天野勇二

明日の昼、もう一度テラスに来てくれ。
それまでに君のSNSをチェックしておく。
『インフルエンサー』になるための作戦も用意しておこう。

堀江明美

ホンマにありがとうございます!
天野さんの作戦、めっちゃ楽しみやわぁ!

天野勇二

依頼を達成すれば報酬として『昼飯』を奢ってもらうぜ。
それが天才クソ野郎のルールだからな。



 ……そんなやり取りを経て、堀江がテラスを去った後。


 天野と涼太は互いのスマホを取り出し、堀江のSNSをチェックし始めた。


 過去も含めて全ての投稿を閲覧えつらん


 堀江は高校時代からSNSを始めていたので、確認作業は長時間に及んだ。




佐伯涼太

はぁ……。

終わったぁ……。

ようやく、全部チェックし終えたよ……。


 スマホをテーブルに放り投げる。


 涼太は「ぐったり」と机にした。


佐伯涼太

疲れた……!
僕は疲れた……!
もう疲れたよパトラッシュ……!


どれもこれも、ビックリするほどありふれた『量産的女子大生』のSNS……ッ!
もう僕はSNSなんか見たくない……!

『ツイ○ター』『イン○タ』『フェイ○ブック』『アメ○ロ』『ユーチ○ーブ』『ニ○動』も何ひとつ見たくない……!

この世からSNSなんて消滅しちゃえばいいんだ……!


 青白い顔でなげいている。


 天野は小首を傾げ、のんびりと尋ねた。


天野勇二

なぜそこまで疲れているんだ?
なかなか面白いじゃないか。

佐伯涼太

えぇっ!?
マジで言ってんの!?


 涼太は愕然がくぜんとしながら叫んだ。


佐伯涼太

これのどこが面白いのよ!?
なんなの!?

話題はスイーツファッションのことばっかり!

時々思い出したように『空』とか『どこかの街の風景』とか『加工した小動物』の写真!

友達と寄り添ってリア充アピール!

どれもこれもイタくて、自己主張パリピ感の演出さりげない自慢が鼻につく! 

『フォロワーに嫌われるイタいSNS』の見本市みたいなやつじゃんかぁ!?

天野勇二

そこまで言うか?
何がイタいんだよ。

佐伯涼太

どっから見てもイタいよ!
例えばこれだよ!



 涼太はひとつの投稿を画面に表示させた。


 深夜1時。


 『こんな時間に地震やんか! みんな大丈夫!?』というツイートだ。



天野勇二

それの何が問題なんだ?

佐伯涼太

どう見ても問題でしょうが!?
完璧に決めた自撮りセルフィーを一緒にアップしてんだよ!?

深夜1時なのに!
真顔でメイクバッチリ!
上目遣いのカメラ目線!
しかも『SN○W』を使って加工までしてる!

ぜんぜん地震と関係ない!

天野勇二

ほう……。
この写真加工アプリは『SN○W』というのか。
妹たちが好んで使っているな。

佐伯涼太

さらにこれ!
これも酷い!



 涼太は別の投稿を表示させた。


 有名な『シアトル系カフェ』のカップ写真だけがツイートされている。



佐伯涼太

3日に1度は『スター○ックス』に通ってて、その全てをツイートしてる!
いや、別に通うのはいいよ!

『スタ○』は美味しい!

でもコーヒーは他でも飲めるじゃん!
むしろそれだけコーヒー好きなら色々なカフェで飲めばいいじゃん!
しかもカップだけの写真を見せられてどんなリアクションすればいいってのよ!?



 憤慨ふんがいしながら別の投稿を表示させる。


 友人と『肉バル』で飲んでいる写真だ。


 堀江の顔色だけが異様に輝いてる。



佐伯涼太

はい出ました!

自分だけ『美顔』『小顔』に加工!

涼太警察出動案件です!
これはSNSにおける禁じ手!
しかも『ハッシュタグ』が長い!


#肉バル
#女子会
#やばみ
#女子力高すぎ
#イチボ
#美味すぎ
#ランプ
#肉々すぎ
#この後コラーゲン鍋
#ダイエット
#明日から
#一緒に飲みたくなったらRT



とか長すぎィィッ!
ハッシュタグで文章作られるのってウザいと思わない!?
僕ちゃんウザいと思います!



