※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。




 季節は12月。



 街がクリスマスムード一色に染まり、賑やかになる冬の時期。



 もうすぐ大学も冬休み。



 天野勇二あまのゆうじは学生食堂2階のテラス席にて、



前島悠子

いいですか師匠。
来週はクリスマスです。
欧米じゃ家族と過ごすのが当たり前らしいですが、そんなこと私は知りません。
なぜならここは日本だからです。



 後輩である『弟子』こと、前島悠子まえしまゆうこの熱弁を聞いていた。



前島悠子

日本人である私たちは、日本の風習にならってクリスマスを過ごすべきなんです!

つまりは『デート』です!
恋人カノジョである私と『クリスマスデート』をしてください!

だって、私たち恋人同士カップルが初めて迎えるクリスマスなんですよ!?



 前島のテンションは高い。


 前島が言う通り、今年は2人が恋人同士カップルになって初めてのクリスマス。


 テンションが高くなるのも当然だろう。


 天野は嫌そうに言った。



天野勇二

また『デート』するのかよ……。
この前してやっただろう?
箱根はこね』に行ったはずだぜ。

前島悠子

は、箱根ぇ!?
いつの話をしてるんですか!?
箱根でデートしたのは初夏しょかですよ!
今は真冬です!
むしろこの半年間、ちっとも私と会ってくれなかったじゃないですか!

天野勇二

そんな前だったか?
まぁ、それで十分じゃないか。

前島悠子

全然十分じゃないですよ!
ここで『デート』しなかったら次はいつするんですか!?
まさか1年に1回しか『デート』しないつもりですか!?
私たちは彦星ひこぼし織姫おりひめじゃないんですよ!



 前島はプンスカ怒っている。


 如何いかんせん前島は売れっ子芸能人アイドル


 天野も多忙な医学生。


 なかなか2人が『デート』する機会は訪れず、大学で顔を合わせる時間も少なかったのだ。


 前島は何度か深呼吸すると言った。



前島悠子

とはいえ……。
残念ながらクリスマスイブの夜は仕事が入ってるんです……。
せめてクリスマス本番である12月25日の夜だけは、恋人カノジョである私と過ごしてくれませんか?

天野勇二

却下だな。
俺様にもクリスマスの予定というものがある。
妹にプレゼントをやるんだ。
お前と会う時間なんか存在しないな。



 天野はどこか楽しそうに言った。


 この男は遠慮なく暴力を振りかざし、罵詈雑言ばりぞうごんを投げつける真性ドSの『クソ野郎』。


 しかし同時に、妹を可愛がる『シスコン番長』でもある。


 クリスマスから年末にかけては実家に帰り、妹たちにクリスマスプレゼントを与え、年越しを祝い、お年玉をくれてやり、初詣はつもうでに出かけることを楽しみにしているのだ。



前島悠子

それは大丈夫です。
胡桃くるみちゃんの許可は取りました。


 前島が純真無垢じゅんしんむくな笑顔を浮かべた。


 『胡桃くるみ』とは天野が溺愛できあいしている末妹の名前だ。


前島悠子

師匠と『デート』したいことを告げたら、喜んでOKしてくれました。
25日の夜は友達とパーティするつもりなんですって。
その日だったら大丈夫とのことです。


 天野は顔を歪めながら前島を見つめた。


天野勇二

チッ……。
このクソ女め。
また妹から攻めやがって。
卑怯な女だぜ……。

前島悠子

卑怯?
それは私こと『流星クソ女』への褒め言葉ですね。

でも安心してください。
さすがに『録音』はやめてもらうように言ってあります。
私だって『デート』の会話を聴かれるのは恥ずかしいですから。

天野勇二

ああ……。
それは同感だな。

前島悠子

だから師匠、遠慮なく『デート』ができますよ。
クリスマスを一緒に楽しみましょう。
最近はあんまり会ってくれなかったんですから、それぐらい良いじゃないですか。



 天野は何度も舌打ちしながら前島を睨みつけた。


 『師匠』に似てしまったのか、この『弟子』はなかなか狡賢ずるがしこい。


 いつの間にか妹たちと『義姉妹』のような関係を築き上げている。


 どんなやり取りをしているのか、天野ですら掴めていない。



天野勇二

……それでも気乗りしないな。
どうせゴシップ記事の記者がお前を張っている。
『クリスマスの夜』なんて危険すぎて会いたくない。

前島悠子

はぁ……。
師匠は冷たいですね。
しょうがないです。
私が『デレキャラ』にしてあげましょう。


 前島はため息を吐いた。


 太陽のような笑顔を浮かべて天野の『急所』を攻める。


前島悠子

クリスマスデートをしてくれないなら、胡桃ちゃんには『残念な報告』をしなければなりませんよ。
胡桃ちゃん悲しむだろうなぁ。
きっと怒るだろうなぁ。
もしかしたら

年越しもお正月もちい兄ちゃんと過ごしたくない!

