※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。



 都内にある私立大学。


 学生食堂の2階テラス席。


 その日、『天才クソ野郎』である天野勇二あまのゆうじの前には、1人の女子大生がいた。



堀江明美

はじめましてー!
商学部3年堀江明美ほりえあけみいいます!
本日はウチのためにお時間いただき、ホンマにありがとうございます!



 ハキハキとした関西弁を喋り、丁寧に頭を下げる。


 堀江は天野と、その隣に座る佐伯涼太さえきりょうたの顔を見上げると、上客にびる店主のような愛想笑いを浮かべた。



堀江明美

いやぁ……!

噂には聞いてたんやけど、天野さんってホンマにええ男なんやね! 
背も高いしスタイルええし!
顔とかめっちゃキレイやし、ありえへんぐらい小さい!

ええなぁ……。
こういうの、目の保養っていうんかなぁ?



 天野を褒めちぎり、甲高かんだかい笑い声をあげる。


 びたフライパンを叩いたような声だ。


 天野は苦り切った顔を浮かべた。



天野勇二

(……調子の良い女だな)



 それが天野の第一印象となった。



堀江明美

あのぉ……。
もし良ければ、なんやけどぉ……。


 堀江がスマホを取り出す。


堀江明美

天野さんの写真を撮ってもええやろか?
ええよね?
ウチと一緒に自撮りセルフィーを撮ってくれへん?

天野勇二

却下だな。
やめてくれ。


 天野があっさり断る。


 堀江は口唇をとがらし、媚びた上目遣いを飛ばした。


 甘えた声でせがむ。


堀江明美

もういけずやねんからぁ。
ええやんかぁ。
イケてるメンズのセルフィー撮らせてぇなぁ。
別に減るもんじゃないやろ?



 天野はため息を吐いた。


 隣に座る涼太を「ギロリ」と睨みつける。



天野勇二

おい涼太……。
なんだこの女は……!
自己紹介の直後にセルフィーをねだりやがって……!


 堀江には聴こえない声でささやく。


 天野の『相棒』かつ、数少ない友人である涼太が苦笑して言った。


佐伯涼太

あはは……。
ごめんねぇ。
この通り、ちょっとばかり押しが強い娘でさぁ……。

でも悪い娘じゃないんだよ?
ただなんていうのかな。
積極的っていうのかな。
無神経ともいうのかな。

とにかくどんな時もグイグイくる娘なんだよ。

天野勇二

なぜここに連れて来た。
お前の好みとは思えんが。


 涼太は「だよねぇ」と頷きながら堀江を見た。



 ふんわりとしたパーマをかけた中肉中背の女子大生。


 決して『ブサイク』ではない。


 しかし『美人』ではない。


 表情豊かで愛嬌あいきょうもあり社交的だが、世間一般でいう『カワイイ』ではない。


 個性的で目立つ容姿でもない。


 簡単にいってしまえば、極めて平均的かつ、大抵の大学のキャンパスを闊歩かっぽしているような、ありふれた見た目の『量産的女子大生』だ。



佐伯涼太

堀江ちゃんは『フツー』すぎるんだよね。
確かに僕の好みじゃない。
しかもちょっと面倒な娘でさ。
何度かコンパや飲み会で一緒になったけど、自分の話ばっかりするタイプの娘なんだ。


 肩をすくめながら言葉を続ける。


佐伯涼太

でもさ、勇二に『依頼したいことがある』って言うんだよ。
天才クソ野郎こと『学園の事件屋じけんや』を紹介してくれって、しつこく頼まれちゃってさ。

天野勇二

ふぅん……。
『依頼人』というワケか。



 天野は『昼飯を奢ること』を条件として、学生からの頼みごとを引き受ける『趣味』を持っている。


 依頼は『論文の書き方や試験のヤマを教えてほしい』といった他愛ないものが大半だが、時には、



 『厄介なストーカーを退治してほしい』

 『気に入らない女子を大学から追い出してほしい』

 『ミスコンで優勝できるよう裏工作を仕掛けてほしい』



 といった厄介な依頼が舞い込むこともある。


 どれも警察や弁護士には相談できない事情があるものばかり。


 引き受けるとしたら裏稼業うらかぎょうに精通している「事件屋」ぐらいだろう。


 そのため天野は『学園の事件屋』とも呼ばれているのだ。



堀江明美

天野さん?
何してん?
内緒話するならうちも混ぜてぇなぁ。


 堀江が小首を傾げながら言う。


天野勇二

ああ……。
すまないな。
君は俺様に依頼したいのか。

堀江明美

せやねん。
『天才クソ野郎』である天野さんのお知恵を拝借したいんや。
聞いてくれる?


 堀江は天野の返答を待たず、一気に依頼内容を口にした。



堀江明美

ウチを『インフルエンサー』にしてほしいんや!
ウチは誰もが知っている『女子大生インフルエンサー』になりたいんよ!



