※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。



 都内にある私立大学。


 学生食堂の2階テラス席。


 ここは『天才クソ野郎』こと、天野勇二あまのゆうじの特等席だ。



 その日、天野はいつものようにタバコをふかし、テラスに落ちる木漏れ日をのんびり眺めていた。



???

ハーイ。
ユージ、元気してた?



 1人の女性が気配なくテラスに現れた。


 ブロンドヘアーの外国人。


 絶世の美女だ。


 甘い輝きを放つ青い瞳。


 鼻筋や顎のラインは芸術といえるほどの美しさ。


 魅惑的グラマラスなスタイルは男性の理想を具現化したようなボディラインを描いている。



天野勇二

ほう……。
これは懐かしい顔だ。



 天野は一瞬驚いた表情を浮かべたが、どこか納得したように言った。



天野勇二

『レイチェル』か。
久しぶりだな。
生きていたのか。



 レイチェルと呼ばれた美女は優雅に微笑み、流暢りゅうちょうな日本語で答えた。


レイチェル

当たり前でしょ。
女は男より長生きするのよ。
ユージは医学生なんだから、それぐらい覚えておくといいわね。


 レイチェルは両手を伸ばした。


 天野に再会のハグを送る。


レイチェル

その節は世話になったわ。
ユージのおかげで、とっても楽しい東京での時間を過ごせた。
本当に感謝してる。


 天野は思わず苦笑してしまった。


 『皮肉たっぷり』の言葉だ。


 過去に出会った時は、天野に『殺し屋』としての企みを見破られ、外務省を通じて国際刑事警察機構インターポールに突き出されている。


 かなり面倒な思いをしただろうなと、天野は気障キザったらしく微笑んだ。


(詳しくは『彼が上手に浮気する方法』を参照)



天野勇二

良い旅を楽しめたようで何よりだ。
だが、土産を持ち帰れなくて残念だったな。

レイチェル

まったくよ。
リョータに色々買ってもらったのに、全部、没収されちゃった。
東京の素敵な思い出を形に残せなかったこと、結構後悔してるの。


 長い脚を組みながらテラスの椅子に腰掛ける。


 どこか楽しそうに天野の顔を覗き込んだ。


レイチェル

ユージは私の顔を見ても驚かないのね。
相変わらずクールな男。
熱い『キス』を交わした相手なんだから、少しは気の利いたことを言ったら?

天野勇二

冗談じゃない。
お前は『職業・殺し屋』のクズだ。
俺様は犯罪者クズと馴れ合う趣味を持ってはいないのさ。

レイチェル

私はこうして外に出てるのよ?
つまり『無罪放免』ってこと。
犯罪者クズなんて酷い言葉だわ。

天野勇二

どうせ司法取引しほうとりひきをしたのだろう?
俺様がぶちのめした男をインターポールに売ったのか?


 レイチェルはつやっぽく微笑んだ。


レイチェル

ええ、その通り。
彼は頼れる『ビジネスパートナー』だったけど、ああなったら切り捨てるしかないわね。
素人のユージに負ける男なんかいらないし。

天野勇二

薄情はくじょうな女だ。
保身のために相棒を売るのか。

レイチェル

それが私の生きてきた『業界』の常識。
生き残るためならどんな手段も選ばないの。

それに忘れた?
私は『ハニートラップ』の達人なのよ。
男を手玉に取ることなんて『お手の物』なんだから。


 薄いルージュの塗られた口唇を官能的に舐め、自らの豊満すぎる胸元を寄せる。


 びるようにささやいた。


レイチェル

ねぇユージ……。
私と組まない?

あなたが相棒パートナーになってくれるなら、私たちは一流の『工作員エージェント』になれる。
『殺し』なんて安い仕事を請け負う必要もない。
世界最強のコンビになれるのよ。

