天野勇二

『整形』するんだ。
君の平々凡々な顔を『圧倒的美人』に変えてしまうのさ。



 堀江から依頼を受けた翌日。


 学生食堂2階のテラス席。


 天野と涼太は唖然あぜんとする堀江の前に、父親が経営する『美容整形外科』のパンフレットを広げていた。



堀江明美

……整形?
ウチが?
天野さん……。
それ、本気で言ってます?

天野勇二

本気さ。
もう病院には話を通した。
問題なければ今日から通院を始めよう。

堀江明美

いやぁ……。
あの……。
整形って、お高いんでしょ……?

天野勇二

費用のことは気にするな。
むしろ成功すれば報酬ギャラが入ってくるぞ。
君にとって初めての『プロのインスタグラマー』の活動になるワケだ。

堀江明美

えっ?
無料タダなんですか?
ほんまに?

天野勇二

本当だ。
君は『女子大生インスタグラマー』として整形手術の『PR活動』をするのさ。
病院もこころよく応じてくれたよ。
もちろん俺様という存在があってのことだがな。

堀江明美

へぇ……。
天野さん、やり手なんですねぇ……。

天野勇二

だが、細かい条件が存在する。

まずは長期間に及ぶ治療を継続すること。
途中で辞退しないこと。
『インスタグラマー』として全ての情報をポジティブに発信すること。
契約内容は秘匿ひとくすること。

他にも色々とある。
契約を破れば莫大ばくだいな違約金が発生するが……。


 天野はニタリと悪い笑みを浮かべた。


天野勇二

なかなか面白いSNSになりそうだろう?
『整形手術を受ける女子大生のドキュメンタリー』というワケだ。

君はSNSを通して美容整形の裏側 ノンフィクションを描く。
美人に変貌へんぼうする過程の全てをさらけ出すんだ。


総費用はいくらなのか。
どんな施術を受けるのか。
それによって顔はどのように変化したのか……。

フォロワーはリアルタイムで君を追いかける。
これで君は『リアル整形女子大生』として『インフルエンサー』になれるのさ。



 堀江は黙ってパンフレットを見つめた。


 二重整形。小顔矯正。部分痩せ注射。永久脱毛。鼻や顎にプロテーゼ。


 全てを実施すれば『美人』と呼ぶに相応しい顔を入手できる。


 天野の言う通りにSNSを更新すれば、今以上のフォロワー数だって入手できるだろう。


 堀江は冷静に言った。



堀江明美

こんなんイヤよ。
整形なんてやりたくないし。



 天野が「なに?」と呟き、眉を釣り上げる。


 涼太は「やっぱりね」と息を吐いた。



天野勇二

何が不満なんだ。
これ以上の条件はない。
完璧な作戦だぞ。

堀江明美

ちっとも完璧ちゃいますよ。
ウチ、親からもらった顔いじるなんてイヤやもん。
そこまでして有名になりたいとか、さすがに思わへんし。


 堀江は至極しごく真っ当な意見を述べた。


 天野は舌打ちしながらも、どこか嬉しそうに頷いた。


天野勇二

なるほど。
整形はお気に召さないか。
それなら仕方ない。
取り下げよう。

次はこれだ。


 また別のパンフレットを広げる。


天野勇二

『ダイエット』だ。
有名な『パーソナル・トレーニングジム』のモニターの話を持ってきた。

堀江明美

あっ、これウチも知ってる。
めっちゃ有名な会社とこですよね。

天野勇二

そうだ。
本来であれば数十万円の会費が発生するが、俺様のコネで無料かつ報酬ギャラが入るよう話をつけてやった。
これも君が『女子大生インスタグラマー』として『PR活動』することが条件だ。
いかにジムのプログラムが優れているのか、SNSを通して宣伝するのさ。