 天野は半眼で堀江を見つめた。


 涼太は口を「ぽかん」と半開きにし、堀江の顔を眺めている。



天野勇二

……インフルエンサー?

堀江明美

せや!

天野勇二

……君が?

堀江明美

せやで!

……あっ、もしかして『インフルエンサー』を知らん?
『インフルエンサー』ってのはなぁ……。


 天野は慌ててそれを遮った。


天野勇二

ちょっと待て。
俺様は天才だ。
それぐらい知っている。



 影響者インフルエンサーとは『世間に与える影響力が大きい行動をとる人物』を示す言葉だ。


 この言葉が使われ始めたのは2007年頃。


 『ネットブログ』において、数千から数万人の『読者ファン』を持つ『カリスマブロガー』と呼ばれる人物が登場したことがきっかけだ。


 『カリスマブロガー』が発信する情報の影響力は数十万人規模に及んだため、大きな『宣伝効果』『口コミ効果』を持つようになったのだ。


 今は企業やブランド側も『インフルエンサー』による購買促進効果を認めており、インフルエンサーを活用した宣伝インフルエンサー・マーケティングを積極的に採用するのが当たり前になっている。


 『ブログ』はもちろんのこと、『SNS』や『動画投稿サービス』でも様々なインフルエンサーの活躍を目にすることが可能だ。



佐伯涼太

あれれ?
勇二ってば『インフルエンサー』を知ってるの?


 涼太がいぶかしげに尋ねた。


佐伯涼太

勇二はSNSをやってないじゃん。
よく知ってるね。
『インスタグラマー』とか『ユーチューバー』なんて興味ないかと思ってた。
見たことあるの?

天野勇二

俺様をバカにするな。
それぐらい知っている。
見たこともあるさ。

堀江といったな?
君は何をやっているんだ?


 堀江は「その言葉を待ってました」とばかりにスマホを取り出すと、


堀江明美

『SNS』をやっとるんよ!
結構フォロワーも多いん!
ちょっと見てぇな!


 自らのSNSを開いた。





堀江明美

これ昨日の投稿なんやけど、表参道おもてさんどうで話題のスイーツを食べてきたんよ!
京都の老舗京菓子店の東京初出店!
ここでしか食べれへん『あんみつパフェ』や!
お洒落でカワイくない!?
やばいやんなぁ!?



 天野と涼太は冷めた目で投稿を見つめた。


 ありふれたパフェの写真だ。


 写真映えフォトジェニックしているようには見えない。


 何が『カワイイ』で『やばい』のか。


 2人にはさっぱり理解できない。



堀江明美

こっちは今朝の投稿やね。
毎日その日のコーデをアップしとるんや。
『インスタグラマー』の常識やけど、やっぱり『#OOTD』のハッシュタグは『いいね!』が稼げるやんなぁ。



 『#OOTD』とは『今日の服装Outfit Of The Day』の略称。


 海外セレブや一流モデルならともかく、美人でも個性的でもない量産的女子大生のコーデを見て何が楽しいのか。


 天野たちにはさっぱり理解できない。



堀江明美

これはジムでの投稿やね。
恥ずかしいけど見たってなぁ。
どうやろ?
これもやばない?
ウチの腹筋、なかなかセクシーやろぉ?



 「恥ずかしい」様子を見せず、ジムでトレーニングに励む自撮りセルフィーを突き出している。


 ウェアをまくり上げ、ほんの僅かな腹筋をアピールしている写真だ。


 写真の中の堀江はウインクして、舌を「ぺろり」と覗かせているので、恐らく『セクシー要素』もアピールしているのだろう。



佐伯涼太

へぇ……。
いっぱい投稿してんだ。
どれもやばくて素敵じゃん。


 天野は冷めた表情を浮かべていたが、チャラ男の涼太はしっかり堀江を褒め称えた。


堀江明美

ホンマに!?
嬉しいなぁ。
涼太もフォローして『いいね!』してぇなぁ。

佐伯涼太

もちろん!
でもさぁ、ここまでやってるなら十分じゃない?
『いいね!』だって数十個はあるよ。
勇二に依頼する必要はないと思うけど。


 堀江はブンブン首を横に振った。


堀江明美

わかっとらんなぁー。
これじゃ全然あかんよ。
目標にはほど遠いやね。

佐伯涼太

目標って?

堀江明美

これじゃ企業からの『オファー』が来おへん。
フォロワー数だって1000人ちょっとやし。

佐伯涼太

1000人もいれば立派でしょ。
むしろ多くない?

堀江明美

全然足りんよ。
これじゃ企業が

『このインスタグラマーに宣伝させれば売れるな』

とは考えてくれんの。
最低でも1万人は欲しいなぁ。
だけど、ここから増やすのが難しくてなぁ……。

だから天野さんこと『天才クソ野郎』のお知恵を借りたいなぁ、なんて思ったんよ。


 改めて天野に頭を下げる。



堀江明美

天野さん!
どうかお願いします!
ウチを有名な『女子大生インフルエンサー』にしたってぇなぁ!