なんて、言うかもしれませんね。


 天野は心底嫌そうな顔で前島を見つめた。


 もはや『デートの誘い』ではない。


 ただの『脅迫』だ。


天野勇二

くそったれめ……。
お前、本当に『クソ女』だな。
この狡猾こうかつ腹黒ゲス女』めが……。

前島悠子

なんとでも言ってください。
このぐらい言わないと、師匠は『クリスマスデート』なんか一生してくれませんからね。

もう私は開き直りました。
『デート』するためなら悪魔にだって魂を売るんです。
何を言われようと構いません。


 前島は「にっこり」と満面の笑みを浮かべている。


 その裏に隠れる気迫。


 絶対に『クリスマスデート』したい、という揺るぎない意思。


 天野は諦めたように言った。


天野勇二

……仕方あるまい。
25日の夜だったな。
どうせヒマだ。
付き合ってやるよ。

前島悠子

やった!
ありがとうございます!


 前島は笑顔で東京の『情報雑誌』を取り出した。


 カップルのためのデートスポットがこれでもかと掲載されている。


 リア充のリア充によるリア充のための雑誌だ。


 独り身の人間は絶対に見てはいけない雑誌のひとつだ。


前島悠子

どこに行きましょうかねぇ。
イルミネーションの下を師匠と歩くのが夢だったんです。
でも、確かに間違いなく記者が張ってるんですよね。


 腕組みをして呟く。


前島悠子

むしろ厄介なのは記者よりも一般の方なんです。
ちょっとでも周囲にバレれば、即座にSNSで拡散ツイートされます。
記者もSNSをリアルタイムで追いかける時代なんですよ。

だけど『天才クソ野郎』の師匠なら『極上の名案デートプランが閃いたりしますでしょうか?


 天野は吐き捨てるように言った。


天野勇二

俺様は天才だが名案デートプランなんか考えたくもないな。
お前には何度も言っているが、俺の心は壊れているんだ。
恋だの愛だのデートだの、俺に言わせれば『くだらねぇ』の一言さ。

前島悠子

デートプランも一緒に考えてくれないんですか……。
それは寂しいです。
胡桃ちゃんには『残念な報告』をするしかないですね。

天野勇二

フッ……。
弟子よ。
俺様を甘く見ないことだ。
天才クソ野郎にかかれば全てがうまくいく。
お前を楽しませる極上のデートプランを練ってやろうじゃないか。

前島悠子

やったぁ!
ありがとうございます!


 天野は雑誌を手に取りながらため息を吐いた。


 大口を叩いてみたものの、クリスマスは『妹たちと過ごす日』と決めている。


 冬のデートはともかく、クリスマスのデートは初めてだ。


天野勇二

さて、どこに連れて行くべきか……。
クリスマスの夜に女を連れ回したことはないんだよな……。

前島悠子

えっ!?
師匠はクリスマスを女の子と過ごしたことがないんですか!?

天野勇二

ああ、昔から妹たちと過ごすと決めている。
俺は妹たちの『サンタクロース』になるのが毎年の楽しみなのさ。

前島悠子

えへへ……。
私が初めてなんですかぁ……。
すっごく嬉しいです。
私も恋人カレシとクリスマスを過ごすなんて初めてなんですよ。

天野勇二

ふぅん。


 天野は仕方なく作戦を練り出した。


 ただの『デート』ではない。


 前島悠子という『国民的アイドル』と過ごす『クリスマスデート』だ。


 これが世間に知られれば、間違いなく『スキャンダル』になる。


 2人きりの場面を目撃されるだけでもアウト。


 天野としては、前島の芸能生命を縮める行為をしたくはない。



天野勇二

お前の顔は知られ過ぎている。
一般人の目が届かない場所に案内するしかない……。
何時まで仕事なんだ?

前島悠子

17時に終わる予定です。
その後は事務所の皆様と『クリスマスパーティ』をすることになってますが、それを逃亡ブッチしようと思ってます。


 前島の所属している事務所はクリスマスにタレントを集め、みんなで楽しくパーティをする決まりルールがある。


 もちろんアイドルたちが勝手に男とイチャイチャして、スキャンダルを作るのを防ぐためだ。


天野勇二

そうなると……。
マネージャーの川口かわぐちもうるさそうだな。

前島悠子

はい……。
川口さんには絶対に師匠と過ごすなと、釘を刺されまくってます。

天野勇二

それは面倒だ……。
翌日も仕事なのか?

前島悠子

そうなんです。
朝からテレビ番組の収録があります。

天野勇二

ならば遠出もできないな……。
さて、どうしたものか。



 天野はタバコを取り出しながら唸った。


 越えるべきハードルが多すぎる。


 川口たち芸能事務所の人間から逃げ、週刊誌の記者からも逃げ、一般人の目に触れないよう工夫する。


 おまけに前島の時間は少ない。


 この状況で『極上のデート』を提供しなければならない。


 これはなかなかの難問だ。



前島悠子

やっぱり難しいですかね。
正直なところ、私も名案が浮かばないんです。

天野勇二

ああ、思ったより難問だな。
ただの女を連れ回すのとはワケが違うんだ。

前島悠子

それではやはり……。


 前島は生唾を「ゴクリ」と飲み込んだ。


 気合の入った瞳で天野を見上げる。


前島悠子

わ、私の『お家』で、一緒に過ごしませんか……?

