昨晩、深夜1時。



 中里美波なかざとみなみ『遺体』歌舞伎町かぶきちょうにある『ラブホテルの一室』で発見された。



 遺体には何者かと争った形跡。



 さらに首を絞められた痕跡もあり、絞殺こうさつされた可能性が高いとのこと。



 ホテルには『男性』とチェックインした可能性が高いため、警察はその男性が事情を知っているとみて捜査を進めている。



 スポーツ新聞で報じられているのはそこまでだった。





天野勇二

……どういうことだ。
なぜ、あの女が殺されたんだ……。




 天野が呆然と呟いた。


 何度もスポーツ新聞を睨みつけている。


 隣では涼太がスマホを操り、事件の情報を調べていた。



佐伯涼太

……ダメだね。
新聞に書いてある以上のことは報道されてない。

誰に殺されたのか。
いつ殺されたのか。
遺体はどこのホテルで見つかったのか……。

何ひとつわからないね。

天野勇二

『深沢』の名前は出ていないのか?
歌舞伎町はアイツが中里と『密会』を重ねていた場所なんだ。

佐伯涼太

そうなの?
どこにも書いてないよ。
警察はまだ深沢教授にたどり着いてないのかな?

それとも……。
一緒にいたのは、のかな……?


 天野はすかさず立ち上がった。


 スポーツ新聞を握りしめながらテラスの階段を駆け下りる。


天野勇二

この時間、深沢はどこにいる?
そもそもアイツは大学に来ているのか?


 キャンパスを走りながら涼太に尋ねる。


佐伯涼太

それが来てるみたいなの。
深沢教授を見たって学生がいるんだ。
たぶん今は法学部の教授棟にいるはずだよ。

天野勇二

くそっ……。
あのクズ野郎。
何をしてやがるんだ。



 天野はキャンパスを駆け抜けた。


 法学部の教授棟に飛び込み、一気に階段を駆け上がる。


 目当ての部屋は2階の一番奥。


 殴りつけるように扉を叩いた。






深沢俊哉

……はい、どうぞ……。




 天野は思い切り扉を開け放った。


 そこには青ざめた1人の男がいた。


 法学部の権威、深沢俊哉ふかざわしゅんや


 ちょうど昼食中だったようで、豪華な弁当を机に広げている。


 深沢は天野の顔を見上げると、




深沢俊哉

…………



 何も言わずに顔を伏せた。



天野勇二

……このゲス野郎め。



 天野の全身から殺気が立ち上る。


 飢えた肉食獣のような瞳。


 顔を歪めて深沢を睨みつけた。



天野勇二

女子大生を1人殺したというのに、自室で優雅ゆうがに『松花堂弁当』を食らっているのか?

権力にしがみつく醜いブタめ。
それ以上肥えて何がしたいんだ?
貴様はこの場で殺してやる。



 炎のような殺気が部屋に広がる。


 深沢は慌てて口を開いた。


深沢俊哉

ち、違うんだ。
私は殺してない……。
私がやったんじゃない。
信じてくれ……!

天野勇二

信じてくれ、だと?
お前のようなゲス野郎の何を信じればいいんだ?

お前が一学生に『中絶の尻拭しりぬぐい』を依頼するクズということは理解している。
お前の『倫理観』なら『殺人』を仕出かしてもおかしくはない。


 天野はスポーツ新聞を机に叩きつけた。


 深沢の胸ぐらを掴み上げる。


天野勇二

いったい昨日、何があった?

なぜ中里を殺した?

そして、なぜお前は『自首』していないんだ?

深沢俊哉

ほ、本当に私は殺してないんだよ……!
天野くん……!
信じてくれ……!

天野勇二

うるせぇんだよ。
このクズめが。


 胸ぐらを掴んだまま深沢を引きずる。


 乱暴に床へなぎ倒した。


天野勇二

俺は昨日、お前に中里美波としっかり話すように伝えたよな?
ちゃんと『愛人』と向き合い、己の卑劣ひれつさを詫び、中里の意思を尊重しろと命じたんだ。

その誓いは守れたのか?
まず昨日、お前は中里と会っていたのか?



 深沢は青ざめながらうめいた。


 鬼の形相を浮かべる天野に怯えている。


 胸ぐらを掴まれ呼吸が苦しい。



天野勇二

おい、答えろよ。
中里の遺体が発見されたのは歌舞伎町だぞ?
歌舞伎町といえば、お前が愛人と『密会』を重ねていたラブホがある街だ。

昨日もそこで中里と会ったのか?
何を話したんだ?

何か言いやがれクズ野郎が!?