 天野は静かに堀江を見つめた。


 前述した通り、容姿になんがある女性ではない。


 しかし美人ではない。


 スタイルも平凡。


 服装や髪型は小奇麗にまとめているが、それはファッション雑誌に掲載されているものと変わらない。



天野勇二

なるほどね……。
ただの『インスタグラマー』ではない。
君は大衆や企業から愛される『世論先導者オピニオンリーダー』となり、金を稼げる『インスタグラマー』になりたいのか……。

堀江明美

せやねん!
流行の先頭に立ち、SNS界の有名人となり、企業が広告塔として頼りたくなるプロのインスタグラマー……!
それこそがウチの夢なん!


 堀江は背筋を伸ばし、瞳をキラキラさせながら答えている。


 涼太は苦笑しながら言った。


佐伯涼太

それは立派な夢だねぇ……。
『ブロガー』とか『歌い手』とか『ユーチューバー』で有名になれば、ガッツリ稼ぐこともできるからねぇ……。



 チラリと天野を見る。


 涼太は「こんな依頼、勇二は間違いなく断るね」と覚悟している。


 それどころか「いつもの野蛮で過激な『クソ野郎発言』を飛ばしたらどうしよう。『お前がインフルエンサーになれるワケないだろ身の程をわきまえろ幼稚園からやり直しやがれこの小娘ドブスが』なんて言い出したらどうしよう」とまで考えている。


 天野は涼太の瞳からそんな心情を読み取り、小さく口唇を歪めた。



天野勇二

クックックッ……。

インフルエンサーか。
悪くないな。
実に興味深いテーマだ。

それに物騒だった最近の依頼の中では、かなりマシなほうともいえるな……。



 何度か頷き、偉そうに堀江を眺めた。



天野勇二

堀江よ。
喜ぶがいい。
その依頼、この天才クソ野郎が受けた。

堀江明美

ホンマ!?
ありがとぉ!

佐伯涼太

ええっ!?
マジで!?


 堀江の喜ぶ声と、涼太の驚愕の悲鳴がシンクロする。


 涼太は慌てて天野に耳打ちした。


佐伯涼太

えっ?
どうしちゃったの?
まさかの快諾かいだく
マジで言ってる?
なんか薬やってラリってる?
もしかしてハングオーバーしてんの?

天野勇二

お前は何を言ってるんだ。
俺様はいつだって正気だ。

佐伯涼太

じゃあ、わかるでしょ?
無理だよ。


 涼太はチラリと堀江を見た。


 プルプルと首を横に振る。


佐伯涼太

うん。
無理だって。
あれは無理。

自意識をこじらせたルックスもセンスも100点中60点程度の量産的女子大生だよ。
あんなフツーの女の子、日本中のキャンパスに生息してる。
全然レアキャラじゃない。

僕の『女の子を見る目』に間違いはない。
あれが『インフルエンサー』になれるんだったら皆なれる。

天野勇二

なぜやる前から無理だと決めつける?
それじゃ何もかも無理だ。
言っておくが、天才クソ野郎の辞書に『無理』や『不可能』という文字はないんだ。



 涼太を軽くあしらう。


 天野は余裕たっぷりの笑みを浮かべた。


 そして、気障キザったらしく言い放った。



天野勇二

堀江よ。
大船に乗ったつもりで任せるがいい。
インフルエンサーになることなんて、この天才クソ野郎にかかれば全てうまくいくのさ。




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つばこ

どうも、つばこです。
今週もお読みいただきありがとうございます。
 
今回のエピソードは「インフルエンサー」になりたい女の子こと、堀江ちゃんを軸に物語が進んでいくのだと思います。
いやぁ、平和なテーマでいいですねぇ(*´ω`*)
まぁ天クソのことですから、この後誰かが死んだり殺し屋が現れたりヤクザに怒鳴られたり拳銃がパンパパァーンしたりお偉いさんのセクハラが大問題になったりするのかもしれませんが、今のところ平和でいいですねぇ。
皆さまもつかの間の平和を楽しんでいただければ幸いです(´∀`*)ウフフ
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(*>_<*)ノ

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コメント 51件

  • えりぽん

    申し訳ないけど、この関西弁は完全なるテレビ用、タレントが関西出身でしょ?関西弁使ってって言われた時に無理やり話す関西弁がこんな感じ。
    藤原紀香とか安田美沙子みたいな(´・×・`)

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  • ハヤ

    絵師さんが上手いせいで堀江ちゃんが普通に可愛い件。
    いや、普通女子を描くところを可愛くしちゃった絵師さんはもはや下手なのか?!うわぁああ分からん!()

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  • rtkyusgt

    勇二と涼太の挿絵がイケメンすぎて見入った

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  • みぃ

    涼太の「どれもやばくて素敵だね」が、褒めてないようにしか受け取れないwww

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  • ゆきぼ~

    作者コメも含めて天クソ(笑)
    それにしても涼太が勇二より毒舌って…。

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