お家でパーティしましょう。
ケーキを買って、チキンも買って、ピザとか注文して……。

それで、そのまま……。

『お泊まり』とか……。


 天野はタバコに火をつけながら言った。


天野勇二

そのどこが『極上のデート』なんだ。
つまらないじゃないか。

前島悠子

えぇっ!?
つまらなくないですよ!
私、かなり勇気出して言ってみたんですけど。

天野勇二

ふぅん。
なぜだ?

前島悠子

いやいや……。
『お泊まり』だからですよ!

天野勇二

『お泊まり』なんてダメに決まっている。
お前の家を記者が見張っていないはずがない。

前島悠子

そこは師匠の『知恵』で何とかなりますって!

天野勇二

却下だ。
それは俺の中で『極上』とは呼べない。


 前島があたふたとわめく。


前島悠子

そ、そんなぁ!
じゃあ『極上』じゃなくて良いです!
『普通』で良いです!
むしろ『つまらない』のが良いです!

天野勇二

はぁ?
極上のデートプランをリクエストしたのはお前だろう?
何を言ってるんだ。


 煙と共に吐き捨てる。


 虚空こくうを見つめて呟いた。


天野勇二

今回は涼太りょうたも使えんな。
バックアップがいない。
どうしたものか……。



 『涼太』とは、天野の幼馴染である佐伯涼太さえきりょうたのことだ。


 天野の『悪友』であり、頼れる『相棒』であり、真性の『チャラ男』


 師走しわす「女の子を1人でも多くベッドに誘う絶好の季節」と考えており、カレンダーは『ナンパ』と『コンパ』の予定でぎっしり。


 クリスマスが近づくと天野に会おうともしない。


 今年の涼太がどう過ごすのか、若干の疑問はあるが、例年と大きく変わることはないだろう。



天野勇二

芸能事務所のクリスマスパーティってのは、どこでやるんだ?

前島悠子

都内にある事務所の会議室でやります。
何とも地味なパーティみたいです。

天野勇二

事務所ということは、お前と同じ芸能人タレントが集まるのか?

前島悠子

そうですよ。
『まきりん』とかもいます。


 『まきりん』とは、前島が所属していたアイドルグループの女の子。


 本名は柏田麻紀かしわだまき


 清楚せいそなルックスと、それに反比例したグラマラスなスタイルが人気を博している。


 今は前島と同じ芸能事務所に在籍しており、天野たちとも面識がある。



天野勇二

そうか……。
その『エサ』があれば、あの馬鹿を使うこともできるな……。


 天野はひとつの作戦を練った。


 前島を18時に拉致らち


 25日の内に家まで送り届けるデートプランだ。


天野勇二

……これでいくか。
まぁ、それなりに『極上』と呼べるだろう。

前島悠子

おおっ!
さすが師匠!
本当にデートプランを考えてくれたんですか!?


 前島が嬉しそうに拳を握る。


 天野はニタリと不敵な笑みを浮かべた。


天野勇二

ああ、楽しみにしておけ。
俺様が腐っても『医者のボンボン』だと言うことを教えてやる。

今年は『金』『コネクション』という、最強の力を振りかざしてやろうじゃないか……。

クックックッ……。



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つばこ

どうも、つばこです。
今週もお読みいただきありがとうございます。
 
今回は「天野&前島カップル」が迎える初めてのクリスマスを紹介します。
2人が『カップル』になった経緯については、別作品の『天才クソ野郎とアルカナの支配者』などをお読みいただければ幸いです。
 
前島ちゃんはダーティな手段で天野くんを追い詰めましたね。
褒められた行為ではありませんが、天野くんは恋愛に興味を持たない鈍感なのか硬派なのか草食系男子なのか奥手なのかイマイチよくわからないクソ野郎です。
そんなクソメンズとお近づきになりたいのであれば、多少強引な手を使わないといけない、ということなのでしょう…( ゚д゚)
 
そんなこんなでもうすぐクリスマス!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!ヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 37件

  • ねここ

    二人のやりとりが普通にクソ同士(笑)やっぱり似合ってるかな♪

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  • りおー

    いやー、平和ですね、とっても良いです。

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  • まこと

    前作のヒロインが恐ろしかったから、ピュアな前島ちゃんが際立ちます!ピュア…

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  • とらごろ505

    東京の情報雑誌に、作者は恨みでもありそうな書き方でワロタ

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  • ナニワの46兎

    前島ちゃん最高だな‪w
    天野くんを手の上でコロコロと転がしている‪w

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