佐伯涼太

ちょ、ちょっと待って。


 涼太が慌てて止めに入った。


佐伯涼太

勇二、落ち着いて。
そのままじゃ本当に殺しちゃう。
まずは深沢教授の話を聞こうよ。


 天野はようやく深沢から手を放した。


 深沢が酸素を求めて苦しげにあえぐ。


 震える瞳で天野を見上げた。


深沢俊哉

わ、私にも……。
何が起きているのか、さっぱりわからないんだ……。

確かに……。
私は昨日、美波と会った……。

天野勇二

それは歌舞伎町か?
どこかのラブホテルに入ったのか?


 深沢が微かに頷く。


 震える声でホテルの名前を口にする。


深沢俊哉

歌舞伎町の『K』というホテルだ……。

天野くんが言ってくれたように、私も真剣に美波と話しあったんだよ……。
自分の不甲斐ふがいなさと、嘘を吐いていたことを謝罪した……。
これからのこともしっかり相談した……。

美波は……。
美波は泣きながらも……。
子供をろすことに同意してくれたんだ……。


 瞳をにじませながら語っている。


 天野はそれを冷たい表情で見下ろした。


深沢俊哉

美波はホテルに残りたいと言うから、私が先に1人で部屋を出た……。
それっきりなんだ。
それっきり、美波とは連絡をとっていないんだ。

天野勇二

それは真実だろうな?

深沢俊哉

ああ、信じてくれ……!
私が部屋を出た時、美波は確かに生きていた……!
それなのに、なぜ、こんなことに……!
なぜ、美波が殺されているのか、私にもわからないんだよ……!


 深沢は真っ青な顔で告げている。


 絶望と恐怖に包まれた哀れな表情。


 天野は顔を歪めながら吐き捨てた。


天野勇二

そんなバカな『言い訳』を誰が信じるんだ?

もし遺体が『K』というホテルで発見されたなら、部屋にはお前の『指紋』がたっぷり残っているだろう。
ゲス野郎なお前のことだ。
死体の中に『精液』が残っていても不思議じゃない。

俺が警察に通報すれば『第一容疑者』はお前で決まり…………


 天野は「いや、違う」と自らの言葉を否定すると、


天野勇二

お前が『犯人』で決まりだ。
それで事件解決だよ。
警察はお前以外の犯行を想定することもないだろう。


 深沢は慌てて天野の足にしがみついた。


深沢俊哉

た、頼む!
天野くん!
本当に私は殺してない!
無実なんだよ!
信じておくれよ!


 涙を浮かべて天野を見上げている。


 慈悲じひを求める罪人のような表情。


 天野はそれを嫌そうに睨みつけた。



天野勇二

チッ……。
なんてことだ……。



 すがりつく深沢を振り払う。


 腕を組み、苛立ちの表情を浮かべる。


 何度も舌打ちしながら尋ねた。


天野勇二

お前が中里を残し、ホテルの部屋を出たのは何時のことだ?
ついでにホテルにチェックインした時間も教えろ。

深沢俊哉

チェックインしたのは20時
ホテルを出たのは21時過ぎだった。
私は1時間ほどしかホテルにいなかったんだよ。


 深沢は食い気味に答えた。


 恐らくその『質問』を警察から受けることを想定していたのだろう。


天野勇二

中里の遺体が発見されたのは深夜1時……。
お前の証言が真実であれば、中里が殺されたのは21時から25時の間ということか……。
何か証明するものはあるのか?

深沢俊哉

ホテルの領収書がある。
少なくとも、それでチェックインの時間は証明できる。

天野勇二

領収書だと?
そんなもの簡単に偽造できる。
目撃者はどうだ?
ホテルのスタッフと顔を合わせたりしたのか?


 深沢は苦しげに首を横に振った。


深沢俊哉

それは……。
いないんだ……。
あのホテルは、誰とも顔を合わせずにチェックインできる……。
入る時も、出る時も、誰とも顔を合わせてはいないんだよ……。


 天野は呆れたように肩をすくめた。


天野勇二

だから『K』というホテルを愛用していたのか。
愛人との逢瀬おうせを楽しみ、人知れず殺すには最適なホテルだな。

今の証言では話にならない。
警察も耳を傾けようとはしないだろう。
『真犯人』が出てこなければ、お前が犯人で終わりだよ。

深沢俊哉

そ、そんな……!
天野くん頼むよ!
私を助けてくれ!

天野勇二

ならば『助言』してやろう。
すぐに警察がお前のところにやって来る。
身辺整理を済ませておくんだな。



 そう言い放ち、天野は深沢の部屋を後にした。


 廊下を足早に歩く。


 思い切り壁を蹴り飛ばした。




天野勇二

くそっ……!
くそったれが!



