頷いて言った。


牧瀬美織

不自然な大金を手にしていて、『裏口入学』を斡旋している疑いがある……。
これが真実であれば、眞下先生を追放する『材料』となりますね。

佐伯涼太

そういうこと。
おまけにもうすぐ『大学入試』のルールが大きく変わるでしょ?

牧瀬美織

『大学入試センター試験』の廃止ですね。
これまで以上に『推薦入試すいせんにゅうし』や『AO入試』を重視する志願者が多くなるはず。
『裏口入学』を斡旋するには最高の季節となりますね。

佐伯涼太

話が早くて助かるよ。
今ほど『裏口入学』の需要が高まる季節もない。
裏口から入ってくるのはほとんどが推薦入学者。
たまに一般入試でも『不正』が行われるけど、そこを誤魔化すのは結構難しいんだ。

だから教育学部への推薦入学者を調べてみたんだけど、これが驚くほど『金持ち率』が高いのよ。
おまけに高校時代の成績まで調べてみると、そこまで内申点が良かったというワケでもない。


 牧瀬は驚いて涼太を見つめた。


 ただの『軽薄なチャラ男』かと思っていたが、『物事をしっかり下調べするチャラ男』のようだ。


佐伯涼太

教育学部の推薦入試で重視されるのは『教授との面接』なんだ。

しかも一次選考である書類選考。
二次選考である教授との面接。
これを突破するだけで合格できる。

しかもね、なんと眞下先生は准教授なのに『書類選考』にも『面接』にも参加しているんだ。
これは怪しいでしょ?


 牧瀬は頷きながらも進言した。


牧瀬美織

ですが、内申点や試験の結果だけでは志願者の『人となり』が掴めません。
新しい『大学試験制度』が正しく機能するかもわからないんです。
教授が面談し、適正の高い志願者を入学させるのは、ルールとして間違ってないと思います。

佐伯涼太

僕ちゃんもそう思うね。
教授だって人間だ。
そりゃ好き嫌いだってあるよ。
合否の判断が主観になるのだって仕方ない。
だからこそ裏口入学ブラックボックスの真実』を暴くのは難しいんだ。


 牧瀬は唸って黙り込んだ。


 『裏口入学』のシステムが完全に機能していれば、不正が露呈ろていするケースは少ない。


 この問題は根が深すぎる。


 ただの学生の手には余る問題だ。


牧瀬美織

これは難問ですね……。
それでも『裏口入学』の証拠を掴めば、眞下先生を簡単に大学から追放できる。
それが天野様の目的なんですね。

佐伯涼太

牧瀬さんは本当に頭の回転が速いね。
どうも勇二はそれだけじゃなくて、何か別のことを考えてる気がするんだけどね。

牧瀬美織

涼太さんでもわからないんですか?

佐伯涼太

そうなの。
天才クソ野郎の相棒ってのは大変なのよ。
だけど牧瀬さんがここまで有能なら僕も手伝おうかな。
『黒い噂』があるのは眞下先生だけじゃないからね。


 牧瀬は強く頷いた。


牧瀬美織

確かにそうですね。
推薦入学が1人の准教授の意見で決まるはずありません。
『組織ぐるみ』である可能性が高い……。
『敵は眞下先生だけじゃない』ということですね。

佐伯涼太

そういうこと。
だからさ、僕と手を組んで調べてみようよ。

いや別にね、牧瀬さんとお近づきになりたいってワケじゃないのよ。
いや、もちろんお近づきにはなりたいよ。
牧瀬さんは魅力的だもん。
僕も人間だから仲良くなりたいって思うのは仕方ないよね。
なんなら今夜、飲みながら打ち合わせしてみる?
あっ、それいいね!
そうしようか!


 すぐに軽薄な誘いを持ちかける涼太を無視しながら、牧瀬はスマホを操作していた。


 何かを思案しながら指先を動かしている。


 メモでも書き込んでいるのだろうか。


 やがて顔を上げて言った。


牧瀬美織

……決めました。
涼太さん、眞下先生の自宅はご存知ですか?

佐伯涼太

もちろん。
僕は何度も尾行したからね。

牧瀬美織

お願いします。
住所を教えてください。

佐伯涼太

自宅の?
それは構わないけど……。
そんなの知ってどうするの?


 住所を伝えながら尋ねる。


 牧瀬は眞下の自宅住所をメモすると、可憐かれんに微笑んだ。


 清楚せいそかつ色気のある女子大生。


 その口からとんでもない言葉が飛び出した。



牧瀬美織

今からお邪魔してきます。
つまりですね、眞下先生の家に『不法侵入』してみます。




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つばこ

★牧瀬美織ちゃんのプロフィール★
 
・あだ名:メスブタ
・身長:156cm
・体重:秘密
・血液型:AB型
・3サイズ:91/59/88
・好きなもの:ご主人様
・嫌いなもの:ご主人様の隣にいるチャラい人
 
思ったよりメスブタちゃんは天野くんと涼太くんにフィットしてますね。
まぁ考えてみれば天野くんは「クソ野郎」を自称するドSの変わり者ですし、涼太くんは「変態パコ野郎」や「歩くゴム屋さん」といった異名を持つ変態。
メスブタ程度の変人が紛れ込んでもそんなに違和感がないですね(´∀`*)ウフフ
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(๑•̀ㅂ•́)و✧

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コメント 30件

  • バルサ

    内容忘れたから読み返し。
    頭キレすぎ…すごいな(^^;

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  • タク

    変態は有能率が高い。これテストに出ます。

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  • ИДЙ

    つえぇえ!メスブタちゃん嫌いじゃないわwww

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  • LAMP

    ええ…

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  • 神楽

    メスブタは予想以上に有能でヤバかったww

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