 天野は「ふぅん」と呟きながら涼太を眺めた。


天野勇二

少し落ち着けよ。
俺としてはお前も十分にウザいと思うぞ。
どれも面白いじゃないか。
そこまでいきどおる理由がわからんな。


 涼太は宇宙人でも見るかのような目つきで天野を眺めた。


 「はぁ…」と大きなため息を吐く。


佐伯涼太

まぁそりゃね……。
『医学』『クソ野郎』『銃撃戦』が日常の勇二にとっては、新鮮な風景なのかもしれないね。

でもさ、ちょっと考えてみてよ。
これは大抵の女の子が好んで投稿するSNSのひとつなんだ。
つまり、世の中における大多数の女の子が同じ投稿をするの。
フォローしたみんなが同じ。

友達みんながこれを毎日投稿してたらどう?
毎日ス○バ飲んでますアピールされたらどう?
ウザいと思わない?

天野勇二

……なるほど。
ようやくお前の気持ちが理解できたよ。

佐伯涼太

でしょぉ?
僕としては数年前に見飽きたSNSだよ。


 天野は腕を組みながら尋ねた。


天野勇二

そこまでありふれたSNSが金になるとは想像しがたいな。
『インフルエンサー』とはそんなに儲かるのか?

佐伯涼太

そりゃ儲かるよ。
『インフルエンサー』の仕組みは『TV番組』や『雑誌媒体』と似たようなものなんだ。
どれだけ時代が移り変わっても『広告』や『宣伝』って商売がすたれることはないからね。


 呆れたように肩をすくめる。


佐伯涼太

前に『インスタグラマー』の女の子とコンパして教えてもらったんだけどさ、もうビックリするほど稼いでたよ。
たった1回の『投稿』で数十万円のギャラが入るんだって。
ものによっては100万円を越えることもあるって。

天野勇二

ほう……。
それは凄いな。

佐伯涼太

でしょ?
羨ましい話だよね。
月に1回SNSを更新するだけで暮らせちゃうんだから。


 天野は感心して涼太を見つめた。


天野勇二

お前は博識だな。
俺はそこまで『インフルエンサー』を知らん。
少し講義してくれないか?

佐伯涼太

オッケー!
僕ちゃんの講義を聞きまくってよ!



 涼太はまぎれもない『リア充』の社交派。


 三度の飯より『ナンパ』と『コンパ』を愛する『パリピ』だ。


 この手のネタは得意分野なのだろう。



佐伯涼太

確かアメリカの研究機関が発表したんだけど、『商品』をヒットさせるには『口コミ』で広めていくのがベストなんだって。

100のコマーシャルを打っても、1の『口コミ』が発生しなかったら意味ないの。
だから企業やブランドは『口コミ』を広めてくれる『インフルエンサー』を雇うんだ。

昔は『ステルスマーケティング』がメインだったけど、今は堂々と『ダイレクトマーケティング』するのが主流だね。


 得意げに言葉を続ける。


佐伯涼太

公表はされないけど、広告代理店が抱える『専属インスタグラマー』ってのも沢山いるんだよ。
企業に『インスタグラマー』を紹介する代理店も存在する。
大きいところだと数千人の『インスタグラマー』を抱えてるんだって。


 天野は納得したように言った。


天野勇二

『インスタグラマー』を口コミを広める広告塔インフルエンサーとして活用するのか。
一種の『芸能人タレント』ともいえるな。

佐伯涼太

そうだね。
ネットが普及する前は芸能人こそが『インフルエンサー』だったんだろうね。

天野勇二

今は『素人 インスタグラマー』による宣伝効果のほうが高い、ということか。

佐伯涼太

そんな感じ。
でもそれって昔からあることだよね。
ちょっと前は『カリスマブロガー』が流行った。
『ショップ店員』や『読モ』も似たようなものだし、江戸時代には『看板娘』って概念が存在してたからね。


 天野は何度か頷き、改めて堀江のSNSを見つめた。


天野勇二

そうなると、堀江はどんな『女子大生インフルエンサー』になりたいんだ?

佐伯涼太

僕が見る限り、たぶん『ライフ・女子大生インスタグラマー』を目指してるね。
ターゲットは同世代の女子。
ファッションや美容情報を発信する『ビュースタグラマー』
スイーツやグルメ情報を発信する『デリスタグラマー』の両方に比重を置いてるから。


 ヘラヘラと口元を歪める。


佐伯涼太

それはつまり、堀江ちゃんは自分を『イケてる女子大生』として発信したい……ってことを意味してるんだ。

フォロワーから愛され尊敬されるインスタグラマーとなり、

『堀江さんがオススメする化粧品なら絶対に買います!』
『友達にも教えてあげます!』
『いつか堀江さんみたいな女子大生になりたいです!』

みたいな反応が欲しいワケよ。

これは『女子大生インフルエンサー』にとって『王道』ともいえるコンセプトだよ。
企業もオファーを出しやすい。
戦略は間違ってない。

ただねぇ……。


 げんなりと顔を歪める。


佐伯涼太

このコンセプトはライバルが多いんだ。
上には上がいる。
突き抜けるには『圧倒的美人』とか『独創的なファッションセンス』とか『シックスパックの腹筋』みたいな『個性』が必要だね。
平凡な堀江ちゃんが勝てる土俵じゃない。


