堀江が『公開処刑』された翌日。


 いつものテラス。


 天野に呼び出され、全てが芝居ブラフだったことを告げられた堀江は、当然ながらがっくりと肩を落としていた。



堀江明美

……なんやのもう……。

酷いやんか……。

あれ全部、天野さんと涼太さんの『お芝居ブラフ』やったなんて……。


 さめざめと呟いている。

堀江明美

なんであんなんを見せつけたんよ?
ウチが調子乗ってたから?
『処刑』の『お芝居ブラフ』を見せつけてこらしめたろ、っていうこと?


 天野が偉そうに頷く。


天野勇二

その通りだ。
君の『自己顕示欲じこけんじよく』は完全にイカれていたからな。
良い薬になっただろう?

堀江明美

ありえへん……。
ほんまにありえへんよ……。

昨日ウチは怖くて眠れなかったんやで?
天野さんに殺されるんやないかって、ほんまに怯えてたんよ?
警察に通報しようかとも考えたんやで?

天野勇二

悪かったな。
だが、俺様の言ったことは事実だ。
生半可な気持ちで事件に首を突っ込めば、いつかああやって事件に巻き込まれちまうのさ。
『ミイラ取りがミイラになる』ってやつだな。


 ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべ、指を「パチリ」と鳴らす。


 口唇を尖らせた堀江に突きつける。


天野勇二

俺様は『それ』を体験させてやったんだ。
それに懸念していたのは、君が加害者ハッピースラッパーへ転じてしまう未来だ。
昨日までの君は「SNSで有名になるためなら罪を犯しても構わない」と考えていただろう?


 堀江が憮然ぶぜんとした表情を浮かべる。


堀江明美

さすがにそこまでは思ってない……。

……いや。
ちゃうね。
天野さんの言う通り、そう考えてたかもしれへんね……。


 「はぁ…」と大きなため息を吐く。


堀江明美

SNSでハメを外す人ってのは、こんな風に生まれるんやなぁ……。
『交通事故』や『痴漢の被害者』になる時だって、罪悪感なんかこれっぽっちも感じへんかったし……。
確かに最近のウチはどうかしてたと思うわ……。


 しょんぼりと肩を落としている。


 本気で反省しているようだ。


 それを見て涼太が嬉しそうに言った。


佐伯涼太

冷静になれたようで良かった。
今度はマトモな方法で『インフルエンサー』を目指せばいいじゃない。
何かあれば僕たちも協力するよ。

堀江明美

ありがとうね。
でも、もうええんよ。
『インフルエンサー』を目指すのはやめる。
ずっと考えてたんよ。

佐伯涼太

えっ?
そうなの?
何を考えてたの?

堀江明美

天野さんが言うたこと。
ウチが『インフルエンサー』になりたいって思う『本質』ってやつ。

最初はめっちゃムカついたんやけど、よく考えてみたんよ。
なんでウチは『インフルエンサー』になりたいのかなぁ、って……。


 堀江は照れ臭そうにはにかんだ。


堀江明美

そしたらなぁ……。
ほんま笑えるんやけど、『これや!』っていう理由が何もなかってん。

そりゃ目立ちたいしラクして稼ぎたいけど、別に『インフルエンサー』じゃなくても構わへん。
それに固執こしつする理由が見つからなかったんよね。


 天野はどこか満足げに頷いた。


天野勇二

そうか……。
ならば、もうSNSはやめるのか?

堀江明美

そうしようかなと思うわ。
ウチ、新しい『夢』を見つけたし。

天野勇二

『夢』だと?

堀江明美

せやねん。
昨日、気づいたんよ。

天野さんの『公開処刑ブラフ』を盗撮していた時……。

あの時に、気づいてしまったんよ。


 堀江は恍惚こうこつとした笑みを浮かべている。


天野勇二

あの時、だと……?


 天野と涼太は思わず互いの顔を見つめた。


 この娘は、いったい何に気づいたのだろう。


堀江明美

おかしな話なんやけど、聞いてくれる?

天野勇二

あ、ああ……。

堀江明美

天野さんが変装した涼太さんを痛めつけてた時……。
ウチめっちゃ興奮してん。
もうほんまゾックゾクした。
これこそが『ウチが求めていたものやった』って気づいたんよ。

天野勇二

ほ、ほう……。
それは、なんだ?