 指先を気障キザったらしく振り回し、堀江の身体を指さす。


天野勇二

だが、君は太っているワケじゃない。
そのためアスリートのように完成された肉体を作り上げる。
そんなプログラムを受けてもらいたい。


 堀江は嫌そうに顔を歪めた。


堀江明美

ええぇ……?
気乗りせぇへんなぁ……。

このジムめっちゃ厳しいんでしょ?
炭水化物を制限するらしいし。
白米とか食べたら怒られるって……。

天野勇二

そうだ。
トレーニングも生易なまやさしいものではない。

堀江明美

えー、絶対イヤー。
別にウチ太ってないし。
そんなキツイのやりたくないです。
他にもっとマシなんないんですかぁ?


 また天野の眉が釣り上がる。


 慌てて涼太が会話に割り込んだ。


佐伯涼太

ちょ、ちょっと待って。
堀江ちゃんの好みじゃないみたいだけど、結構これ美味しい話だよ?
しかも依頼を受けたのは昨日なんだ。
たった1日でここまで話をまとめるなんて、はっきり言うけど勇二にしかできないよ。

堀江明美

でもそんなん知らへんし。
ウチ、キツいのイヤなんですよねぇ。
もっと手軽なやつないかなぁ。

……あっ、そうや!


 堀江は「今、閃きました」とばかりに手を叩いた。


堀江明美

天野さんってぇ、アイドルの前島悠子まえしまゆうこちゃんと『仲良し』なんでしょ!?
前島ちゃんを紹介してくださいよぉー!
ウチを前島ちゃんの『友達』ってことにしたらいいんちゃうかなぁ?
それならウチも『インフルエンサー』になれそうやし!



 天野と涼太は互いの顔を見つめ、静かにため息を吐いた。


 堀江がそれを口にすることは想定内。


 天野はあっさり首を横に振った。



天野勇二

それはできない。
君に前島を紹介するつもりはない。

堀江明美

えーなんでよぉ?
アイドルの友達ってすごく人気出るみたいやし。
フォロワー数も一気に増えるはずやん。

天野勇二

却下だ。
君が何を言っても、俺は前島を紹介しない。


 堀江は不満げに口唇を尖らせた。


堀江明美

なによ、別にいいやんか。
『カノジョ』って訳でもないんやろうし。
それやったらもっとマシな『作戦』ちょうだいよ。

天野勇二

この2つの作戦がマシじゃない。
そう言いたいのか?

堀江明美

当たり前やん。
ウチはキツいのイヤやもん。
もっとラクな方法で『インフルエンサー』になれへんの?


 天野は口唇を閉じた。


 鋭い瞳で堀江を睨みつける。


 涼太が慌てて小声で話しかけた。


佐伯涼太

勇二……!
ここは落ち着いて!
ダメだよ!
殴ったりしちゃダメだよ!

堀江ちゃんは『前島さんとのコネ』だけを狙ってた……。
それは想定してたでしょ?


 天野は「ふぅ…」と息を吐いた。


天野勇二

わかっている。
この程度で殴ることはない。
ただ、少々失望しただけだ。


 改めて堀江に向き直る。


天野勇二

堀江よ。
君は本当に『インフルエンサー』になりたいのか?
本気でそう思っているのか?

堀江明美

なりたいですよ。
本気やもん。

天野勇二

ならば理解しているはずだ。
今の君では難しい。

君には個性がない。
人に誇れる特技もない。
自らをいろどるセンスもない。
美人としょうされる顔でもない。
おまけに目標達成のために努力する根性もなかった。

俺様が見ても人間としての魅力に欠けている。
なぜそんな君が『インフルエンサー』になりたいと願うんだ?


 遠慮のない物言ものいいだ。


 さすがに堀江は不服げな表情を浮かべた。


堀江明美

そんなん、ラクして稼げるからに決まってるやん。

天野勇二

それだけか?

