桃太郎!!!!!
桃太郎ォォォォッッ!!!!!
お前はきっと来てくれるって信じてた!!!!!!
『犬編』も次回が最終回です。
大和くんの旅立ちを見届けていただければ幸いです。
ではではいつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(`・ω・´)ゞ
大和が桃太郎に石を投げつけた数日後。
天野は伊藤の家を訪ねていた。
天野勇二
桃太郎よ。
調子はどうだ。
小さな庭にある犬小屋。
その奥に呼びかける。
天野勇二
そんなに怖がるなよ。
誰にも会いたくないのか?
俺のこと、忘れちまったか?
犬小屋の奥から気配を感じる。
こちらの様子を伺っている。
だが、顔を出そうとはしない。
天野の視線から逃げるように、桃太郎は犬小屋の奥に隠れていた。
天野勇二
……また来るよ。
元気でな。
桃太郎に別れを告げ、伊藤のもとへ向かう。
伊藤は縁側に座っている。
深々と頭を下げた。
伊藤文也
申し訳ございません。
坊ちゃまにも、あの態度でしたか……。
天野勇二
お前が謝ることじゃないさ。
ずっとあんな調子なのか?
伊藤文也
はい……。
私とも顔を合わせようとしません。
外に出ることも嫌がるのです。
病院へ連れて行っても、パニックを起こし暴れてしまいまして……。
天野は悲しげに頷いた。
天野勇二
なるほど。
『人間が怖い』のか。
伊藤文也
獣医の先生もそう
仲の良い人間に傷つけられたことがショックだったのだろうと。
天野はため息を吐きながら犬小屋を見つめた。
犬は人間と同じように『
大和に石を投げられたことにより、幼き日の『川へ捨てられた記憶』が蘇ったのではないか、天野は心配だった。
天野勇二
怪我の具合はどうなんだ?
伊藤文也
軽傷でした。
命に別状はない、とのことです。
天野勇二
それだけが救いだな。
大和はどうだ?
あれから何か話したか?
伊藤は首を横に振った。
伊藤文也
話せておりません……。
家を訪ね、学校帰りを待ち伏せしてみたのですが……。
大和くんは一言も喋ろうとしないのです。
坊ちゃまはどうですか?
天野勇二
俺も同じだよ。
完全に無視されている。
母親が家に帰り、しっかり面倒をみていることを祈るしかないな。
天野は縁側に腰掛けた。
小さな庭を眺める。
手入れの行き届いた庭だ。
天野勇二
伊藤よ。
この家に住み始めて、もう何年になる?
伊藤文也
お父様の運転手を始めた頃ですので……。
30年ほど前になりますね。
天野勇二
この家は、親父がお前にくれてやったそうだな。
伊藤文也
はい。
ボーナス代わりだと。
とても感謝しております。
天野勇二
つまりその時……。
お前は『家族を失った』のか。
伊藤が驚いて天野を見る。
天野は全てを
伊藤はその瞳で察した。
伊藤文也
……そうですか。
お調べになられたのですね。
私のことを。
天野勇二
すまない。
少し気になってな。
伊藤文也
いえ、いいんです。
坊ちゃまのことです。
いつか探られることになるだろうと、覚悟しておりました。
伊藤はどこか遠くを眺めた。
伊藤文也
正確に言えば、もう30年以上前から、私の『家庭』は崩壊しておりました。
ぽつりぽつりと、言葉を吐き出す。
伊藤文也
お父様と出会ったのは、妻の『
お父様が担当医だったのです。
妻は何年も通院し、辛く苦しい治療を受けました。
しかし……。
どうしても、子供を授かることができなかったのです。
苦しげに俯く。
伊藤文也
私は妻がいてくれれば、子供なんて、いなくても構わなかったのです……。
でも、妻はそうではありませんでした。
私たちは徐々にすれ違い、離れていく妻の心も、繋ぎとめることができませんでした……。
その結果、妻がどうなったのか……。
坊ちゃまは、ご存知なのでしょうか……?
天野は強く口唇を噛みしめた。
沈黙という名の肯定。
伊藤は顔を覆い、震えながら呟いた。
伊藤文也
そうなんです……。
私は、守れなかったのです……。
守らなければならない人を……。
一番、幸せにしなければならない人を、幸せにすることが、できなかったのです……。
縁側に伊藤の
天野は黙ってそれがおさまるのを待った。
しばしの沈黙。
天野は静かに尋ねた。
天野勇二
その後、お前は親父に拾われた。
専属運転手を務めることになったんだな。
伊藤文也
はい……。
当時の私は
お父様が見かねて助けてくださったのです……。
天野は思わず顔をしかめた。
天野勇二
(あのクソ親父が、仕事を世話して、家までくれてやっただと……?)