 堀江は堂々と言った。


堀江明美

ウチがなりたかったのは『インフルエンサー』やなかった。
『ゴシップガール』やったんよ。


 なぜか誇らしげに言葉を続ける。


堀江明美

つまりな、ウチは衝撃的フォトジェニックな瞬間を目撃し、それをカメラにおさめて世界中に発信する女性記者ゴシップガールになりたいねん!
だってそっちのほうがめっちゃおもろいんやもん!
それこそがウチのしたいことやったんや!


 立ち上がり、深々と頭を下げる。


堀江明美

天野さん。
ほんまにありがとう。
これは生半可な気持ちやない。
天野さんのおかげで『本質』に気づくことができた。

ウチはこれから『一流の記者』になるために猛勉強する。
まだ3年生やし『就活』も間にあう。
片っ端から新聞社を受けてみようと思うんよ。

天野勇二

そ、そうか……。
それは、なんというか……。
立派な『夢』だな……。

堀江明美

せやろぉ?
いつかプロの記者になったら天野さんを独占取材させてな!
ほんまもんの『処刑シーン』を撮らせてよ!
前島ちゃんとの『スキャンダル』でもええから!

天野勇二

それは拒否するが……。
まぁ、応援はしているよ……。

堀江明美

ありがとう!
ほな前向きに考えといてな!



 そのまま堀江は元気よくテラスを去った。


 新たな目標を見つけた『ゴシップガール』の背中を見送り、涼太が言った。


佐伯涼太

まぁ……。
これで一件落着……なのかな?
あの分だと『加害者ハッピースラッパー』になることはなさそうだし……。


 天野がニタリと口唇を歪める。


天野勇二

ああ、いいじゃないか。
『ゴシップガール』か……。
自らが目立つことより、事件を目撃して拡散することに快感を覚えたワケか……。

まったくイカれた小娘だ。
嫌いじゃないね。


 気障キザったらしく笑い、タバコに火をつける。


 涼太はその横顔に尋ねた。


佐伯涼太

ねぇ勇二ぃ。
ちょっと気になってたんだけどさ、なんで今回の『依頼』を受けたの?
ぶっちゃけ『インフルエンサー』なんか興味ないでしょ?
初めから堀江ちゃんが『加害者』になるかもって想定してたの?

天野勇二

まさか。
当初はまったく想定していなかったよ。

佐伯涼太

じゃあなんで?
堀江ちゃんに『惚れた』ってワケじゃないだろうし。



 天野はゆっくりタバコの煙を吐き出した。


 何かを思案しながら紫煙しえんを見つめる。


 少し迷いながら口を開いた。



天野勇二

……実はな、お前には言ってなかったんだが……。
俺様は『インフルエンサー』なんだよ。

佐伯涼太

インフルエンサー?
勇二が?

天野勇二

そうだ。
このアカウントを知っているか?


 天野はスマホを取り出し、ひとつのSNSを表示させた。


 『みかんの王子様』という名のアカウントだ。


佐伯涼太

あっ、これ知ってるよ。
いつか勇二に教えてあげようと思ってたんだ。
すごく『みかん』に詳しい人でさ。
話題にもなってるんだよ。

天野勇二

そうなのか。
みかんの『食レポ』でも紹介されているのか?

佐伯涼太

そうなの。
甘みや酸味や香りはもちろんのこと、『豊満な果実味は絹のようになめらかな味わい』とか『過去10年で一番の出来栄え』みたいな『ボジョレー的コピー』でみかんを紹介してるんだ。
これが結構面白くてタメになるんだよ。

天野勇二

ほう。
それは興味深いな。

佐伯涼太

しかもね、この人は英語やドイツ語やフランス語が堪能たんのうでさ。
日本のみかんを海外に発信してるんだ。
果実フルーツを専門的に紹介するってことで『フルスタグラマー』なんて呼ばれてるんだよ。

天野勇二

実はそれ、俺様のアカウントなんだ。



 涼太は「きょとん」とした顔で天野を見つめた。



佐伯涼太

……えっ?
これが?
勇二なの?

天野勇二

そうだ。

佐伯涼太

『みかんの王子様』なの?

天野勇二

そうだ。
俺様が『みかんの王子様』だ。



 涼太は口をあんぐりと開けた。


 天野の顔とSNSを何度も見比べる。


 ガタガタ震えながら叫んだ。



佐伯涼太

……マジでぇ!?

いつの間にSNSなんかやってたのよ!?
またいつものブラフじゃないの!?
だって『みかんの王子様』には数万人のフォロワーがいるんだよ!?