堀江明美

もちろんそれだけちゃいますよ。
誰だって有名になりたいでしょ?
それにウチはSNSが好きやし。
好きなことでお金が稼げるなんて最高やんか。

天野勇二

俺はそうは思わない。
客観的に見てどうだ?
今の君に『インフルエンサー』になれるだけの力があると思うのか?


 堀江は悔しげに答えた。


堀江明美

天野さんは『ない』って、言いたいんやろうけど……。
そんなんわからへんやん。
ウチだってなれるかもしれへんもん。

天野勇二

ほう……。
なぜそう思う?

堀江明美

だって、ウチよりもブサイクな女が『インフルエンサー』として活動してんねんで?
どれも個性なんてないやん。
おもんないらばっかりやん。
なんでウチじゃダメなんですか?


 天野は冷たく言い放った。


天野勇二

簡単な話さ。
君のSNSには何もないからだ。
空っぽなんだよ。

堀江明美

空っぽ?
それってどういう意味?

天野勇二

俺様は沢山の『女子大生インフルエンサー』をチェックし、君との違いを理解した。
君のSNSは、

「有名になりたい」
「チヤホヤされたい」
「誰よりも目立ちたい」


という思考だけが透けて見えるのさ。
それ以外のものがない。
まさに『空っぽ』なんだ。


 偉そうに言葉を続ける。


天野勇二

そんな君がアイドルとの自撮りセルフィーを投稿してみろ。
どうせ自己顕示欲じこけんじよくの強いブスが目立とうとしてやがる」としか認識されない。

君も鏡を見たことがあるのだから、前島悠子より自分の顔が劣っていることは理解できるだろう?
君が前島の隣に立っても『公開処刑』されるだけだよ。


 堀江は悔しげに口唇を噛みしめた。


 屈辱の言葉だ。


 天野の偉そうな言動が堀江の不快感をかき回している。


天野勇二

何か他にないのか?
君の『インフルエンサーになりたい』という『本質』を教えてくれ。
それが俺様には見えない。

堀江明美

ほ、本質……?

天野勇二

そうだ。
スポットライトを浴びる人間は、必ず揺るぎない『本質』を持っている。

君の中には何がある?
よく考えろ。
なぜ『インフルエンサー』になりたいと願うのか……。
そこに君の『本質』が眠っているはずだ。


 堀江は顔を赤くして言った。


堀江明美

さっきからなんなん?
何が言いたいんか意味わからへん。

『インフルエンサー』になりたい理由なんて楽しいからに決まってるやんか!
みんながウチのSNSに影響されて、それでお金がもらえるとか、こんなに楽しいことないやんか!


 天野は静かに言った。


天野勇二

実に残念だ。
それが『本質』だと言うならば、君はどこまでも浅ましくいやしい人間である……。
そう言うしかない。


 堀江の我慢が限界を超えた。


 真っ赤な顔で立ち上がり、大声で怒鳴る。


堀江明美

はぁっ!?
なんでそこまで言われなあかんの!?

腹立つわぁ……!

もういい!
あんたなんかに頼むんじゃなかった!


 そのまま席を立った。


 テラスの階段を駆け下りていく。


 涼太が堀江の背中を眺めながら言った。


佐伯涼太

はぁ……。
やっぱりダメか。
あの反応を見る限り、堀江ちゃんは『前島さんを紹介してもらう』以外の提案を受けるつもりがなかったね……。


 さめざめと呟く。


佐伯涼太

でもさ、きっとあれが普通なんだよ。
『本質』なんて、特に考えないことがさ。


 天野を励ますように告げる。


 天野はタバコを取り出しながら、堀江がいた空間を眺めていた。







堀江明美

(なんなんよあの男……! 腹立つなぁ……!)



 堀江は顔を赤くさせながらキャンパスを歩いていた。



堀江明美

(こっちは前島悠子を紹介してくれればそれでええのに……。いちいち説教臭いこと言ってきて……。ほんまになんなんよ!)