 天野は「ふむ…」と顎に手を当てて思案した。


天野勇二

そうなると……。
堀江には『大衆』と『企業』に認められる武器個性が必要なんだな。

佐伯涼太

それを手に入れるために『天才クソ野郎』を使う、ってアイデアは評価するよ。
でも今のままじゃ難しいと思うな。


 心の中で「だって、勇二は大衆ウケする男じゃないもの」と付け加える。


佐伯涼太

それに僕の『推理』通りなら、堀江ちゃんの魂胆こんたんは別にある。
勇二も気づいてるよね?


 天野は軽く頷いた。


天野勇二

ああ、それは見抜いた。
『弟子』が目当てなのだろう?

佐伯涼太

そういうこと。
堀江ちゃんは『天才クソ野郎の弟子』こと前島まえしまさんとの繋がりコネクションを狙ってるんだ。



 『前島』とは、天野の後輩である前島悠子まえしまゆうこのことだ。


 現役大学生でありながら老若男女ろうにゃくなんにょから愛される『国民的アイドル』。


 学業と芸能活動を両立させているスーパースターだ。


 天野とはひとつの事件をきっかけとして出会い、なぜか奇妙な師弟関係を結んでいる。


 どうやら最近、天野との関係は少し進展したらしい。


(詳しくは『彼女を上手にミスコンで優勝させる方法』『天才クソ野郎とアルカナの支配者』を参照)



佐伯涼太

前島さんとの自撮りセルフィーを投稿して、『アイドルの友達』ってことをアピールすれば膨大な数の『いいね!』をゲットできる。
普通に頼めば断られるけど、勇二を通せば成功する確率は高い。
『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』ってやつだね。


 天野は意地の悪い微笑みを浮かべた。


天野勇二

クックックッ……。
打算的な小娘じゃないか。
嫌いじゃないね。

だが、この程度のことで弟子を使いたくはないな……。



 天野はタバコを取り出した。


 火をつけ、紫煙しえんを吐き出す。


 改めて堀江のSNSを睨みつける。


 どうやって平凡な『量産的女子大生』を人気者インフルエンサーに押し上げるのか。


 やがてひとつの考えが舞い降りた。



天野勇二

……涼太よ。
作戦を思いついたぞ。

佐伯涼太

おっ、マジで?
意外に早かったね。
何するの?

天野勇二

俺様が持つ武器コネを振りかざしてやるのさ。
親父が経営している病院のひとつを使う。
女子共が大好物のネタを提供できるぜ。
うまくバズれば、堀江は伝説の『インスタグラマー』になれるだろう。



 天野はニタリと不敵な笑みを浮かべた。


 底意地の悪い鬼のような笑顔。


 偉そうに言い放った。



天野勇二

『整形』させるのさ。
堀江の平凡な顔を『圧倒的美人』変貌へんぼうさせてやるんだ。





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つばこ

祝☆天クソ連載3周年!!!!
 
天クソも無事に連載3周年を迎えることができました。
これもひとえに応援いただいている読者の皆さまのおかげでございます。
いつも本当にありがとうございます。
 
こんな感謝の作コメを書けるなんて、本当に幸せなことだよなぁ……としみじみ感じます。
4年目も皆さまの傍に天クソがありますように。
何かひとつだけでも心に残る物語が届けられるよう、これからも精一杯走り続けていきます。
  
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(´vωv`*)

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コメント 50件

  • *しおた*

    SN○W、は悪意しかないww

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  • Subin@でしにっき&召喚獣

    え…たぬきうどん奢れば整形させてくれるの…?
    え……私も天野くんに依頼したい←

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  • ちょぱ

    まさかの物理(笑)

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  • まこと

    最後のゲス顔…www
    どうするのかと思えば整形か!確かに気になる。副作用とか、腫れはいつまで?とか痛みとか!リアルな声!
    ちゃんと美しく変わっていったら病院の宣伝にもなりそう!

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  • 見抜キング

    地震のこと書いてるのに自撮り写真ってのは女だけじゃなく男もやってたなw
    あと面白かったのは「エスカレーター乗った〜(自撮りどアップ)」みたいなやつ

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