天野勇二

そうなんだよ。
想定以上にバズってしまってな。


 呆れたように肩をすくめる。


天野勇二

元々は胡桃くるみ「美味しいみかんを教えてくれ」と頼まれたことがきっかけだったんだ。
詳しく教えてやったら

「せっかくだからSNSのアカウントをつくって、色々な人に教えてあげなよ」

と言われてな。
それで試しに公開してみたのさ。


 『胡桃くるみ』とは天野が可愛がっている末妹のことだ。


 意外にもクソ野郎は『シスコン番長』なのだ。


天野勇二

お前も知っている通り、俺様の好物は『みかん』だ。
みかんより美味い食物はこの世に存在しない。

佐伯涼太

う、うん……。
勇二が筋金入りの『みかん好き』だってことは知ってるよ……。

天野勇二

どうせ好物を紹介するなら、徹底的にやりたいじゃないか。
しゅんのブランドを紹介するだけじゃ物足りない。
同じ品種ブランドでも農家によって味が違うんだ。
実際にみかん畑へおもむき、話を聞いてきたこともあったよ。

佐伯涼太

えぇっ!?
わざわざ農家さんに取材したってこと!?

天野勇二

そうだ。
愛媛えひめ和歌山わかやまにも行ったんだ。

佐伯涼太

わざわざ行ったんだ……!
勇二はクソ忙しい医学生なのに……!
そりゃ勇二なら外国語も堪能なはずだよ……!

天野勇二

日本のみかんは優秀だからな。
世界に広めないともったいないじゃないか。


 気障キザったらしく微笑み、偉そうに言葉を続ける。


天野勇二

つまりな、俺様は『みかんのインフルエンサー』なんだよ。
堀江に言ったことは真実だったのさ。

『インフルエンサーになることなんて、この天才クソ野郎にかかれば全てうまくいく』

……ってな。



 涼太はわなわなと震えながら天野を見つめた。


 だから天野は堀江の『依頼』に興味を持ったのだ。


 そして自分自身が『インフルエンサー』であるからこそ、あれだけ自信満々だったのだ。



天野勇二

最近は『うちのみかんを宣伝してくれ』というオファーも多い。
これはかなり儲かるぞ。
たぶん100万円は稼いだな。


 涼太は「ぎょっ」として叫んだ。


佐伯涼太

100万円!?
そんなに儲かるの!?
みかんのSNSがぁ!?


どんだけなのよ!?
どんだけ勇二にかかれば全てうまくいっちゃうのよ!?
いいなぁいいなぁ!


お金ちょうだい!
僕ちゃんにお小遣いちょうだい!


 天野が呆れて言った。


天野勇二

やるワケないだろ。
金が欲しいならお前も『インフルエンサー』になれよ。

そうだなぁ……。

お前は『変態パコ野郎』だから、『パコスタグラマー』にでもなればいいんじゃないか?

佐伯涼太

あっ、それいいねぇ。
女の子をナンパしてお持ち帰りして優勝した夜のことを面白おかしく…………書くワケないじゃないかぁ!


 両手をブンブン振り回しながら叫ぶ。


佐伯涼太

そんなのなりたくない!
そんなSNSはイヤだ!

ああもうズルい!
天才クソ野郎ってマジでズルい!
僕も『インフルエンサー』になりたいよぉー!



 テラスに哀れな『パコスタグラマー』の絶叫がこだまする。


 『みかんの王子様』は楽しそうにそれを眺めていた。







(おしまい)



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つばこ

ご愛読いただきありがとうございます。
何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。
 
 
心がなごめば心はひとつ!
世界にはばたけ日本のみかん!!!(ミカンミカンミカーン
 
 
さてさて、皆様は別作品として公開している『天才クソ野郎とアルカナの支配者』を読んでいただけましたでしょうか。
全48話の大長編天才クソ野郎です。
この物語にて、天野くんと前島ちゃんの関係が大きく進展する出来事がございました。
次回はそんな2人がとある温泉地にお出かけするらしいので、『アルカナ編』を未読の方は事前にチェックしていただければ幸いでございます(*- -)(*_ _)ペコリ
 
それでは来週土曜日、
『彼女と上手に初デートする方法』
にてお会いしましょう。
 
つばこでしたヽ(*´∀`*)ノ.+゚

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コメント 74件

  • rtkyusgt

    アカウント名がかわいすぎる♡

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  • うさちゃん☆

    みかんの王子様はかわいいww

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  • ナニワの46兎

    みかんの王子様ってまさか自分で名前付けたのかな!?

    名付け親が胡桃ちゃんだと願いたいwww

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  • ゆっきー

    みかんの王子様、私にも小遣いくれよォォォォ

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  • ヒバチ

    みかんの王子様♡

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