そうなったら、私の身体だって、あなたの好きにしていいんだから……。


 天野はあっさり吐き捨てた。


天野勇二

却下だな。
くだらねぇ誘いだ。
お前の身体なんぞ取引の材料にもならん。

レイチェル

あらそう。
それは残念ね。


 天野の返答はレイチェルとしても想定内だったのだろう。


 からかうように言った。


レイチェル

ユージはダメな男ね。
私を殴ったくせに謝罪もない。
再会のキスもない。
そんな冷たい『オス猿』はモテないわよ。

天野勇二

ああ、そうだな。
それでなんだ?
俺様に用事なのか?
痛めつけられた報復をしたいと言うなら、受けてやってもいいぜ。


 天野の瞳が鈍く光る。


 一瞬でテラスに殺気がたちこめる。


 レイチェルは両手を広げ、降伏のジェスチャーを示しながら言った。


レイチェル

やめてよ。
ユージと対立する気はない。
なんでもあなた、本当に『やり手』らしいじゃない?
『業界』でも噂になってるわよ。

天野勇二

ほう?
俺様の名は『裏稼業うらかぎょうの連中』にも届いているのか。

レイチェル

当然よ。
あなたは簡単に『キラービー』を潰したけど、私たちは三流の『殺し屋』というワケじゃなかったもの。

天野勇二

ならば俺様という『素人』に潰され、メンツは丸潰れだな。

レイチェル

本当にその通り。
仕事がやりにくくなりそう。
ここらで足を洗うべきかもしれないわね。

天野勇二

それが賢明だよ。
罪を償って更生しちまえ。


 レイチェルは薄い笑みを浮かべた。


レイチェル

でもねユージ……。
あなたが勝てたのは、実力というだけじゃない。
『運』があなたを勝たせた。
そうとも言えるのよ。

天野勇二

『運』だと?

レイチェル

『キラービー』は2人組コンビのチームじゃない。
本当は3人組トリオなの。
『殺人蜂』と呼ばれる所以ゆえんを持つ、もう1人の仲間がいたのよ。


 天野は舌打ちしながら頷いた。


天野勇二

やはりか……。
それは『毒』だな。

レイチェル

さすがユージ。
正解よ。
殺人蜂の針に『強力な毒』を仕込むことによって、『キラービー』は本来の力を発揮した。

ユージもそれは想定していたんでしょう?
だから先手を打った。
私たちが『合流する前』に襲いかかったのよね。


 天野はヘラヘラと嫌味たっぷりの笑みを浮かべた。


 レイチェルの不快感をあおるように指先を振り回す。


天野勇二

それはどうかな?
1秒でも早く、俺様ごときの『素人』に潰される、惨めで、哀れで、どこまでも情けない『三流の殺し屋』の顔を拝みたかった……。
それだけかもしれないぜ?


 偉そうで気障キザったらしい物言い。


 レイチェルは顔を歪めながら言った。


レイチェル

それならユージはただの『幸運なオス猿』ね。

もう1人の『キラービー』の名前は『リカルド・ヴェレーノ』
通称毒蛇 セルペンテ・ヴェレノーゾとも呼ばれる毒物の科学者プロよ。

彼の精製する『毒』はもはや芸術品。
しかも、とてもセクシーで、ワイルドな男前なの。


 舌なめずりしながら言葉を続ける。


レイチェル

ユージと最後に会った夜……。
私たちはホテルの部屋で合流し、『針』に『毒』を仕込む予定だった。
それがユージのおかげで台無し。
あの後、リカルドがどこに消えてしまったのか、まったく行方が掴めないのよ。

天野勇二

仲間が襲撃かつ確保されたのに見捨てて逃亡か。
それも『業界』じゃよくあることなんだろうな。

レイチェル

まぁね。
それは仕方ないわ。
そこでユージに『依頼』したいの。


 レイチェルは天野の手を握り、瞳を潤わせながら言った。


レイチェル

お願いユージ。
リカルドを見つけ出して。

私が業界で復活するにはリカルドの協力が必要不可欠。
それぐらいしてくれてもいいでしょ?


 天野は心底呆れてしまった。


天野勇二

おいおい……。
お前、本気で言っているのか……?


 肩をすくめながら吐き捨てる。


天野勇二

俺はマジの『素人』だ。
探偵でも工作員でもない。
善良な民間人なんだ。
依頼する相手を間違えてないか?

レイチェル

いいえ。
ユージなら絶対に見つけられる。
あなたは一流の諜報員エージェントになれる素質を持ってるもの。

それに頼れる『お友達』がいるじゃない?
確か『クロサキ』って名前だったかしら?

天野勇二

『お友達』ねぇ……。



 天野は嫌そうに息を吐いた。


 『黒崎くろさき』とは外務省に所属する国際情報統括官こくさいじょうほうとうかつかんの名前だ。


 海外の事件に関する諜報員ケースオフィサー


 天野とはひとつの事件をきっかけに知り合っている。


(詳しくは『彼が上手にお姫様を守る方法』を参照)



天野勇二

俺様を通して外務省の情報を拝借したいのか。
残念ながら黒崎とは『お友達』なんて関係じゃない。
ただの知人だ。
『毒蛇』なんて呼ばれる男の情報を流すとは思えないな。

レイチェル

そこはユージの天才的な頭脳を活用して。
あなたは『交渉ネゴシエーション』だって得意のはず。
それにリカルドを野放しにするのは、ユージにとって好ましくないのよ。


 レイチェルは色気のある口唇を歪めた。


レイチェル

リカルドにしても『キラービー』の解散は痛手なの。
ユージに「復讐したい」と考えても不思議じゃない。
リカルドの『毒物』から逃げ切るのは困難を極める。
でも私に協力するなら、ユージには手を出させないと約束するわ。
それでどう?