 怒りの咆哮をあげながらタバコを取り出す。


 ここは法学部の教授棟。


 禁煙の場所だが、無視して火をつけた。


 猛烈もうれつな苛立ちを煙と共に吐き出す。



佐伯涼太

ゆ、勇二……。
ここは禁煙だよ……。
喫煙所に行かなきゃ……

天野勇二

黙ってろ!



 涼太を一喝いっかつ


 恐ろしいほどの形相を浮かべている。


 通り過ぎる教授や学生たちも、天野を注意することができなかった。


 涼太が携帯灰皿を持ちながら尋ねる。



佐伯涼太

ど、どうなのかな……?
やっぱり深沢教授が、中里さんを殺したのかな……?



 天野はゆっくり首を横に振った。


天野勇二

俺は目を見れば、ある程度の『心理』を読み取ることができる。
特に『嘘』を吐いているヤツはすぐにわかる。
人を殺したヤツの顔も、それなりに見破れるつもりだ。

佐伯涼太

そ、そうだね。
勇二には、そんな特技があるよね。

天野勇二

俺が見る限り……。
深沢は無実シロだ。
アイツは嘘を吐いちゃいない。


 涼太が「ぎょっ」とした表情を浮かべた。


佐伯涼太

マジなの!?
それじゃ……。
他に『真犯人』がいるってこと!?

天野勇二

いや……。
まだわからんな。



 天野は携帯灰皿を取り出した。


 吸い殻を乱暴にねじ込む。


 腕組みをしながら顔を歪めた。




天野勇二

(くそっ……。甘かった。深沢と中里を2人きりで会わせるべきではなかったんだ……)




 昨日、涙を流しながら「産みたい」と呟いていた中里の姿が浮かぶ。


 もっと違うやり方で接触すべきだった。


 違うアプローチで攻めるべきだった。


 深沢と中里の接触を遠くから監視し、どんな会話をするのか把握すべきだった。


 そうすれば『殺人』を防げたかもしれない。


 天野は短絡的だった自らの行動を恥じた。



天野勇二

……何にせよ、今のままでは情報が足りない。


 厳しい瞳で涼太に告げる。


天野勇二

俺は独自の情報網を使って『事件』を調べる。
お前は中里の関係者から話を聞いてくれ。
知人、友人、恋人、家族……。
全てから話を聞き出せ。
怪しいヤツはアリバイも調べろ。


 涼太は震えながら頷いた。


佐伯涼太

わ、わかった……。
警察には、まだ通報しなくていいんだね?

天野勇二

通報すれば深沢が逮捕されて『ジ・エンド』だ。
あのゲス野郎にはそれほどの制裁を与えてやりたいが、もし『真犯人』が別にいるのであれば、そいつを逃がすことになる。
それだけは絶対に避けなければならない。


 天野は虚空こくうを睨みつけた。


 呪いのような声で呟く。


天野勇二

人殺しのクズめが……。
絶対に見つけ出して処刑してやる。
天才クソ野郎に目をつけられて、逃げ切れると思うなよ。





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つばこ

深沢ァッ!!!!
なぜ、お前が殺されてないんだ!
お前が殺されちゃえばいいのに!
ゲス野郎! クズ! 人でなし!
この後に及んでも社会的制裁から逃げようとしているお前の態度が本当に気に食わない!ヽ(`Д´)ノプンプン
 
 
余談ですが、本エピソードは当初『彼女を上手に中絶させる方法』というタイトルでした。
とんでもないパワーワードです。
タイトルだけでも酷いのに、妊娠した女の子が殺される、という殺人事件まで発生するのです。
そりゃお蔵入りでございますよ(´・ω・`)
 
そんなこんなで天野くん、捜査の時間だ!
いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!∠( ゚д゚)/

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コメント 30件

  • ポンデリング

    つばこさんの感想がさすがすぎて好き

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  • ゆんこ

    つばこセンセありがとうだよ

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  • まこと

    作者の第一声に私の感想は吹っ飛んだ
    天野への期待で盛り上がりかけたところで“そうですねー!”となってしまった

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  • phenyl

    経済学部の桃井教授とかいうのが怪しいかな
    テラスで天野と深沢の話を聞いてたから事情知ってる可能性あるし、
    あのタイミングと条件なら天野の言った通り深沢に罪をかぶせて逃げ切れるし、
    そうなれば学長の座も奪えるからな

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  • ナニワの46兎

    深沢他にも愛人がいたのかな?

    ……だとしたら本当に最低のクズ野郎だ。

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