 スマホを取り出す。


 自らのSNSに


「ほんま腹立つ! ウチのことなんも知らんくせに上から目線で何様のつもりやの!」


 と投稿する。




 しばらく画面を眺めるが「いいね!」の数は増えない。


 コメントも返ってこない。


 それを見て堀江は悲しげに呟いた。



堀江明美

ウチの何があかんの……?

世の中には、ウチよりブサイクな『インフルエンサー』が、めっちゃおるやんか……。

『本質』とか『空っぽ』とか、意味わからへんわ……。



 ブツブツ呟きながら校門を出る。


 そのまま駅を目指して裏路地を歩いている時だった。



堀江明美

……えっ?



 対向車線を走っていた軽自動車が大きく道を外れた。


 中央線を乗り越える。


 勢いよく堀江の横を走り過ぎると、






 ズガシャン!





 けたたましい破裂音が響いた。


 衝撃が空気を揺らす。


 堀江は震えたまま目の前の光景を見つめた。








 軽自動車が電柱に直撃し、大破している。


 交通事故だ。


 ハンドル操作を誤ったのだろうか。


 慌てて周囲を見渡すが、堀江以外の歩行者は見当たらなかった。



堀江明美

た、大変や……!
救急車、呼ばな……!



 車内にいるのは1人。


 運転席に老人と思われる男性。


 窓に頭をぶつけたのか、おびただしい量の血が白髪を赤く濡らしている。


 男性はピクリとも動かない。


 もしかしたら、死んでいるのかもしれない。



堀江明美

…………!



 堀江の脳裏のうりに危険な閃きがよぎった。


 電話をかけようとしていた指先が止まる。


 そして、ゆっくり。


 運転席に手を伸ばした。





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つばこ

あまの「整形しようぜ今日からしようぜ」
つばこ「そんなこと即決できるワケないだろ。このクソ野郎はどうしようもないな( ゚д゚)、ペッ」
 
天野くんが紹介した『有名なパーソナル・トレーニングジム』って、たぶん『ライザ○プ』のことだと思うんですけど、あれが無料で受けれてギャラも貰えるとかめっちゃ美味しい話ですよね。
つばこだったら泣いて喜びますよ。
「なぜ私にその話を持ってきてくれないんだ天野くん!!!!」と憤慨してますよ。
 
まぁ、つばこは体脂肪率1%の奇跡のスーパーウルトラアスリートファビュラスナイスビューティフルバディの持ち主ですから、そんな紹介は必要ございませんけどね(遠い目)
ドーナツは穴が空いてるからカロリーゼロ、とか言ってませんからね(果てしなく遠い目)
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(≧∇≦)/

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コメント 45件

  • あっさー

    軽四なのに挿絵がどう見ても左ハンドルで気になって、最後の内容が頭に入ってこなかった…

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  • ぱーら

    こんなクズ女はハッピーエンドよりもバッドエンドがお似合い。炎上して〇チャンネルに名前顔写真晒されたらええねん。なにより関西人としては、こんな女が関西弁というのが気に入らない...!(作者に文句言っている訳ではないいつも楽しく読んでます好きです)

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  • 楽して稼げるってのがそもそもの間違い。

    顔だけで、親のコネのおかげでとか、「楽して稼いでる」ように見えてる人がその立場に居続けるためにどんな努力をしているのか見ようともしない。

    そんなやつがインフルエンサーとか片腹痛いわ

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  • まこと

    性格がずば抜けてブス

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  • ハニーハーベスト

    整形なら渋るのも分かるけど、ダイエットのPRとして凄い良い素材だし、幅広い層から注目されそうなのに辛いから嫌って.......。じゃあ、楽してインフルエンサーになれるだけの要素がこの子にはあるのかよ。

    事故のやつ載せたら確実に炎上するだろうな。自撮りとかも入れてたらそれこそ整形しないと生活していけない程になったりしてね。

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