心の中で吐き捨てる。
天野勇二
(ありえない。ありえるはずがない。『何か』があったな。世話をしなければならないほどの『何か』があったんだ……)
いくつかの仮説が浮かぶ。
どれも想像したくないほどの残酷な仮説。
伊藤は、そのことに気づいているのだろうか。
天野勇二
(……いや、それは解き明かすべきではない。解いたところで伊藤は救われない)
天野は軽く咳払いした。
伊藤に向き直る。
天野勇二
失った家族と、消すことのできない後悔か……。
お前はそれがあるから『大和のこと』に踏み出せないんだな。
伊藤は肩を落とした。
沈黙という名の肯定を送る。
天野勇二
それでもお前は大和に『つくることのできなかった我が子』を重ねている。
かつて俺や妹たちに、その姿を重ねたように。
強く伊藤の横顔を見つめる。
天野勇二
今の大和に必要なのは、すぐ
そして、何度も告げなければならない。
「お前は悪くない」と。
「悪いことなんて何ひとつ存在しない」のだと。
それを告げるべき人間は誰だ?
俺という友人か?
大和に同情した
どれも違うはずだ。
大和に寄り添い、アイツの苦しみを理解した、お前だけだ。
伊藤は顔を歪めながら天野を見た。
震える口唇をこじ開け、首を横に振る。
伊藤文也
私には、そんな資格がございません……。
人を幸せにする資格なんて、持ち合わせていないのです……。
天野は伊藤の顔を覗きこんだ。
天野勇二
俺様に言わせれば、そんな『資格』は存在しない。
必要なのは『覚悟』だ。
お前が持っていないのは『覚悟』だけだ。
伊藤はしばらく黙り込んだ。
その肩は震え続けている。
天野はひとつ息を吐き、苦笑しながら言った。
天野勇二
……悪いな。
偉そうなことを言った。
『ガキを引き取って育てろ』なんて、俺が命じることじゃない。
ただ、明日にでも大和は『
そのように決まったんだ。
伊藤が驚き、天野に詰め寄った。
伊藤文也
な、なぜですか!?
大和くんは、
母親が『保護』することを認めたのですか?
天野勇二
違う。
正攻法ではラチが明かないからな。
『反則技』を使ったのさ。
天野はニタリと口唇を歪めた。
極悪の笑みだ。
その表情を見慣れた伊藤でも、背筋が凍るほどの笑みだった。
天野勇二
大和の母親と『同棲』している男……。
これがなかなかタチの悪いチンピラでなぁ。
なんと、自宅で『
伊藤文也
なっ、なんですって……!?
天野勇二
どこかの『
明日、
母親も同様の嫌疑で逮捕。
大和の家も調べることになる。
そのため少年課と
伊藤文也
な、なぜ、坊ちゃまが、そんなことを知って……!?
伊藤はすぐに気づいた。
考えるまでもなかった。
天野が『
母親を大和から引き離すために、そこまでの手を打ったのだ。
ただ、それだけのために。
天野勇二
どうした伊藤よ。
何を怯えているんだ。
まさか忘れたのか?
俺様は『クソ野郎』だ。
『
天野勇二
まぁ、運が良かったよ。
当初は『
それがまさか、大麻を栽培していたとはねぇ……。
実刑は逃れられないだろうな。
伊藤文也
さ、さ、さすがにそれは……。
良くありません。
やり過ぎです。
天野勇二
それは否定しない。
大和が知れば俺様を恨むだろう。
もう会うべきではないな。
伊藤は何度も首を横に振った。
伊藤文也
私は賛成できません……。
母親にも、何か事情や理由があったはずです。
それを聞き、長い時間がかかっても、説得すべき……。
天野勇二
伊藤よ。
バカなことを言うな。
冷たく吐き捨てる。
天野勇二
『
そんなものに興味はないね。
どんな事情があろうとも。
同情に足る理由が存在しても。
母親がどんな過去を背負っていたとしても。
『虐待』という行為は『絶対悪』なんだ。
神や裁判所や世論が許しても、俺様は絶対に許さない。
何の罪もないガキをいたぶり、虐め、傷つける行為を正当化されてたまるかよ。
そんなものは俺様という名の『極悪』で叩き潰すのさ。
そこまで言うと、天野は小さく苦笑した。
天野勇二
とはいえ、俺様の『やり方』こそが『悪』そのものだ。
非難は覚悟の上さ。
責めたいのであれば好きなだけ責めてくれ。
天野は静かに立ち上がった。
桃太郎の犬小屋を眺め、呟くように告げる。
天野勇二
明日の早朝だ。
俺は遠くから見届ける。
お前もヒマだったら来いよ。
そして翌日。
別れの朝がやってきた。
天野は大和のアパート付近に立ち、周囲の様子を眺めていた。
今日は平日。
警察は大和の登校前にやって来るだろう。
天野勇二
……来たか。
思ったより
アパート前の路地に10人ほどの男女が現れた。
私服警察官と思われる男たち。
見覚えのある児童相談所の職員。
アパートの大家。
大和の部屋のチャイムを押し、扉を叩いているが、応答はない。
大家が鍵を取り出し、ゆっくり扉を開けた。
私服警察官
おはよう。
長谷部大和くんだね?