 天野は吐き捨てるように答えた。


天野勇二

お前の約束ほどアテにならないものはない。
協力してやる義理もない。
お断りだな。


 その回答もレイチェルとしては想定内だったのだろう。


 どこか甘えた口調で言った。


レイチェル

つれないのね。
寂しいわ。
私は本当にユージのことを恨んでないの。
敵対もしたくない。
むしろもっと深い仲になりたいと願ってるのに。

天野勇二

冗談じゃない。
吐き気がするぜ。
お前は俺様にとって『最も憎むべき人種』だということを忘れるな。

レイチェル

それは『殺し屋』だから?

天野勇二

そうだ。
俺様は『殺し』を生業なりわいにするヤツが嫌いなんだ。
これ以上俺様に近づくなら、もう一度潰してやってもいいんだぜ。



 天野の全身に殺気がみなぎる。


 飢えた肉食獣が牙をいたような殺気だ。


 レイチェルは冷たい笑みを浮かべた。



レイチェル

……恐ろしい男ね。

あなたの瞳、『殺し屋』と何も変わらない。
狂気と殺意を隠そうともしない。
それなのに『命を奪うこと』を憎んでる。

不思議ね。
ユージは本当に変わってるわ。


 冷めた口調で言葉を続ける。


レイチェル

それでもこの『依頼』はユージが適任。
残念だけど、その気になってもらおうかしら。



 レイチェルは自らの胸元に手を伸ばした。


 豊満な胸元の奥から、1枚の写真チェキ


 そして『小瓶』を取り出した。



レイチェル

実はね、ユージと会う前に、『リョータとの感動的な再会』を交わしてきたの。

天野勇二

なに……?



 写真チェキに映っているのはレイチェルと涼太りょうた


 笑顔を浮かべた2人の自撮りセルフィーだ。



レイチェル

ユージほどじゃないけど、リョータも素敵な男よね。
私の正体が『殺し屋』であること、そして捕まったことも知ってるはずなのに、そんな素振りを見せなかった。
笑顔で再会を喜び、ハグとキスを贈ってくれたの。
『優しいオス猿』は嫌いじゃないわ。

……だけど、私たちの『業界』では、それが命取りになる。



 そこで「ニタリ」と口唇を歪めた。


 狂気に満ちた『殺し屋』の素顔。


 凍てつくような声で問いかける。



レイチェル

ねぇユージ。
この『小瓶』……。
今は空だけど、何が入っていたかわかる?



 天野の形相が一気に険しくなる。


 その反応を満足げに確かめ、レイチェルは言い放った。



レイチェル

これはリカルドが持っていた『特殊毒物』
リョータに打たせてもらったわ。
『解毒剤』を持っているのはリカルドだけ。

つまりね……。

あなたがリカルドを見つけ出さないと『優しいオス猿』は死んでしまうのよ。







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つばこ

どうも、つばこです。
今週もお読みいただきありがとうございます。
 
ハニートラップの達人こと、レイちゃんが帰ってきました。
前回のレイちゃんとは何があったのか。
『彼が上手に浮気する方法』に詳しく書かれておりますので、お時間あればお読みいただけると嬉しいです。
 
しかしレイちゃんは日本語ペラペラですね。
たぶん欧米人なんですが、ビックリするほど日本語が上手です。
実は彼女、ガチで日本のアニメが大好きでして、全てのアニメを鑑賞するために日本語を覚えた、という過去を持っています。
最近はきっと可愛いミイラが出て来るアニメを観たんじゃないかと思います(´∀`*)ウフフ
 
ではでは、いつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(∩´∀`)∩

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コメント 71件

  • hikari@ネト充ラブ

    涼太...留年に続き毒 盛られるとかつくづくついてないなー笑笑

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  • ピカルディの3度

    まず涼太くんを見つける所から始めろ。前島ちゃんとか使って。
    合成写真の可能性もあるし…
    涼太くん女の子に殺されかけてるし、殺し屋前科付きとわかってた相手とそう安易にイチャつくかな?

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  • みぃ

    涼太なんで素性わかってるのにそんなことしたのww

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  • テキトー

    都内の一流の私立大学の学生食堂の2階のテラス席で繰り広げられてるんだよね
    この会話ww

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  • さ。

    こっわ

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