私服警察官が声をかけた。
丁寧に令状を提示している。
児童相談所の職員も大和に優しく声をかけている。
天野勇二
ほう……。
伊藤も来たか……。
伊藤がアパートの前に現れた。
天野は迷ったが、自らも大和のアパートに向かった。
きっとこれが、大和の顔を間近で見る、最後の機会になるだろう。
長谷部大和
伊藤のおじいちゃん……。
それに、勇二さん……。
大和がおぼろげな瞳で2人を見上げる。
大和は全てを悟っていた。
児童相談所の職員や、警察官の話を聞き、自らが『母親に捨てられていた』ことを理解したのだ。
伊藤文也
伊藤がしゃがみこみ、大和の手を握った。
伊藤文也
必ず、君に会いに行くよ。
これが最後の『さよなら』じゃない。
約束する。
だから……。
それまで、頑張るんだ……。
部屋では警察官たちが家宅捜索を始めている。
大麻が隠されていないか調べているのだ。
大和はその光景を見つめ、ぽつりと呟いた。
長谷部大和
僕は、ママに……。
捨てられたんだね……。
首を横に振る。
長谷部大和
ううん……。
ずっと前から、捨てられてたんでしょ……?
だから、この人たちのところに、行かなくちゃいけないんだよね……。
伊藤文也
ああ……。
そうだね……。
でも、大和くんが悪かった訳ではないんだ……。
長谷部大和
そうなの?
じゃあ、どうして……?
伊藤は苦しげに黙り込んだ。
どうして。
それは伊藤が問いたい質問だ。
伊藤文也
……わからない。
私には、わからないよ……。
長谷部大和
ふぅん……。
また、ママに会えるのかな……。
伊藤文也
ああ……。
いつかきっと、会える日が来るよ。
大和が苦しげに尋ねた。
長谷部大和
ねぇ……。
桃太郎は元気……?
死んだりしてない……?
伊藤文也
大丈夫だよ。
死ぬことはない。
ちょっとしたかすり傷だったよ。
長谷部大和
そっか……。
良かった……。
この時、ようやく大和の瞳から涙がこぼれた。
伊藤に抱きつき、悲しげに呟く。
長谷部大和
桃太郎、怒ってるよね……。
すっごく、痛かったよね……。
大事な、友達だったのに……。
桃太郎のこと、大好きだったのに……。
なんで、嫌いとか、言ったんだろ……。
なんで、あんなこと、しちゃったんだろ……。
大和の
天野と伊藤も。
児童相談所の職員も。
家宅捜索を終えた警察官も。
泣き声を聞いた近所の住民たちも。
誰もが哀れみに満ちた瞳で、大和を見つめていた。
児相の職員
……もう、行きましょうか。
児童相談所の職員が伊藤に声をかけた。
伊藤は頷き、大和に告げた。
伊藤文也
大和くん。
行こう。
また、必ず会えるからね。
大和は鼻をすすり、小さく頷いた。
涙で
ゆっくり、ゆっくりと。
哀れみの顔だけを浮かべる大人たちに囲まれて。
独りぼっちになってしまった世界を歩く。
そして顔を上げた時、路地の先に立つひとつの影がおぼろげに見えた。
冬の風に揺れ、朝日を浴びて立つ黄金色の小さな影。
大和は涙を拭い、もう一度見た。
桃太郎だった。
22,294
桃太郎!!!!!
桃太郎ォォォォッッ!!!!!
お前はきっと来てくれるって信じてた!!!!!!
『犬編』も次回が最終回です。
大和くんの旅立ちを見届けていただければ幸いです。
ではではいつも応援やコメント、本当にありがとうございます!(`・ω・´)ゞ
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